第12話 「ゴブリン」
ゴブリン達との邂逅に、モンスターであると云う危険性さえも忘れ、我を忘れ思わず感動してしまった。
おお、あれが噂のゴブリンか、、、初めて見た。
ゴブリン達は全員が全員、武器を所持していた。
弓を所持しているのが3匹、剣や斧を装備しているのが4匹、杖を持っているのが2匹の計9匹だ。
正しく、これぞゴブリンといった風貌で、目つきは鋭く、耳は尖っており、肌は濁った緑色だ。
前の世界のイメージだと、ボロボロの布を腰に巻いた原始人の様な恰好を想像していたのだが、ゴブリン達の格好は、思ったていたよりしっかりとしていて、何の動物かは分からないが、革製の防具や盾を装備している。
何気に僕よりも良い装備だ。
、、、、、はっ!そんな観察している場合じゃ無い、何が僕よりも良い装備だ。
そんな集団で現われたゴブリン達を見て僕は、思い出したかの様に身構え、そのまま銅の剣に柄を握ろうとすると、アザントさんに注意された。
「これこれ、そう身構えんでも良い、彼等は知り合いじゃ。」
「え?知り合いなんですか?」
モンスターじゃ無いの?こう問答無用のウギャギャって感じで襲ってくるんじゃないんだ、、、。
驚いている僕を尻目に、アザントさんはゴブリンズに声を掛ける。
「久しぶりじゃの!狩りの首尾はどうじゃ?」
「へえ、ご無沙汰してますアザント様。おかげさまで今の所、野兎が3匹ってところですだ。」
、、、、、普通に喋ってる、、、、、会話成立するんだ、、、って魔法か、やっぱ魔法ってすげえなあ。
カルチャーショック(?)を受けている僕を尻目に会話は続く。
「ほう、それは重畳。儂らも丁度狩りに来ておってなあ、、、、ああ、ところでゴブリーナのその後の体調はどうじゃ?」
「おかげさまですっかり元気ですだ。そら今じゃもう、ピンピンして今日も走り回っておりますだよ。あんまり元気なもので、家のカカァに怒られてましただよ。」
「ホッホッホ、そうかそうか、それは良かった。また何かあったら訪ねて来ると良い。」
「ほんに、アザント様には世話になりっぱなしで、、、、おお、そうだ!良かったらこの野兎食べてくだされ、いつも世話になってるのにちゃんとしたお礼も出来ず心苦しいだ。」
「ホッホ、良い良い。お互い様じゃて、気にせんでも良い。」
「いえいえ、それじゃオラ達の気が済みませんですだ、どうか受け取って欲しいだよ。」
、、、、何だこの遣り取りは、シュール過ぎる。
まるで何処かの農村での会話みたいだ。
ゴブリン達の農協とか在りそうだな、、、、畑仕事とかもやっているんだろうか?
そんな農村でのご近所付き合いみたいな遣り取りを見て、僕は関心と言うか呆気にとられていた。
「気持ちは嬉しいんじゃがのう、今日は弟子の修行も兼ねておってなあ、このままじゃとただ散歩しに来ただけになってしまう。」
そう言ってアザントさんとゴブリンは僕の方を見た。
ゴブリンはそこで改めて僕に感心を示した。
「えっ!?アザント様の弟子ですだか!?こらまた珍しいだ。見たところ若え人間族みてえだども、どういった御縁で?」
余程、アザントさんが弟子を取った事が珍しいのか、驚いた様子で僕とアザントさんを交互に見る。
アザントさんの知り合いみたいだし、挨拶しておこう。
「初めまして、先日からアザント先生の所でお世話になっている吾川流一と言います。よろしくお願いします。」
何か緊張するなあ、ゴブリンに挨拶って良く考えるともの凄い貴重な体験の様な気がする。
内心ドキドキしている僕を察したのか、目の前に居るゴブリンは笑みを浮かべて挨拶を返してくる。
「ギャッギャ!そんな緊張しなくても良いだ。おらの名前はゴッドだ。よろしくな!」
そう言ってゴブリンのゴッドさんは、握手をしようと僕に手を差し伸べる。
「あっ、どうもありがとうございます。」
何が有難いのか、思わずお礼を言ってしまう。
それにしても思ったより手が柔らかい、狩猟生活をしているせいか掌は職人見たいな硬さをしてはいるものの、手の甲側は柔らかい。
何と言うか手の感触は、お爺ちゃんの手みたいな感じだ。
まあ、指は4本しか無いけど、、、。
ゴブリンとの初接触に感動と戸惑いを感じている横で、アザントさんは僕との出会いを説明する。
「流一とは、つい先日出会ってのう。丁度、川に流され辿り着いた先で気を失っていた所を儂が拾ったんじゃ。」
「そうだっただか、、、、それは災難だっだだなあ。それだったら故郷のおっ母さんも心配してるべ?」
ゴッドさんは、僕を心配して悲しそうな顔をして気を使ってくれた。
「まあ兎に角じゃ、何処へ行くにしても今の流一の力ではどうにも出来んからのう、こうして旅が出来る様、鍛え始めておる訳なんじゃ。」
「へえ、そうですだか、、、、それはまあ大変だども、アザント様の所に弟子入りしているなら大丈夫だべ。おら達には応援してるだけしか出来んだども、頑張ると良いだ。」
そう言いながら、僕の腕をバシバシと叩いて励ましてくれた。
ありがとうゴッドさん、密かに風呂とか入って無いんだろうなあとか思ってごめんなさい。
「ありがとうございます。頑張って精進します。」
そう言って頭を下げてから面を上げると、他のゴブリンの人(?)達が僕を囲んで励ましてくれた。
いやー、一事はどうなる事かと思ったけど、良い人達(?)で良かった。
その後僕達は、他のゴブリンの人達と一通りに挨拶をして、その場を後にした。
◆◆◆◆
ゴブリン達と別れてから時は経ち、僕達はキノコ等を採取しつつ獲物を探す。
ゴッドさん達との出会いを顧みつつ、良き異文化コミュニケーションだったなと思い返していた時、アザントさんが異変に気付き、僕に注意を促す。
「ふむ、ボアウルフか、、、、どうやら囲まれておるみたいじゃな、、、、、流一、儂の傍から決して離れるで無いぞ?」
そう言ってから数瞬した後、僕達の周りに十数匹の狼が姿を現わした。
その姿は見た目からして獰猛で、山羊の様な目と角とを狼の顔を足して2で割った様な顔付で、不気味で怖い。
口には鋭い牙が生えており、粘着質な涎を垂らしながらグルルと呻っている。
体格もゴールデンレトリバーよりも一回りは大きいだろうか、筋肉質なのが毛皮の上からでも判る。
不味い、数が多すぎるだろ。
これはマジでヤバい、絶対にヤバい。
もの凄い恐怖と不安に襲われ乍らアザントさんの顔を伺うのだが、僕の心中とは逆にアザントさんは至って冷静そのもので、その表情には一切の焦りは見られなかった。
、、、、何でこんな数に囲まれて居るのに落ち着いて居られるんだ?そんなにアザントさんは強いのか?
アザントさんの冷静さが、却って僕を不安にさせる。
だがその襲撃後、僕の杞憂は大きな間違いであったと気付く。
「「「「ガアアッッ!!」」」」
まず、周り位置する比較的最前列に居た4匹のボアウルフが猛スピードで僕達に飛び掛かって来た。
「ぅうわあっ!!」
僕は思わず悲鳴を上げてしまう。
襲い掛かって来る牙は既に僕の目の前、誇張でも何でも無く、ボアウルフは強靭な膂力を以って僕の目線の高さまで飛び掛かって来た。
、、、、、、あ、死ぬ。
体が凍った様に動かない。
後、数瞬も経たぬ内にその牙と云う名の死は、僕の顔の肉を貫き、骨をも噛み砕いて血飛沫を上げるだろう。
走馬灯の様に鮮明に、僕に具体的な死をイメージさせた瞬間━━
「「「「ドグチュッ!」」」」
その不快な音は、僕の顔では無く、ボアウルフの肉を貫き、骨をも砕いた。
え?、、、、、、。
僕の眼前には、地面から生え上がる、土で出来た鋭く太い、三角錐の針で貫かれたボアウルフが空中で静止していた。
「カッ、、、、ガ、、、、ァ。」
時が止まる。
僕も、ボアウルフも何が起こったのか理解できない。
動物の感情なんて僕には当然理解出来ない。
だが表情は判る。
明らかに驚愕している。
きっと僕もボアウルフと同じような表情をしているのだろう。
余りにもの出来事に、僕とボアウルフの時が進む事を許さない。
だが、アザントさんは僕達に構う事無く、時を進める。
ドグチュッ、ドドグチュッ、ドグチュドグチュッ、ズチュッ
次々と不快な音は続く。
僕の周りの至る所から。
それは不規則に、まるで自動的に。
僕は不快な音が鳴る度に目を見やる。
前列も、後列も、右も左も順番等、関係無く貫かれていく。
異様だ、、、、アザントサンは決して何もしていない。
ただ突っ立って、僕と同じ様に周りを見回しているだけだ。
ボアウルフ達も同じ様に何もしていない。
それは奇しくも、僕達と同じ様に音がする度に振り向く事しか出来ない。
ボアウルフ達は何もしていない、、、、、否、何も出来ない。
僕は恐怖する。
その光景に、その不快な音に、その魔法に、、、、、そしてアザントさんに。
「ドグチュッ」
やがて最後の不快な音が森中に響き渡る様に木霊した後、また静寂が訪れる。
そして僕は数拍した後、気付く。
それは僕達が、この森に足を踏み入れた時とは全く違う、暗く、恐ろしく、それでいて厳かで不気味な森の静寂さが、アザントさんとボアウルフ達の戦闘が終了を告げた事に。




