二つの思惑
また別視点です。
「素晴らしいじゃないか!」
「これで我が国も切り札を手に入れることが出来る!」
とある一室に集まった人々が、興奮して声を上げる。
ここは王都、王城の中にある国防会議室。
帝国の侵攻と奇襲攻撃の報を受けて急遽集められた王国の重鎮たちがこの一室に集まっていた。
「今すぐ恩賞を与えて王国に取り入れよう」
「爵位も与えた方がよかろう。今すぐ手配せねば」
侵攻する帝国に対してどう対策し、この戦争で勝利を収めるか……それを話し合う会議のはずが、今となっては議題は変わり、重鎮たちは興奮を隠さずに慌ただしく動き出す。
……と言う私も、情報局長として会議に参加したが、突然飛び込んできた報告に興奮を隠せないでいた。
帝国軍の撃退。
開戦から1日も経ってない時点でこの報告が届くのは異例だった。
しかし、驚くのはそのあとの報告の方だった。
戦闘に参加したのはドラゴン倒しの英雄と付き添う少女の2名のみ。
迫り来る帝国軍3万に対して戦略級と思わしき魔法を連射し、半数近くを壊滅に追い込む。
その後も複数の戦略級魔法を扱い戦闘不能に陥った帝国軍は撤退。
こちらの損害はゼロ。
まさしく完全勝利の報告だった。
しかし、注目すべきはそこではない。
一番に来るべきは英雄の存在である。
現在、我が国には切り札がない。
精鋭のみを集めた宮廷魔法師団はあるものの、帝国のシュバルツフント、シュバルツカッツェや、北栄連合の紅部隊のようなここぞで使える絶対戦力がいないのだ。
このことは三大国の一国として早急に解決したい問題であったが、そう易々と見つかるわけも無かった。
そんな時に、英雄の出現である。
戦略級を扱えて、それを連続で放つことができる戦力。
それはもはや他の国々を圧倒できる戦力になるのは明らかだった。
「東方に即伝を出してください。私がその少年に会いに行きます」
会議は続く。
東方の街に現れた少年の存在は、王国にとって最大の案件となるのだった。
「し、失敗したですって!?」
一方、東方の街カッツェルトをさらに東へ進み、場所は帝国へと移る。
こちらもまたとある一室。
世界で一番の領土を持つ大国の女王がヒステリックな叫び声をあげていた。
「3万も兵を送ったのですよ!?それなのに街の一つも占領できずに帰ってくるとは何事ですか!?」
「て、敵に戦略級の魔法を扱える者がいたようで、我々の攻撃範囲外から一方的に攻撃され、侵攻は不可能と判断し、撤退したようです」
伝令兵がおそろおそろに伝える。
このような軍の失態に女王の顔が歪む。
40代に差し掛かろうかという女王の顔には厚化粧では隠せなくなったシワが現れていた。
「軍はどうでもいいのです……魔食は?その少女は連れてこれたんでしょうね?」
「い、いえ、街に入ることすらできなかったようで、確保には至っていません」
「私の時間はどんどん過ぎて行き、こうやって美貌も失われているのです!その時間をどうして無駄にできるんでしょう!?」
そしてまた叫ぶ。
彼女にとっては戦争などどうでもいいのだ。
求めるは自分の美貌。そのために魔食を探し、発見の報告があった街へと軍を進めたのだ。
「……シュバルツフントを呼びなさい」
「……はっ?」
「そのための最高戦力でしょう?今すぐ呼んで、魔食をここに連れてこさせるわ」
シュバルツフント。
帝国が持つ最高戦力の一つで、シュバルツカッツェが暗躍を得意とする部隊であるのに対し、フントは純粋な戦闘部隊。
この、帝国の切り札を女王は今切ったのだった。
「早く……早く私に魔食の力を……美しい私にこそ必要な力……早く……」
あるのは己の欲望だけだった。
どうにかしてトーヤ達を大国の思惑の渦の中に放り込みたいんですが、なかなか上手くいかないですね。
作者は1話1話思いつきで書いてますから、計画とか全く無いのです。いつか脱線しそうで怖い