60 情緒不安定? 1
彼女とは前に会ってからそれほど間も開いてないので名前は覚えてる。
その時に私のデシリアという名も教えたんだけどそれを名乗ることはステラに迷惑がかかるだろうからしない。
「あなたとは友達だもの、もちろん覚えてるよ。じゃなきゃ会いに来ないよクロエ」
「覚えててくれたんだね、嬉しい! でも本当言いづらいんだけど、私はあなたの名前を憶えてないの。本当にごめんね、もう1度教えてくれない? あ、その椅子に座っていいよ」
苦笑いを浮かべたクロエに促されて私は遠慮なく高級そうな椅子に座る。
名前を知らない相手を友達だと思ってるってやっぱりこの子変だな。
前会った時はまともだったけどもしかして双子か? でもそんな話は聞いてないからいないはず。
(ステラの名前を名乗るのはまずいよね。なんて名乗ろうか……)
最初はデシリアを名乗ろうと思ってたけど、顔を見せてと言われると困るので偽名を名乗ることにした。
私が名前を決めるときっと怒られるのでステラに名付けを任せようと思う。
(目立つ名前よりは普通の名前がいいんじゃない? 私の学校にリーザって子が3人いたからその子の名前借りよう)
ステラの出したその名前は私の時代にも多くいた。長さ的にも響き的にもいつの時代でも通用する名前かもしれない。
ありきたりらしいのでその名前を採用することにした。
「私の名前はリーザ、久々だし忘れるのも仕方ないよね」
久々でも忘れるなんて事は友達同士なら無いと思うけどね。
この見た目の印象が強くてそれだけで友達だと判断した可能性もあるか。いやいや、どんな友達だよ。
「リーザ? ……うん、確かリーザだったね。あ、そうだ忘れてた。飲み物とお菓子持ってくるからちょっと待ってて」
クロエは少し不審な動きを見せてから部屋を出て行った。
その直後ステラはクロエの挙動や言動が変なのは自分達の恰好が原因なのかな? と言って来たけど、もしそうならそもそも家に上げるなんてことはしないだろう。
しばらく待つとクロエは執事と一緒に戻って来た。
執事はクッキーなどのお菓子と色の付いた甘そうな飲み物を目の前の机に置くとすぐ出て行った。
「自由に食べてね」
クロエがそう言うと彼女は置かれた食べ物には手を付けず私の顔をじーっと見つめてくる。
ステラは食べたそうにしてるけど今ステラを表にするとクロエとの会話時にまた交代するのが面倒なのでお菓子から視線を逸らすことでステラの興味を出来るだけ逸らす。
そんなことをしてるとクロエと視線が合い、彼女は声を掛けて来た。
「今すぐ食べなくてもいいから食べたくなったら勝手に召し上がってね。それじゃあリーゼ、何しようか」
「あ……あの、私の名前はリーザだよ」
いきなり名前を間違えられた。そういえばイブリン達に名乗った時も間違えられたんだよね。
(そういえばステラの付ける名前ってよく間違えられるね)
(偶然だよ偶然! ……多分)
二回なら偶然だとは思ってるよ。流石に3回目もこうなら疑うけどね。
さて、クロエに何をしようかと聞かれたけどその前に私は彼女の元へ訪れた理由を話すことにした。
「クロエ、私がここに来たのは久々にクロエの姿を見たかっただけなんだ。だから少し話をしたらすぐ出ていくつもりだよ」
「え、すぐ出ていくの? 嫌だよ、せっかく久しぶりに会えたと思ったのに」
クロエは落ち込み、悲しそうな表情を浮かべた。
長居するつもりはなかったけど、ここまでの顔をされるすぐには帰りづらい。
以前は私が幽霊だったからなのか、理由は分からないけどそんな態度をされることは無かったんだけどなぁ。
「ああ、ごめんね。すぐには帰らないから落ち込まないで。話をしよ? じゃあね……クロエって普段は何やってるの?」
そう言うとクロエの顔は落ち着き始める。しかしステラはすぐに帰りたいみたいで不満の声を上げてきた。
昼までには終わるからと時間を決めるととりあえずは落ち着いてくれた。
ステラを説得したすぐ後にクロエは問いに答え始める。
「普段……? 普段はね、お母さんの料理を手伝ったり、勉強したり、学校帰りに友達と遊んだり、ディスプレイを見たり、本を読んだり、ゲームをしたり……あれ?!」
突然の大声に私は驚きビクッと体を震わせる。
なんだろう? と見つめているとクロエは頭を抱え俯かせてぶつぶつと呟く。
「学校? 友達? 最後に行ったのは……」
いきなりどうした? そういえば気味悪がられてると村の人から聞いたし学校でも何か問題があるのかな?
(デシリア、この子大丈夫なの?)
私と同様にステラも戸惑ってるみたいだ。
とりあえずさっさと話を進めたいのでクロエに声を掛けることにした。
「どうしたの? 大丈夫?」
「……うん、大丈夫だよ。驚かせてごめんね、ちょっと忘れた事を思い出してビックリしちゃった。気にしないでね、それにしてもリーザのその恰好はちょっと変わってるよね」
立ち直ったかと思ったら今度は容姿に触れて来た。




