66 キディア、武器を買う 1
話は遡ってステラ達がクロエの館に向かった直後。
ステラ達と別れたキディアは急いでルイザ達と合流した。
「武器が無いと魔物を倒すの難しいですし、することが無くて退屈すると思いますわよ」
キディアが何も持ってないことが分かるとルイザ達は武器になりそうなものを探しにお店に寄ることにした。
お店のある建物の外観には看板がありデザインの凝った『ドミニオン』という店名が表記されている。
それとは対照的に入口の透明な扉はシンプルで外から店内がよく見えた。
ケミーは扉を開けずにしゃがみ込むとガラス越しに店内を覗き始める。
ガラスから顔が近いため、息をするたびガラスは曇っていた。
「ケミー? どうしたの?」
ルイザはケミーの不審な行動にいつもの口調を忘れて尋ねた。
「大きい建物だから、中がどうなってるのかなーって」
「中に入ってみればすぐ分かるでしょ? この村は研究所が沢山あって人も多いから普通の村より発展していて、商品の品ぞろえも店の広さも町のお店に近いのですわ」
「だからなのかー、どおりで前に寄った村より凄いんだね。ここよりも大きいお店って他の場所にもあるの?」
「もちろんありますわ。それに町のお店なんて大抵こんなもんですわよ」
「じゃあステラちゃんの町もこういうのがあるんだ! わ~楽しみ~」
そう言うとガラス越しからの内部の観察を再開する。
中々入ろうとしないケミーにしびれを切らしたルイザは入る様に優しく促した。
「あのケミー、そろそろ入りませんか?」
「え、やっぱり入るんだよね。でもなんか入るの緊張するなぁー」
なぜ緊張してるのか理解できないルイザ。今までたかが店に入るくらいでそうなる人に出会ったことも無い。理解したところで意味がないと思い、自分が率先して入店することにした。
「じゃあ私が先に入りますわ、少し道を開けてくださいませんか?」
「どうぞ入って入ってー」
ケミーは扉を開け、招くように手を動かした。
ルイザが中に入ると続くキディアは入らず、ケミーが入るのを待つ。
先に入るのが気まずいからだ。
ケミーはキディアには顔を合わせず彼女の足元に視線を一瞬だけ向けた後、黙ったまま入店した。
キディアはゆっくりと閉じていく扉に慌てて駆け寄って店に入った。すると視界にはたくさんの商品が飛び込んできた。
今までの村よりも広い店内、天井も高く、商品の数も数倍違う。
「わあああああ、すっごおおおおおおおい!!」
ケミーの大きな声が響く。
大きいこのお店には常に客がおり、大声に驚いて客はケミーに視線を向けていた。
「ちょ、ちょっとケミー、うるさ……静かにお願いしますわ!!」
ケミーを好意的に見てるルイザでさえ、言葉が乱暴になるほどの大声。
人目も気になり少し恥ずかしい気持ちでケミーに注意した。
「ご、ごめんルイザちゃん」
「わ、私こそごめんなさい。でもまるで上京してきた田舎者みたいですわね。田舎でそんな人を見ることになるとは思いもしませんでした……あ、ケミー、またもごめんなさい、ついうっかりひどい言葉が出てしまって……あれ、いない?」
ルイザは馬鹿にした言葉を吐くがケミーは既に店の中を移動していた。
「ま、まぁここに用事があるのはキディアですから、ケミーとは後で合流して、今は目当ての物を探しましょう」
今ルイザとキディアのいる場所は食料品のエリアだ。野菜や肉、お菓子など様々な物が透明なガラスの扉の箱に詰め込まれて置いてある。
欲しいのは武器なので別の場所へ移動した。
武器や防具の類は冒険者ギルドの方がちゃんとしたものが手に入るのだが、そこまで上質な物を求めてなく、硬くて尖ったものなら何でも良いとルイザは考えている。
刃物が置かれてるエリアを見つけた二人は品定めを始めた。
「ここから選ぶといいかも。お金はあるのかしら?」
「えと、これくらいならあるけど足りるかな?」
ツグスタ村で手に入れた紙のお金をズボンのポケットから出しルイザに見せて確認する。
それは密猟おばさんを騙して手に入れたお金だ。
最初は騙して手に入れたお金なのでツグスタ村の冒険者ギルドに渡そうと思っていたが、声を掛けるのに気が引けてしまい行動に移すことなくその機会を失ってしまった。
ステラ達が堂々と自分達の物にしてしまったということもあり、渡しそびれて行き場の無くなったお金は良心が痛むが自分の物として扱うことにした。
「それだけあれば十分だね。ナイフ程度の物で十分だし、その辺の魔物程度ならそれで事足りるわよ」
時折ルイザの口調が砕けるとキディアは違和感に体をムズムズさせる。
しかしそのことを口には出しはしない。
「これなんてどうかしら? 1000ルドだし、いいんじゃないかしら?」
(1000ルドか……、お金に余裕はあるし他と比べても高くは無いけど、もったいないな……どうしよう)
キディアは今日のためだけに武器を買うのはお金が惜しいと思った。




