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僕と魔剣と  作者: Make Only Innocent Fantasy
第7章 生命(いのち)
21/44

7-2 奪った命

それから少し休んで、翌朝。

身体の疲れも抜けたのか、だいぶ楽になった。

そのせいか、無性に外の空気が吸いたくなったので、僕は外に出ることにした。

「もう大丈夫なのかい?」

「えっと……」

外に出た瞬間に、声をかけられうろたえてしまう。

声をかけてきた男の人は、僕が全く知らない人物だった。

『この家の主である狩人だ』

レーヴァティンの助け船が聞こえてくる。

そうか、この人が……。

「もう大丈夫です。すみません、ありがとうございます」

「いいんだよ。私よりも、彼女たちにお礼をしてあげるべきだね」

「そうですね……。交代で看病をしてくれたみたいですから」

「あの二人の必死な形相といえば、いまでもはっきり思い出せるよ」

「それほどだったんですか?」

「もう泣きそうなほどだったよ。それだけ、君は大切に想われているんだね」

「そんな事は……」

あの二人がそんな顔を……。

アリシアはすぐに想像できるが、セレナに関しては全く想像できない。

「まぁ、君が無事になったのならよかったんじゃないかな。二人とも、まだ寝ているみたいだし」

「そうですか。……そういえば、レオンは?」

「あァ?」

ぴょこっと、屋根の上から顔を出すレオン。

いつからそこにいたんだろう……。

「彼には屋根の修理をしてもらってるんだ。いやぁ、梯子がなくてあきらめていたところだったから、ちょうどよかったよ」

「そういうことだァ。てめえも手伝え」

「僕は、上にはいけないんだけど」

「ああ、こっちにきてくれ」

そういうと、狩人は僕を小屋の横へと連れていく。

「ここに薪があるから、割ってくれないかな」

「えっと、斧は……」

「ここにあるよ」

片手で持ち上げられた、すこし小さめの斧。

よくみると、使い古された跡があり、かなり前から使っているみたいだ。

「それじゃあ、これを使ってね」

「わかりました」

斧を受け取り、薪を割っていく。

少し力がいるけど、できないわけじゃない。

「君、名前はなんて言ったっけ?」

「アストラルです」

「アストラル君、君はなにか武術とかやっていたのかい?」

「いえ、全く。むしろ、体を動かすのは苦手で」

「そうなんだ。旅をしているから、てっきり何かしているのかと思ったよ」

「やっていたとしても、僕なんて全然」

「そうとも限らないよ」

そんな話をしながら、僕は薪を割り続ける。

かなりの量になったところで、セレナたちが起きてきた。

「アストラル、もう動いて大丈夫なのか?」

「うん、心配をかけちゃったね」

「気にするな。元気そうでよかった」

セレナがほっとしたような顔で微笑む。

その姿は、とても女の子らしかった。


――― ―――


小屋に戻ると、アリシアが起きて朝食を食べていた。

「おはよう」

「あ、おはようござい……」

そして、こちらを見るなり固まるアリシア。

「あ、アストラルさぁぁぁぁぁぁん!!」

解けたと思ったら、トコトコという音が似合いそうな走り方で、こちらに走ってくる。

「もう大丈夫なんですか?」

「うん、もう大丈夫」

「よかったですぅ……」

「本当にごめんね。看病してくれたんだって」

「いえ、何もできなかったですけど……」

「そんなことないよ。ほら、こうして回復してるわけだし」

「でも……アストラルさん、あれから三日寝続けてたから……」

「……そんなに寝てたんだ、僕……」

確かに、セレナも三日三晩って言ったっけ……。

どうやら、本当に迷惑をかけてしまったようだ。

「そういえば、アストラルさん。あのぅ……」

アリシアがもじもじとしている。

何か言おうとしているのはわかってるんだけど、ここで急かしたらたぶん「やっぱりいいですぅ」とか言いそうだ。

おとなしくじっと待つことにしよう。

「あの……魔剣のことなんですけど……」

「レーヴァティンのこと?」

一体、どうしたんだろう。

「あの……その……」

アリシアは再び、もじもじとしている。

見ている分にはかわいらしい仕草なんだけど……。

「あの、憑依しているときに、見えるんですぅ!!」

「……見える?」

「その……レーヴァティンさんがアストラルさんに憑依している時、アストラルさんの横に姿が見えるんですぅ」

「なっ……!?」

いや、そんなはずは……。

レーヴァティン自身が具現化することができたのなら、実際に戦っているはずだ。

でも、アリシアは姿を見たといっている。

彼女が、嘘を言っているようには見えない。

それじゃあ、彼女が見たって言ってるレーヴァティンの姿って……?

『魔力だ』

「え……?」

『憑依している時でも、本体は剣の中にある。本体が動いたわけではなく、魔力のみがお前の体にわたっている。それが見えたのだろう』

(それじゃあ、アリシアが見たっていうレーヴァティンの姿は……)

憑依時に渡している魔力ということになる。

それが姿に見える理由が不思議だけど……。

「その姿ってどんな感じだった?」

「えっと……半透明で……髪が長かったですぅ。それに目つきも……」

(うん、間違いなくレーヴァティンだ)

『ふむ……この姿が見えている……か』

(どうしたの?)

『いや、気にするな』

それっきりレーヴァティンは何も言わなかった。

気にするなといわれると、とても気になってしまうが、さすがに深くは追及できない。

それにしても、レーヴァティンの姿が見える、か。

魔法について、天才と呼んでも過言ではないほどの実力を持つ、アリシアのことだ。

魔力の流れが見えてもおかしくはないと……思う。

魔法の知識が、一般にまで普及し始めたのが、最近のことで書籍もあまりそろっていない。

そういうことは、専門家に聞くのが一番だけど……その専門家がこういってるんだもんなぁ。

「それで、どうしてそんなことを?」

「なんとなく気になっただけですぅ」

「なんとなく?」

「憑依系の魔法を見るのは初めてなんですぅ」

「ちょっと待って。憑依系の魔法を見るのが初めて?」

「秘術というか……すでに失われているんですぅ。憑依以外にも、変化や転移魔法なども」

「え、ちょ、詳しく説明して」

「少し長くなってしまうのですけど……」


 * * * * * 


最近になって普及し始めたましたが、魔法自体は昔からあったんですぅ。

その昔、魔法は高度な技術として研究されていて、その知識を有していた人も、また少数でした。

例を挙げるとするならば、王族や重鎮、研究者たちですぅ。

彼らによって、魔法は進歩したと言われていますぅ。

原因はわかっていませんが、研究者たちが残した資料には初級から中級程度の魔法しか記されてなく……憑依や変化、転移などの高級魔法は、そこで行方が分からなくなってしまったのですぅ。

それが伝わっているのは、その研究者たちによって伝えられた者のみということになりますぅ。


 * * * * * 


「なので、私自身、その魔法を見たことがないのですぅ」

「そうなんだ……」

みんなが驚かないから、全く気にしなかったけど……そんなに昔の魔法なのか。

魔剣という言葉で、納得してしまっていたのかもしれない。

僕も、みんなも。

「教えてくれてありがとう、アリシア」

「これくらい、どうってことないですぅ」

えっへんと胸を張るその姿は、おつかいが成功した少女のようだった。


――― ―――


その日の夕暮れ。

僕は、小屋の前に座っていた。

森の中にいると、どこか学園を思いだす。

あの学園も、森の中にあった。

「アストラル君、こんな時間にどうかしたかい?」

「あ……えっと……」

そういえば、僕はこの人の名前を知らない。

「あ、そういえば自己紹介がまだだったね。私はフレデリック。」

「すみません……。ちょっと外の空気が吸いたくて……」

「そうかい。まぁ、ここは空気がいいからね」

「僕、王立学園に通っていたんです。そこも森の中にあって……」

「君はまだ若いんだね。いいよね、未来があって」

「未来……あるんでしょうか。仮にも、僕はこの手で……命を奪った」

彼女に剣を突き立てた記憶は、今でもはっきりと思い出せる。

それどころか、目を閉じたら鮮明に浮かんでくるくらいだ。

「命を奪う……。意識していないだけで、君は日常的にやっているよ」

「え……?」

「例えば、鶏肉は鳥を殺して処理したもの。魚だってそうだ。ほかにも、害虫が出れば、駆除する。雑草が生えてきたら、根から抜き取る。ほら、何気ない日常の中でも、命はどんどん奪われていく。君が直接手を下したものはなくても、ね」

「だけど……」

「確かに、私たちが生きていく上では必要なことだよ。……生きるって、そういうことなんだ。何も殺さないって、どれだけ言ってもきれいごとだよ。だけど、その意識だけはなくしてはいけないんだ。だからこそ、命は大切にしなければならないし、奪うときも敬わなければならない。『いただきます』ってね。一応、話は聞いてるけど……君が奪った命は、君の仲間を助けた。だからこそ、悩んでいるより前を向くべきなんじゃないかな」

「言葉は簡単です。でも……」

「狩人をやっているとね、嫌でも見てしまうんだよ。……命が消える瞬間っていうのを」

目を伏せ、悲しい顔を浮かべるフレデリックさん。

僕は、彼の言葉をただただ、黙って聞いていた。

「ここにはいろんな動物がいる。私はそういう動物を殺して、命を繋いでいる。子供が出てきてしまったときは、つらかったな。でも、ふと思うんだ。魔物が出てきたら、僕もこうなるんだろうってね」

否が応でも、想像できる。

その姿を、僕は何度も見てきた。

そう、見てきてだけだった。

「僕は……逃げてただけなのかな」

「戦うことから逃げるのは、当たり前だよ。誰だって、怖いものさ」

「それだけじゃ、ないんです……僕は……!」

「君が何を想うのか、それは私にはわからない。だけど、これだけは忘れないでほしい。奪った命は還ってこない、だけどそれでつないだ命を粗末にしてはいけないよ」

その言葉は、僕の心に重くのしかかった。

奪った命……つないだ命……。


――― ―――


その日の夜。

フレデリックが、夜空を見上げていた。

彼は、人を待っていたのだ。

その人物が現れるという確証は、彼自身にもなかったが、半ば来るだろうという直感のようなものだけはあるようだ。

「ようやく来たね」

暗い森の中。

現れた人物に対して、彼はそう告げた。

「来ると思っていたよ、”もう一人の”アストラル君」

フレデリックは、もう一人のアストラル……つまり、レーヴァティンを待っていたのだ。

「ふん、俺をこのもやしと一緒にするな」

「すまないね。だけど、君の名前を私は知らないから」

「語る必要もない。一体、何の用だ?」

「すこし尋ねたいことがあってね」

「ほぅ……」

「アストラル君の筋力……どうみても、あれは運動をしていない人間の体じゃない。騎士や剣士の体つきだ。もしかして、君が内緒で修練していたんじゃないのかい?」

「それだけか?」

「もう一つ。……君は一体、何者なんだ?」

「質問の意図が分かりかねるな。それに語る必要もない」

「そうかい。教えてはくれないんだね」

「修練していたのは事実だ。これだけでいいだろう」

レーヴァティンは、もうすでに嫌そうな話し方をしている。

それに対してフレデリックは、いつもの態度を変えない。

両者が、無言のまま時間だけが過ぎていく。

その沈黙を先に破ったのは、フレデリックの方だった。

「僕はもう戻るよ。私と君は、ここで会わなかった。そうした方が、君にとっていいだろう」

「ふん、どこまでも食えない男だ」

「はは、すまないね」

すこし微笑むと、フレデリックは、その場から立ち去る。

姿が見えなくなったころ、「やはり食えない男だ」と小さく溢した。

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