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男だけど乙女ゲームの世界に転生した。  作者: 鴉野 兄貴
この世界はクソゲーだ

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エピローグ 光り輝く世界

 砕けていく世界。俺は彼女の手を取り走る。

「弟よ。こっちで良いのか」

 ああ。姉ちゃん。間違いない。


 二咲先輩が伊丹さんを抱き上げて走っている。

「なんか俺、子ども扱いだな」

「実際子供だろう」


「助かったけど、面白いわね。キミたち」

 あんな馬鹿力なのにと笑う五葉先輩。


 嘆きも笑いも砕け散っていく世界で、俺たちは走る。

 光り輝く未来に向かって。その先は俺たちの生まれた世界。


「先に行け。弟」

「涼子を頼んだ」

 新伍先輩。番長。


「なんだ。明日の授業の準備をしていたのに」

「兄貴。次は仲良くやろう」

 先生。四谷君。


 親父やお袋。この世界で出会った人々全ての微笑みが、嘆きが再構成されていく空間を俺たちは駆けていく。俺の掌をしっかり握る姉貴の手の暖かさを感じながら。


「姉貴ッ こっちだッ」


 崩壊していく世界を殴り倒し、あるいは蹴飛ばし、俺と伊丹さんは血路を開く。


「ここだ。ここを抜けろ」


 あるときは二咲先輩のアドバイスに従い、またあるときは疲れ切って動けなくなった俺たちを五葉先輩が殴り倒して導く。この人怖い。


「当たり前だ。俺は五葉涼子だ」


 意味わかんない。姉貴が笑う。


「他の誰でもない。私だ」


 そういって彼女は疲れたと愚図る伊丹さんの手を取り走る。


『逃がさん』『お前だけは』


 突如、俺たちの脚が止まり、その先にボスモンスター達がPOPするも。


『チョーク雨あられッ』『ヤンキー木刀滅多打ちッ』『面々面々面々』


 先輩たちの奥義が炸裂。


「新伍先輩っ?!」

「四谷君? 先生?」


 驚く俺たちに。


「俺もいるぞ」


 出番がなくなったとぼやく一之宮先輩。


「こっちだ。二咲だけに任せていてはダメだな。所詮脳みそ筋肉のパンツ男だからな」

「なんだそれは。一之宮ッ?!」


 事実だろうと一之宮先輩は笑う。


 新伍先輩が居合一閃で飛来した欠片を砕き、ヤンキー姿に戻った四谷君がバイクに乗って親指を立てる。


「乗れッ?!」


 三笠先生も悠然とポルシェを乗りつけて微笑む。


「ああ。フェラーリが欲しい」


 そういうこと言える状況じゃないでしょう。


「毎周回分の給料があれば余裕で買えるのに」


 おい。先生。


 先生はぼやきながらもエンジンに火をつける。

 砕け散る世界の中、視線の先にキラキラした光が広がっていく。


「抜けるぞ!」

「つかまれ!」


 一之宮先輩と新伍先輩が叫ぶ。

 俺は姉をしっかり護るため両の腕を伸ばす。

 それよりはやく、細い姉の両の腕が俺の身体を包む。

 さらに細い腕。五葉先輩。

 そして小さな腕。伊丹さん。


「ぶっちぎれ!! 兄さん!」

「おう! 出!」


 護るつもりで、守られていた。

 二人っきりだと思っていたけどそうじゃない。

 みんながみんなで守り合っているんだな。


 光が爆発した。

 


 ふわり。


 風を感じる。何処かからカレーの香りがする。

 近くの工場でチョコレートを作っているのだろう。舌ですら香りが解る。

 俺は草の生えた河原の土手に座り、姉貴の腕を取る。


「ここが、外?」


 姉貴は不思議そうに沈む夕日を見ている。


「だよ。私たちのこれから進む世界」


 伊丹さんは小学生の姿に戻っている。

 ランドセルを背負い、ニコニコと俺の背に抱き付く。


「なんか、こっちのほうが現実感が無いね」


 五葉先輩が俺の手を取った。

 すかさずその手を踏もうとする伊丹さんに五葉先輩が「ナニこのガキ」と牙をむき。


「フー!」


 威嚇し合う二人の娘。いい加減にしてくれ。

 呆れる俺と姉貴に頭を下げる青年。二咲先輩。


「申し訳ない」


 その隣には彼が救いたがっていた少女がいた。


 美人でもない。スタイルだって良くない。明るい子には見えない。

 彼に肩を抱かれて泣き出す少女。不思議だ。二咲先輩が救いたかった気持ちが解る。


「これからどうする? 出」

「戸籍とかどうなるんだろう。兄さん。絶対教職に戻れないよ。俺中卒なのかな」


 どうなんだ? それ?!

 転がる三笠先生と四谷君は妙にシビアなことを言う。


「五葉流五車星は無敵! ゆえに戸籍など余裕!」


 番長の声に振り返る。なんすかそのワケの解らない理屈。でも番長ならあり得る。

 一之宮先輩と新伍先輩は「どうする。一之宮」「ケーキ屋なんてどうだ」とか仲睦まじい。本当にホモじゃないだろうな。


 俺の手を握っていた娘が立ち上がり、夕日を背に俺たちに笑った。


「なんとかなるって! 無敵の『弟』が俺たちにはついている!!」


 そう親指を立てて笑う姉貴に俺は苦笑いした。

 まだまだ、俺は姉貴の面倒を見なければいけないらしい。


 でも、俺はかけがえのないものを手に入れた。

 自分でも安心したのか。それとも得た物に満足したか。不意に力が抜ける。


 どてんと草の上に寝転がると草の香りが鼻をくすぐる。


 指先に触れる感触。俺の右手と左手を握る二人の娘と正面から微笑む姉貴。俺たちの瞳の先には徐々に小さく、そして強く輝く赤い太陽がある。


「弟よ。男なら立ち上がれ。死ぬまで立て。それが男だ。そうおもうわないか。『山田』君」


 姉貴はそうつぶやくとウインクした。


 ~ 男だけど乙女ゲームの世界に転生した。 おしまい ~

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