1章ー37話 答えられない答
隠し部屋に続く通路は、騎鳥が通れる為、外にいたキロロを荷車から外し中に連れてきた。
シンヤ達は火を起こせないので、保存の効く食糧をそれぞれが少しずつ食べる。侘しい食事ではあるが、何も食べないよりはましだ。
リュートは隅で一人干し肉を齧っているが、クロエは好奇心を刺激されたのか、食事をしている最中もアウラに質問を繰り返していた。
「ねえ、アウラちゃんはどうして宝物庫の隠し部屋にいたの?」
『ノーコメントじゃ』
「はぐっ……ごく。……ノーコメントだそうです」
「ノーコメント?」
「答えたくないってこと」
シンヤを通さなくては話が出来ないため、干し肉を口に入れる度にアウラの言葉を伝えている。これまでも指輪の素材や成り立ち等を聞いてはいたのだが、その全てを答えたくないと言う。
「そういうことね。じゃあ、いつから指輪の状態なの?」
『ノーコメントじゃ』
「ノーコメントだそうです」
「じゃあじゃあ、封印される前は人間だったの?」
『……っ! ……ノーコメントじゃ』
「……ノーコメントだそうです」
先ほどまでの答えと違い、質問に言いよどむ様子のアウラだったが、それに気づいたシンヤも、どうせ答えてはくれないと思い、クロエには伝えない。
「もうっ。何も教えてくれないじゃない」
『正直わしも目覚めたばかりで混乱しておる。わからぬことも多い。質問は追々してくれると助かる』
「起きたばかりで頭が回らないって……。この場合頭とかあるのか?」
伝言ゲームの要領で、クロエに答えを返していくシンヤだったが、アウラは、答えたくないの一択、段々とめんどうになって説明が適当になっていく。
『失礼なことをいうな。意識と知識はしっかりとしておる。ただ、とりあえず今答えれることと言えば、数千年前に存在していたということだけじゃな。じゃから現在の事はほとんどわからん』
「年齢は数千歳だってさ」
『本当に失礼じゃぞ。女性の年齢には触れてはならんと教わらなんだか?』
「ダメだよシンヤ、女の子にそういうこと言っちゃいけません」
シンヤを責める二人の言葉はほぼ同時に発せられ、頭と耳と同時に入る声にシンヤは耳を抑える。
「なんで通じてないのに同じこと言えるんだよ」
『お主が悪いからじゃ』
「シンヤが悪いからよ」
「……ごめんなさい」
再度、両者から怒られるシンヤは素直に謝る。女性の年齢話はいつどこでもたいていはNGなのだ。
「でもそろそろ、ちゃんとご飯を食べさせてくれると嬉しいんだけど……」
「あ、ごめんなさい。そうよね、アウラまた今度聞かせて」
『気にせんからいつでも話しかけてくれ』
「また話しかけてってさ」
先ほどからアウラの話を伝えるために、度々食事を中断していて、シンヤの手の中にある干し肉は、まだほとんど食べられていないのだ。
「それで、その怪しい指輪をどうするのか決めたのか?」
ようやく食べれると口を開くと横合いから声が飛んでくる。話が落ち着くのを見計らったのか、リュートが話かけてきたのだ。
「どうするって?」
「破壊するか、ここに捨てていくか」
『なっ……。なんてことを言うのじゃあの小僧っ。わしを捨てるなど、とんでもないのじゃ』
「すごい抗議してますけど……」
リュートの発言でシンヤの頭の中は、アウラの叫びで満たされる。耳栓が通じないので抑えても意味は無いのだが、あまりにうるさいのでシンヤの手は耳を塞ぐ。
「当然の事だ。怪しいアイテムを持ち帰っても何の得にもならん。呪われているかもしれんし、最悪、罠の可能性もある」
「ですよねー」
『やめるのじゃ、こんなところに置いていったら淋しいのじゃ』
リュートが考えないはずはないのだ。城の中に隠すように安置されていた謎の指輪、それはなぜかシンヤにしか声が聞こえない。情報は無く、リスクを考えれば正しい発言だろう。
「淋しいからやめてくれって」
「なら破壊するか……」
『だめじゃーーーーー』
「うわっ……」
痛みは無いがとにかくうるさい。今までで一番大きい叫びに、シンヤは驚いて声を上げた。
「ねえ兄さん。こんな貴重なアイテムを破壊なんてしちゃダメだと思うの。ちゃんと持って帰ってしっかりと調べなきゃ。言ってる事が本当なら数千年前の出来事がわかるかもなんだよ? そんな機会他にないんだから。それに指輪自体からは邪悪さは感じられないし、今は多少の疑問に目を瞑っても情報の方が大事だと思うの」
「お、おう……。しかしだな」
先ほどまで黙って聞いていたクロエが、問い詰めるようにリュートに近づくき、早口にまくし立てた。その勢いに押され気味になりながらも、声を絞り出すリュートにクロエはさらに言葉を続ける。
「兄さんっ。遺跡を回ってた時も言ったけど遺物っていうのは唯一無二の物なの。それが失われたら過去の偉人達が残した救済策が無くなるんだよ? 兄さんの判断でそれがわからなくなってもいいの?」
「わ、わかった。わかったから落ち着け。もう破壊しろとは言わん、好きにしろ」
『この小娘怖いの……』
「クロエさんやばいっす」
指輪の件はクロエの勢いで持ち帰ることになりそうだが、彼女の好奇心に対する想いが凄まじいのだと、シンヤは初めて認識し、食べかけの干し肉を握りしめながら、ぽつりと言葉を零すのだった。




