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13.冷酷無比なラスボスが見せた優しさ

闇ギルドマスター、クラウスとの会話の続き。

 まさか信じられないという思いと、自分を疎ましく思っている王太子ならやりかねないと納得する。

 唇をきつく結んで俯いたアデラインは、膝の上に置いた便箋に視線を落とした。


「公女」


 腕を伸ばしたクラウスは、顔色を悪くして俯くアデラインの膝の上から素早く手紙を抜き取った。


「あっ」


 驚くアデラインを横目にチラリと見て、クラウスは折り曲げた手紙を開き内容を一読してから、紙の表面に手をかざして魔力を解析する。


「文字に呪詛がこもっている。呪詛と言っても体調を崩す程度の弱いものだが、公女には効果はなかったようだな」

「そう、ですか……そこまで嫌われていたのね。エリックも実の弟として接してきたつもりだし、王太子殿下は、恋愛感情は無くても政略上の婚約だと納得していると思っていたのに。婚約を解消したいと面と向かって言ってくれれば、わたくしもお父様にお願いしたのに」


 嫌われている知っていたから平気だと言いたいのに、アデラインの声は震えだし最後は弱弱しいものになっていた。

 呪詛を込められていたという事実が心に重くのしかかり、“私”の意識よりもアデラインの抱いていた想いが強くなっていく。


(王太子ヒュバートとの間に恋愛感情は無くてもいい。政略上必要な婚約だと納得していた、というのは嘘だわ。だってアデラインは、ヒュバードに恋していた)


 以前のアデラインは、確かに王太子を恋い慕っていた。だから、今のアデラインが婚約破棄されても平気だと思っていても、こんなにも胸が締め付けられるように痛くなり、体が小刻みに震えだすのだ。


「公女の護衛につけていた護りの動きが、結界によって鈍くなっていたようだ。契約を守れなかった詫びとして、この手紙を書いた者と呪詛を込めた者へ少し嫌がらせしてやるよ」


 ボゥッ!


 手紙を持つクラウスの手から漆黒の炎が出現し、漆黒の炎に包まれた手紙は瞬時に灰と化し、消えた。


「呪詛を倍にして、かけた者と命じた者へ返した」


 左手人差し指と親指で右手にはめている黒革の手袋を外し、クラウスは俯くアデラインとの距離を縮める。


「だから、泣くな」


 そっと乗せられた手の平が、俯くアデラインの頭をゆっくり撫でる。

 言われてから自分が泣いていると知り、アデラインが頬に触れると確かに涙で濡れていた。


「契約が終了するまで、俺がお前を害するもの全てから守ってやる」


 報酬しだいでどんな依頼も引き受ける闇ギルド、金狼の冷酷なギルドマスター。

 頭を撫でる彼の手の大きさと温かさと、数時間前は恐怖の対象だったクラウスの意外な行動にアデラインは戸惑った。

 人前で泣くのは恥ずかしくて涙を止めたいのに、泣いていると自覚してしまうと涙は止まらなくなる。


「ありがとう、ございます」


 止めたくても止まらない涙を流しながら、アデラインは唇を動かして無理矢理笑みを作るが、明らかに強がっている弱弱しい表情になってしまった。


 干からびてしまうのではないかと、不安になるくらい流れた涙が止まったのは、泣き出してから十五分以上経ってからだった。

 腫れて重たくなった目蓋にハンカチを当てて、アデラインは側に置いた椅子に足を組んで座るクラウスを見る。


(アデラインの中で“私”の意思が目覚めて、時間を逆行して護衛の依頼をしに闇ギルドに乗り込んで常に動き回っていて、全く休む暇もなかったわ。マスターの前で泣いたのは恥ずかしいけど、おかげでスッキリした。わたくし、泣きたかったのね)


 何も言わずに泣き止むのを待ってくれて、時折頭を撫でてくれたクラウスは辛抱強いというか、敵対すると恐ろしい相手でも味方には優しいのかもしれない。

 今だってアデラインが何か言いたげにしていると察して、口を開くのを待っていてくれているのだから。


「あの、考えたのですけど、呪詛を込めた手紙を送られるほど殿下から嫌われているのなら、病気療養を理由にしばらくの間学園を休学するのも手かと。異世界人、リナさんが受けた嫌がらせ行為は全てわたくしが行っているとされていますし、婚約破棄されて処罰されるのなら休学中に手続きをして国外へ出てもいいかなと、思いました。もちろん、依頼料は支払います。貴方方には、国外へ出るまで護衛をしていただくのはどうでしょう?」

「休学も出国も駄目だ」

「どうしてですか?」


 目元からハンカチを外して、顔を上げたアデラインはクラウスに問う。


「一度結ばれた契約の変更は出来ない。変更出来るのは、依頼主の意思が無くなった時のみだと伝えたはずだ。すでに王太子達の素行調査は始めているしな」

「契約は、そうでしたね」


 確かに契約書には「変更出来るのは、依頼主が死亡または意思疎通が出来なくなった時のみ」と書かれていた。


 魔力で縛った契約はそう簡単には解約出来ず、違反すればペナルティが課される。


(以前のアデラインの感情に引き摺られて、変更不可なこととペナルティがあることを忘れていたわ)


 報酬のために、完全にアデラインとの関わりを仕事だと割り切って動いてくれる金狼と、クラウスは信頼できた。


「少し調べただけでも、王太子共は放課後の時間を楽しく過ごしているようだ。貴族御用達のレストラン、服飾店、仕立て屋……数件で問題を起こしている。レストランでは飲酒をして騒いだようだ。注意をした店側に権力をちらつかせて、黙らせたと報告を受けた。未払いの代金に修繕費など、請求書と意見書が大量に王宮へ届くだろう」

「短慮な方だと知っていたけど、学園外で問題を起こすとか本当に馬鹿だわ」


 はぁーと、アデラインは溜息を吐く。

 放課後や休日に起こした問題は、学園内とは違ってアデラインとは関係無いものだ。

 請求書と苦情が王宮へ届いたら、王太子は国王にどんな言い訳をするのだろか。

 まさか、リナに対する嫌がらせを全てアデラインのせいにしたように、問題行動を誰かのせいにするつもりなのか。


「そのバカ騒ぎに、エリックも参加していたのね。大概のことは、お父様の耳に入る前にレザードが揉み消す。堕落まっしぐらね」


 嫌な図式を思い浮かべて、アデラインは下唇をきつく結んだ。


「公女との契約もそうだが、素行調査をして公女を追い込もうとしている王太子はどんな阿呆なのかと、気になったのと異世界人に群がるガキ共を潰してやりたくなった」

「え、潰す?」


 物騒な言葉が聞こえて、アデラインは思わず背凭れにもたれていた体勢から上半身を動かし、前のめりになった。


「つ、潰すとは、どういう意味で、ですか?」


 ヒロインの取り巻き達の人間関係を潰すのか。それとも、彼等の存在そのものを潰す気なのか。


 “私”の記憶によれば、闇ギルドマスターはギルドに所属している猛者達を従えるほどの実力があり、目的のためなら不要だと判断したものは切り捨てる。

 ファンボックスの設定資料に最凶のキャラクターだと書かれていた。

 冷酷無比なこの男なら、王太子でも躊躇なく潰しそうで背中が寒くなった。


次話に続きます。

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