12-1 それぞれの道
どうも、Make Only Innocent Fantasyの三条海斗です。
「僕と魔剣と」も、ついにエピローグです。
ここでつらつらと書いても仕方がないので、あとがきに回します。
それでは、どうぞ!
魔剣騒乱と名付けられた、一連の騒動から数日後。
僕は、王都を発とうとしていた。
僕やセレナの傷が癒えるのを待った、というわけでもなく。
この間に、王都から逃げていた国王が凱旋し、いろいろと根掘り葉掘り聞かれたり、英雄として手厚い待遇を受けたりと、大変だった。
その間に、なんども世界を救ったのは僕じゃないと言ったんだけど、王国からしてみれば、僕がそうしたことの方がいいようで。
今では、王国栄誉賞なんてもらってしまった。
そんなこともあり、僕らは王都に半ば閉じ込められていた。
一連の式典や手続きも終わり、やっと自由の身になれたのが今日というわけだ。
「にしても……終わっちまったなァ」
「そうですね……なんだか、寂しいです」
前を歩くアリシアとレオン。
王宮での戦い以来、なんだかんだ仲が縮まったようだ。
「でも……また会えないわけじゃないよ」
「ああ、そうだな」
僕とセレナがそういうと、二人は振り返って笑った。
「分かれ道……ですね」
この道を右に行けば、アンディゴへとたどり着く。
この道を左に行けば、王立学園へとたどり着く。
アリシアとレオンは、アンディゴ方面へ、僕は、王立学園へと帰る。
セレナはこのまま王都に戻る。
それぞれが、別々の道を歩もうとしていた。
「始まりがあれば、終わりもある。この旅は、あの場所で終わったんだ」
セレナは、空を見上げながらつぶやく。
その言葉に、どれだけの感情を殺していたのだろう。
「そう……ですね」
「大丈夫、僕らは必ずまた会えるよ。だって、この旅の途中に会えたじゃないか」
「……はい!」
「ありがとう、アリシア、レオン」
「はん、礼を言うのはこっちだぜ」
「え……?」
「ディゴールの屋敷で、お前が無理にでも連れ出さなかったら、俺は死んでたァ。だが、今もこうして生きてる。……結果的に、お前の俺の命を救ったんだァ。……ありがとな」
「そんな……僕は何もしていないよ」
「まっ、そう思ってんのは俺だけじゃねえってことだァ」
「そうですよ、私もですぅ。アストラルさん、変な方向へと歩いてしまう私を、ここまで導いてくれてありがとうございますぅ。この旅で、私は一つの指針をみつけられた気がしますぅ」
「アリシア……。そっか、君の道はちゃんと見えているんだね」
「はい!!」
「そんじゃあなァ」
「アストラルさん、セレナさん、また会いましょう~~~!」
アリシアはしばらく手を振っていた。
そんなアリシアが、変な方向へと歩いてしまわないように、レオンはしっかりと道案内をしていた。
その姿が見えなくなるまで、僕らは二人を見送った。
「行ってしまったな」
「うん、やっぱり少し寂しいよ」
「……本当にここまででいいのか? やはり、学園まで……」
「大丈夫。これは、僕の旅だから。ちゃんと、自分の力で終わらせたいんだ」
「そうか……」
「ありがとう、セレナ。思えば、いつも君に支えられていたような気がするよ」
「そんなことはないさ。君は、自分自身の足で歩いていたよ」
「ううん、君がそばにいてくれたから、僕は僕でいられた。レーヴァティンも、僕を守ってくれていたけど、セレナも同じくらい僕を守ってくれていた」
「レーヴァティン……か。今頃、何をしているかな」
「……少し考えてみたんだ」
「何をだ?」
「レーヴァティンは自分のことを、呪術魔物だと言っていた。ダーインスレイブも同じだと。シュバルツは、最後に自分を殺したこの世界を、人間たちを、とても恨んだはずなんだ。だからこそ、魔剣といわれるほどの強大な呪術が発動した。でも、魔剣は”二振り”あった。シュバルツは最後に、もうひとつ呪いを発動しているはずなんだ」
「確かにな……。アストラル、君にはその答えがわかっているのか?」
「確証はないけど……多分、シュバルツは自分自身を、世界と同じくらい呪ったんだと思う。ヒデヨシさんの話だと、シュバルツが殺されたあの場所には、ヒデヨシさんとおつきの兵士がいたんだ。その人たちを守ることができない自分自身を、自分を殺した人たちと同じくらい恨んだんだと思う。だから、レーヴァティンが生まれた。呪いの対象が全く違ったんだ。魔剣の性質が全く違ったものになったのも、たぶんこのせいだと思う」
「そうか、自分自身を……。なんだか、わかる気がするな」
「わかる?」
「ああ。私も、君を守れずに死ぬなら、きっと自分自身を恨む。ああ、自分は守るべき人もまれなかったのか、と。……シュバルツが最後にかけた呪いは、君を守る魔法になっていたのか」
「そうだね……。そうだといいな」
「きっと、そうだろうさ」
「……ありがとう。もう行くよ」
「君の無事を祈っている」
僕は、セレナに別れを言うと、学園に向かって歩き出す。
一歩、一歩、踏みしめながら。
(ありがとう、僕の……)
――― ―――
「……行ったんだな」
その姿が消えるまで、私はアストラルを見送った。
本当は、その姿を見送らずに帰るつもりだった。
別れが長引けば、長引くほどつらくなってしまうから。
(……君は、私を支えだと言ってくれたが、私も、君がいてくれたからこそ、私でいられたんだ)
ふと、思い出す。
最初は、血を見ただけで倒れそうになるほどだった。
それが、一人の力で立とうとしている。
(アストラル。今でも、君は私の希望だよ)
彼の姿が消えた方を、見続ける。
大丈夫、また会える。
そう何度も、心の中で繰り返しながら。
「ありがとう、私の英雄。私の……守るべき大切な人」
その言葉が、空へと吸い込まれて消えていく。
私はそのまま振り返ると、王都へと戻った。
――― ―――
そして、三年の月日が流れた。




