白き神への挑戦
全くもって不愉快だ。
私は突然襲いかかってきた槍使いの人を撃退してため息をついた。
ついさっきのことだ。
私がいつものごとく道に迷って適当にさまよい歩いていたら突然岩陰から槍を持った男が飛び出してきて私に襲いかかってきたのだ。
それ自体はたまにあることなので何も問題はなかったのだが、その人、なんと攻撃しながら私たちの悪口をいっぱい吐き捨てて散っていった。
肉体的には全くダメージはないけど精神的なダメージが大きいよね。
私がどうこう言われるならともかくなんの罪もないかわいいかわいいヒメカちゃんが心ない言葉で傷ついてしまった。
ヒメカは私の腕の中でちょっとだけしょんぼりしたまま大人しくしている。
「大丈夫ですかヒメカ?」
「くぅ」
「元気出してください。私はあなたのこと、ちゃんと大切に思っていますからね」
「きゅぅぅん」
ワシワシとヒメカの頭を撫でながら慰める私。
そんな中でも足を止めずに歩き続けていた。
こういう気持ちが沈むようなことがあった時は出来るだけ体を動かし続けていた方がいい。
そうすればいつかきっと悲しいのが薄れていくから。
「ほら、ヒメカ、元気出してください」
「くぅ」
「え?おやつですか?仕方ありませんね。特別ですよ?」
「くぅん♪」
そう思って動き続けていたのが悪かったのだろう。
ヒメカをあやしながら歩き続けてゲーム内で1時間………
「くぅ〜ん」
「…随分と、険しい場所まで来てしまいましたね」
どうしよう。
本格的に迷った。
槍の人に襲撃された時ならまだなんとかケイオールの街に戻ることぐらいはできたと思うんだけど、もう既に方向すらわからない。
ここはどこ?
私はメーフラ。
今私がいるのは森の中。
だがここはいつもの人形族が生まれてくる場所ではない。
明らかに木のタイプが違うのだ。
いつもの森はいかにも森って感じの木が生えているのだけど、こっちのはどちらかというとジャングルって感じだ。
超巨大な木々が生い茂っている。
それに木の根っこのせいで足場も結構不安定だ。
木々が乱立しているためこの森はどこか薄暗かった。
「ヒメカ、ここはどこでしょう」
「くぅ?」
「わかりませんよね。仕方ありません、適当に森を抜けられるように頑張って歩きましょう」
地図なんてものは持っていないし、どうせ持っていたとしても現在地がわからないからどっちの方向に歩けばいいかわからない。
私はヒメカを抱えたままあてもなく歩き続けた。
しかしそこはゲーム内の森だ。
ある程度歩けば魔物が出てくることもしばしばだ。
そういう時は遠慮なく倒させていただく。
いつも戦っているやつと比べるとそれなりにレベルが高いのか時間がかかるけど、落ち着いてやれば脅威になるような奴は一体もいなかった。
「ある〜日♪森の中♪クマさんに♪」
「くぅ、くぅくぅ、くぅくぅくぅ♪」
黙って歩き続けるのも味気ないので私たちは歌を歌いながら歩く。
それが魔物を呼び寄せているのか歌い始めてからえらくエンカウント率が高かったような気がする。
ふふふ、私の美しい歌声が魔物たちを引き寄せてしまうのね。
私ったら罪な女ね。
そんなことを考えながら近づいてくる魔物は処理をする。
ここは森の中だということで猿やら鳥やらの魔物が多かった。
落とすのはだいたい肉とか毛皮とかばっかりだ。
これは後でプレイヤーショップやらNPCやらに流してお金にしよう。
どうやら調べてみたところ、【料理】スキルを持っていない人が料理をしようとしてもできないということがわかったので肉とかは本当に宝の持ち腐れだからだ。
そんなこんなで私たちの森の進軍は続いた。
そして私が代わり映えのない景色に飽き飽きしてきた頃、ついにそれは姿を現した。
「おっと、これは………神殿ですかね?」
「くぅ」
「ちょっと入ってみましょうか?」
「くぅ」
その神殿は真っ白な石を使って建てられていたが、不思議と周りの風景と調和するような見た目をしていた。
壁や柱に木のツルなどが絡まっている、などということはなく、そこだけは森の中から切り取られた空間になっているような感じさえした。
そしてこの神殿の作りは、どこか既視感があった。
「うーん、なんかみたことあるような?ないような?な感じなんですよね」
「くぅ〜ん?」
「まぁ、いいでしょう。入って見ればわかります」
私はとりあえずその神殿に入ってみようと近づく。
すると入り口の扉に近づいた時、突然私の前に何かが現れた。
落ち着いてそれを確認するとどうやら情報を映し出したウィンドウのようだった。
「えっと、何々?『『クエスト:白き神への挑戦』を受注しますか?』ですか。………ふむ、この先に何か強い敵がいてそれに挑みますか?といったところでしょうか?」
口にしてみるが答えは帰ってこない。ヒメカが不思議そうな顔で私をみるだけだ。
それでだ、このウィンドウを見た後私がこの神殿に入るかどうかだが、
「まぁ、強い敵がいて逃げているようでは女が廃るってやつですよね。私は逃げも隠れもしません。この先に神様とやらがいるというのなら、挑戦してみようではありませんか」
もし万が一負けたら負けたでケイオールの街に帰れるから万事オッケーとしておこう。
白き神とやらがどれほどのものかはわからないけど、私はこれでも剣神級とまで呼ばれているんだ。
背中を向けるなんてことはできなかった。
だからだろうか?
私はその部分だけを読んでいて、その少し下に書かれている注釈のような情報を見逃していた。
『クエスト:白き神への挑戦』
警:難易度『World』
後で知ったその難易度とその意味は、
『このクエストをクリアしたかったら両陣営のプレイヤーをありったけ集めてこい』
というものらしい。
つまりは、クリアさせるつもりのない、運営の悪意のようなクエストなのだった。
◆
1人の女性は自分の住処に何者かが来訪したことに気がついた。
「あら?お客さん?」
小さく呟くも言葉を返すものはいない。
なぜならそこには彼女1人しかいないから。
彼女は途中だったお茶汲みをこなしコップを持ってテーブルに着く。
そしてコップをゆっくりと口元に運びそして苦い顔をする。
「ゔっ、ちょっと茶葉入れすぎたかも……」
彼女は失敗したなと思いながらも捨てるわけにもいかないのでちょびちょびお茶を飲み進める。
「それにしてもお客さんとは、何気に初めてじゃない?さてさて、一体どれだけの大群が攻めてきているのかな?そして、私のところまでどれだけの人がたどり着いてくれるのかな?」
真っ白な肌をして、真っ白な長髪を持ち、そして真っ赤な目をしたその神様は、くるかもしれない初めての来客に心躍らせた。
「ふふっ、楽しみだなぁ……」
白き神殿の最奥にて、世界最強の一角は笑みをこぼした。
その表情はもはやただのNPCと呼べるものではなく、そこには確かに生命、そして心というものが住み着いているかのようであったのだが、それを指摘する者もまた、そこには誰1人としていなかった。
この話、ストーリーとかほとんど関係なくただ書きたいだけだけど許して……すぐ終わるから……
前回と今回の更新の間に質問が来なかったのでQ &Aはないです。
代わりに一つ豆知識
ダームさん編に助っ人として現れた教官ですがそのステータスはHPと魔防に特化しており逆に物理面はからっきしです。
あの見た目ですが惑わされてはいけません。
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