episode66
朝食をとり終えると、二人は一旦部屋へと戻り外出の準備をする。美幸はメガネなのに対し、普段は同じメガネ仲間である黒川はコンタクトだ。
「一樹さん、今日はコンタクトなんですか?」
そう問いかける美幸に対し、黒川はふっと笑って美幸に近寄ると、彼を壁際へと追いやって、いわゆる"壁ドン"をした。突然の事に美幸は心臓が高鳴り、顔に熱が集まるのを感じた。
「折角のオフで"初デート"なんだ。気合くらい入れるだろう?」
そういう黒川の目は肉食獣の様な獲物を狙う目をしているのに、どこか優しさを含んだ眼差しであった。
「こんなオレは嫌か?」
「......嫌なわけないじゃないですか」
そう言うと、美幸は黒川の胸ぐらを掴んで引き寄せキスをした。黒川はまさか美幸から攻め返されるとは思ってもみなかったので、ポカーンと呆然とした。
「やられっぱなしは性に合いませんからね!」
「......してやられた。やっぱりお前も男だな」
「なんですか、それ。当たり前じゃないですか。ほら、早く行きますよ!」
そういうと美幸は黒川の手を引こうとした。しかし、彼は動かない。美幸が不思議に思っていると、黒川は美幸の顎をすくい上げ、キスをしてきた。......それもディープな方だ。
「んっ......んン......あ、ん......ハァ」
「これでお相子様だからな。それじゃ、行くとしますか」
「!!もう!やっぱり勝てない!」
美幸の叫びに黒川は笑って彼の手を取ると手を繋ぎホテルを後にした。せっかくの沖縄旅デートだ。美味しいものをたくさん食べに行こう。それにせっかく何のだから何かおそろいの物でも買ってみるか。黒川はそんな事を考えていた。
「一樹さん、一樹さん。オレ水族館行きたいです!」
「あぁ。あの有名なところな。もうやってるからまずそこ行くか」
水族館に着いた途端美幸のテンションの上がりようは凄かった。小さな魚から大きな魚、クラゲにチンアナゴ。どれも初めて見るような反応だった。
「......もしかして水族館初めてか?」
「はい!ウチ、両親が仕事人間だったし、オレも引き籠りだったんでこういうところに来た事なくて......。だから、今凄い楽しいです!」
「それじゃあ、オレがお前のいろんな"初めて"を貰うとしますか」
「え?」
黒川は愛おしいものを見る眼差しを美幸に向けると頭を優しくなでた。
「お、もうイルカショー始まるじゃねえか。見たいだろ?」
「!はい!」
イルカショーの会場は凄い人だったが、何とか二人分の座るスペースを確保する事ができた。いざ、ショーが始まると、美幸は幼い子供のように歓声を上げていた。イルカショーをたんと楽しんだ後は昼食をとる事にした。グルメサイトで美味しいソーキそばのみせをみつけておいた黒川はタクシーを拾いその店に向かった。そしてソーキそばに舌鼓を打った後は、国際通りでいろんな店を見て回った。そして一つの店で美幸は足を止めた。
「美幸?どうした?」
「あ、いや......このネックレス綺麗だなって」
「琉球ガラスか。......うん。いいな」
「?一樹さん?」
黒川は真剣にネックレスを見ると、二つのネックレスを手に取り会計に行ってしまった。美幸はポカーンと呆然としていると、黒川が戻ってきて一つの包みを手渡してきた。
「初デート記念に何かお揃いのものを送りたかった。丁度いい店があってよかった」
「......開けても?」
「どうぞ」
美幸の手のひらで光る琉球ガラスのネックレスはとても綺麗に輝いていた。
「......綺麗です。オレ、これ毎日着けます!」
「気に入ってもらえてなにより。着けてやろうか?」
「あ......は、はい」
美幸は照れ臭そうに返事をしてネックレスを黒川に着けてもらった。美幸の胸元にはきらりと特別なガラスが輝いていた。




