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陽はまた昇る  作者: 月見陽
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ヒーローズ


 無音。降り続ける雨の音すらも、何もかもが聞こえ無くなってしまったかのような世界で、俺は水神機の倒壊を見つめていた。いや、倒壊ではない。それは残骸の飛散だ。古代魔法の中でも絶大な威力を誇る魔法だけあって、水神機を消滅させるには十分過ぎる攻撃だった。だってそうだろう。防御壁すらも展開出来ない水神機はD-17と大差ないのだから。

 眼前に展開されている光景は、何もかもが吹き飛ばされてしまったかのような平地で、さっきまであったプールすらも完全に消滅していた。

 立ち尽くす俺に近寄ってくる影が三つ。ソフィアを先頭にモニカ、ティナと続いている。そして、その表情は皆暗い。

 俺はなんとかして説明しようとした。しかし、焼けついたように痛む喉からは何の音も出すことができず、段々と視界すら歪んで行った。


「プラハ、あまり自分を責めるな」


 ソフィアの手が肩にかかる。払いのけてしまいたかったが、今の俺はそんなことすらも出来ないでいた。


「ごめんなさい。長老さんが全てを伝えてくれてしまっていたんで」


 申し訳なさそうに呟くティナ。謝る必要はないよ。そう言って撫でてあげたかったけれど、その手はまだポケットの中で凍りついてしまったかのように動かないでいた。


「プラハ……プラハッ」


 抱きついてきたのはモニカだった。あまりの勢いに踏ん張りきれなくなった俺はそのまま倒れ込む。左肩がズキリと痛んだ。背中も強く打ったため、息が少し漏れた。

 モニカはそのまま泣きじゃくった。いや、泣いているのはモニカだけじゃない。ティナも、ソフィアも涙を流している。俺だって……。

 嗚咽が漏れる。それがようやく出た俺の声だった。

 冬に降る雨は痛いくらいに冷たい。絶望の色から悲しみの色に変わった雨はなお痛い。

 どうしてか、胸の中にいるぬくもりに俺も縋りたくなってきてしまっていた。しがみついているモニカに甘えたくなってしまっていた。

 ロボットのように、両手がゆっくりとポケットから抜き出される。握りこぶしのままだったそれを今度はゆっくりと開いていった。サラリと流れて行く銀色の粒。それは左手の方からで、同時にくしゃくしゃに丸まった紙も落ちてきた。

 それは転移の魔法陣の紙だった。そうだ、俺はこれでさっき魔法陣を描いて。

 魔法陣を描いた……?

 俺は跳ね起きる。抱きついたままのモニカが奇声を漏らして呻いたが、今はそんなことに構っている暇は無かった。


 ――奴の計画は、魔法拡張がなされたインストールペーパーを使って仕返しをしようというものだ。それはあの日、モニカに行った計画。

その魔法拡張は、有機体に直接模写可能、前後二週間以内に触れた者であるならば、名前を呼ぶだけで発動可能になっている。

 分かった、そんなに言うならばこれを持っていれば良い、これが無罪を証明してくれる紙なのだ。奴は確かにそう言って俺にそれを渡してきた。一度はモニカに見つかったが、俺はそれを左側のポケットに入れたままだった。

 飛び行く銀の粒はインストールペーパーのなれの果て。そうだ、俺は確かにあの時、アリスの名前を叫んで拳を握った。

 転移の魔法陣が描かれた紙と共にそれを握りつぶしていたんだ。


「ティナ!」


「わ、ひゃいっ」


 俺が突然叫びだしたものだから、びっくりしてすくみあがってしまっている。


「転移の魔法陣って人体に直接描いた場合どうなるんだ?」


「ててててて転移の魔法陣でですか? え、えっと、ふ、普通に発動しまひゅ」


「じゃあ、片方だけが描かれている状態ではどうなるんだ?」


「え、えーと、と、と取りあえずは狭間の空間に飛ばされて、一時間以内に出口が描かれなかった場合はランダムな場所に飛ばされましゅ」


「ソフィア! インストールペーパーまだ持ってるか?」


「ああ」


 俺は奪うようにしてそれを受け取り、丸めた紙をそいつでくるんで握りつぶした。

 即座に描かれる魔法陣。そして転移の魔法特有の光が辺りを包み込む。


「ま、まさか!」


「そう、そのまさかだったんだよ! あの日お前からもらった拡張ペーパーを握りつぶしてたんだ!」


 皆が一斉に驚いた。いや、俺ももう一度驚いていた。逸る気持ちを抑えきれない。ドクドクと必要以上に心臓は波打っている。


「あ!」


 俺はそれを確認したと同時に走っていた。そうだ、これこそ現実なんだと欠片も疑わずに。

 皆も同じ気持ちだったのかもしれない。今度は一斉に走り出す。雨の中、我先にと。けれど俺だって負けるつもりは無い。目の前にいたソフィアの脇をすり抜けて、俺は必死に両手を前に突き出していた。

 ズシリ、と出した手に衝撃が走る。けれど、俺はそれをしっかりと抱きとめて、そのままスライディングよろしく地面を滑った。尻が擦れて熱いような痛いような感覚に襲われたが、今はその手の中にある存在が気になって仕方がなかった。

 その存在は、とても温かく、とても柔らかく、そして良い匂い、……じゃなくて、生きているということが、はっきりと体に伝わってきた。



「……え?」


「よっ」


 手の中のその存在が目を丸くして今に驚いている。


「まったく、あんたなんでそんなに早いのよ」


 それはもう鍛えていますから。


「あうあう、プラハさん早すぎです」


 まだまだ小動物には負けませんぜ。


「まいったな、流石はヒーローと言ったところか」


 全く、こいつは何言ってんだか。


「お帰り、アリス」


 なあ勘違いしてないか? 俺がヒーローなんじゃない。俺達でヒーローなんだ。


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