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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
2章 才色兼備の猫人魔術士
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64 手が届かない気がして

 * * * * *


 案内されたのは休憩室だったけどその後で私達は勝手に建物の外に移動した。

 入口から遠くには敷地を囲む塀があり、その上には緑色の樹々の葉がこちらを覗いているかのように揺れている。


(休憩室でも良かったんじゃないの? 柔らかいソファで横になれるよ)


(だって、休憩室に人が来るかもしれないし、落ち着かないよ。どうせこの施設っておじさんばかりしかいないだろうし)


 なら仕方ないか。


 屋外は暑い訳でもなく寒い訳でもないので割と快適だ。

 季節は春か秋のどちらだろう?


 ステラが言うには春と夏の間らしい。ということはそろそろ暑くなる季節が来るのか……私にはあんまり関係ないけどね。


 段差になってる場所に腰を下ろしたステラは空を見つめる。


「ルイザちゃん達まだ魔石集めてるのかな?」


 少し寂しそうな表情。

 ステラはルイザ達と一緒に魔石集めができるのかが気がかりのようだ。


(いつ終わるかは集める数にもよるよね。そういえばステラってなんでルイザに執着してるの?)


(執着って大げさだなぁ、ちょっと恥ずかしいな」


 ステラは照れ臭そうに笑った。自覚はあったようだ。

 ケミー、キディアと対する態度とは明らかに違うからそうとしか見えない。


(そりゃ、ルイザちゃんって可愛いでしょ?)


(そうだね、しかも私に似て美人ときた。あ、ステラも私みたいな年上から見れば十分に可愛いよ)


 と、返してみるけど反応は薄い。私が美人というのは証明できないし、ステラを可愛いと褒めては見たけど、ルイザと比較して外見に差があるからお世辞だと思われたのだろう。


(それで冒険者だし魔術も凄いらしいし、年も1つしか違わないし、ギルドにいた大人の冒険者に勝っちゃうし――)


 1年後にステラが大人に勝ってる姿は想像できないな。今の所ステラからは特別な物を一切感じない。


(年が近いのに何もかもが上で……雲の上に行けるのってああいう人なんだろうなって思った。きっとランクA? とかいうのにもあっという間に行っちゃう気がする)


 冒険者に憧れてる割にはランクのことや魔術のことが分かってないのは何なんだ? そういえば私の時代にも憧れてる仕事とかあるのに一切それについて調べない子がいたな。


(だからそんな凄くて可愛いなら気になるのは当然でしょ? 今のうちに友達になれれば将来みんなに自慢できるかもしれない!)


 私にはそれが当然かは分からない。

 ルイザの凄さは私にはよく分からないけど、年が近いステラだから感じるものがあるのだろう。


(ルイザちゃんってチーム組んでなくて1人だから、私、あの子と一緒のチームになれたらいいなぁって思った。……でも私はまだ冒険者じゃないし、実力もないし、無理だなって……悔しいなぁ)


(何言ってんの、無理じゃないよ。まだ無理にはなってないんだから。ステラが冒険者になったら誘ってみたら?)


 無理だと言うにはまだ早すぎる気がする。やってみて駄目だった時が無理ってことなんだよ。

 だからやってみないと分からない。


(私が学校を卒業して冒険者になる頃にはルイザちゃんは違う所にいる。そうなると同じチームにはなれない。ルイザちゃん他のチームに入ってるかもしれない、今しか誘えるチャンスはない。でも今の私は冒険者じゃない。だから無理)


 違うところにいれば勧誘もすぐには出来ないのは確かだ。ステラが学校を卒業するまで近くのギルドで活動してるなら可能性はあるけどね。

 だったら冒険者になったら一緒のチームになって欲しいと今のうちにお願いしとくとか。 

 ステラの言う通りまだ冒険者じゃない人の願いを聞くとは思えないし、ルイザはステラに苦手意識があるように見えるから難しいかな。


 と、話の途中で背後から扉の開く音が耳に入った。


「どこに行ったかと思ったぞ、準備が終わったから行くぞ、あーっ!」


 先程とは違う恰好をしたガブリエルが準備が出来たと迎えに来てくれた。

 前が開いた白い長袖の上着を羽織り、下半分は紺の長ズボンに替わっていた。なんだか頭が良さそうに見える。


「その『あーっ!』っていうのやめた方がいいと思いますよ?」


 ステラはしかめっ面で返した。


「おっと、すまないすまない。でも嬢ちゃん、そんな顔したら可愛い顔が台無しだぞ」


「え、可愛いですか?」


 その一言にステラのキッツイ形相があっけなく崩れた。


「とっても可愛いぞ! だからそんなくしゃくしゃな顔はやめた方がいい」


「うん、わかった!」


 ステラはニコっと笑った。


「じゃあ行こうか! あーっ……危ない危ない、また言うところだった」


 そしてまたあの部屋に向かう。

 ステラは場所を覚えたからかガブリエルの前に出て先行する。


「ちょっと褒めただけで喜ぶとは……ちょろくて可愛いな。ははは」


 背後からのその呟きはステラには聞こえなかったようだ。


 * * * * *


 先ほどの機械がごちゃごちゃした部屋に戻ってきた。

 空中に投影された映像の中のレイピアにはまだ変化はない。


 ガブリエルは私達に椅子に座るよう促す。


「これからタイムマシンを始動させるぞ。このボタンを押すと今映し出されている映像の剣の入ってる箱が地下に移動する。とは言っても画面上は何も変化はないから見てても分からんだろう」


 その後も色々説明してくれたけど、原理とか仕組みとか聞いても私にはさっぱりだった。


 ガブリエルは部屋にある様々な機械に表示されてる数字を確認していく。

 異状なし。

 そして声を張り上げた。


「今からあの剣を過去に送るぞ! スイッチぃぃ、オーン!」


 ガブリエルはそう言った後、一切躊躇うことなくボタンを押した。


 ボタンを押し、数秒後、徐々に至る所から振動音が慌ただしく空気を震わす。

 視界に何やら不自然に動くものがあるので目を凝らすとあちこちにある機械の数字が次第に動き始めていた。


「気になるか? あの装置の数字はだな、ホニャリウムを――」


 ガブリエルは数字と装置について説明するが私には当然理解できない。

 ステラはうんうんと頷くけど私と同じだろう。


 建物も心なしか非常に小さいではあるけど振動してるように感じる。

 テーブルに置かれたコップがコココココと音を立ててるので確かに揺れてるのだろう。


 なぜタイムマシン研究所が他の施設や住宅地から離れているのかなんとなく分かった。

 ギルド周囲の村人の住宅がこの近くにあれば振動で色々と面倒だったに違いない。


 しばらくすると映像の中のレイピアが荒ぶりだした。


(何かが起こり始めてるね)


 箱の中を跳ね返り、私達に何かを訴えているように見えた。


「むむっ、こ、これは……!?」


 怪訝な顔のガブリエルは意味深にそこで言葉を区切る。


「あの、何があったんですか?」


「剣を固定するの忘れてた!」


 あれって固定しないといけなかったのか。


「だが問題は無さそうだ。地下深くであの箱を高速移動させるから壊れないか気になっただけだ。お、そろそろ始まるぞ! 右の画面をよく見ておきたまえ!」


 右の画面――箱の中のレイピアが光り始めた。


「理論通りなら時間跳躍の前兆現象だ。どうやって光らせてるかと言えば、それは――」


 ガブリエルの長ったらしい説明がまたも入るけどステラは適当に流す。


 説明がちょうど終わった辺りでさらに変化が起きた。

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