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親ガチャEランクの俺は遺伝子ガチャSSRの妹達と禁断の子孫繁栄をする  作者: 伊阪証


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プロローグ

Q.アウトじゃないですか?

A.家族を一人にしちゃダメだろ(?)

床に落ちた吸い殻から、細い煙がまっすぐに上っていた。

居間の空気はいつも、湿った獣の匂いと、安価なアルコールの臭気で満ちている。

突発的な衝撃音が響いたのは、夕食の仕度が終わる直前だった。

父親の手が、脈絡なく食卓の上の汁椀を薙ぎ払う。陶器が床に激突して砕け、熱い味噌汁が畳に広がっていく。

「お前たちのために、俺がどれだけ頭を下げて金を稼いでいると思っているんだ」

父親の顔は、ひどく厳かで、自らの正義を一切疑わない男のそれだった。

怒声と同時に振り下ろされた拳が、悠真の細い肩の骨を容赦なく打ち据える。加減の狂った雑な暴力だった。病弱な悠真の身体は、抗う間もなく床に転がった。

その様子を、母親は台所の陰から、ただ不快そうに眺めている。

彼女の行動原理は、自身の快不快のみだった。機嫌が悪い日には、妹たちの些細な足音にすらヒステリックに叫び、その頬を何度も平手で叩いた。

だが、父親の暴力が一定の境界線を越え、悠真の呼吸が喘鳴に変わるのを見た瞬間、母親は豹変した。

「子供になにすんのよ、このクズ!」

母親が父親の髪を掴んで引き剥がし、悠真の前に立ち塞がる。

実家の檻の中では、これが日常だった。徹底的な悪意ではなく、時折差し込まれる「気まぐれな庇護」と「半端な愛情」。それがあるせいで、逃げ出すという選択肢すら霧の中に隠されてしまう。

悠真は、実家から少し離れた牧場でバイトをしていた。

学校の机に座って教科書を開く時間などなかった。地頭は悪くなかったが、知識を体系的に学ぶ余裕はない。ただ、雪乃と深雪を飢えさせないためだけに、重い飼料の袋を運び、泥にまみれて馬の世話をした。

どれだけ必死に働いて身体を鍛えても、生まれつきの病弱な肉体は、常に微熱とだるさを連れてくる。自分の限界など、十代のうちに骨の髄まで理解していた。

そんな過酷な日常の隙間で、悠真が静観し続けている「歪み」がもう一つあった。

従姉の沙耶だ。

かつては家庭環境のストレスから悠真の服の袖を掴み、泣きながら甘えてきていたお姉さんだった。だが、家系の隔離ルールが変わり、それまで接触のなかった従兄の怜司と引き合わされた瞬間、彼女の目は悠真を見なくなった。

怜司は母親から過剰に女性ホルモン薬を飲まされ続け、心がボロボロに壊れた、常に自殺のリスクを抱える男だった。沙耶は、その怜司の細い身体にしがみつくようにして、こっそりと依存のベクトルを切り替えた。

悠真は、物陰で二人が壊れそうな境界線で抱き合っているのを何度も目撃した。

だが、何も言わなかった。他人の必死な防衛線を突っつくほど、自分の肩には余裕がなかったからだ。

――そして、終わりの日は、唐突に、全く別の方向からやってきた。

「悠真くん、もう終わり。終わりにしよう」

アパートの一室。目の前にいたのは、親友の元恋人だった。

彼女の境遇もまた、この街の底辺にへばりつくような不運に満ちていた。だからこそ、彼女は悠真の凄惨な家庭環境に、致死量を超えた「同情」を抱いてしまっていた。

彼女の手には、使い古されたライターが握られている。周囲の床には、すでに大量の灯油が撒かれていた。

「心中して。お願い。これしか救いがないの」

悠真は、地頭の良さのすべてを使って、彼女を説得しようと言葉を紡いだ。

死ぬ必要はない。実家のクソ親どもはいつか野垂れ死ぬ。俺はバイトで稼いでいる。妹たちを置いて死ねるわけがない。

論理的で、冷静な、生きるための説得。

だが、言葉を重ねるうちに、奇妙な違和感が悠真の肉体を支配し始めた。

舌の根が、妙にしびれる。

先ほど勧められるままに口をつけた、冷たい麦茶の味が脳裏をよぎった。

(……あ、れ)

立っていられなくなり、膝から崩れ落ちる。

腕を動かそうとしても、指先ひとつピクリとも動かない。

彼女は、悠真が説得のために必死に喋り続ける姿を、ひどく優しく、慈愛に満ちた歪んだ瞳で見下ろしていた。

「ごめね。悠真くんの身体じゃ、私のこと止めちゃうから。ちゃんと動かなくなるお薬、混ぜといたの。……これで、一緒に綺麗になれるね」

筋弛緩剤。あるいは、強力な麻酔薬。

肉体の自由は完全に奪われていた。地頭だけが、呪いのように冷徹に回転し続けている。

カチリ、とライターの石が擦れる音が聞こえた。

次の瞬間、視界が真っ赤な爆炎に染まる。

 

熱い、という感覚が、動かない神経の奥を狂ったように駆け抜けた。

煙が肺を満たし、皮膚がじりじりと焼けていく。

意識は朧げながらも、はっきりと残っていた。なす術なく、ただ生きたまま炎に包まれていく。

脳裏に去来するのは、あとに残された雪乃と深雪への絶望。

最後まで裏切り続けた、自分の病弱で動かない肉体への嫌悪。

そして――「同情」という最悪に優しい形でもたらされた、この理不尽な死への、制御不能な怒りと深い虚無だった。

意識の最後、視界を焼き尽くす炎の向こうで、あの女の歪んだ笑顔だけが、網膜の奥にこびりついて離れなかった。



熱が消えていた。

皮膚をじりじりとねじ切るようだったあの灼熱の痛みも、肺胞をドロドロに溶かした煙の息苦しさも、すべてが嘘のように引いている。

代わりにあったのは、骨の髄までを等しく侵食する、圧倒的な静寂と冷気だった。

悠真がゆっくりと瞼を持ち上げると、そこは視界のすべてが鈍い白と深い藍色に染まった空間だった。どこまでも雪が深く積もり、天と地の境界すら曖昧な、世界の果てのような場所。

その氷の床に、一人の女が腰を下ろしていた。

薄闇を孕んだような黒髪と、凍てついた湖面を思わせる陰気な瞳。冥府と氷河を司る女神ネロは、ぼろを纏ったような静けさで、這いつくばる悠真を見下ろしていた。

神々しい後光も、大袈裟な神託もない。ただ、凍りついた息を小さく吐き出すだけの、酷く物静かな存在だった。

「死んだのよ、あなたは。あの狭い部屋で、火に巻かれて」

ネロの声音には感情がなかった。事実を事実として淡々と告げる響き。

悠真の脳裏に、あの心中を迫った女の歪んだ笑顔が、一瞬だけ鮮明に焼きつく。地頭は冷徹に回るが、動かなくなった肉体の記憶が拒絶反応のように指先を震わせた。

「ここは私の領域。誰も来ないし、誰も攻めてこない、ただ寒いだけの場所。……世界を救ってなんて言わないわ。過酷で、何もなくて、ただ冬が続くだけの国だけど。のんびり、生きてみない?」

その言葉を聞いた瞬間、悠真の胸の奥で、前世の実家という檻への強烈な反吐と、取り残してきた妹たちへの執着が同時に弾けた。

他人の独善的な同情で焼き殺されるくらいなら、何もなくて誰も来ない極寒の地の方が、数倍マシだった。

「……応じる。あんたに、一生を捧げる」

かすれた声で悠真が誓うと、ネロは小さく、満足そうに頷いた。

彼女は、凍死の本質がただの「活動停止」であり、修復が可能であるという冥府の秘密を口にしないまま、その白い指先を静かに振るった。

雪が舞い上がる。

悠真のすぐ傍らで、凍りついていた二つの肉体が、目に見える速度で修復され、息を吹き返していく。

雪乃。...弟の方はまだ少し時間がかかるらしいが。

二人の胸が小さく上下し、閉じていた瞼がゆっくりと開かれる。あの地獄から、妹たちを連れ戻すことができたのだという、強烈なカタルシスが悠真の全身を突き抜けた。

だが、安堵が完成するよりも早く、異変が起きた。

悠真の視界の端に、本人の意思を完全に無視して、不条理な文字列が強制的に割り込んできた。

消したくても消えない。前世の実家で、いつクソ親の平手が飛んでくるか分からず張り詰めていた時の、あの神経を逆撫でするような不快なノイズ。ネロから授けられた『遺伝子ランク診断』の方程式だった。

既に何度か使ったが、品種改良も緑の革命も起きていない中では最初は家畜の繁殖で病を避け負担を回避する為だったが植物にも適用されるので非常に便利。気候がそもそも雪国で終わってるので季節もクソもない。雪解け水で常に最高の土壌で農業が捗る。人口も少なく優しい。中々悪くはないのだが...妹が漸く目を覚ます。凍結を解きほぐすための棺桶のような物に入れれて慎重に温めていたのだが...。

いつものように意図することなく勝手に画面は開き、無視しているつもりであった。

その画面は、悠真たちの数値を冷酷に弾き出すと同時に、ビカビカと、悪趣味なまでの極彩色で激しく発光し始めた。まるでスマホの質の悪いガチャ演出のように、無駄にチカチカとエフェクトを放ち、雪国の静寂を暴力的に汚していく。

【雪乃/ランク:SSR】

「……は?」

無駄に光り輝く『SSR』の文字と、自分たちが実家のクソ親の血を1ミリも引いていないという残酷なまでの証明。

あまりの事態の反転に、悠真の優秀な頭脳が、本気で硬直した。


視界の端にへばりつく金色の文字は、吹雪の白さを透かしてもなお、悪趣味なほどぎらぎらと発光を続けていた。

 消去を試みる視線の動きは一切を無視され、その明滅は悠真の網膜を執拗に刺激する。

「……ひとまず、落ち着こう」

悠真は、新雪の積もる地面を踏み締めながら、強引に処世の笑みを顔に貼り付けた。

ネロの冥府から引き揚げられたこの辺境の地には、手つかずの広大な雪原と、寒風を遮る簡素な木造の小屋があるだけだった。前世の実家という檻から物理的に引き離された事実は確かだったが、知識の足りない悠真の頭では、この世界の全容も、目の前で点滅する文字列の全容も処理しきれていない。

ただ、一つだけ確かな労働の経験があった。

「見たところ、ここは雪解け水が豊富で、土質も悪くない。俺には牧場で働いた経験がある。まずは道具を探して農業から始めよう。俺がお前たちを真っ当に養える男になる。だから、そういう、子供を作るなんてヤバい話は……俺がもっと一人前になってからだ。な? のんびりいこう」

地頭の良さだけで状況をなぁなぁに持ち込もうとする、時間稼ぎの交渉だった。

しかし、対面に立つ雪乃の据わった瞳は、兄の微細な動揺を、その視線が泳いだ先にあるシステムの文字列ごと、恐ろしい速度で読み解いていた。

「お兄が、この強くなった私に勝てるかなぁ?」

雪乃の薄い唇から零れたのは、明確な前哨戦の合図だった。

彼女の身のこなしは、挑発的な言葉の響きとは裏腹に、不気味なほど堅実だった。悠真が牧場労働で培った足腰で雪を蹴り、一気に間合いを詰めようとした瞬間には、すでにその呼吸を先回りして寸分狂わず一歩後退している。

前世の狭い家の中で、兄がどのタイミングで自分を庇うために動くかを、何千回と見続けてきた観察眼だった。

悠真が焦燥を押し殺し、足元に落ちていた凍った木の枝を拾って投げつけても、雪乃は視線すら動かさない。ただ、最小限のステップでそれを躱し、完全に悠真の突進をシャットアウトする。

「お兄のこと、ずっと見てるからなんでも分かるよ?」

上下の守りは徹底されており、付け入る隙がない。

だが、悠真の地頭は、幾度目かの交錯の中で一つの違和感を拾い上げていた。雪乃は圧倒的なポテンシャルを誇示しているにもかかわらず、こちらを直接傷つけるような実力行使をしてこない。悠真の足が突き出た岩の角に触れそうになるたび、彼女の眉がわずかに跳ね上がる。悠真自身が怪我をすることを、彼女の身体が反射的に拒絶していた。

(こいつ、今はまだ決定的な手を明かすつもりがない。ここで俺に逃げられるのを警戒して、後で確実にハメるためのプランを組み立ててやがる。それに――俺の怪我を恐れてる)

構造を見抜いた悠真は、あえて鋭利な氷柱の真下へと自らの身体を投げ出すような動きを見せた。前世で父親の暴力を引き受け、その場を収めてきた時と同じ、実質的な自分人質ブラフ。

しかし、雪乃は冷ややかに目を細めるだけだった。

「お兄、それブラフでしょ? 自分で本当に傷つくような真似、お兄はしないよ」

冷徹な看破だった。小手先の脅しは通用しない。

悠真の手元に残されたカードは、生まれつき病弱なこの肉体だけだった。そしてもう一つは、雪乃が兄に対して、どこかムードとして「ラッキースケベ」の密着を許容し、むしろそれを誘発しようと待ち構えている、歪んだ溺愛の隙。

不自然に体勢を崩し、転倒するような姿勢を取れば、彼女は必ず油断して受け止めに動く。

だが、見え透いた嘘の転倒を行えば、天才的な妹は即座に意図を疑い、なぁなぁにする交渉の余地すら残さず完璧にハメにくるだろう。

悠真の思考が導き出した選択は、狂っていた。

本当に転倒するまで繰り返す。

悠真は、受け身の動作を完全に放棄した。

わざとらしくない、しかし確実に肉体が損耗するリアルな足の縺れ。凍った地面に、容赦なく膝を叩きつける。雪原に鈍い衝撃音が響き、病弱な肉体が無様に転がった。

「お兄ちゃん!?」

雪乃の顔に初めて明確な動揺が走る。だが、悠真は痛みに激しく喘ぎながらも、すぐに泥臭く立ち上がり、また本気でバランスを崩して突っ込んでいく。

一回、二回、三回。

雪乃の「行動予測」のプランを強引にバグらせるための、本物の肉体の破壊。雪を血と泥で汚しながら、愚直に、何度も本気で泥をすする。悠真の肉体が限界を迎える度、雪乃の堅実な防衛網のラグが、目に見えて大きくなっていった。


五回目の転倒だった。

悠真の足が完全に滑り、後頭部から鋭い岩の角へ向かって、受け身の動作もないまま派手にすっ転んだ。

「危ないっ……!」

雪乃の計算が限界を迎える。お兄の肉体が本当に壊れるという予測が、彼女の構築していた防衛プランを強制的に書き換えた。

雪乃は制止のステップを捨てて泥臭く雪の上に飛び込み、悠真の身体を衝撃から守るように抱きとめる。二人の肉体が激しく雪原を転がった。

雪煙が収まる。

悠真は雪乃の胸の中に、完全に密着した体勢でがっちりと埋もれていた。

肌に伝わる生々しい体温と、至近距離で乱れる甘い吐息。

悠真は痛む身体の骨を軋ませながら、引きつった処世の笑みを顔に貼り付けた。

「……よし。これで、お互いに無傷の引き分けだ。今日のところはなぁなぁにして、一度小屋に入ろう」

時間稼ぎの交渉。地頭の良さだけで逃げ道を模索する、知識不足な兄の悪あがきだった。

至近距離でその発光の奥にある規則を覗き込んだ雪乃の瞳から、完全に理性が消え去る。

システムの「近親だと一律で評価点がマイナスされて格下げされる」という逆説。それはすなわち、「血の繋がらない他人の女が相手なら、減点なしの最高ランクと推定出来る仮称:『UR』の怪物を確実に産み落とせる」という冷酷な証明に他ならなかった。

お兄を放置したら、外の女たちに目をつけられて、伝説的な繁殖道具にされてしまう。

外の女に奪われる前に、いま、この場で完全に檻に閉じ込める。妹のバグった防衛本能が、最悪の形で噛み合った。

「……捕まえた」

雪乃の口から漏れたのは、前世の地獄の日常よりも冷たく、そして脳まで蕩けるほどに狂った温度の囁きだった。

「お兄、もう逃がさないからね。誰も見てないなら私の自由。戦うためとかそんなこと全部考えてない。このためだけに使うから」

直後、悠真の背中から、分子配列を完全固定する『雪の女王』の絶対的な氷が、肉体を侵食するようにせり上がってきた。

ピキピキと凍てつく音が響き、悠真の自由が、なぁなぁにしようとした知略ごと、物理的な檻の中にがちがちにロックされていく。ラッキースケベの体勢のまま、指先ひとつ動かせない。

「待て、雪乃!? 俺はヤリチンになる気なんてないし、他人とどうこうなんて一言も――」

悠真の計算が秒速で詰んでいく中、小屋の影からは、日光の当たらない静寂を這うようにして、自身の肉体をしれっと捨てて完全な女の子の形になった深雪が、脳まで蕩けた目で兄を見つめながら静かに這い寄ってきていた。

視界の端では、消したくても消えない遺伝子診断の文字が、二人の接近に合わせて絶頂の数値を弾き出し、警告のように激しく発光し続けている。

正しい農業で家族を養うという、兄としての理想。

それが、異世界に来てわずか初日にして、愛する妹という名の「最大の敵」によって完遂される。

「優しくしてください...。」

「んふふ、ダメ。」

【子孫繁栄記、初日。】

【命名、小雪。】

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