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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
2章 才色兼備の猫人魔術士
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65 成否不明

「ああっ消えた!」


 箱の隅で光っていたレイピアが突然姿を消すとステラは大きな声を出した。


「消えたな。後は無事に過去に飛んでくれてるといいのだが……今度こそ上手くいって欲しいものだ」


 今まで実験が成功したという証明がないため、レイピアが過去に行けたかは不明らしい。

 見たまんまのただ消滅しただけの可能性だってあるわけだ。


 まだ何かあるのではと画面を見続けるけど空になった箱にこれ以上の変化は起こらなかった。


 各種装置は仕事を終えたからか次第に振動は落ち着き、静寂が戻って来た。


「なんか思ったよりあっけないね、ちゃんと過去には行けたのかな?」


 ステラはあれだけではまだ物足りないとばかりに尋ねた。


「今日の日付を覚えておき、その剣を拾った人にいつ拾ったかを聞けば過去に飛んだか分かるだろう。誰も拾わずに放置されてたら上手くいったかは不明だがな」


「なんだー、残念」


 まだ成否は分からない段階だけどステラは残念そうだ。


「ところで、過去に行ってみる気にはなったか?」


「実演の様子見てたらもっと嫌になったから無理! そもそも過去に行ける保証がないんでしょ? 怖くてやりたくないよ」


「研究を進めるのに手っ取り早いのが人で実験することなんだが、まぁいい。無理強いはしないさ」


 ガブリエルは残念がる様子は見せない。断られることに慣れてるのだろう。


「こっちから何年前かを選んで過去に飛ばすってのは決められるの?」


 ガブリエルは難しそうな顔で否定した。


「一応日時と場所を指定はしているつもりだが、本当に上手く行ってるかは分からん」


 私の時代まで飛んでる可能性もあり得るという事か。

 少なくとも私は今送ったレイピアを生前に見たことは無かった。


「時間跳躍の瞬間を見てどうだった? はっはっはっ、ただ物が消えただけにしか見えないからつまらなかっただろうな」


「はい、つまらなかったです」


「はっはっは、素直でよろしい。気を使われても俺も現状はつまらないと思ってるからな。それを面白いと感じられるとしたら実際に自分で過去に行けた時くらいだろうな」


 ガブリエルは否定的な意見でも気にしなかった。


「難しい研究なんだね」


「ああ、難しすぎて自分でも本当に正しいか分からなくなるくらいにはな」


「自分で過去に行ってみようとは思わないの?」


「私がいないと研究が進まないからな、だから出来ないんだよ」


 失敗した時のリスクが大きいということだね。にしてもこんな訳の分からないものをよく作ろうと思ったものだ。


「1番の目玉は終わったからもう面白い物はないが他の設備も見ていくか?」


(訳の分からない機械の仕組みや役割の説明しかないと思うよ。ステラに任せる)


「うーん、もういいや」


 ステラは少し考えてから断った。


「そうか。じゃあ外まで案内しよう」


 *****


 ガブリエルに案内されて詰所付近の門まで戻って来た。


 お別れの時間だ。

 ステラは沈黙したまま期待したような眼差しでガブリエルの顔を見続ける。


「ん、そんな顔をしてどうした?」


 ステラの顔は少しニヤついている。

 ガブリエルのその一言に何かを察したのかステラは残念そうな顔をした。


「ううん、何でもない。それじゃ私は行くね、バイバイ」


「気を付けて帰るんだぞ! あ、それとあの剣を見つけたら報告に来てくれるとありがたい!」


 ガブリエルは明るく見送った。

 最後に『あーっ!』と言ってくると思ってたけど何もなかった。


(ステラも笑顔でさよならした方がいいんじゃない?)


 私がそう言うとステラは不自然な笑顔を作ってガブリエルに手を振った。

 その作り切れてない笑顔にもガブリエルは動じず手を振り返した。


 歩いて少しするとステラは私にこう言った。


(何も貰えなかったね)


(突然何を言い出すの? どういう意味?)


(こういう施設見学の後って何か貰えたりすると思うじゃない? だから何も貰えなくてちょっと残念)


 期待したような目でガブリエルを見てたのはそういう意味だったのか。


 その、なんていうか……凄くどうでもいい。

 

 食品工場ならともかくタイムマシン研究所から何を貰うと言うのだ。


 * * * * *


 私達は冒険者ギルドへ向けて、森を左右に分けた幅の広い舗装された道を進んでいく。

 次の目的はルイザ達との合流だ。

 一旦ギルドに行ってから、そこでルイザ達と合流できなかった場合は、おそらくまだ魔石集めをしているであろう場所に向かうつもりだ。


(もし、ステラが過去に戻りたいと思うとしたらどんな時だと思う?)


 私はルイザとは関係のない事だけどなんとなくステラに尋ねる。

 今は戻りたいと言う考えはないかもしれないけど、成長して大人になるにつれ、その気持ちは強くなることだろう。


(どんな時って言われても……お姉ちゃんと喧嘩した時とかかな?)


(なんで?)


(なんでって言われても、お姉ちゃん好きだから喧嘩したくないし嫌われたくない。喧嘩する前に戻ってどうにかするかも)


 嫌われたくないほどに素晴らしい姉なんだね。

 でもそんな些細な事で過去に戻るってのは贅沢過ぎる気がする。


(他には何か無い?)


(ほかぁ? ……無いよ)


 あ、面倒臭そうな顔してる。こいつ考えるのを放棄したな。

 と思ってたらステラは何かを思い出したようで声を上げる。


「ああっ!」


(何か思いついたの?)


 口が半開きのステラはなぜか私にこう言った。


(えーと、なんでもない)


 ええ? 何でもないならそんな声を上げないよ。

 何か私に気づかれたくないことでも思い出したのか?


 その直後、まだ少し遠くに見えるギルドの方角から雷のような強烈な破裂音が耳を突き刺した。


「ひぃっ! な、何の音?」


 空は曇ってないけど雷が落ちたのか?

 それとも村人が爆発物を使ったか、あるいは――


(ルイザが魔術でも使ったんじゃない? 魔物を倒すときに使ってるかもよ?)


 強い魔物はいないと言ってたしここまで影響のある魔術を使う意味はないと思うんだよね。

 もしや強い魔物が出て来たのかな?

 そうだとしてもルイザがいるならケミー達はきっと大丈夫だろう。


(じゃあまだルイザちゃん達の所に行けば間に合いそうだね)


 調子づいたステラは走り出すけども、少しすると徒歩に変わった。


「ぜぇぜぇ……身体強化くらいいいでしょ、けち~~!!」


 使う程距離が遠くもないので、私はそのお願いを受け流した。

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