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僕と魔剣と  作者: Make Only Innocent Fantasy
第3章 王都
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3-1 王都到着

Make Only Innocent Fantasyの三条 海斗です。

三章です!

非常にゆっくりと物語が進んでいますが、テンポよくできたらいいなと思っています。

それではどうぞ!

「まさか、王都に向かう途中にこんな洞窟があるなんて思いもしませんでしたよ……」

「学園に向かうときにとおらなかったのか?」

「馬車だったので、通ってないと思います。たぶん、かなり迂回したんだと思いますけど……」

「となると……ヴェール緑地のあたりか。だいぶ迂回したな」

「僕ら以外にも馬車を利用した人は居たみたいですからね。たぶん、それが関係してるじゃないんですか」

「そうかもしれないな。幸い、この洞窟はそれほど深いわけじゃないし、ここを抜けたらすぐに王都だ」

そんな他愛のない話をしながら、洞窟を進んでいく。

ただの話声でさえ、反響して聞こえるような気がする。

薄暗い洞窟。

人が通りやすいように整備されているみたいだけど、辺りを照らしているのはたいまつの灯りだけだ。

この炎が消えたら……そう考えるだけでもゾッとする。

それからしばらく進んでいくと、中間地点の目印が出てきた。

「ここが中間地点ですか。なんだか、時間の間隔がおかしくなってきましたよ」

「薄暗い洞窟の中にいればそうなるだろうな。少し休憩していくか?」

「大丈夫です」

「そうか、あまり無理はしないようにな」

「はい」

そう返事をした直後だった。

「うぅぅぅうぅぅうぅぅ……」

洞窟内に響き渡る泣き声のような音。

「これは一体……?」

「わからない。だが、用心するぞ」

(まさか、魔物?)

『いや、その可能性はないが……とてつもない魔力を持ったものが近づいてきている』

(とてつもない魔力だって……?)

『ああ。お前を除けば、初めて見る』

(一体、誰だ……?)

セレナが僕の前に立ち、剣の柄を握り締める。

僕も、レーヴァティンをつかむ。

泣き声はどんどん大きくなっていき、洞窟の暗さと相まって、不気味に聞こえた。

そして……。

「うぅぅぅ……ここはどこなんですかぁ……」

一人の少女が現れた。

「……へっ?」

とても素っ頓狂な声が出てしまった気がする。

それくらい意外だったというか……。

薄暗いせいでよく見えないが、歳は僕よりも幼いと思う。

(見た目からして魔術師のように見えるけど……どう思う?)

『まぁ……そうだろうな』

「えっと……なんで泣いているんだ?」

剣から手を放したセレナがゆっくりと、なだめるように尋ねる。

少女はゆっくりと事の顛末を説明していた。

「……つまり、王都に向かう途中で道に迷ったと……」

最後まで聞いたセレナが少し呆れた顔をしたのも無理はない。

なぜならば、彼女が歩いてきた方は王都がある方で、この洞窟はほぼ一本道だからだ。

たしかに時々行き止まりの道があるが、分かれ道のところに案内は書いてあるし、普通は迷わない。

よっぽどの方向音痴か、地図が見れない限りは……。

「ま、まぁ向かう先は僕らと同じみたいですし、一緒に連れていった方がいいんじゃないですか?」

「確かにそうだな……」

セレナはうなずくと、少女に向き直る。

「私たちも王都に向かっているんだ。君が良ければ、一緒に行かないか?」

「ほ、本当ですか!?」

「あ、ああ……」

目をキラキラとさせて、喜ぶ少女。

ただ勢いがすごくて、セレナがたじろいでしまっているが。

「うぅ……これで間に合う……」

安心したのか、少女はまた涙を流していた。

「急ぎの用事だったのか?」

「はい……王立図書館で学会があって……」

「ちょっと待って。王立図書館の学会に出るって?」

「ええ……そうですけど……」

その話が本当ならば……。

いや、まさか。

そんなわけがない。

「どうしたんだ? 学会がなんて?」

「王立図書館で行われる学会は、王都中から”一流の魔法使い”だけが招待されるものと聞いています。つまりそれに出席するということは……」

「一流の魔法使い……? そんな馬鹿な!? こんな洞窟で迷子になっているくらいだぞ!?」

「うぅぅ……すみません……」

「い、いや責めているわけじゃ……」

セレナは「やりずらい」と、言わんばかりの顔をしている。

僕の護衛をしてるけど、本職は騎士だもんなぁ……。

それでも必死に彼女をあやそうとしているところを見ると、彼女のやさしさが見えた気がした。


――― ―――


「う~ん! ようやく空が見えたなぁ」

「私もです! うぅぅ……長かったぁ……」

「そんなに長く洞窟にいたの?」

「どうなんでしょう……今日は何日ですか?」

「29日だ」

「それじゃあ半日くらいです」

「は、半日!?」

僕らはたぶん1時間か2時間かからないくらいで抜けてきたのに、彼女はその倍以上あの洞窟にいたことになる。

「でもどうして半日ってわかったんだ?」

「28日の夜に洞窟に入ったからです」

「……それからずっと?」

「はい!」

少女は元気よく返事をするが、セレナは頭を抱えていた。

いかにも「信じられない」という顔をしている。

たぶん、僕も似たような顔をしているかもしれない。

そんな”魔女”を連れて僕らは王都を目指した。

道中、彼女は全く違う方向へと歩き出そうとしていて、そんな彼女とはぐれないように連れて歩くのはとても大変だった。


――― ―――


「や、やっと着いた……」

普通に歩けばこの半分……いや、1/3くらいの体力でたどり着ける。

勝手にどこかへ行こうとする彼女から目を離せなかったというが最大の理由だろう。

出来ることならもうすでに休みたい。

だけど、それはまだできない。

最大の難関がまっているからだ。

「彼女を……王立図書館まで送っていく……か」

気が滅入るなぁ……。

王都の大通りはとてもじゃないが広々と歩けるような場所じゃない。

露店が所狭しと並んでいて、人の数も尋常じゃない。

そうなると裏道を通っていくことになるのだが、王立図書館までは遠回りになるし、入り組んでいる。

勝手な方向に進まれて道がわからなくなったら大変だ。

僕らは、先頭にセレナ、真ん中に彼女、そして最後に僕の順番であるくことにした。

久しぶりの王都は、懐かしい面影を残しながらも、僕が学園に行った時から変わっていた。

大通りはきれいに舗装され、真新しい建物が何件も建っている。

この道を、カインとふたりで歩いたことを思い出す。

あの頃はこんな気持ちで、この道を歩くとは思っていなかった。

そういえば、カインは裏道に詳しかったな。

よく遊んでいる僕でさえ、カインの案内がなければ道を覚えられなかった。

僕の覚えが悪いのかもしれないが、たいていの人は王都の裏道を把握していないと思う。

なにせ、大通りさえわかれば、王都は問題ないから。

大通りを外れると、閑静な住宅街が広がっている。

そこにいると、大通りの賑わいが、どこか遠く感じてしまう。

前を見ると、ちゃんと二人とも歩いていた。

勝手にどこか行くかなぁ、と心配していたのだが、さすがに心配しすぎのようだ。

とことこと必死にセレナの後を追う姿を見ていると、どこか小さな子供を見ている気分になる。

僕も、カインの後ろを、ああやって追いかけていたのかなぁ……。

揺れる帽子を見ながら、懐かしい記憶を思い出す。

あれは、まだ幼い頃の話だ。


――― ―――


「カイン……ま、待ってよぉ……!」

必死になって追いかけているが、カインとの距離は縮まらない。

そればかりか、距離はどんどん開いていくばかりだ。

「ほら、早く来いよ!」

ニシシと笑うカイン。

よくもこっちを見ながら、ぶつからずに走れるものだ、と感心した覚えがある。

軽やかに走るカインの姿は、本当に「元気な少年」という言葉を体現していた。

逆に、僕はというと、おとなしい少年……といえば聞こえはいいが、活発とは程遠い地味な少年だった。

今でも派手な方だとは思ってはいないが、それでも、その時は今以上に暗かった。

周りに、『どうしてカイン君とアストラル君って仲がいいんだろう』といわれるほど、僕らは不思議な組み合わせだった。

「か、カイン……も、もう無理ぃ……」

立ち止まって、ぜぇぜぇと肩で息をする。

ぽたぽたと流れ落ちる汗が、地面に染み込む。

たぶん、このまま立ち尽くしていると、その場に水たまりがで斬るんじゃないかと思えるほど、僕は汗をかいていた。

「まったく……体力ないなぁ」

「そ、そんなこと言ったって……僕とカインじゃ……仕方ないよ」

「仕方ないって、お前が本ばっか読んで運動してないだけだろ」

全く持ってその通りなので、反論できない。

一人、図書館で本を読んでいる方が性に合っている。

静かな場所というのは、時間までもゆっくり流れているように思えるからだ。

その時の僕は、知らないことを知ろう、知らなかったことがわかった、そんな知的好奇心の塊だった。

そのこと自体が間違っていたとは思っていないが、こうしてカインとの体力の差を見せつけられると、運動した方がいいのかなと思ったりもする。

「まっ、ここまで来れば大丈夫だろう」

「大丈夫ってなにが?」

「へへっ、見て驚くなよ」

そういうとカインはズボンのポケットから、一枚のプレートを出した。

「これって……!」

銀色のプレート。

そこに刻まれた獅子の紋章には見覚えがあった。

「そうだ、王国騎士のプレートだ」

「な、なんでカインがそんなもの持ってるの!?」

「拾った」

「拾った!? そんなわけがないよ!!」

そこで察する。

「ま、まさか……!」

「いっておくが、盗んでないぞ。拾ったんだ」

「どこで?」

「酒場で」

「やっぱり盗んでいるんじゃないか!!」

「だから、拾ったんだって。もう店には誰もいなかったし」

「落とし物だからって、勝手にもらっちゃだめだよ! いまも探しているかもしれないし……!!」

「大丈夫だって」

「その自信はどこから来るの!?」

「ここから」

そういうとカインは自分の胸を指さす。

「そういうことじゃ……ああ、もう……」

なんだか余計に疲れてきた。

「まぁまぁ、堅苦しいことを言うなって」

「言いたくもなるよ……」

カインはけたけたと笑っている。

その顔を見ていると、僕もなんだか笑えてきた。

結局、そのプレートは酒場に届けた。

カインは名残惜しそうだったが、意外とすんなりマスターに渡していた。

結局、僕に見せたかっただけだったんだろう。


――― ―――


昔の記憶を思い出しているうちに、かなりの距離を進んだようで、僕らは王立図書館へ来ていた。

「ようやくたどり着けましたぁ……」

少女は今までの疲れが出たのか、へたりこむように安心していた。

「アストラル。私は騎士院に戻らねばならない。あとは頼んでもいいか?」

「大丈夫。ここまで来たら、あとは中を案内するだけだから」

「頼んだぞ」

そういうと、セレナは騎士院へと向かった。

たぶん、学園でのことを報告しに行ったのだろう。

「さ、中に入ろう」

「あ、はい……よろしくお願いしますぅ」

少女は立ち上がると、僕の隣を歩く。

その少女に歩幅を合わせて、図書館の中へと入っていく。

久しぶりの図書館の匂いは、懐かしく、とても落ち着いた。

「本の匂いっていいですよね」

「僕もそう思うよ。さ、受付にいこう」

彼女を連れて、受付に向かう。

受付には一人の女性が座っていた。

「すみません」

「はい」

「学会ってどこでやっていますか?」

「失礼ですが、ご参加される方ですか?」

「はい。でも、僕じゃなくて、この子ですけど」

となりで少女がビシッと手を挙げた。

そのしぐさもどこか子供らしさを感じる。

「お名前をうかがってもよろしいですか?」

「アリシアですぅ」

隣の少女が一生懸命に大きな声を出す。

でも、僕が驚いたのはその声の大きさではなかった。

「……え?」

たぶん、この声を出した僕の顔はものすごく、呆気にとられた顔をしていると思う。

「アリシア……だって?」

魔女・アリシア。

その名前は、魔法に携わっている人間じゃなくても、聞いたことがあるほど有名な名前だ。

「一応聞くけど……『魔法における属性間の干渉』についての論文を出したことはない?」

「あ、それは私が書いたやつですぅ」

なんてこった。

学会に出られるほどの魔術師ならば、確かにすごい魔術師だ。

でも、彼女は格が違った。

なにせ……魔法が普及したのは彼女のおかげといっても過言ではないほどの、魔術師だ。

「それじゃあ、君は……僕と同い年!?」

「そうなんですかぁ?」

「いやそんなまさかだってありえないそんなことがあるのか」

「うぅ……早口で何言ってるかわかりません……」

「ああ……ご、ごめん」

一旦落ち着こう。

「ごめん、突然のことで驚いちゃった」

「いえいえ、大体の人はそういう反応をしますからぁ」

うん、そうだと思う。

と、そんなことは口が裂けても言えるわけがなくて。

こうして話しているだけでも、本来ならばすごいことなんだ。

「それで、学会はどこでやってるんですかぁ?」

「3階の第三会議室です。場所はわかりますか?」

ちらっと後ろの館内図を見る。

階段を上って突き当りか……。

「大丈夫です。ありがとうございました」

お礼を言うと、アリシアを連れて会場へと向かう。

先ほどまでは、隣を歩いていても何とも思わなかったが……。

僕なんかが、隣を歩いていてもいいのだろうか……。


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