神獣03
1728年5月10日。
この世界には、八体の神獣がいる。
いずれも、人の姿こそをしているが、それでも、その八体が絶大な力を持つ、人間とは違う何かだと言うのは誰の目から見ても一目でわかる
八体の神獣は、八の大国で祀らおり、その国の象徴でもあり、頂点でもある。
彼ら彼女らは争いを嫌い、力を均衡させ、和平を唱える事で、世界は安定と平和を約束されていた。
だが、その平和を脅かす者が全く居ないかと言われると答えはノーである。
幾ら、彼らが神であろうと、人間とは神にさえ歯向かう者なのだから。
「ロザリー村の件、どうなりました?」
学園国家エグゼルクの守護する治癒の炎を司る神獣フェニックスが、出した話題に各々反応を見せる神獣達。
「痛ましい事件だったね……」
フォーリース民主国の象徴、土を司る神獣ユニコーンは、目を伏せる。
「人死にが出る事件は久し振りなのぉ〜」
ニライカナイ共和国の偶像、水を司る神獣マーメイドは、それに同意した。
「それについてはこいつと協力して、バックに付いてた組織含め逮捕済みだぜ」
エングルド連合国を治める爆炎を司る神獣、ケルベロスが、回答に対する答えを出し、
「村での生存者が一人も居ないので、苦労しましたわ」
ランバルディア王国で崇められる雷を司る神獣、ドラゴンもそれに続く。
「全く、消しても消してもこう言った輩は次から次へと湧いてくるのぅ?」
クルセルム帝国の頂点、風を司る神獣、グリフォンは呆れている。
「とは言え、解決したようで何よりでありんす」
夜真国で奉られる氷を司る神獣、狐はほっと、満足げな顔をする。
「今回の件で、ロゼリー村があるコーノ国は、大国入りを志願したそうよ」
ヘカテル魔国を統べる闇を司る神獣、サキュバスは、そう言って事件の概要をまとめた。
「最近、なんだか物騒なのぉ〜」
「そうですね。最近こういった事件が世界的に増えた気がします」
マーメイドの口に対して、フェニックスが同意を示す。
平和だった筈の世界で、ここ数年の間に、こういった犯罪が行われ始めたのだ。
世界を導くべき神獣達としては、頭がいたいばかりである。
「これも、あの予言が関係してるのかな?」
「単なる人災じゃろ。何でもかんでも予言に絡めるのも考えものじゃのぅ」
この出来事を予言との関連性を疑うユニコーンだったが、それをグリフォンが否定した。
何でもかんでも予言のせいにしていては、見えるべき物が見えなくなるというのが、グリフォンの考えだったからだ。
理由は他にはある、と彼女と数人の神獣達は睨んでいる。
「なんでも、最近不当な人身売買が横行しているらしいですわ」
「その発言は、五域の奴隷制度は合法だと言ってるみたいだからやめたほうが良いわよ」
そして、その心当たりを口に出すドラゴン。
先程、村での生存者が居ないと言ったが、連れ去られた子供達が何人おり、組織を壊滅させた際、生きて保護されたのだ。
子供を攫い、村の生き残りを皆殺しにした組織の目的は、人身売買の闇市に子供達を売ることだったための彼女の発言だったが、その発言は不適切だと、サキュバスに嗜められてしまった。
というのも、八大国、及びその周辺諸国では奴隷制は禁止されているのだが、五域や独立国の中には奴隷制を認めている所もあるのだ。
神獣達としては、五域でも奴隷制をやめて欲しいと思っているため、ドラゴンの発言はあまり適切とは言えない。
ドラゴンの台詞そのままでは、五域の奴隷制度は不当ではなく正当とも受け取られてしまう可能性があるため、サキュバスとして見過ごせなかった。
サキュバスが今回の会議を記帳している議事録官を見ると、その手が止まっている。
どうやら聞かなかったことにしてくれるらしい。
「今回の件も、大元を辿れば五域に組織があったからな。ったく」
奴隷制を採用しているのもそうだが、犯罪に対する抑止力が八大国と比べて緩いため、こう言った組織が生まれやすいという特徴があり、それについて、不満を漏らすケルベロス。
勿論、五域も犯罪者や犯罪組織を認めているわけでは無いため、捜査の協力から身柄引き渡しまではの流れはスムーズではあったのだが、それでもやはり不満は消えないのだ。
ちなみに、五域が奴隷制を採用しているのは、借金時の自己担保や犯罪者の更生のため等の理由がある。
自己を担保にする事でお金を借りれる制度は、神獣国家では出来ない試みであるし、神獣国家では犯罪者は社会復帰が不可能であるため、この制度自体はそこまで悪いものでは無い。
犯罪率が増加する点を除けば、評価でいるところもあるため、その分、余計に神獣達は頭を抱えているのだ。
そこに、別の角度から待ったをかける神獣が二人。
「二人とも、五域と纏めてしまっては、この会議場であるこの中央聖域も入るのであまりよろしくないですよ」
「そうでありんす。さっきから、神官はん達が、こちらを見る目が悲しそうどすえ」
サキュバスとケルベロスの五域という発言に、フェニックスと狐がフォローを入れる。
五域とは、迷宮地域、魔獣山域、未開海域、貿易境域、そして、ここ中央聖域の、膨大な五つの国ではない領域全てを指す。
そして、神獣達が集まる、八神教の本拠地、中央聖域では、神獣達を絶対とするため当然の様に奴隷制を採用していない。
なので、五域と纏めているが、正確には五域の中の四つの域で奴隷制が認められているというのが、正しいのだ。
ニュアンスで分かれとも思うサキュバスとケルベロスだったが、会場が会場だ。
悲しそうな神官達を見かねたフェニックスと狐の発言に、二人は悪かった、と謝罪をした。
そのまま、神獣達は会議を再開。
話し合いの方向は、今後の犯罪率の低下のための対策の話へと移った。
最終的に、この話し合いは、警備隊の見回りを強化し、犯罪が発生する前の未然対策を強化することで落ちつくことになる。
あくまでも人間達の自力を信じ、大きく手を加えることはしないのが神獣達の方針なのだ。
この結果に、唯一不満を持った神獣が居るとすれば、それは、グリフォンだろう。
「全く相変わらず、人間の力を信じて手緩いのぅ」
その呟きは誰にも聞かれる事はない。




