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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
2章 才色兼備の猫人魔術士
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68 キディアはどうにかしたい 1

 スライムに突っ込んだ手をケミーが引き抜こうとする直前、ルイザはスライムを外から強く圧迫した。

 するとスライムに強く食い込んだルイザの指が中のケミーの手に牙のように圧力を掛けた。


「きゃああぁぁ!」


 手を噛まれたような固い感触がしたケミーは恐怖でまたも悲鳴を上げた。


「あーっはっはっはっはっはっ!」


 ルイザの大きな笑い声が丘にこだました。

 ケミーは驚いて引き抜こうとするが身体強化を使ったルイザの力には及ばず抜け出せない。


 気が動転してるケミーは離せ離せとスライムをバシバシと叩く。


「ま”ろ”お”お”お”ぉぉぉ」


 刺激を受けたスライムは喧嘩中の猫のように大きく鳴いた。

 目の前から聞こえる悲痛な鳴き声にケミーはさらに増して絶叫した。


「ひっ、ひぃ、ぎゃぎゃっここ怖い怖い助けて助け……ステラぁぁぁぁぁ」


「あっはっはっはっはっはっ……てなんでステラに助けを求めるの??!」


 思わず出て来たステラという言葉に冷静になったルイザはつい力を緩める。

 するとケミーが必死に抜こうとしても動かなかった手はあっさりと外れた。


「ひどいよルイザ! これスライムじゃなくてルイザの仕業でしょ!!!」


 ケミーはルイザに手に噛まれた部分をさすり、彼女に詰め寄る。

 ルイザは笑みを浮かべて舐めた態度を取る。


「ふふふ、バレたか、ごめんなさいかしらー。つい反応を見たくなってやってみたのですわ。面白かったですわ」


 ケミーは軽く言うルイザの頬を両手で引っ張って怒りをぶつける。

 ルイザはニヤニヤしながら抵抗せずに受け入れ、「ごめんなさいですわごめんなさいですわ」と心の籠っていない謝罪をした。


「面白かったわ、じゃないよ! ねぇねぇキディアもひどいと思わな……」


 ケミーは血が巡って熱くなった頭のまま、ついキディアへと声を掛けてしまう。

 彼女の顔を見たケミーはほぼ言い終わる直前で言葉を止め、口で息を深く吸った。


「あ、あの、だ、大丈夫?」


「だ、大丈夫だよ……」


 キディアの気遣う声にケミーは気まずそうに言葉を返し、ルイザの頬から手を引いた。

 ルイザはぎこちない二人を見ても元々こういう関係なのだと思ってるため特に不自然さを感じていなかった。


 目的を達成できて笑顔なルイザはキディアにも体験してみるか聞いてみることにした。

 両手で抱えたスライムをキディアに向ける。


「キディアも入れてみる?」


「え? あの、……うんやってみる」


 キディアは断ろうと思ったが、ケミーもやったのでやると応じた。


「嫌がるかと思いましたわ。はい、その手を中に入れて」


 特に嫌という気持ちはないため、臆することなく手を突っ込む。

 ルイザに言われたので、中で手を動かし内側を掴んだ。


「なんともないね」


「安全だと分かりましたわね。じゃあ、手を抜いていいですわ」


 そう言った後、手を抜く直前にルイザは脅かすためにスライムを強く圧迫する。

 噛まれたような感覚があっても安全だと分かってるキディアは全く驚かない。


 無味無臭な顔をルイザに向け、思ったことを口に出す。


「それさっきルイザがケミーにやったやつだよね?」


「流石にケミーの後だとやっぱり驚かないですわね」


(あ、驚いた方が良かったのかな?)


 キディアはそう思ったが、今更演技をするわけにもいかない。

 手を抜いた後、ルイザの指の後が付いてるのを見つけると親しくなれた気がして微笑んだ。


「じゃあ……次はスライムの倒し方なのですけれど、まずは私が倒すところをお見せしますわ」


 ルイザは柵の周囲に集まるスライムを1匹持ち上げると、集団から引き離す。

 ケミー達に見やすいように草の禿げた地面に落とし、ルイザは両手で握った杖を高く振り上げた。


「スライムはこうやるのですわ、死ね!」


 邪悪な言葉と共に杖を殺意を込めて何度も振り下ろす。


 ビチャン、ビチャン、ベチョン、ベチョン、バチャン、ビチィーン。


 と、スライムの表面から水面を叩いたような音が響いた。


「まろおぉぉ、まろおおおぉぉぉぉ……」


「早くくたばるのですわ!」


 スライムの体には小さな裂傷が創られ、そこから黒い霧状の何かが漏れ出し少しずつしぼんでいく。

 最後に魔石だけを残してそれ以外は完全に消滅した。


「と、まぁこんな感じですわ」


(外見の可愛さと言葉遣いが合ってなくて恐い)


(スライムが可哀そう)


 ケミーは恐怖を感じ、キディアはスライムに憐れみを感じた。

 そしてこんな風に倒せとは言われても持ってる武器が違うので参考にはならない。


「でも私達はナイフだよ?」


 ケミーは手に持ったナイフを見つめて質問した。

 その隣でキディアはくだものナイフを握り、うんうんと頷く。


「そういえばそうでしたわね。ナイフで倒すには突き刺して引き裂く、というやり方がいいかもしれませんわね。というかそれしかありませんわ」


 ルイザは魔術で氷のナイフを作り出し、こうやってこう、と分かりやすく動きで説明した。

 ケミーは氷のナイフを見ると欲しがったが時間経過で溶けると言われて肩をガックリと落とした。


 これで最低限の説明は終わりルイザは二人に指示を出す。


「では今から別行動で魔石集めを始めますわ。私はこの周辺から始めますからケミー達は向こうの方にも小屋があるので、そこのスライムをお願いしますわ」


 今いる場所以外にも複数の小屋があり、そこにも同じようにスライムが集まっていることをルイザは知っている。


 ルイザとしてはみんなで同じ場所で仲良くやってもいいが、スライムは誰でも倒せるので固まって行動しては効率が悪い。

 お金を少しでも稼ぎたいので効率重視で3人とも違う場所で活動することにした。


 ケミー達は移動を始め、ルイザは近くの柵の方にいるスライムへと近づく。


 ケミーは別行動に少し寂しさを感じ、後ろ髪をひかれたのかルイザの方を振り返る。

 後ろにいたキディアもケミーにつられて振り返る。

 

 二人の目にちょうど映ったのはルイザがスライムを両端から手で掴み、布を引き裂くような音を響かせながら強引に引っ張って裂いてる姿だった。


「やっぱり杖で殴り殺すよりこっちの方が楽ですわね」


 そう言った後、楽しそうに次々とスライム達をブチブチと引き裂いていく。

 身体強化が使える彼女だからできる事だ。


 ケミーとキディアは苦笑いでその様子を見た後、この場を後にした。

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