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バッドエンドの転生者  作者: 避雷心
序章Ⅰ.v
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研究者エリアナ03

結局、不干渉ということに自分に決め、彼女は問題を先送りにした。


不安そうにする少年が、今の出来事にいくつか質問をしてくるので、答えられる範囲で答えた。

今の出来事は、きちんと魔法によるものであるという事と、無詠唱の特性をほんの触りの部分だけ軽く説明する。


だが、説明を始めると、目を輝かせて話を聞く様になった少年にエリアナの説明もついつい熱が入ってしまって脱線をしてしまった。

その脱線も少年にとっては未知の情報の様で、更に更にと求めてくる。

気付けば、その余計な時間も1時間を越えようとしていた。


新たに分かったことだが、どうやら、少年は年相応に物を知らないようだ。

特に、世間や常識に関することは殆ど知らない。

その癖、算術や作法などに関しての理解は数年早く会得している様で、その歪さが、魔法に対する無知にも繋がっていそうである。

単純に見た目年齢と頭の出来の差のから来る物かも知れないと思いつつも、魔力過多による成長速度の事例である自分と目の前の少年を比べてみるも、2人では情報が少ない。

育てた側は、どう言う意図で育てたのだろうかと、やはり、エリアナは少年の事が気になってしまっていた。


本題に戻ったのは結局1時間という時間を会話に費やした後。

精神が不安定になれば、魔法に影響が出るということを加味しても、十分過ぎる程の時間だった。

無論、この事も話しているが、それ以上に少年との話が楽しかったという目を反らせない事実が…………、


「(……べ、別に楽しかったとも、少年の見解が知らないが故の新しい発想で面白かったとも思ってません……)」


あった筈なのだが、やはりエリアナはその事を否定する。

またも一人で勝手に悔しいという理不尽な気持ちを持ったり、年齢差を考えて自制したり、そもそも話を始めたのは自分であるという、忙しいエリアナであった。


少年の弟子になりたい発言の意味合いが、二人の中で扱いが全く違うという事実の差がこにきても影響してしまっている。

当の少年はエリアナの話を受けて、体を解したりと、リラックスして自身の力を100%引き出そうとし尽力していた。


教えた事を早速実行しようとする点に、又もやエリアナが(以下省略

紆余曲折、ようやく詠唱を見る事が出来るよう準備が整う。

ベストな状態が少年が一言。


「行きます!」


その言葉と共に魔法の詠唱を始める。

第一詠唱を三節。


「(人によっては省略してもよい、実際、多くの人が省略していますが、基礎をなぞる事は良い事です)」


詠唱に特におかしな所も見当たらない。

続いて、第二詠唱を五節。


「(ん?)」


ふと、彼女は違和感を感じた。

何がと断言出来る物では無かった。

だが、何かが足りないような気がした。

詠唱に対して本来執行されることが、されていない様な、そんな違和感だ。

しかし、彼女の違和感の原因を探る暇も無く、少年の詠唱は第三詠唱になってしまう。


一章節目で、その魔法は本当に簡単な手から水を出す程度の家庭魔法だと理解するエリアナ。

そのことから、詠唱されるのは7節であるという、当たり前の事を認識し、先程の違和感の正体を探る作業に戻る。

何処がと断言出来ない事を不覚に感じながら、思考を止める事は出来ない。

第二詠唱で、何処かに違和感があったのは間違えない。


「(では、第三詠唱は?)」


そう思い、過去では無く現在の少年に注目してみる。

第二詠唱程ではないが、確かにここにも違和感がある。

まるで、詠唱に力がこもっていない様な違和感。

詠唱には、変わった所が何も無いのに関わらずだ。


「(これは、もしかして……)」


エリアナの中で思考が何かの答えを纏めようとし、その前に少年が、第四詠唱である一章節を唱える。


「『ビット・ウォーター』」


最も簡単な水魔法。

本来なら、手から桶一杯に満たないほどの水を出す呪文なのだが、特に何も起こらないという異常事態を起こしている。

呪文は正確で、手順も何も間違っていない。

なのに魔法が発動した形跡が見えない。


「(そんな筈は……)」


そんな事はあり得ない、とエリアナは否定する。

木から落としたリンゴが、地の魔素の力によって地面に落ちる様に、共通魔法言語を使って、正確に唱えた呪文で何も起こらない筈がない。

水が出ない筈がないのだ。

もし、こんな魔法法則に反逆する様な事態を起こしているとしたら、明らかに少年が原因。


「一体何を……」


今の現象はどういう事だと、少年に問う。

エリアナは、ようやく少年の言葉の「正しい魔法」を教えてほしいという意味をようやく掴んできていた。

そして、出来ることなら、一緒に解決したいと思い初めていた。


「えぇっと……、手を触ってもらえますか?」


指示されたのは不可解な説明だったが、迷わず手を掴むエリアナ。


「これは……」


すぐに言葉の意味を理解した。

触れた手は僅かに水で湿っている。

成る程、水を顕現させるという意味では、魔法はきちんと発動していた。

明らかに呪文に対して、不釣り合いな形で。


本来は水を少量出す筈の呪文を唱えた筈の魔法の筈が、現れた効果は手を濡らす程度。

確かに、少年の魔法は正しく機能していなかった。


普通、こんな事はあり得ないのだ。

どんなに成長過程で、幼少期の潜在魔力が少なくとも、コップ1杯の水程度は出す事が出来る。


少年が、さっきの無詠唱で魔力不足を起こしているというなら話は別だが、魔力不足による体調不良は見受けられない。

仮にもし魔力不足が原因だと言うなら、第2詠唱の途中で倒れてしまう筈だ。

何より、少年は恐らく産まれつきの魔力量が人より多いから、脳の成長が早いという結論に至ったのに、潜在的な体内の魔力不足だとしたら、今までの受け答えの説明がつかない。

 

ならば、水魔法の適性が無いと言う可能性を模索するエリアナ。

と、そこまで考えて、少量ではあるが水魔法を使える時点で、それは有り得ないという当たり前の事実に思い当たる。

どうやら、本気で、自分は混乱している。

エリアナには初めてだった、魔法が発動しない理由がわからないというのは。

こんなに不可解な現象は見た事がない。


「(これが、正しくない魔法……)」


これでは、さっきの無詠唱より遥かに劣って…………。


「もしかして…………」


そこまで、考えて、ある仮説が浮かんだ。

だが、もし原因がこれならば、少年の正しくない魔法の正体が判明する。


「第2詠唱の4小節め…………」

「…………?」


口に出した所で、考えがまとまった。

そんなエリアナの呟きを怪訝に思う少年。

だが、エリアナは自分の仮説を検証する価値があると判断した。


「第2詠唱の4小節め!魔力を体から抽出する部分の詠唱を3回繰り返しす様に改変して、もう一度最初から唱えてください!」

「それって……?」


エリアナが現状を解決させる為の案を出すが、告げる意味を理解出来ずに少年は困惑している。

それはそうだ、幾ら頭の回転が早いといっても、まだまだ少年には知識が足りないのだ。

この反応が当たり前、……なのだが、エリアナは研究魂に火がついてしまって、そんな事は御構い無し。


「良いから!呪文の4小節目を3回繰り返して、第2詠唱を合計7小節にして発動させなさい!!」

「え?え?え?詠唱って改竄して良いんですか?」

「良いんです!というか、オリジナルの詠唱を見つけ出すことが、詠唱学の…………」


告げる言葉の意味を理解されない事を歯噛みしてしまう。

が、全く理解が追いついていない様子の少年を見て、更に自分の話が脱線し始めている事に気付き、一旦冷静になる事が出来た。


「オホン!!……話がズレました……。兎に角、詠唱の改竄は学校などで習う、ごく一般的な事です。……責任は全て私がとります!だから、もう一度詠唱を!!」

「わ、分かりました……」


だった筈なのだが、話している内にまた語彙に熱意がこもっていく。

結局、熱意に押され、全く、理解出来ないまま、少年は言われた事を実行する事になった。


気を整え、少年はもう一度、水を出す魔法の詠唱に入る。

エルフ

・森の中に住み、自然と共に生きる種族

・風属性魔法に適性がある

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