厄災03
『え? 自分の容姿をどうにかしたいの? ……』
『………………………………』
『そんなに悩むこと? 君は綺麗だから勿体無くない……?』
『………………………………』
『目立ちたくないのか、成る程なぁ……』
『………………………………』
『まぁ、僕も良く使う手だから、進めても問題ないか……。幻惑魔法使えば良いよ。幻惑魔法』
『………………………………』
『ちょっとコツが要るけどね。相手の認識を反らしたり、阻害する事を意識すると良いと思うよ……』
『………………………………』
特に意味のない会話だった。
相手が返事をするわけではなく、相手の思いをこちらが読み取らなければいけないのだが、その結果が記憶に残るわけではない。
前回とは過程が違うが結果は同じ。
しかし、前回とは違って、背景のような白の空間に、地面ができたような気がする。
この足場を踏みしめる事で、彼女の心が芽生え始めたのだと感じることが出来る気がした。
またも、気のせいかもしれないが。
それでも、その会話をするのは、僕が楽しからそれで良い。
楽しい時間は直ぐに終わりを迎え、彼女との束の間の会合はまたも終わってしまう。
少女に別れを告げて、自称厄災は目を覚ます。
所詮これは夢でしかなく、自分は現実と向き合わなければならないのだから。
1728年4月24日。
「さて……」
埃に塗れた椅子の上で自称厄災は目を覚ます。
ここは、既に廃棄された家であり、甘風を凌ぐのに丁度良かったのだ。
だが、起きてしまったのなら、長居をしている時間はなく、すぐ移動しなければならない。
彼に与えられた時間はあまり多く無いのだから。
彼が今向かっているのは、五域と呼ばれる、八大国の次に影響が大きいと言われる場所。
八大国の八大国たる所以は、世界で一番強く、崇められる神である神獣達がそれぞれの国に神として拝められているからである。
後は大体、八大国に従属しているか、逆らえない国のみであり、神獣の力は世界の国全てに注がれているといっても過言では無い。
のだが、五域は神獣の加護が届かない場所であり、崇められる神獣が居ないにも関わらず、世界に大きな影響がある場所である為、国としてある事を認められて居らず、そこを国ではなく域として呼ぶ。
そんな場所が五箇所あり、それらを総称して、五域と呼ばれるのだ。
その中の一つである、未開海域に彼の探し求める物がある。
だが、未開海域は、世界の端にあるため、ここからだとちんたら行ってたら、一年以上かかってしまう。
彼はそうならないように今急いでいるのだ。
いっそ魔法を使ってやろうかと思うが、ここで魔力を使ってしまうと、存在を保てるか怪しくなるので、自分の首を締める結果になる。
そういった理由があるため魔力をあまり使えず、移動に魔法を使うことができず、歩くしかないというジレンマに襲われているのだ。
全く持って腹立たしい。
馬車でも捕まえる事ができたなら、多少マシになるかも知れないが、彼の風貌を見て、果たして馬車が載せてくれるかどうかは分からない。
彼があれこれ考えながら、歩いていると、ふと、どこからか焼け焦げた臭いが漂ってくる。
気付いた途端、そちらに向かって彼は走り出していた。
それは彼が知っている臭いだったからだ。
彼は嫌な予感に顔をしかめながら、急ぐと、そこには予想通り最悪な光景が広がっている。
そこには、焼け焦げた村の後があった。
人の住んでいた形跡は荒らされ、大人達は殺され、そこには誰一人として生きている者が見当たらなかった。
「遅かったか……」
状況から見て、襲われたのは昨夜。
早く来ところで何か変わったかは分からないが、遠く無い時間に思わずそう呟いてしまう。
一呼吸置いた後、彼は、この村に何か痕跡は無いか、生きている人は居ないか探し始めるのであった。
だが、残念ながら、前者も後者もそれらしい物は見当たらない。
おそらく犯行は短時間。
記録や証拠も残さず、また、生き証人も残さない。
明らかに手慣れた者、それも大規模な組織ぐるみの犯行だ。
そうでなければ、ここまでの非道を許すはずがない。
「何やってんだよ……」
思わず、世界の頂点である神獣達に愚痴を放ちたくなるが止める。
神獣達だって、こういったことに対しては全力で当たっているのだ。
もう少し経てば、村にやってきた行商人や、近隣の村の者達が、この惨状に気付き、国、そして神獣へと報告し、すぐに捜査が始まり、犯人達の捜索隊が組まれ、捕まえ、組織を解体、および粛清にかけ、後に続く者達が現れないように見せしめを行う筈だ。
事後対応としては、かなりの物あり、事実、それが再発防止に繋がっているため、この世界の犯罪率低下に貢献している為、神獣達を簡単に攻めることはできない。
いくら神獣と言え、全能では無いが故に、行為が起こる前に止めることは出来ないのだ。
それに、今回は条件が悪かったといえる。
どれだけ対策しようと、こういった組織の行いは、粛清を恐れ無いからおこることであり、死を恐れない相手にはあまり効果はないのだ。
付け加えるなら、ここは八大国の何処の庇護も受けていない場所であり、あえてそこを狙われた形であるため、八国以外の配慮でどうしても対応が後手後手に回ってしまう。
悪いのは決して神獣ではない。
悪いのはこんなことを企てた奴なのだ。
この村の人達にも、この平和な世界で、こんな最悪の不幸に見舞われるなんてことは、想像もしていなかっただろう。
こんな物は災害と一緒だ。
ただ、たまたま、ここが選ばれてしまったという、そういう不運で、多分この世の地獄を味わってしまった彼らに自称厄災は、一人一人黙祷を捧げて行く。
自分には、それくらいしか出来ないのだから。
そろそろ行商人がやって来るため、その前に早々に立ち去るのが得策だと、思った厄災は最後に一軒だけ回ることにした。
目を惹かれたのは、焼けて屋根が落ちた家。
その家には、不思議と目を惹きつけられた。
何と無くだが、屋根を除いて、他の家より被害が少ない気もする。
家の前に立つと、誰かの声に呼ばれた様な感覚に少しだけ肩を震わせるが、残念ながら音を出すものはあたりに一人も居ない。
誰かが見つけて欲しいと言っているみたいだな、なんてそんな非現実的な考えを振りほどき彼は歩みを進める。
近付けば近づくほど、明らかに不自然な焼け跡を怪訝に思う。
残った三段の段を登ると、焼けてない足場をつたって家へと足を踏み入れた。
踏むたびにギシッと音を立てるも、壊れる様子のない床に、更に違和感を覚えながらも、歩くことをやめない。
やがて元々台所だったことが伺える場所へとつくと、そこには夫婦と思われる二人の死体があった。
彼の感じる違和感が一番濃い場所そこだったのだ。
彼にはどうしても、その死体達が何かを隠す様に存在している気がしてならなかった。
夫婦に黙祷を捧げ、そのまま、死体を退けることはせずに、辺りの床をコンコンと叩き始める自称厄災。
そして、彼らが倒れているその真下で、その音は変わった。
彼が、床下には、空間があると予想しており、実際にそこには床下の収納らしき空間があった。
やっぱり、と思い、自分の想像に確信を持つ自称厄災。
「もう村には誰も居ないぞ」
彼は確信のままに、床下に向かって、その真実を告げる。
その残酷な言葉に、数瞬の時間を起き、床下から声が聞こえるのであった。
「……貴方は…………誰?」
「自称、厄災」
それは、衰弱寸前の弱々しい女の子の声。
一応、質問を聞かれたから答えたのだが、更なる返答はない。
この答えではお気に召さず、困惑しているみたいである。
まぁ、それが普通だろうなぁ、と彼は思いながら、この世の絶望を味わったであろう彼女に次に何をいうべきか考え、そして、彼は今の自分の出し売る答えを出した。
「困ってるなら、話し相手くらいにはなるよ」




