王子様の手を取って3
――ん? 今、王子って言った?
「え、ええぇっ!?」
私が声を上げると、会場中にどよめきが起こる。会場内に流れていたジャズの演奏が聞こえなくなるほどだ。みんな私の謝罪などどうでもよくなったように、急に現れたレジスに興味を持っていかれている。
レジスが第一王子!? どういうこと!? 庶民じゃなかったの!?
頭の中がパニックに陥る。それは周りのみんなも同じで、楽しそうにしているのはひとりそのことを知っていたであろうマティアスのみ。
もしかして、さっきマティアスがアナベルを止めたのは、レジスが現れることを勘付いていたからなのか。
肝心のレジス本人はというと、いつものように真顔を貫きながら、私とエミリーのほうへと歩いてくる。
白と青を基調とした軍服モチーフの正装姿で、堂々と歩く姿は、どこからどう見ても庶民には見えない。
レジスは私とエミリーの目の前までくると、ピタリと足を止めた。
「……レ、レジス?」
威厳を放つレジスを見上げれば、視線がかち合う。
「フィーナ。お前の退学の件だが、ついさっき正式に白紙になった」
無言を貫いていたレジスがやっと口を開いたかと思えば、内容は突拍子のないもので、私は目が点になる。
「ど、どういう――」
「退学がなくなったって、どういうことよ!」
私の声をかき消すような声量で、エミリーがレジスに食ってかかった。
エミリーからさっきまでの自信満々な笑みは消え、余裕がなさそうに見える。レジスがこんな絶妙なタイミングで戻って来るなんて、エミリーにとっては計算外のことだったのかもしれない。
「どういうこともなにもそのままだ。お前は学費を出すかわりにフィーナを散々使用人扱いし、自分にとって使えないと判断したら停学。ついには退学にするつもりだったようだが、残念だったな」
「なによその言い方……! まるで私が悪いみたいじゃない! フィーナが入学できたのは私のお陰なのよ! 援助するかわりに、私の世話をするという約束だったのよ! 知ったような口を聞かないで!」
「おかしいな。聞いたところ、ルメルシェ家からメレス家にフィーナの入学をお願いしたらしいじゃないか。知り合いのいない学園で、ひとりだと不安だからという理由で。フィーナから入学と援助を頼んだわけじゃない。約束だって〝エミリーのサポートをよろしく頼む〟としか言われてなかったようだが? それがまさか細かい身の回りの世話まですることになるなんて、誰も思わないだろう。こんな適当な口約束で、果たしてフィーナが約束を破ったといえるのか?」
エミリーの話との食い違いに、会場はざわつき始めた。
私もなにがなんだかわからず、側でふたりのやり取りを見ていることしかできない。
――レジスが王子なのも、退学が取り消しになったのも、私とエミリーの事情にやたら詳しいことも、全部わけがわからない。
「な、なんでレジスがそのことを知ってるのよ! あなたはルメルシェ家とメレス家と一切関係ないでしょう!」
〝なんでそのことを知っているのか〟なんて、レジスの話が本当だと言っているようなものだ。エミリーは突然の出来事にうまく対応できないようで、自らボロを出してしまっている。
「関係ある。なぜなら――フィーナの援助は、ルメルシェ家の代わりに我がオリヴェタン家がさせてもらうことになった。そのために、俺が両家と話をつけてきたんだ」
「なんですって!?」
つまりレジスが私の学費を肩代わりして、私の退学をなしにした……?
エミリーや観衆とちがい、私はあまりの急展開に声も出ないほど驚いた。開いた口が塞がらない。
「……フィーナ。安心してくれ。お前は新学期からまた学園に通えるし、寮にもいられる。今までみたいに、自分らしく好きなようにしてくれてたらいい」
「レジス、でもっ……」
「俺の好意で勝手にやったことだ。遠慮する必要はない。それとも、フィーナは退学することを望んでいたのか?」
そんなはずがない。
入学した当初は、いつ退学になってもいいと思っていた。
でも、みんなと仲良くなってから……私はアルベリク王立学園が、大好きになっていた。
ふるふると首を横に振る私を見て、レジスは安堵のため息をつく。
「……それとエミリー。お前の両親にはしっかり釘を刺しておいた。今度フィーナに嫌がらせをしたときは、どうなるか覚えておくんだな」
「――っ!」
私を見つめる優しい眼差しとは打って変わって、レジスは氷のように冷たい目でエミリーを睨みつけた。エミリーは蛇に睨まれた蛙のように固まり、なにも言い返せない。
さらに、周りがエミリーに浴びせる視線もいつのまにか私に向けられていたような冷たいものに変わっていた。
私を見せしめにするつもりが、自分が見せしめになるなんて……エミリーもこの番狂わせには相当堪えたようで、全身の力が抜けたようにガクン、とその場に膝をついた。
……本来の小説のラストでは、エミリーはこのパーティーでマティアスと結ばれ、みんなから祝福されハッピーエンド。私とレジスは、そんなふたりを見守るだけだったというのに。
大好きな小説のヒロインのこんな姿を見るのは胸が痛むが、今までエミリーにされたことを考えると、手を差し伸べる気にはならなかった。
それに、ここで私がエミリーを甘やかしたら、エミリーはなにも成長しないとも思った。この屈辱を受け、エミリーがこれからどういう人間になるかは……エミリー自身にかかっている。
――そんなことより、私はレジスに会ったら聞きたいことがいっぱいあるんだったわ!
私は体をレジスのほうに向き直し、真正面からレジスを見つめた。私の行動に気づいたのか、レジスも私を見下ろす形になる。
「ねぇレジス、今までどこに――」
「……それ、つけてくれたんだな。似合ってる」
「え? ……あ」
レジスの視線の先を辿ると、クリスマスにレジスがくれた水色の髪飾りがあった。
「それに、ドレス姿のフィーナはすごく綺麗だ。これ以上、誰にも見せたくないくらいに」
「そんなこと……」
さっきまでエミリーにあんな怖い顔をしていたのに、いきなりみんなの前で甘い言葉を浴びせられ、私は戸惑った。
「フィーナ、行こう」
「え!? ど、どこにっ!?」
返事もせずに、レジスは私の手を引いて突然走り出した。
たくさんの生徒たちの目に晒されながら、私とレジスはそのまま会場から走り去っていく。
途中でドレスとヒールのせいで走りにくい私を、レジスがひょいっとお姫様抱っこしてきた。すぐ近くにあるレジスの顔にドキッとして目を閉じる。どこに行くかわからないまま、私はしばらくのあいだ、レジスに抱えられたままとなった。
目的の場所に到着したのか、レジスがそっと私を降ろす。固い床とは違う、ふんわりとした感覚。目を開けると、見慣れた芝生が辺り一面に広がっている。
ここは、昼休みにいつもレジスが来ていた場所だ。
「ここまで来れば、誰にも邪魔されない」
「……レジス」
「その、急にいなくなって悪かった。国に帰っていたんだ。フィーナの援助に協力してもらえるよう、ずっと両親を説得してたら、ギリギリになってしまった」
国に帰っていたのか。そりゃあ、誰もレジスの行方がわからはいはずだ。
「その様子じゃ、ずいぶん反対されたんじゃない?」
一国の王子がなんの関わりもなかった落ちぶれた貴族を援助するなんて言い出したら、誰でも反対するだろう。
「……俺のフィーナへの想いを素直に話したら、最終的に納得してくれた。勝手に出過ぎた真似をしたことは反省してる。でも、フィーナのことを放っておけなかったんだ。どうしても、フィーナの役に立ちたかった」
最後にボソッと「まぁ、単純に俺がフィーナの退学が嫌だったってのもあるけどな」と小声で言い、レジスは苦笑する。
……私への想いをって、いったい私のことをどんなふうに言ったのか気になるところだ。
「ありがとうレジス。私、嬉しかった……。もう、みんなともお別れだと思っていたから。本当にありがとう。感謝してもしきれないわ」
「喜んでもらえたなら本望だ。……それと、食堂での件なんだが。あの後フィーナの様子がおかしいと思って、エミリーを問い詰めて全部聞いた。結論から言うと、エミリーがフィーナに言ったことは全部嘘だ」
「嘘?」
レジスは深く頷く。
「俺はこの場所でシピの姿でないフィーナに会ったあと、エミリーに呼び出されたんだ。そこで、シピの正体がフィーナだと聞かされた。あの頃、エミリーは俺にしつこく付きまとっていたから、俺が昼休みにここで過ごしていることに気づき、どこかのタイミングでフィーナが獣化しているところを見たんだと思う。俺はシピがフィーナだと知って、驚きもしたが……嬉しくもあった。俺はシピに会う前から、フィーナのことが気になっていたから」
「えっ!? そうだったの!?」
「……そんなに驚くことか?」
「だってそんな素振りひとつも見せなかったじゃない! てっきり私がシピに似てるから、その延長で猫好きのレジスが私に懐きだしたとばかり……」
「懐くってなんだ。エミリーの取り巻きをやめてからのフィーナは猫みたいで、俺には気になる存在だったんだ」
結局猫の要素があるんじゃない、と突っ込みたくなったがやめておく。
「フィーナが獣化のことを隠しているうちは、俺も知らないふりをしていようと思った。……そのせいで、フィーナに大きな誤解をさせてしまった」
レジスは眉間にしわを寄せ、悔しそうに唇を噛み締めた。
「レジスは悪くないわ! 私がレジスじゃなくエミリーの言うことを信じたから……。レジスは私のことをいつも考えてくれていたのに、ひどいことを言って本当にごめんなさい」
あのとき、レジスの話を聞こうともしなかった自分を恥じた。
結局私は、エミリーにとって扱いやすい駒に成り下がっていたのだ。
――レジスを傷つけた。
いくら謝っても、その事実は消えない。泣きそうになる私を見て、レジスはそっと私の頬に手を添えた。
「それでもフィーナは約束を守ってくれた。それだけで、俺は十分だ」
レジスの右手がスッと上に移動し、耳の上につけられた髪飾りを撫でる。
「……レジスも、約束守ってくれてありがとう。信じてた。パーティーに来てくれるって」
「当たり前だ。少し……いや、だいぶ遅刻してしまったが」
申し訳なさそうに、人差し指で自分の頬を掻きながらレジスは言った。
私はというと……遅刻なんかよりもレジスの手のぬくもりが消えたことに不満を感じていた。
「あ、ねぇレジス、どうして庶民のふりをしていたの?」
「ああ。それは……父からの命令だったんだ。俺にもいろいろ理由があってな。……今回のことで正体をバラすことになったけど、それは許してもらった。理事長と校長、同じく王族のマティアスは、最初から俺が王子だということを知っていたけどな」
だからマティアスは、開口一番にレジスを〝王子〟と呼んでいたのか。
「やはりまだ、俺が王子だとは信じられないか?」
そう言われ、正装姿のレジスを改めてまじまじと見つめる。
「……今日のレジスを見たら、どこからどう見ても王子様にしか見えないわ。今までどうして気づかなかったのかが不思議なくらい」
先入観だけでレジスが庶民だとすっかり騙されていたが、こうして見るとマティアスよりも王子感が強いかもしれない。
「今さらこんな格好を見せるの、なんか恥ずかしいな。もともとこういうかしこまった服装は苦手なんだが、今日はらしくもなく頑張ったんだ。フィーナが……〝王子様みたいなひとが好き〟って言ったから」
あれはサロンでレジスに好きなタイプを聞かれたときのこと。私はたしかにそう言った。
じゃあ、レジスは私のためにこの姿で会いにきてくれたってこと?
男性にはあまり使わない言葉だが、なんともしおらしいレジスの行動に、私はキュンとしてしまった。
「……俺はみんなに愛されたり、憧れたりされるようなやつじゃない。フィーナの理想とする王子像とはちがうかもしれない。でも、フィーナが手をとる相手は俺でありたい」
レジスは芝生の上だということもお構いなしにその場で跪くと、私に手を差し出した。
昔からずっと憧れていた。いつか素敵な王子様が目の前に現れて手を差し伸べてくれる……そんな王道ラブストーリーみたいなことを。それが今、現実となっている。
「フィーナが好きだ。俺の婚約者になってほしい」
「……こ、婚約者!?」
突然の婚約の申し込みに、私の声が上ずった。
「俺はいずれ王位を継ぐことになる。そのときは、フィーナも俺と一緒にカフリースに来てほしいんだ。カフリースは悪い国じゃない。ルミエルより領土は広いし自然が豊かだ。食べられる変わった草や木の実も多いから、料理が好きなフィーナには喜んでもらえると思う。王妃教育はたいへんなこともあるかもしれないが、俺がフォローする。寂しくて屋敷に帰りたくなったらいつでも帰っていい。その前に、俺がいるから絶対寂しい思いはさせない。……どうだろうか」
私に口を挟む隙を与えてくれない、まくしたてるような物言いにおもわず笑ってしまう。
この国を出ることも、自分が王妃になる未来など想像したこともなければ、王妃教育なんて未知で不穏な単語まで聞こえてきた。
不安は大きいし、自信もない。でもそれ以上に――レジスが好きだという感情が上回っていた。
それだけで私には、目の前に差し出された手を断る理由など、ないも同然だった。
「……私もレジスが好き」
私が言うと、レジスの瞳が揺れた。
動揺や期待、いろんなものが混ざった熱い眼差しを受け、私は目を細める。
「いつか王妃になるとか、そういうのはまだ実感ないし、わからないことばかりだけど……この感情に嘘はないわ。だから私でよければ、これからもレジスの隣にいさせてください」
最後にふふっと照れ笑いしながら、私はレジスの大きな手のひらに自分の手を乗せた。
レジスは私の顔と手を交互に見て、うれしそうに微笑む。
そのまま私の手の甲に唇を寄せると、ちゅっと音を立ててキスをした。
「……っ!」
唇が触れた瞬間、手の甲から全身に熱が広がっていくような感覚に陥った。
――レジスがこんなキザなことをするなんて!
目を伏せてキスをするレジスの表情があまりにも美しくて、私は息を呑んだ。
レジスは私の手をぎゅっと握り立ち上がると、空いた片方の手で私を抱き寄せた。
「よかった。今回は過去形じゃなくて」
耳元で、レジスが笑いまじりに言う。
「うっ。それは、その……本当に悪かったと思ってるわ」
食堂での一件を掘り返されると、私は謝ることしかできない。レジスはそんな私を見て、楽しそうに小さく笑った。
「もしフィーナがオーケーしてくれなかったら、援助の交換条件として、強制的に俺の婚約者にさせるところだった」
サラリと爆弾発言をするレジスに、私はぎょっとする。
「それって、やってることがエミリーと大して変わらないと思うんだけど」
「俺は婚約者になったからって身の回りの世話をさせたりしないぞ」
「そういう問題じゃないんだけどなぁ……」
大真面目に言い返してくるレジスに苦笑する。でも、たとえそうなっていたとしても、私はなんだかんだレジスの婚約者になることを受け入れてた気がする。なんか悔しい。
レジスの腕の中で、勝手に頬を膨らませていると、突然握られていた手が解かれる。
その手は私の背中に回り、さらに強い力でレジスに思い切り抱きしめられた。
胸元に顔を埋めると、レジスの心音が聞こえる。だんだんと早くなる鼓動。レジスも私と同じように緊張しているんだと思うと、愛しくてたまらなくなった。
「……この姿のフィーナをこうやって抱きしめるのは、初めてだな」
耳元でレジスが囁く。吐息が耳を掠めてくすぐったさに身をよじろうとしても、レジスの腕の力が強くてびくともしない。
――シピのときは、こうやってレジスに抱きしめられたことが何度かあったっけ。
レジスの体温と甘い香りに包まれ、ぼーっとする頭の中で、私は当時のことを思い出していた。
「ずっとこうしたかった」
「んっ……レジス」
私がくすぐったがっていることを気づいているのか、レジスはまた耳元で甘く囁いた。
おもわず吐息が漏れ、私は上目遣いでレジスを見つめる。
「……その顔は反則だ」
はにかみながらレジスは言うと、私の髪を優しく撫でた。そのままレジスの顔が近づいてくる。
――これって、もしかしてもしかしなくても、キス!?
お恥ずかしい話だが、私は前世も含めて、挨拶程度以外のキスをした経験がない。にも関わらず、なんの心構えもできていないまま、大好きなひととファーストキスを迎えようとしている。
私はギュッと固く目を閉じた。緊張で顔が強張るのがわかる。――私、今すごく変な顔になってない!?
心臓がパンクしそうなほど大きく脈打って、ほかになにも聞こえない。
「……フィーナ」
愛おしげに私の名前を呼ぶレジスの吐息がかかる。唇が触れるか触れないかの距離に、私の鼓動はさらに高まり、そして最終的に――。
「やっぱりちょっと待って!」
恥ずかしさに耐えきれず、レジスの胸板を思い切り突き飛ばしてしまった。衝撃でレジスの体が後ろに傾く。
「きゃあっ!?」
レジスがなぜか私の腕を引っ張ったことにより、ふたり同時に盛大に芝生の上へと倒れ込んだ。……私がレジスを押し倒しているような形で。
すぐに体を起こそうとするも、レジスの腕がそれを阻止する。背中に腕を回されて、レジスに覆いかぶさったまま体を固定された。
「……初めてシピに会ったとき、こんな感じだったな」
私が寝ているレジスに獣化してこっそり近づいて、寝顔を覗き込んだときの話だ。
「フィーナ、あのとき俺の寝込みを襲おうとしたんだろ」
「ち、ちがうわ! レジスの寝顔がちょっとだけ気になっただけだもの!」
「ふっ。そんなの、これからいくらでも近くで見せてやる」
あきれたようにレジスは笑った。
寝顔だけじゃない。今みたいに、いろんな表情のレジスをこれから隣で見られるんだ。
「レジスが望むなら、たまにはまたシピの姿でここに会いに来てもいいけど?」
「……どうせ寝込みを襲われるなら、フィーナのままのほうがいいな」
「もうっ! そんな意地悪言うなら、もうシピに会うのはお預け!」
ふいっと顔を背けると、レジスに人差し指で頬を突かれた。
「怒るなよフィーナ。悪かった。ぜひまた俺に、あの極上のモフモフを堪能させてくれ」
シピを撫でるように、レジスは私の髪をやんわりと撫でた。
獣化していなくとも、レジスの手が気持ちいいことは共通だ。ゆったりとした手の動きに瞳をとろんとさせていると、急に体が反転した。
……私、今度はレジスに押し倒されてる?
「油断したな?」
私を見下ろしながら、レジスは意地悪な笑みを浮かべた。
せっかくアナベルからもらったドレスを汚してしまったという罪悪感を頭の片隅に感じながらも、今はもう、脳内の大半のスペースがレジスのことで埋め尽くされている。
「次は待たない」
「レジスっ……!」
我慢の限界というように、レジスは親指で私の唇をするりと撫でる。
熱のこもったレジスの瞳が視界いっぱいに広がって、私は覚悟を決めて目蓋を閉じた。
――唇に柔らかい感触。レジスから与えられたキスは、びっくりするほど優しい。
キスをされながら、私は絡められたレジスの指を強く握り返した。
私を選んでくれた王子様の手。これからなにがあっても、この手だけは絶対に離さない。
長いようで短いキスを終え、私たちはお互い照れくさそうに視線を外すも、またすぐに見つめ合う。
「……好きだよ。フィーナ」
愛を囁く彼越しに見えるのは、青い空、白い雲。
その二色を混ぜたような水色の髪を揺らしながら、レジスの影がゆっくりとまた、私の影と重なった。
読んでいただきありがとうございました。
改稿を施した書籍版も、ぜひよろしくお願いいたします。




