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神楽鈴の巫女  作者: ゆずさくら


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 鳥の鳴き声が聞こえて、意識が戻ってくると、周りが明るいことに気付く。

 くっついたように重い瞼を開くと、周りはどこもかしこも真白かった。

 よく見ると、この場所が、転校早々運ばれてきた保健室だと気づく。

「?」

 背中に触れる温もりに気付き寝返りをうとうとすると、体に痛みが走った。その痛みと、手足の筋肉痛を伴うだるさに耐えながら、ゆっくり寝返り、後ろを向く。

「サクラ先生?」

「……」

 佐倉先生は寝ぼけているのか晶紀の体をぐっと引き寄せる。

 互いの体が一糸まとわぬ姿であることに気付くと、晶紀は急に頬が熱くなった。

「サクラ先生、ちょっと。ちょっと、寝ぼけてないで起きてください」

 晶紀が佐倉先生の肩を押して体を離すと、先生は目をこすりながら言った。

「なんじゃ? そうぞうしい」

 晶紀は上半身を起こし、片手で胸を隠す。

 急に体を起こしたせいで、全身に痛みが走る。

「イテテテ……」

「……」

 痛い体をねじりながら振り向くと、佐倉はじっと晶紀の体を見つめていた。

「うん。問題無いようじゃな」

「いや、全身痛いんですけど」

「痛い、という程度なら治っておる」

 言いながら、佐倉も上体を起こしてくる。

 佐倉はその大きな胸を隠す様子もない。

 返って見ている晶紀の方が照れてしまう。

「わ、私、どうなったんですか?」

「さて、どうたったんじゃろうな。かなりダメージを負っていたのは間違いないが」

「えっと、大男にカウンターで蹴りを食らったのは覚えているんですが」

 佐倉は上かけを少し押しやって、晶紀のお腹を見る。

「さ、触らないでください」

「何度言ったらわかるんじゃ。触診というのは(さわ)って()るもんなんじゃ」

 晶紀も自分のお腹を見てみる。色が変わっている訳でも、傷があるわけでもなかった。しかし、あの時は……

「お前は神楽鈴の使い方が分かっていないようじゃ。いきなり公文屋とやりあったと聞いて出来る者じゃと思っておったが」

公文屋(くもんや)! 公文屋を知っているのですか?」

 佐倉は無言で保健室の時計を見る。

「まだ生徒が登校してくるには早いな。すこし昨日のことを説明してやろう」

「公文屋のことを……」

 佐倉の人差し指が晶紀の唇に触れると、晶紀は話すのをやめた。

「話には順番がある」

 そのまま人差し指で押し込むように晶紀をベッドに横たえる。

 上かけを引きながら、佐倉も晶紀の横で仰向けになると、話し始めた。

「いいか、昨日の戦いから話すぞ。おぬしが負けた原因は、神楽鈴の使い方にある。あの神楽鈴の先に延びる剣は何の力だと思っている?」

「……」

 晶紀は話そうと口を動かすが、声が出ないことに気付く。

「おお、そうじゃった」

 佐倉が人差し指を伸ばして晶紀の唇に当てる。

「術者の霊力」

「その通りじゃ。神楽鈴に『剣となる力』があるのではない。あれは単に術者の力を引き出しているにすぎん。そしてお前はそれを知っていた」

 晶紀がうなずく。

「ならば、次の話じゃ。では、どれほどの力を神楽鈴に掛けていたか」

「……」

 首を横に振った。

 佐倉はそれを見て目を伏せた。

「だろうな。お前は剣に全力を使っている」

「当然だ」

「当然ではないぞ」

 佐倉は天井を見つめながら、しばらく間を置いた。

「晶紀はゲームをするか?」

「すこしは」

「ロールプレイングゲームとかは?」

「面倒くさいからあんまりやったことない」

「キャラクターに能力を割り振る画面は分かるかな?」

「ああ、それ面倒くさいよね」

「神楽鈴の剣に力を全振りするということは、ゲームで攻撃力に全振りするのと同じことじゃ」

「いつもそうしてるけど」

「……攻撃的なのは良いが、バランスを考えないといかん。神楽鈴を使った実戦がゲームと異なるのは、後で力の振り方を変えれるところじゃ」

「?」

「大男のカウンター蹴りを受ける直前でも、その力の割り振りは変えられた。しかしおぬしは出来なかった」

「あんな一瞬で、体の防御が出来るの?」

「出来る」

 そうか、晶紀は思った。神楽鈴の剣を消してでも、防御の為に霊力を使えばあのカウンターも……

「カウンターを食らった後、神楽鈴の剣が消えていった。覚えているか?」

「はい」

「何故だと思う」

「私の気持ちが萎えた…… から?」

 佐倉はクスっと笑って首を振った。

「おぬしが倒れていた時、神楽鈴の剣が消えていったのは、集中力が切れたことに加え、体の回復に術者の霊力が使われたからじゃ」

「けど、公文屋と戦った時は、そんなこと意識しなくても防御出来た」

 それを聞くと佐倉がぐっと顔を近づけてくる。

 晶紀は頬が熱くなった。

「では、聞くが。おぬしが公文屋と戦った時『巫女の装束』で戦ったのではないか?」

 その時のことを思いだす。公文屋と戦った日の前日、芳江婆ちゃんが亡くなった。婆ちゃんが『これを着ていき』と言われたのが白い小袖に赤い袴。佐倉の言う通り『巫女の格好』だったのだ。

 晶紀はうなずく。

「それは巫女の装束が守ってくれたのじゃな。芳江様の力じゃ」

「なんで、私のお婆ちゃんの名前……」

「あたりまえじゃろう。我々佐倉家は天摩の者を助けることになっているのじゃ」

「そうか…… 確かに、あの時はお婆ちゃんの声が聞こえてた」

 天井を見つめながら、その時に公文屋の(いかづち)で倒されたことを思いだした。

 同じように不注意で、未熟な自分。もっと成長したと思っていたのに、やっぱり大男一人に手こずっている。

「先生、公文屋に勝ちたい。私、どうすればいいんですか?」

 答えを待つが、一向に返ってこない。

 晶紀は隣を見ると佐倉は寝てしまっていた。

「はぁ……」

 保健室の時計を確認し、まだ時間があると分かると晶紀も目を閉じた。




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