59 気が付けば怪しい恰好だけど 2
廃墟から館にコソコソと移動し玄関の前に着いた。
大きな館だけど警備などはいない。
私は緊張しながら扉をコンコンと叩いた。
(あの、デシリア? 扉の横にボタンがあるからそれ押せばいいと思うけど?)
(ボタン? ああこれか、これ何?)
(え、知らないの? それはね――)
(まぁいいや言われた通り押してみるよ)
私はステラの発言途中だったけど押せば分かるだろうと思い人差し指で着いた。
すると扉の中から何か音楽が小さく流れたのが聞こえた。
(中で音が鳴ってたね、どういう仕組みなんだろ)
私はもう一度ボタンを押すと館の中からまた小さく音がした。
なるほど、音楽が流れるのは面白いね。これを押すと誰かが来たという合図になるわけか。
紐を引っ張るタイプの呼び鈴は知ってたけど時代が変われば形も変わるのか、面白い。
面白いのでさらにもう一度押してみる。また中から音楽が聞こえた。
これは一体どういう原理なんだろう。
(ちょ、ちょっとデシリア。連続で何度も押さないでよ!)
少し強めに注意してきたステラは強引に体を交代してきた。
(ねぇちょっと、これって交代するほどマズイことなの? 交代までしなくても1回注意すれば大人しくするから!)
少し待つと扉からカチリとカギの開くような音がした。
そして扉はゆっくりと開いていく。
中から現れたのは見覚えのある執事――20代くらいかな?――だった。しかし私は彼と話したことなどない。
以前訪れた時にチラッと見たことがある程度だ。
私が話したことがあるのは人形のような色白の少女ただ一人だけ。
(デシリア、交代ね。変な事はしないでよ)
対応するのは私の役目なのでステラは強制的に交代してきた。
「どのようなご用件でしょうか?」
執事の男は笑顔を作ると穏やかに尋ねて来た。
どのようなご用件と聞かれても私は少女の様子を見たくて来ただけだ。なので少女に会わせてください、と言えばいいのだろうけど、初対面のこの姿でその発言は大丈夫だろうか?
「…………」
執事は黙って私の返事を待っている。
とりあえず何か言わないと気まずいな。
「す、すみません。その、なんていいますか、えーと、私は見ての通り子供です」
私は何を言ってるんだろう。子供だからなんだというのか、こんなんじゃ怪しまれるぞ。
「子供でしたか。それでどんな御用でしょうか?」
特に怪しまれなかった。
というか子供だと気づいてなかったのね……気を利かせてそう言ったのかな?
いや、そんな考察をしてる余裕はない。
どうやって要件を切り出そうか。
「えーと、はい、その……」
ヤバい、言葉が何も出てこない。なんて言えばいい?
打ち上げの挨拶の時のイブリンもこんな心境だったのかもしれないな。
(デシリア、しっかり!)
分かってるよ!
とにかく要件を伝えよう!
「あ、あの!!! お、お嬢様にお会い致したいと存じまして、お伺いに参られました!」
緊張してまたも意味不明な言い方しちゃった。少女は会ってくれるだろうか?
会いたい理由も言った方がいいよね、でもどんな理由? 興味本位からなんて言えないよ。
執事は私の事をじっと見つめ、少ししてから口を開く。
「お友達でしたか。お嬢様はきっとお喜びになりますよ。では、ご案内します」
笑顔でそう言われ館に上がる許可を貰えた。
いやいや、こんな簡単に会ってくれるの? 怪しいな。
でも前に見た時は普通の人に見えた。絶対大丈夫だ。
(気味が悪いって理由がなんとなく分かった)
ステラは何かを感じ取ったようだ。
私にはよく分からないので気にせずついていくことにした。




