剣だけの勝負の行方
「それより、あなた1人なの?」
白い神様はキョロキョロと周りを見渡して私たち以外の誰もいないことを確認してから首を傾げながらそう尋ねてきた。
「いいえ、私と、後この子もいますよ」
私はドレスのスカートの下からヒメカを取り出してみせる。
私に両脇を抱えられ差し出されたヒメカは片方の手を上げて「くぅ〜ん」と鳴いた。
挨拶をしたみたいだ。
「あはっ、何この子可愛いじゃない。……ってそうじゃなくてあなた達しかいないの?ってことよ」
「ええまぁ、そもそもここには迷い込んだようなものですからね」
「でもそれならどうやってここまで登ってきたの?下層部はともかくこの部屋に近づくたびにそこそこの警備兵がいたと思うんだけど?」
白い神様は私たちしかいないことを不思議がっている。
彼女曰く、この神殿は上に登るほど敵が強くなっていき私たちが今いる1つ下の階にはそれはそれは1人で突破は困難を極めるものが警備しているらしいのだ。
そんなことを言われても戦闘してないから知らないけどね。
「戦うのが面倒そうだったのでコソコソ隠れながらきました。ちょうど良さそうな木箱を見つけたので」
「あー、なるほど。少人数なら見つからずにここまで来れてもおかしくはないか」
白い神様は合点がいったという風に手を叩いた。
そして一度背を向け少し歩いた後、私に確認を取ってくる。
「それで、あなたは私と戦いにきた、でいいんだよね?」
「はい。本当は道に迷っただけですが見つけてしまったものは仕方ないのです」
「今なら引き返しても何も言わないよ?」
「引き返しませんよ。木箱かぶったままの階段の上り下りはもう懲り懲りですから」
「先に忠告しておくけど、私は1人じゃ絶対に倒せないよ?」
「それはやってみなければわからないと思うのですが?」
「………」
白い神様は黙った。
そしてその場で一度くるりと回る。
するとどういうことか先ほどまでドレス姿だった彼女は動きやすさを重視したのかピチッと体に張り付いたインナーのような服に早変わりした。
下も太腿がほぼ全て見えるホットパンツだ。
「おぉ、ちょっとえっちです」
「本来これは鎧の下に着るものだからね。まっ、1on1で鎧を着込んで戦うほど大人気なくないからさ、私は」
白い神様はそのままはじめ座っていた神座のところまで歩いた。
そしてこちらを向いて手招きをする。
「くまちゃん、あなたはこれに座ってみていなさい。そこは危ないわ」
「くぅ?」
ヒメカが私を見上げて首をかしげる。
私は彼女の目を見て無言で頷いた。
するとヒメカは私の手を離れて座り心地の良さそうな椅子の元へ一直線へ走る。
そして椅子の前で止まり神様の方へ頭を向けた。
どうやら神様が座っていた場所に座っていいものかと思ったらしく本当にいいのかといった顔だ。
神様はそんなヒメカを見て「ふふっ」と笑みをこぼしてヒメカを抱き上げて椅子に座らせてあげていた。
そしてどこから取り出したのか小さめの王冠をヒメカの頭に乗せて赤いマントを巻いてあげている。
その姿だけを見たらヒメカは王様のようであった。
初めは遠慮しがちだったヒメカだったがだんだん堂々とした態度になってくる。
最終的にヒメカは神座に踏ん反り返るように座っていた。
神様はそれを見て満足して、もうすぐ戦いが始まると見て虚空から一振りの刀を取り出した。
鞘に収められたそれではあったがその状態でもそれがいいものだと私にはわかった。
私も魔族の長剣を取り出して軽く握る。
すると神様はまるで今日の天気を聞くくらいの気楽さで私にこう言った。
「あ、そうだ。せっかく1人できてくれたんだからちゃんと手加減してあげるよ。って言っても、力と速さをあなたレベルまで落とすくらいしかできないんだけどね」
私は激怒した。
▶︎◇◀︎▶︎◇◀︎▶︎◇◀︎▶︎◇◀︎▶︎◇◀︎
メーフラは神のその発言に激怒した。
それは神の気遣いにおけるものであった。
彼女は元々世界を全て相手取ることを想定して作られたNPCだ。
いくら1人でそこにくることができる能力があるとはいえ、普通に戦ってはいくらメーフラでも勝ち目はない。
そもそも勝負にすらならない。
だからこその気遣いであった。
だが、それはメーフラにとって侮辱以外の何物でもなかった。
ただひたすら、剣の道で上を見続けた彼女が一番嫌うのは戦いにおいて手を抜くという行為だ。
人は全力を出してなんぼであり、少しでもその意思に陰りがあるものは誰が何を言おうとその者がやっていることは「お遊戯」になる。
彼女はそう考えている。
だからこそ、メーフラは戦いにおいて手は抜かない。
例え大人数を同時に相手取る場合であってもそれぞれがとってくる行動を吟味して自分の行動を決めている。
そうでなくては自分の信条に反することになるし、向かってくる相手に失礼だからだ。
だが今、メーフラはその信条を真正面から否定するような言葉を投げかけられた。
それも、手を抜いて当然といった感じに言われたのだ。
メーフラはその怒りを心の中に押し込めた。
ここで怒りに任せて動いたら相手の思うツボだと、そう考えて押し込めた。
感情に振り回されるようではど三流もいいところだと。
メーフラはどんな精神状態であってもその技を遺憾なく発揮する。
彼女は剣を構えてゆっくりと前に出る。
(相手はおそらく神級のAI、だからこそその技に絶対的な自信があるのでしょうが………たかが神級のAIに負ける私ではありませんよ)
メーフラがMOHの世界にくるきっかけとなったのは弟の誘いであるが、そもそもの原因は神級AIを完封できるようになったからだという事実があった。
メーフラは神に挑んだ。
彼女レベルになればいちいち間合いを測る必要なんてなかった。
彼女は一気に距離を詰める。
「先ほどの発言、後悔しないでくださいね!」
メーフラの連撃が神に向けて放たれる。
神は思っているより速いその攻撃をとっさに鞘から抜きはなった刀ではじき返した。
だが、まだメーフラの攻撃は止まらない。
弾かれることくらいは織り込み済みであり、弾かれる際に相手から受けた勢いを回転の力で無理矢理前に向けて再度斬りかかる。
先ほどより重い一撃、神は受け流しを選択した。
今、神は先の宣言通りメーフラとSTRをAGIのステータスをリンクしている。
つまりは同値になっているため勢いの乗った攻撃を正面から受け止めるのは得策ではないと判断した。
刀という武器が受けに向かないというのもそう判断した要因だっただろう。
だがメーフラは神が刀で受ける瞬間、少しだけ剣の軌道をずらした。
高速での応酬、神域の読み合い、だからこそこうした微妙なずらしが相手の歯車を狂わせる大きな力となるのだ。
神はメーフラの剣を流すことができはしたが作られたズレによって自分の体も少しだけ流されてしまう。
それは、メーフラにとっては大きすぎるズレだ。
無防備とはいえない。
神の今のその状態は文章に起こしてみれば『重心が数センチずらされた』というものでしかない。
だが、メーフラにとって、そして神にとってその差は大きかった。
メーフラが崩したそれは簡単に立て直せない。
一手一手、逃げようとする相手の王将の退路を塞ぐように投じられた銀将のように、メーフラの攻撃は神を追い詰めていく。
そしてついにーーーーーーーーーーー
「まずは一撃です」
「やばっ」
神の守りがこじ開けられてその体を無防備なものに変えられた。
肩から脇腹までメーフラの持つ剣が通り抜ける。
「そして……もうひとつです」
「ちょっ」
一度捉えた獲物をメーフラは離さない。
体を守ろうと引き戻される刀はメーフラの得意技の一つ、【落陽華】
敵の動き始めを妨害して一方的に嬲る技によって再び外へ。
神は身体能力を自分で制限してしまったため圧倒的な力によって無理矢理突破も難しい。
「重ねて一撃」
「げふっ」
絶好の攻撃の機会を逃さずに攻撃を続けるメーフラではあるがその間にも油断はしない。
今は人型であるがもしかしたら何かの拍子にそれが崩れるかもしれないこと、体の内側から凶器が飛び出してくるかもしれないことなどを想定しながら攻撃を続ける。
赤いダメージエフェクトが神の体からいくつも飛び出していく。
「そして最後に……一閃」
「きゃあっ!」
メーフラの一連の猛攻はその剣が神の首筋を捉え後ろに抜けたことで終わりを告げた。
神はあのまま接近状態にいれば一方的に攻撃を受けるだけだと判断して多少強引だが後ろに跳躍することで距離を取り仕切りなおそうとしたのだ。
それを読んだメーフラであったがその動作を拘束することはできなかった。
あそこで無理に追いすがろうとすれば手痛い反撃を受ける未来が見えたからだ。
だから彼女は代わりに一番ダメージが大きいであろう首を一閃した。
確かに彼女の剣は神の首を通り抜けたが、胴体と頭が分断されてしまうような展開は起こらなかった。
距離をとった神は楽しそうに笑った。
「あははははっ、君、強いね。もし「剣」っていう世界に神様がいたら君がそうなんじゃないかなってくらいには強い」
「……手加減を辞めるつもりにはなりましたか?」
「あ、もしかして怒っちゃってた?そうだとしたらごめんね。あなたを貶めるつもりは全くなかったの」
「なら、手加減をやめてもらっていいですか?それとも、このまま斬り殺されますか?」
「斬り殺されるのは嫌だなぁ。でも、手加減しないと勝負にならないからね。それだとお互いつまらないでしょ?」
「私としては手を抜かれている方がつまらないのですが?」
「あ、勘違いしないで欲しいんだけど私は本気で戦っているよ。ただ、身体能力を制限しているとか、魔法や特殊能力は使わないとか制約があるだけで」
神の言っていることは本当であった。
事、『剣技』という事一点においては神は全力で戦っていた。
神のいう手加減は相手の土俵でのみ戦うというものに過ぎなかったからだ。
神は自分が「手加減」と言った事でメーフラが気を悪くしたことに気がついて必死に謝罪した。
その姿は相手に嫌われたくなくて必死な少女のものであった。
「はぁ………まぁいいでしょう。それで?このままだとあなたは負けますけどまだ手加減……いや、制限をし続けるのですか?」
メーフラとて他人の感情の機微に疎い方ではない。
自分の過失を本気で謝罪してくる神の言葉が本心であると悟りその謝罪を素直に受け入れる。
だが、それと向こうが自分を縛って戦っていることは話が別だった。
メーフラは「このままだとお前勝てないけどいいの?」と挑発して相手の出方を窺った。
「確かに、剣技だけじゃ勝ちの目は薄そうだけど………まっ、次に見せる私の奥義も通用しなかったらその時は普通に戦ってあげるよ」
神はそう言って持っていた刀を地面におとした。
メーフラはその行動に勝負を捨てたかと一瞬だけ考えたが先の発言とその瞳を見てそんなはずはないと思い直した。
彼女は神をじっくりと観察する。
神はその場に手を掲げて高らかに声を上げる。
『私に手を貸せ花と月!!』
澄み渡った声が部屋に響く。
直後、神の目の前に一振りの刀が顕現した。
神は鞘に収められたそれを抜き放った。
それは薄紅色で半透明の刀身。
持ち手は木の根のような植物が絡み合ってできているが持ちにくそうという感想を抱かせない。
その木でできた持ち手はまるで使用者がその刀身で手を傷つけないように守っている、
そんな慈愛に満ちた精神が感じられた。
「………武器を良いもの変えたら私に勝てるとでも思っているのですか?」
「特に意味はないけど、今から使う技はこの刀でやりたいのよ」
「理由をお聞きしても?」
「これを持つと安心できるからよ。あなた相手に通用するかわからない不安、そう言ったものをこの刀を持てば全部忘れられるわ」
「では、その技というものを見せてもらいましょうか」
「きっとびっくりするわよ!」
神は刀を正眼に構えてピタッと動きを止めた。
そして全く動かなくなった。
いくら待っても向こうから動く気配はない。
それどころか、メーフラには神の気配がなくなっているように思えた。
目視しているから見失うことはないが、どこか不安を煽られる。
メーフラはそんな神をみて今から見せる技というのはカウンターを狙うものだと理解した。
その証拠に動かないメーフラを見て神は一言。
「いつでもかかってきていいわ」
そう言って笑みを見せた。
カウンター狙い。
メーフラが幾度となく相手にしてきたこの技はもう既に簡単な攻略法を見出していた。
「神様、使わないならそこに落ちている刀を借りても良いですか?」
「ええ、好きにして良いわ」
神は一度構えを解いて足元に落ちていた刀を鞘に収めてメーフラの方へ投げ渡してくれた。
メーフラは感謝の言葉を告げながら今まで戦ってくれた魔族の長剣をインベントリにしまい借り受けた刀を納刀状態のまま構える。
「抜刀術ね」
「はい。カウンター狙いなら反応前に切り捨てれば速いですからね」
誰もが認める最速の一刀。
それはかつて神級AIですら反応すらすることができずに首を落とされた抜刀術。
メーフラは技後に隙ができるということは考えずにただ、神が今から見せてくれるという技を打ち破ることを優先した。
メーフラは腰の位置で刀を持ち、抜刀術の構えをしてジリジリと前に出る。
対する神は動かない。ただその時を待ち続けた。
メーフラは必殺必中の間合いの少し前までは普通に距離を詰めた。
そしてそこからはゆっくり、自分の刀が確実に相手に届きその体を両断できる距離まで。
今がその時
メーフラは一瞬のうちに刀に溜め込んでいた力を解き放つ。
残念ながら彼女の脳のリミッターはまだ外れていない。
だが、十分に準備をした一撃だけならなりふり構わず戦うあの時のメーフラと同じ速さで剣を振るうことができる。
メーフラの剣は真っ直ぐ神の体に迫った。
神もあらかじめ刀を構えていたがこのままいけば刀を弾き飛ばしその勢いのまま体を大きく切り裂くことだろう。
メーフラはそう確信していた。
最悪でも、この一撃が防がれて終わるだけだろうと。
最高の一撃、反撃なんてできるはずがない。
そう思えるほど見事な一撃だった。
だが、次に起こった事象は彼女の想像を超えてきた。
ーーーーーーーーキィンーーーー
彼女の刀が神の刀に触れた瞬間、メーフラの刀の速度が半減した。
そしてそれを認識するより早くメーフラの視界が下にずれたのだ。
メーフラの体が崩れ不完全な一撃が神の体に吸い込まれた。
さしてダメージを与えた様子はない。
気づけば、神はその場に立ちメーフラは膝をついていた。
「………私の負けですか」
「いいや、引き分けだね」
神は左膝から下が壊れて立ち上がることが困難になったメーフラを見て微笑んだ。
メーフラは納得がいかなかった。
「いいえ、どう見ても私の負けでしょう」
「いいや、技は半分しか成功してないから引き分けだね。むしろ初見で、しかも正面から挑んでこれが成功しなかったんだから、剣技の勝負は君の勝ちだよ。やっぱり君、強いね」
神は勝負はついたと言わんばかりに呼び出したばかりの刀をどこかへしまってしまった。
メーフラは久しぶりの敗北の味を噛み締めてそんな神を見上げていた。
白い神様がなんなのかのネタバラシ含めて次回やります。
それと、要望があれば今回の神様含めて今まで出てきたボスモンスターのスペックをまとめたものを作ろうと思うのですがどうですか?
Q、木箱どこから出てきた?
A、神殿内の物置部屋で拾った。
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