俺の願いと未来
「マジで視界が広がったな」
窓の外をみながらジュンが言う。
下には半分に折れたビックジュンの破片が見える。
ジュンの部屋に飛んできた鐘は、まだ部屋の中に転がっている。
俺もジュンもこの事態に慣れてしまって、華多さんに至っては、部屋に転がってる鐘まで毎日磨いている。
よごれが貯まってますね~……じゃ無いと思うんだけど。
「ビックジュン、直すの?」
俺もジュンが座るソファーの横に座って、下を見た。
何十人も工事をしている人たちが見える。
「親父は直す気がないみたいだけど、市長が直せってさ」
仕事が忙しくていつも家にいないジュンのお父さんは、この騒動とケントさんが戻ったことで、久しぶりに家に居た。
「親父さん、ケントさんが帰ってきて喜んでる?」
「今日は歓迎パーティーらしいぞ。帰ってきただけで歓迎って、意味分からないけど、嬉しいんだろ」
「パーティー?」
中島家のパーティーは毎回無駄に派手で疲れるんだけど……。
「旨い物食べるだけみたいだぞ。もちろんローストビーフもある」
「なに?!」
俺は高速で振向いた。
中島家のローストビーフは俺の世界一の好物だ。
「食べるのが好きだな、アラタは」
ジュンは俺の方を見て目を細めて微笑んだ。
その瞳が優しくて、俺は思わず窓の外に視線を戻す。
「旨い物は、誰でも好きだろうよ」
「食べ慣れると、そうでもない」
部屋には珍しくテレビがつきっぱなしになっていて、この前特番に出ていたミライちゃんが男に決定して、学ラン姿でインタビューを受けている。
世界は自分が望む通りになど、ならない。
「そういえば、華多が準備したぞ」
ジュンはソファー近くに置いてあったスイカを俺に見せた。
「……この季節外れに、よくスイカが準備できるな」
俺は食べやすく四角く切られたスイカを一つ食べた。
「もう季節外れでも無い。もうすぐ夏だ」
ジュンは持っていた文庫本に視線をパタリと閉じた。
その手には、包帯が巻かれている。
俺を最後まで守って繋ぎ続けた手に負った傷。
持っている文庫本は名探偵アポロンの八十巻だ。
「……なんで一緒に飛び降りたんだよ」
俺は窓の外をみたまま、ポツリと聞いた。
大惨事から一週間。
ずっと心の奥底で思っていたことだ。
俺の心の奥に、認識が生まれていた。
あの事態なら俺の手を離すのは仕方ないとユウには言った。
言ったけど、心の奥底に一ミリだけ、俺の心に何が住み着いた。
【ジュンは手を離さなかったのに、ユウは離した】
こんなこと思う俺は狂ってる。
ユウとジュンを比べるなんておかしい。
でも……。
「俺のこと、好きになった?」
ジュンは文庫本を置いて、自信満々で当然のような言い方で言う。
「……気持ちわる」
俺は、はー……と長くため息をつきながら、目を閉じる。
ジュンはどうやら本気で俺と結婚する気があるらしい。
問題なのは、それを俺自身が、少し嬉しいと思ってしまったことだ。
なんだこの気持ち、気持ち悪い。
気持ち悪いのは、俺だ。
窓から入る風にジュンの赤い髪の毛が揺れる。
ジュンは伸びてきた髪の毛を耳にかける。
端末の電源は切られたままだ。
俺がジュンと……?
十五年間親友だった、ジュンと?
いやいやいや……俺は小さく首をふる。
俺はビックジュンから落ちて頭を打った。
間違いない。でも、感謝はしている。本当に。
「……ありがとうな」
俺は小さな声で言った。
「おう」
ジュンは短く答えて、置いてあるスイカを一つ食べた。
顔を見るとジュンの口元は、笑顔を無理矢理かき消すような変な笑顔だった。
ぐにゃりと曲がった笑顔。
一瞬にして俺に記憶は小学校時代に戻る。
俺が初めてジュンと呼んだ時と、同じ笑顔。
俺は何だか恥ずかしくなって、しっぽを動かしてジュンの頭を殴った。
「痛え」
「痛くしてるんだ」
俺たちは窓の外から入ってくる風を感じながら、スイカを食べた。
「お、この匂い、ケーキも焼いてるな」
ジュンがクンと鼻を動かす。
「マジか」
俺は開いて置いてあった文庫本に栞を入れた。
ちょうど名探偵アポロンが、アステリスクをバディーと認めた所だ。
俺たちも永遠のバディーでありたい。
俺はそう願っている。
第一話終了に近いですが、これで完結とさせてください。
感想をお待ちしています!




