海戦
「対空、対水上レーダーに反応あり!魔物の集団です!」
「来たか……」
レーダー班の報告に双眼鏡を覗くと、前方にうっすらと黒い影が見え始めていた。
北方の港に着いた俺たちは、デ・ラ・ペンネ級駆逐艦に乗船し、早速魔香の居るであろう島……魔島を目指していた。
ここまでの航海では特に問題は無く、私兵部隊に詰め込んだ知識はしっかりと実践できているようで、船は順調に進んでいた。
そして現在、とうとう魔物と接敵した。
どうやら忠告の通り、島の周りには魔物が集まってるようだ。
……と、いうことはつまり、俺たちは島に近づいてるってことだな。
「面舵30度!左舷対空、対水上戦闘用意!」
「面舵30度よーそろー」
「CIC指示の目標左舷攻撃よーい!」
リナが舵を切り、船が少し傾く。
それと同時に前方の主砲が旋回し、左前方の魔物群へと照準が合わさる。
突然の戦闘体制にも慌てず対処する私兵部隊を心の中で称賛しつつ、もう一度双眼鏡を覗く。
先ほどより近づいた魔物は、姿が微かにわかるようになっていた。
空と海、両方からこちらへと向かう魔物は、いろんな種類がいるが、一番多いのは……トカゲ?
いや、地竜がいたんだし、飛んでる方は飛竜、泳いできてる方は水竜ってとこか。後は巨大な蝶のような魔物や、飛び跳ねて近づいてくる魚のような魔物までいる。
確かに数は多い……が、幸運なことに、今見えてるのは対水上目標だけで、対潜目標の報告はない。
ならば……数程度ならどうにでもなる。そのための重武装艦なのだ。
「全武装使用許可!目標左舷敵群、攻撃始め!」
「了解!」
ドン!という低い地鳴りのような音と共に、オートメラーラ127mm主砲の射撃が始まる。
それに続いて76mm副砲が対空目標への射撃も始まり、着弾した魔物が水中へと姿を消す。
それに加えてMk13ミサイルシステムからもスタンダード艦対空ミサイルが発射され、比較的巨大な個体を狙って必中の槍が飛竜を落とす。
この初動で敵は混乱に陥り、統制のない魔物の群れが乱れたままこちらへと進み続ける。
「……トーヤ様!水中反応です!一部の魔物が潜行したままこちらへと向かってきます!」
「この船に対潜装備ほとんどねぇからなぁ……」
そんな時に恐れていた事態が報告される。
この船にとっての最大の脅威……水中目標である。
デ・ラ・ペンネ級には対潜装備が短魚雷を除くとほとんど無い。
本来であれば後部甲板から哨戒ヘリコプターが対潜任務に就くのだが……人数の都合上航空要員はいないのだ。
「数は?」
「水中音は5、深度は15です!」
「アクティブソナーを出力最大にして打て。同時に左舷短魚雷発射用意」
だが、もちろん対抗手段……になりそうな手は考えている。
1つはもちろん短魚雷の存在だが、それに加えてもう1つは、アクティブソナーである。
ソナーだって広義で見れば音響兵器の1つだ。本来は影響がほとんど出ない高周波を使うが……今回は目的が違う。
確証の無い戦術が成功することを祈る。
そして、アクティブソナーの音は艦橋からは聞こえないが……効果は現れた。
「水中目標浮上!」
「副砲及び短魚雷撃てっ!」
思った以上に船に近い位置の水面まで浮上してきた巨大な魚の様な魔物に2門の76mmと、MU90インパクト魚雷が放たれる。
ほぼ憶測だったが、魔物は水中の音響に耐え切れなかった様だ。作戦が上手くいき、厄介者を一網打尽に出来たことに喜びつつも、続く戦いに再び意識を戻す。
魔物もだいぶ数を減らせたが、それでも多いことに変わりは無い。
毎分45発の速度で放たれる127mm弾は、ほぼ一撃で敵を倒しているが、その中に一体、また面倒そうな奴が見える。
「CIC、敵の真ん中にいる水竜は見えるか?」
「水竜?あ、海竜の事ですか?」
あ、名前海竜なのか。
と、今はどうでもいいことを知った俺たちが言っている魔物は、さっきから見てると、127mm弾に耐えているのだ。
おそらく、CICもそれを分かって他の敵へと照準を合わせていたのだろうが、これ以上接近されても厄介だ。
「その海竜にテセオをぶち込め」
「了解!テセオSSM発射始め!」
俺の指示に即反応したアイリスが早速攻撃を始める。
テセオSSM。イタリアとフランスが共同開発した、オトマートとも呼ばれる艦対艦ミサイルが、後部の4連装発射管から1発が発射され、飛翔を始める。
もちろん、魔物はミサイル回避運動や、撃墜を試みようとするわけもなく、着弾。
激しい爆発が周りの魔物を巻き込みながら起こり、大きな水しぶきとともに巨体が倒れる。
後は消化試合だ。
残った魔物は主砲と副砲による正確な射撃で一撃で沈められ、空を飛ぶ魔物もスタンダード及びシースパローによる防空システムにより、一方的に蹂躙される。
「航路戻せ。機関巡行、戦闘は終了だ。お疲れ様」
そして数時間もかからず魔物を駆逐し終わり、再び島へと船を向ける。
船では、初戦闘が終わり、興奮冷めずと言った感じで船員が騒ぎ出す。
「すごかったね……なんか、すごい迫力だった」
「俺も思った以上だった……」
そんな小学生並みの感想を並べながらも俺とリナも先ほどの余韻に浸る。
しかし、それは長くは続かず、新しい問題がまた現れるのだった。
ソナーの使い方は90パーセント作者の妄想です。こんな使い方はできないと思います……10パーセントはもしかしたらっていう気持ちですので、知ってる人がいたら教えてくれると幸いです。