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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
2章 才色兼備の猫人魔術士
110/279

61.5 四人目の住人 1

 玄関からステラ達を見送った後、クロエは寂しくもあったが明るかった。


(次はいつ来るかな? ね、エルヘンリ)


 クロエは自身の中にいるエルヘンリという幽霊の女エルフに話しかける。

 ステラでいうところのデシリアに当たる。

 つまり、エルヘンリはクロエに憑依している。


 エルヘンリは明るいクロエに優しく返す。


(きっとすぐ近いうちに来ますよ)


 来ないだろう、そうは思ってるがわざわざ落ち込むことを言う必要はない。


 ちなみにデシリアからの憑依の申し出を断ったのはクロエではなく代わりに対応したエルヘンリである。

 体はクロエの物だがエルヘンリが一日の全てと言えるほどの時間、体を動かしている。

 エルヘンリはクロエが楽しめそうな事があれば心の奥深くに眠っているクロエに声を掛ける。その時にクロエが動くこともあるがそんなことは滅多にない。


 今回のデシリア達の来訪には久々にクロエが表に出て対応した。クロエの言動がおかしくなるとエルヘンリに交代してデシリア達へ応対し、クロエが落ち着いたらまたクロエに戻す。ということを繰り返していた。

 エルヘンリはクロエと違って普通に話をすることが出来る。


(いつ来るんだろう、楽しみだなー! そういえば私って今何歳だっけ?)


 クロエはステラとそれほど変わらない子供のような体格であり、しっぽは無く、耳は人間、しかし年齢は約1000歳だ。


 通常の人間なら1000歳も生きることは不可能だが容姿を子供のままの状態に維持するのも含めてそれをエルヘンリが可能にする方法をどこかで見つけた。


 クロエは幼少期に親が死んだことによる精神的なショックにより心の奥深くに籠った。一切体を動かさなくなったためそのままでは飢えて死んでしまうところをその時には既に憑依していたエルヘンリが生きるために代わりに体を動かすことにした。


 クロエはエルヘンリに一切口出しはしなかった。体も完全に自由にさせた。

 完全に自由な肉体を手に入れたエルヘンリだが自分の為だけには使わずクロエを元の精神状態に戻すために働いた。


 しかし1000年が経過した今もクロエは籠りっぱなしだ。


 1000年という人生のほぼ全ての期間、クロエは体を動かすことも頭を使うこともあまりなかったため、一部を除いてあらゆる感覚がまともに機能しておらず色々な物があやふやになっていた。

 ただ定期的にエルヘンリが話しかけてるおかげで言語機能は維持出来ている。


 なのでエルヘンリに自分は何歳なのかという質問をすることはできた。


(13歳ですよ、年齢なんて聞いてどうしたんですか?)


 エルヘンリは嘘で返した。嘘ではあるがその年齢のつもりでいてくださいという意味だ。

 本当の事を言った所で混乱するだけだし、そもそもクロエがまともに記憶することも認識することもない。


(久々に友達と遊んだから10年? 100年? 経ってるのかと思っちゃった)


 人の寿命はせいぜい100年だ。

 今のクロエには人が何歳まで生きられるかという常識的な感覚は持ち合わせてはいない。

 だけどエルヘンリはそれをわざわざ指摘することはない。今のクロエに言っても無駄だから。


(クロエ。客が帰ったので私はお父さんの所に戻ろうと思います) 


(お父さんの所? でもお父さんは……あれ? 死んだはずじゃ……)


 クロエは幼少期に亡くなった父の姿を思い出し心が乱れ始める。


(お父さんは生きてますよ)


 エルヘンリはすかさず嘘を伝える。が完全な嘘という訳でもない。

 これからエルヘンリが会いに行くのは亡くなった父ではなく、お父さんと呼んでいる別の存在の所だ。

 “生きている”という言葉にクロエは最近会った――数年前だが――死んでない方の父の事を思い出し不安定な心がだんだんと穏やかになっていく。


(ああ、そうなんだ、なら良かった。じゃあ私は寝るね)


 クロエは久々の父との再会には興味を示さず完全に心の奥深くに籠った。生きてるならいつでも会える、という安心感があればそれでいい。本物の父ではないのだがそれをまともに認識できてない彼女には偽物でも十分だった。


(何かあったらまた呼びますね、お休み)


 エルヘンリはクロエが寝たのを確認すると父のいる部屋へと歩きだす。

 移動中クロエに伝わって目を覚まさせない様に、心の奥深くで今日の来訪者のことを思い出す。


(凄く怪しげな格好でしたがあの子は一体何だったんですかね。村の子供だとしたら大人達にバレるのがまずいから変装したのかもしれません)


 エルヘンリは自分達が村の人達から不気味に思われてることを把握している。

 村の大人達は先祖代々からの言い伝えでこの館に住む者達の容姿に変化がない事を知っている。そのため基本的には気味悪がって近寄らない。

 子供達が興味本位で訪ねることが稀にあるが、バレると大人達に酷く怒られるため何度も何度も訪ねる勇気のある者はいない。

 そして村の外からこんな家に尋ねる者もいない。


(クロエの遊び相手になってくれるから私としてはありがたいのですが、クロエの自立に繋げるにはもっと人との触れ合いが必要なんですよね……)


 クロエは同年代の遊び相手が来ればその時だけは心を開く。毎日が楽しければ辛い過去を忘れて前に進めるかもしれないがエルヘンリにはそういう場を用意することができなかった。

 残念なことに執事や父ではクロエの心が満たされない。


 色々と考えながら歩いていると父のいる地下室の扉に到着した。

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