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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
2章 才色兼備の猫人魔術士
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58 別行動 2

 3人と別行動が始まり、ステラはルイザと一緒に行けなくて不満そうに館の方向に足を進める。


 ごめんね、と私は心の中でひっそりと謝る。

 どうしても館の少女のことをもう一度見ておきたかった。

 たまには私もわがままを言ってもいいよね? と後ろめたくなった気持ちを切り替える。


(あ、ステラ、ちょっと歩くの止めて。忘れ物がないかちょっとだけ確認させて)


 短時間とは言え外出するので必要な物を持ってきたか確認しておきたい。


 サイフと魔導銃は重要なのでステラの家に帰るまでは常に肌身離さず持ち運ぶことに決めた。

 ステラに確認させるとちゃんとズボンのポケットに入っているようで一安心。


 特にサイフは大金が入っていてギルドに置きっぱなしにして盗難されたら後悔しきれないため、常に近くに持っておきたい。


 心配事は無くなったので足を進めてもらった。

 しばらく進むと建物は途切れ途切れになり、周囲は畑や草地、小さな森が多くなり始める。


「にゃーお」


 人懐こい猫とすれ違ったのを見て思い出した。


(そういえばラビキャットの名前はどうするの?)


 ラビキャットを飼うことが決まった時にケミーから名前を付けようと提案された。

 いくつか候補は上がったけどまだ決まっていない。

 今その話をする必要性はないけど館に到着するまでの場を繋ぐために何となく話題に出してみた。


(偽名の時と違って一生その名前になるし、適当には付けられないよ)


 ステラはまだ良さそうな名前が思いつかないようだ。


(私が付けようか?)


(絶対やめてね!)


 むっ、なぜ強く拒絶してくる?

 最終的にはステラが付ければいいと私は思ってはいるよ。なので私は思いついた言葉が参考になればと、とりあえず挙げることにした。


(でも参考くらいにはなると思うよ? そうだね、今日食べたしハンバーグはどうかな?)


(だからやめてってば! なんで食べ物関係の名前つけたがるの!?)


 前にディマス達に偽名を名乗ろうとした時に私が出した名前は夕餉ゆうげだった。夕食という意味だけど、確かに食べ物に関係している。

 でも食べ物関係になったのは偶然だ。


(ハンバーグお手! ハンバーグお座り! ほら、全然違和感なし!)


(あの子に犬の要素無いから多分できないよ、というかそのままそれで決まっちゃいそうだからその単語を出すのやめて)


(あ、でもステラのお母さんが今日の夕餉はハンバーグよーって言って来たら怖いか)


「うわぁ、変な想像させないでよ……ってお母さんは夕餉なんて言葉使わないよ!」


 ステラは口から心底嫌そうな声を出した。

 一人で大声を出してる様子を誰かに見られるとまずいし、ルイザに見られたら距離も開いていくだろう。

 発言するときは気を付けてもらわないと。


(独り言を直接口に出すとまたルイザに変な目で見られるから注意してね)


(誰のせいだよ! あああああああ!!! イライラするっ!!)


(急にどうしたのステラ!?)


 突然ステラは近くにあった鉄のように硬い柱に思いっきり拳をぶつけ始める。

 しかし3発くらいで動きを止めた。


(デシリアぁ~、血が出たから治してぇ~)


 拳の皮は擦り剝けて血が出ていた。痛くなさそうにしてるのは痛覚を鈍くしてるからだろう。


 アホだな……。


(ろくに鍛えてないのに身体強化も無しにそんなことやったら、そりゃそうなるよ)


(一応筋トレはしてるよ。血を見たら怒りがどっかに飛んで行ったみたい、でもなんか美味しい物食べたくなっちゃった)


 怒りをぶつけたいと言う欲求は別の欲求に変換されたようだ。


(ほら、治したよ。美味しい物って、さっきご飯食べたばかりだし今は入らないでしょ?)


(入るよ! 館に行く途中に店があったら食べるからね!)


 しかし館に向かう道中に店どころか建物はなく、あったとしてもボロボロに朽ちた空き家ばかりだった。


(なんで館あんな遠くにあるの? それにこの辺の建物ボロボロなんだけど)


(私も分からないよ。前来たときは私って透明な状態だったし村人に話を聞こうにも何もない所から声が出てるからか気味悪がられて逃げられちゃってたからね)


 霊体では声は出せないので魔法で疑似的に出していた。


(そりゃそうだよ。私も館で縛られてた時に何もない所から声が聞こえた時は怖かったよ、でもデシリアで良かったと思ってる)


 なんか急に褒められた。嬉しいから私も褒めてあげるとするか。


(私もステラに憑依できて良かったと思ってるよ)


(え、それってどういう意味?)


 私の言う事にあまり反発しないし、普通に優しいし、冒険者を目指そうとしてるところかな。

 手が掛かりにくい変な子じゃなくて良かった。


(悪い子じゃなくて良かったってことだよ)


(もし私の事が嫌になったらどこか行っちゃうってこと?)


 ステラが不安そうな顔で尋ねる。

 ああ、そういえばステラは憑依したら2度と離れることができないことをまだ知らなかったっけ。

 

 ……教えない方が私にとっては都合がいいかな?


(幽霊の私は体はないし魔力も少ない、ステラがいなくなると不便だからちょっとやそっとじゃ離れるつもりは無いよ。逆にステラが私の事を嫌いになってもずっと寄生虫のようについていくつもりだから覚悟してね)


 そう伝えるとステラは安心したのか辛そうな表情は和らいだ。

 嘘を吐いてごめんね。でも離れて欲しいと思われなければ良い訳だし、しばらくはその心配は無さそうだからいいよね。


(デシリアのこと嫌いになるなんてことないよ! えーと、でも、たまにはあるかもだけどデシリアって強いし良い人そうだし、いざという時には頼りになるから、だから、その、私が立派な冒険者になるまでは一緒に居てくれると助かるかなーって……)


(立派な冒険者になったらいらないってこと? 利用だけされて捨てられちゃうのって寂しく感じるなー)


 私もステラを利用してるのでその言葉は自分にも突き刺さる。


(ちちち違う、そうじゃないよ! 自分勝手なことばっかり言っちゃったけど、とにかく私にはデシリアが必要だから離れて欲しくないってことだけは――)


「ワンワン!」


「びゃえっ!」


 ステラが必死の弁明途中、近くを通りかかった大きめの犬が空気なんか知るかとばかりに割って入った。


「じゃ、邪魔しないでよ!」


「ワンワン!」


「ひいぃぃ! デ、デシリアどうしよう、助けて!」


(私の名前を口に出さないでってば! 今、身体強化掛けたから噛まれても傷なんかつかないよ)


 犬はステラを睨みつつ唸り続ける。


 さて、犬をどうしようか。

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