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バッドエンドの転生者  作者: 避雷心
序章Ⅰ.v
13/114

研究者エリアナ02

「ここならいいでしょう」


少年の魔法を見る為に、貸家の裏の森にやって来たエリアナ。


「えっと……、そんな期待されるほど、派手な事は出来ませんよ?」


意気揚々とやって来た彼女に対して、少年の方は全くと言っていいほど、自信がなさそうな態度。

折角、研究を中断してまで外へとやって来たのに、水を差されてしまったエリアナは、少年にバレない様に頬を膨らませる。


「あ、えっと、ごめんなさい!」


だが、その姿は見えてしまっていたようで、エリアナは自分の顔が赤くなるのが分かった。

外見に騙されそうだが、中々、良く見ている少年だと評価を改めることで平静を保つ。

決して、誤魔化そうとしているわけではない。ないのだ。


「良いんです……。失敗した魔法は、何が起こるか分かりませんから」


思わず、言い訳の様な言葉を吐くけれど、何が起こるか分からない中では、こうして過剰にでも準備するべきで、別に彼女の判断は何も間違っていない。

何より、魔法の発動と失敗は彼女の研究の一つだ。

魔法の発動がどう間違っているか、どう対処すれば良いのかは、頭に入っている。


恐らく、正しく無い魔法とは魔法の失敗のどれかだと彼女はあたりをつけている。

今回興味があるのは、少年の正しくない魔法とやらが、どの失敗に当てはまるのかだ。

最悪、危ない魔法なら少年が魔法を使うのを止めなければならない。


「では、初めてください」

「えっと、詠唱版と、無詠唱版どっちが良いですかね?」

「魔術型の魔法は勿論、詠唱で……、待ちなさい!貴方、魔術型なのに無詠唱で魔法が使えるんですか!?」


だから、その返答は完全に予想外だった。

それもその筈だ。

魔闘型は詠唱を使わずに魔法を唱えることができる。

いや、正確には唱える暇もなく魔法が発動する。

それに対し、魔術型は詠唱を行わなければ、魔法を発動させることが基本的・・・に出来ない。

これは産まれ持って来る物。


勿論、0という訳では無いわけではないが、無詠唱で魔法を唱える事が出来る魔術型の魔法使いは世界を探したとしても二桁に届くかどうかの人数だ。

いや、もしかしたら使わないだけで、使う事ができる者もいるだろうが、自分から使おうとする者がそもそも少数派だ。

無詠唱は進んで使おうとする物などではないというのが一般的な見解。

そんな中、少年は無詠唱を使うことができると言うのだ。


「えっと……一応どっちも正しくないんで、使えてるというかは微妙ですけど」

「つっ……!?」

「えっと、不味かったですかね?」


不味いなんてものじゃないと、エリアナは声を大にして言いたかった。

無詠唱を使えるだけではなく、魔法に対する知識が無いのに、無詠唱を使おうとするなんて自殺行為だ。

最悪、詠唱が失敗し、そのフィードバックで自身の身体を傷付け、2度とろくな魔法が使えなくなるなんて事態になりかねない。


「その時、何か異変が起きたりはしてないんですか!?」

「えっと、ほんとに薄っすらとしか使えないっていう異変なら……」

「そういうことではなく!…………いや、成る程」


事の緊急性を伝えようとして、エリアナは思い至る。

彼が子供だから、その危険性が分からない。

そして、彼が子供ながらに、脳が抜きん出ているから無詠唱を使う事ができる。


(盲点でした……)


無詠唱の欠点は、多々あるが、一番問題なのは、欠点を認識すればするほど、魔法を覚えれば覚えるほど、脳が成長すればするほど、無詠唱を使った際の失敗率と、失敗によるダメージは大きくなる点だ。

が、知識が無い真っ新な状態で無詠唱を使えばその欠点は、欠点となり得ない。

もし、それらが幼少期からの訓練で解決されるのならば、と新たな研究対象を……、


「あのぉ?」

「はひっ!………………失礼しました」


思考をトリップさせようとした所を少年に覗き込まれて、止まった。

何時ものエリアナの癖だったが、ここは彼女の勝手知る研究室ではなく、更に言えば、ここには彼女1人しか居ない訳でも無い。

今日初めてあった筈の少年に、何度羞恥心を覚えさせることになるのか、エルフ特有の耳まで赤みを帯びて居た。


「ええっと、何でしたっけ?」

「…………もう、見てもらった方が早く無いですか?」

「……………………」

「……………………」


……………………。


「こほん!では、お願いします」

「はぁ……」


咳払いをして場をしきり直す、エリアナ。

無詠唱に不安がない訳では無いが、あれこれ言う前に見た方が早いのは確かだ。

それに、彼女の前で魔法を発動させる方が、自由に魔法を使われるより幾分かマシだろう。

なんなら、どこがダメなのか指摘する事が出来るかもしれない。


彼女は気付いていない。

自身の興味が完全に少年に向いてしまってる事に。


「では……」

「……………………」


無詠唱を発動させる際に雑念を与えてはいけないと、エリアナは黙り込む。


……。

…………。


30秒。


……………………。

………………………………………………。


1分。


………………………………………………………………………………………………。

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。


2分。


何も起きない。


一般的な魔術師は、簡単な魔法を使うのに20秒前後。実用的な魔法を使うのに40秒前後。

無詠唱にはこんなに時間がかかるのかという疑問と、無詠唱に時間をかけているのではなく、魔力を大量に注ぎ込んだ大魔法をこんな所で使う気なのでは?という二つの疑問がぶつかり合い、内心、冷や汗が止まらないエリアナ。

彼を止めるか……しかし、無詠唱の途中で横槍を入れられたとして、果たしてどんな最悪な事態が起こるか。

今すぐここから逃げ出したいと思っているが、それをすると集中力が。

やっぱり好奇心に負けるんじゃなかった、云々。


3分経った時、それは起こった。


「行きます!」

「……!!」


ジョボボボ………………。


「…………………………」

「…………………………」

「………………なんですか?……これ?」


エリアナがそう言うのも仕方ない。

溜めに溜めた筈のその無詠唱の魔法は、右手の指先から少量の水を飛ばして、ウンともスンとも言わなくなってしまった。

場に再び訪れる沈黙……。


「えっと……やっぱりこれって、魔法じゃ無いんですかね……」

「いえ、魔法ですけど……ですけれども……」


もし魔法が得意なエリアナが同じ時間、詠唱を唱えたなら、この辺り一帯に雨を降らす事が出来る。

無詠唱とは、この程度の物だったのか、とエリアナの無詠唱に対する興味が急速に薄れていくのを自覚しそうになるが、いけないと、冷めかけた熱を再び灯す。


いくら規模が小さかろうが、確かにこの少年は無詠唱に成功した。したのだ。

よく考えれば、その事実は軽々しく扱っていいものではない。

そう問題は、魔法の規模ではなく、何の問題もなく無詠唱が成功してしまったこと。


もし、エリアナが思い至った様に、幼少期の頃は無詠唱の成功率が高いという理論が正しくとも、それは世間が知らない情報だ。

無詠唱を使うことができる魔術使いはごくごく少数。

理論が正しいに関係なく、この歳で無詠唱を扱うことが出来ると周りに分かれば、それは抜きん出ているのではなく異質であると見られてしまう。

事実と世間体は違うのだがら。

どんな些細な規模であろうと彼は無詠唱の魔法を成功させている。

小さな規模で無詠唱の魔法を成功させたという話も、人に伝わる内に、いつの間にか大きな話にすり替わってしまうだろう。


無詠唱を扱うなと、言うべきか。

無詠唱の事をここだけのオフレコで済ませる事が出来るならば、この話は外には広がらない。

しかし、それを言ったところで、エリアナはその言に責任を持てない。

ここで、その才能を自分の判断だけど狭めてしまって良いものなのかと。


趣向し、思考し、塾考する。

彼の未来の可能性と平穏を天秤にかけるという考えを。

そこまで、考えて思い至った。


…………いや、実はこの少年に無詠唱の魔法の才能は無いのでは?

いくら、無詠唱魔法といっても、あれだけの時間をかけて、あの程度の規模の魔法という現実。

もし、エリアナの理論が正しく、他に適性があるものに学ばせたなら、きちんと無詠唱を扱う事が出来るのではないかと。

そういう意味で、今は特異な存在と思えるが、同じ土俵に立たされた瞬間、彼には無詠唱の才能はなく、彼の価値は無くなってしまうのではないかと……。


と、更にそこまで考えて、また、彼女は次の問題に思考移る。


そもそも、彼の未来を指し示す権利が何処にある?と。

言ってしまえば、今日会っただけの関係である。

彼の未来に責任を感じる事も、ましてや、彼の未来を決めるような事をいう様な事もない。

思わず、思考が深入りしてしまっていた、それだけ(・・・・)のことである。


馬鹿馬鹿しい……、エリアナはこの議題をそう結論付けた。


これは、エリアナ特有の物の考え方。

答えの前に次の問題を考えてしまい、繰り返していくうちに答えが出てしまう。


「是非、詠唱魔法も見せて下さい」


兎に角、見てから考えればいいのだ。

無詠唱

・優性遺伝子の魔闘型の人間は、基本的に詠唱を唱えない為、無詠唱は劣性遺伝子の魔術型でありながら、詠唱を唱えず魔法を構築できる者を指す。

・詠唱を唱えないだけで、魔法の構築に時間を費やす為、ノータイムで魔法を発動させるのではなく、魔術型でありながら、詠唱にかかる少しの時間を省略する事が出来るという物。

・使用できる者は世界中を探しても二桁もいない。

・メリットとデメリットが存在する。

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