59 気が付けば怪しい恰好だけど 3
靴を脱いで上がり、周囲を見渡す。枠のような模様の付いた白い壁、光沢のある木床、豪華な照明が吊られた高い天井が視界に映った。
執事の後を付いて行きながら床の端に目を向けると塵や埃などは落ちていない。この執事一人で広い館の掃除をやってると思うと良く出来るもんだなと感心した。
吹き抜けの階段から二階へ上がっていき廊下を移動していくと、ある扉の前で執事は止まった。
複雑な模様のその扉の向こうには私が以前少しだけ話をしたことのある少女の部屋がある。
執事は部屋の前にあるボタンを押すと部屋の中から小さな音が聞こえた。
そして聞き覚えのある少女の声が響いた。
「どうぞ入ってー」
「お嬢様くらいの年齢のお友達がお会いしたいといらっしゃってます」
執事はいきなり室内には入らず私達が来たことを伝える。少しの間を開けて少女の返事が来る。
「……うん、入れていいよ」
執事は扉を開け、私に中へ入るよう促す。
こんなトントン拍子で会えるとは予想できなかったな。
まぁいいか。
「失礼します」
中に入ると豪華なベッドに腰かけた以前見た時と同じ少女を見つけた。
不健康に感じるほどの白い肌、肩まで伸びた黒い髪、長いスカート、ステラより少し高い背丈の少女。
執事がいるほどの金持ち、にしては少女の恰好はどこにでもいそうな庶民的な服装だ。
「お久しぶり……わざわざ私に会いに来たんだもの、友達だよね?」
なぜか疑問形だ。違うと答えたら追い出されるんだろうか。
私は部屋を見回す。
窓からは柔らかな日差しがレースのカーテン越しに差し込み、壁には猫や兎などの可愛い動物の小さな絵画が飾られ、部屋の隅には本棚や物を入れる棚が置いてある。
以前来たときは謎の散らかり方をしていたけど今日はその面影が無いくらいに整理整頓され、何があったのだろうかと思わせる。
続けて視線を移動すると縦長の全身が映せる鏡に自分の姿が映っていた。
(えーと、こんな姿の友達がこの子にはいる……のか?)
(うわ、何この恰好、だっさ!!!)
ステラは変な悲鳴を上げて驚愕した。
兜を被り、口元を覆ったマスクの時点で怪しさ満点だ。
それに加えて金ぴかの服にマントを羽織るという大都市でたまに見かける最先端の服装、あるいは不審者にも見える姿。
ちょっとやり過ぎたな。ちゃんと全身を確認しとけばよかった。
そう思った直後にステラは頭の中で歓喜の声を上げる。
(でもマント姿はカッコいい! 冒険者になったらマントでカッコよく決めようかな!)
ダサいと言ったりカッコいいと言ったり忙しい子だ。
でもマントは目立つだろうから次からは人のいない所でやって欲しい。
私は少女に目を向ける。
ニコニコと愛らしいその笑顔が少しだけ不気味に映り始めていた。
君にはこんな変人が友達にいたのか?
でも少女も執事も気にしてないようだし私としては助かるからいいか。
「ねぇ、友達だよね? わざわざ私に会いに来てくれたんでしょ?」
少女は返事をしない私に苛立ったのか不機嫌そうに再び聞いてきた。
「そうだよあなたに会いに来たんだ。元気だった?」
「元気だよ! ……元気だよ」
最初は元気に返したけど、何かを思い出したのか真顔になった。
(ねぇこの子大丈夫なの?)
(だ、大丈夫じゃないかな? 前に会った時となんか違うけど、多分大丈夫)
以前あった時は普通に話してくれたし、たった1週間程度で大きく変化するとは思えない。
「あ、そうだ。久々だけど私の名前って覚えてる?」
「え? もちろん覚えてるよ。だってあなたとは――」
(ちょ、ちょっとデシリア?!)
私はステラに呼び止められて気づいた。危うく一週間前に会った時のことを言いそうになってしまった。




