第9話 「絶望から切望」
助かったとも、助からなかったとも取れない状況で苦しむ僕に対し、アザントさんの過去は余りにも辛く、救いの無いおとぎ話を聞いてる様な切なく悲しい、それでいて現実味の無い様な過去に、僕は静かにそれでいて決して小さく無い衝撃を受けていた。
「儂は気付けば此処とは違う大陸の森に放りだされて居ってのう、何も分からず、、、死んだ事も分からず、、、、ただ妹を探そうとひたすらに彷徨っておった時じゃった。偶然そこで先人のエルフが儂を発見して保護してくれてのう、、、、、じゃが、その時になって初めて儂は自分達が既に前の世界で死んでおった事を知らされたんじゃ、、、、、その時儂は運命と云うものを呪った、、、、、、、何故なら死んだ者は、その死んだ時点での時系列に沿ってランダムにこの世界の何処かに飛ばされる、、、、、何の脈絡も無くのう、、、、、それは森のなのか、山の中なのか、はたまたは海の中かもしれんし、もしかしたら猛獣の巣の中に飛ばされる事もあるかものう、、、可能性は十二分に有る、、、、、、、もしかしたらアリアルは、こちらに飛ばされた時点で既に死んだのかもしれん、、、、、それを聞いた時儂は、絶望してしもうてのう。」
「そ、、そんな、海の中なんてどうしようも無いじゃないですか、、、、。」
無茶苦茶だ、、、、どうやってそんな中から探せって言うんだ。
「、、、、絶望した儂はさっき言った通り荒れに荒れ、酒を飲んでは世を恨み、苦しんでは飲んで、また泣いた、、、、、そんな生活がどれぐらい続いたのか、、、、、、そんなある日に儂は有る子供と出会ったんじゃ、、、、例によって儂は飲んだくれてな、気付けば夜中まで酔いつぶれて寝て居った。」
、、、、そうなっても仕方が無いと思う、少なくとも僕はその場に居ても責めようとは思わない。
「そしてまた浴びる様に飲むんじゃが、体は酔っておっても決して頭の芯の中にまで酔う事は無かった。酔いたくても、酔いたくても、酔えん、、、、不思議とな。そういう本当に辛い時に限っては酔えないものなんじゃ、、、、、当り前じゃが酒等で忘れれる訳が無かったんじゃ、、、、じゃが、儂は甘えた、、、、酒に、仲間に、、、、のう、、、、そうしてそれを悟った時儂は、死のうと思って森に出掛けたんじゃ。」
僕はお酒を飲んだ事は無いから、酔うという状態が分からない、、、、分からないけど、辛いと思う、逃げ場も無く、救いの無い事に対して誰が贖えると言うのか、僕には分からない。
「儂はどれくらい歩いたのか、、、ただ覚えている事は、仲間の誰にも知られずに死にたかった、、、、最後の最後は迷惑を掛けたくなかったんじゃ、、、、今思えば勝手じゃがな、、、そうしてある木の傍で寝転がり、魔獣か獣かに食われて死のうと思った。そうして目を瞑って待ってからどれぐらい経ったのか、やけに眩しくてのう、何事かと思い、目を開けて見ればそこに光と共に赤子が現われてのう、、、、、思わず儂は、恐る恐るその赤子を取り上げてのう、気付けば悲しくも無いのに涙を流しておった、、、、、そして必死になって赤子を抱いたまま無我夢中で走って村に戻って、仲間の家の扉を叩いておった。嬉しかった、、、、妹では無い、、、、何故か赤の他人である赤子を救えた事に、、、、理屈では無い喜びが有った。儂にとって無関係で望外である事にも関わらず、確かな救いがあったんじゃ。」
アザントさんは、まるで昨日起きた出来事の様に身振り手振りでその様子を僕に伝え、興奮して話す。
「それは希望と言うべきなのかは未だに分からん、、、、じゃがな儂は救われた、、、、赤ん坊に、儂の何かにのう、、、、、そして儂はそのまま仲間に赤ん坊を預けた儂は旅に出た。そこから100年以上は探したかのう、、、、、冒険者になって色んな場所に行き。エルフの集落をまわったり、世界各国色んな場所に行ってはアリアルの消息を聞き、またある時は賞金を掛けて情報を集めては回ったんじゃ、、、、それこそ草の根を探す様にのう。」
僕には分からないけど、本当に理屈じゃ無いんだろう、、、、だがアザントさんは救われた。
見ず知らずの赤子を救えた事は、アリアルさんを救えた事の様に嬉しかったんだろう。
良かった。救いがあったんだな。
「それでアリアルさんはどうなったんですか?見つかったんですか?」
「いや、見つからんかった。」
え?見つからなかったんですか、、、、。
「じゃがな、儂はアリアルが何処かで生きて居ると信じてる、、、、多分な!ホッホッホッホ!」
おいおい、何か笑とる、笑とるで~!ってそれで良いの?
「いや、ソレで良いんですか?笑い事じゃ無いと思うんですけど、、、、。」
アザントさんは髭を撫でながら答える。
「そりゃあ、見つかった方が良いと思うとるぞい?じゃがな儂はこうも思うとる、、、、アリアルはまた儂の様に誰かに救ってもらえておる、そして同じ様に救って居る筈じゃ。」
「いや、まあアザントさんがそれで良いのなら良いんですけど、、、、。」
何か釈然としないなあ、、、。
「納得いかんか?じゃがなあ、ずっと悲しんで居ても仕方が無いんじゃよ、そら死んでおったなら悲しいわい、でも生きているのか死んでいるのか分からないなら、生きてると信じて前に進むしか無いじゃろ。それに考えてもみい、儂らは前の世界で死んだと言われておる、それが正しいなら次もまたあると思わんか?何故今回で終わりじゃと考える。」
強引だなあ、、、、確かに悲観してても仕様が無いけど、、、でもそんな簡単に割り切れる事じゃ無いよ、ましてやアザントさんみたいに300歳以上生きてる訳じゃ無いし、、、、っていうか300歳以上って何だよ!?
あ~この爺さんの話し聞いてたら何かもうどうでも良くなってきたよ。
確かにまあ、この世界が何なのか良く分からないけど生きてるみたいだし、頑張るしかないよなあ、、、、何か気が抜けたら猛烈に腹減ってきた。
「ご飯、有難うございます。頂ます。」
「ホッ!そうじゃ、そうじゃ、たんと食いなさい、食って元気出して前を向かんとな!」
くそっ!やってんやんよ!見てろよこの野郎っ!
とは言ってみたものの、この先どうすれば良いんだろ、、、、金も何も無いしなあ、、、、それに服も。
ん~、皆あれからどうしてるんだろう?まさか殺されてるって訳では無いだろうけど、、、、連れて行かれるって事は殺す気は無い筈だよな?アザントさんは何か知ってるかなあ。
「あの~アザントさんに聞きたい事が有るんですけど。」
「ん?何じゃ?」
僕は、これまでの経緯、明梟中学一同でこの世界に来た事、ゲル状の生物に襲われた事、獣人に襲われ何所かに連行され、途中で逸れた事を話した。
アザントさんは途中相槌をうっては時折眉間を顰め、少し逡巡した後口を開いた。
「ん~それはちと不味い事になっておるのう、、、、、。」
それは何となく判るし、悪い予感しかしない。
「十中八九、其奴等は人攫いじゃのう」
「人攫いに攫われたって事は、その行く着く先は、、、、、、。」
「、、、、、奴隷商じゃろうな」
くそっ!マジかよ、そんな事許されるのか?
「警察とかは居ないんですか?犯罪でしょう?誰が取り締まってるんですか?」
「警察?、、、、勿論、人攫いは犯罪じゃが、ややこしい事に奴隷を扱った商いは合法なんじゃ」
、、、、は?どういう事?
「すいません意味が分からないんですが、、、、どういう事ですか?」
僕の問いにアザントさんは、難しい顔をしたまま言い難そうに答える。
「じゃからのう、、、、この国は、、、イヤ、この世界は奴隷制度に対してちゃんと法が整備されておる、じゃがそれは奴隷商人と顧客、後は奴隷の身の安全に対してのみなんじゃ。」
「え?でも今、人攫いは犯罪だって言ってましたよね?」
「そうじゃ、人攫いは非合法じゃ、、、、じゃが黙認されておるのじゃよ。」
「、、、、え?」
「え?」
え?じゃないよ、どういう事?意味分からないんですけど、、、。
「何と言えば良いのか、そうじゃなあ、、、例えばじゃ、お主等は食べる物も着る物も無く尚且つ、スライムに襲われて散り散りになっておった、、、そうじゃな?」
、、、、あれ、スライムだったんだ、、、、凶悪すぎるだろう、、、どんなムリゲーだよ、、、。
「、、、あれスライムだったんですね、まぁ、、、はい、そうです」
「あのまま散り散りに逃げ回っておったならどうなっておった?」
ああ成程、つまりは獣人達に攫われなかったら森で遭難した挙句、そのまま餓死するかモンスターに襲われ死んでいたと、、、、見方に依っては保護された、、、そう云う事か。
「でも、許される事じゃ無いんでしょ?現にアザントさんも犯罪だって仰ってたじゃないですか。」
「時と場合に依るんじゃよ、例えばどこぞの村を襲ったりすれば当然犯罪じゃ、じゃがお主達の場合は立証し難いんじゃよ。」
「立証って無理に決まってるじゃ無いですか、こっちに来たばっかりなのに。」
「じゃから黙認するしか無いんじゃよ、そうでなければ余程の事が無い限り、わざわざモンスターに襲われる危険を冒してまで助ける義理が無い。」
ぐっ!そこを突かれると辛い。
くそっ!次から次へと何なんだこの世界は、、、、、僕ここに来てからクソって言ってばっかりじゃないか!




