第11話「トラウマ」
「これ、どうですか?」
描き上がったリンゴの絵をアザントさんに見せた。
う~んどうだろう、あんまり自身無いんだけど、、、、。
アザントさんは描き上がった絵を受け取り、僕の絵を評価する。
「うん。まあ下手と云う訳でも無いがのう、つまらん絵じゃな。」
ムカっ、ツ、ツマラナイだとぅ!?
「小手先の技術に頼っておる。上手く描写しろと言っとる訳では無いんじゃよ。何と言ったら良いのか、、、存在感と言えば良いのかのう。まあ暫くは見せに来ないで良いから兎に角、描いて描いて描きまくりなさい。」
う~ん、存在感か。
そうは言ってもなぁ、どうやってその存在感を出せって言うんだ?
「先生の言ってる事は何となく解るんですけど、上手く描写しようって事ぐらいしか思いつかないですよ、その存在感はどうやって出せば良いんですか?」
「ふむ、確かに口で言っても解らんか、、、、どれ一枚描いて進ぜよう。」
そう言ってアザントさんはノートとペンを受け取り、絵を描いていく。
描いている様子を後ろから観察するのだが、、、、、。
う、上手ぇ!ちゃっちゃ描いてるだけなのに、確かに何か惹きつけられるモノがある。
単なる模写じゃ無い。再現度で言えばそこまでな筈なんだけど、何と言えば良いのか、本物よりも美味しそうなリンゴに見える。
もしかしてこの人は、もの凄い天才絵描きなんじゃないのか? 芸術に興味ない素人の僕でも凄いって事だけは解るぞ。
「ほれ、描けたぞい。儂の言わんとしてる事が判るかのう?」
(弟子の前でカッコつけて絵に魔力を込めてズルしたのは秘密じゃがな、、、、。)
師匠がズルをしている事など気付く筈もない僕は、衝撃を受けていた。
「先生、凄いです!、、、、こんな絵を僕にも描ける様になるんでしょうか?自信無いです。」
「じゃから、上手く描く必要は無いんじゃよ、それに枚数を重ねれば自然と上手くもなっていく。」
う~ん、そんなもんだろうか、、、、そんなレベルじゃない気がするんだけど。
(、、、、ふむ、ちょっとやり過ぎたかのう。)
「まあ兎に角じゃ、お昼までは続けていなさい。儂はちょっとやる事があるからのう何かあったら呼びなさい。」
そう言ってアザントさんは、洞窟の奥に引っ込んで行った。
すげえなあ、魔法使いって皆が皆、絵が上手いのかなあ。
数かぁ、、、、ガンガン描けって言ってたしそうするしか無いのかな。
そうして、もう何枚描いたのだろうか、手が痛くなってきたので休憩がてらにトイレに行き、戻ってきて再開しようとしたと同時に、洞窟から弓と篭を背負ったアザントさんが出てきた。
「さて、食料の準備をしようかのう。食材の調達をしようと思うから剣を持って付いてきなさい。」
「狩りに行くんですか?」
「うむ、そうじゃ。今日、お主は見学で良いから、この篭を背負って付いてくるが良い。」
狩りか、、、、何かワクワクするな、アザントさんが付いてるし危険も無いだろう。
洞窟から歩いて1時間以上は経ったのだろうか、周りは見渡す限りの森である。
大小、様々な木が乱立し、大木に至っては樹齢何百年と経っているであろう大木も在れば、10~20年位の木も在る。
そんなアンバランスな群生を照らす、太陽の光を受けた木漏れ日に因って生み出されるコントラストは、ある種の神聖さを醸し出し、人の手に掛かっていない清浄な美を生み出していた。
所々で聞こえてくる野鳥の鳴き声は、却って森の静寂さを強調し、手付かずの自然に華を添える。
そんな静寂な森の中、キノコや野草等を取りつつ獲物を探していたのだが、思いの外険しく、僕の疲れが見え始めたので休憩を取る事になった。
「はあ、結構大変ですね。甘く見てました。」
「まあ、気にする事は無い。ほれ水じゃ飲みなさい。」
そう言うとアザントさんは腰につけていた水袋(動物の皮で出来ている)を僕に手渡す。
「いずれ一人で調達してもらう様になるから、色々とお主用に準備せんといかんな。」
そんな現在の僕の装備はと言うと、、、、。
頭・・・・無し
体・・・・麻製 長袖シャツとズボン
手・・・・動物の革製 手袋
足・・・・動物の皮製 長靴
武器・・・・銅の剣
、、、、以上の装備は当然、全部アザントさんから借り物で大変失礼なのだが、加齢臭が半端ない。
そんな失礼な事を思いつつ、アザントさんに不安を吐露する。
「一人でって・・・・・大丈夫ですかね?、、、まだ正直、この世界に来た時に襲われたトラウマが、、、、。」
僕は、アザントさんが付いていてくれると解ってはいるのだが、何せあの日から3日しか経っていない。
自分自身が思っている以上にあの日の傷は、僕の精神を蝕んでいた。
飛行機が墜落する間際の恐怖、スライムに溶かされ死んでいく友人達等、様々な恐怖はつい前日に体験したばかりなのだ。
大丈夫だと、自分をごまかして付いて来たものの、恐怖と不安は払拭出来ないのは当たり前なのかも知れない。
アザントさんと一緒に居なければ、森に入ろう等と考えもしなかっただろう。
つくづく、自分の考えは甘かった事を痛感していた。
そんな僕にアザントさんは、、、、。
「まぁ、大丈夫じゃろ。」
軽っ!
あの、、、結構、勇気出して来てるんですけどね。
「ほれ、もう休憩は良いじゃろう、そろそろ行くぞい。」
そう僕を促し、狩りを再開する。
そうして移動を再開して10分位は経っただろうか、前を歩いていたアザントさんが立ち止まった。
そして木の根元部分を指差し、僕に見る様に促す。
ん?、、、、何だろう?
訝しみ乍ら指差す木の根元を見た僕は青ざめる。
「ぅうわっ!ス、スライム!」
思わず悲鳴を上げ、後ずさる。
3日前に起こった様々な恐怖体験の一つの内、トラウマになった最大の原因であるスライムがそこには居た。
そんな僕の心境を、知ってか知らずかアザントさんはこう言った。
「スライムが怖いかね?」
僕はスライムから目を離さず、黙って頷く。
「確かにお主等の様な魔法を使えん者に対しスライムは厄介じゃが、此奴は魔物の中で最弱のモンスターなんじゃよ。」
「本当ですか?こんなのどうやって倒すんです?」
「何、火を嗾ければ一発じゃが別に倒す必要も無い、動きも遅いしの、襲われない限り無視すれば良いんじゃよ。」
無視って、、、、こんな凶悪なモンスター、無視出来る訳無いでしょ。
「襲われた時にはもう遅いでしょ、皮膚や肉を溶かすんですよ?」
そりゃ、アザントさんは魔法が使えるし、ちゃちゃっと退治出来るんだろうけどさ、無視なんてして油断してたら死んじゃうでしょ。
「あ~そうじゃった。お主にはまだ説明しておらんのだったな。ふむ、丁度良いから見ておりなさい。」
そう言ってアザントさんは袖をまくり、素手でスライムに触れようとする。
危険だとは思ったが、アザントさんならば、と思い黙って様子を見る。
すると、、、、、。
「え?何で平気なんですか?、、、、溶けてないし。」
腕は溶ける事も無く、火傷をした様子も無い、強いて言えば腕の表面が軽く、ちょっと赤くなっている程度だ。
魔法か何かで防御してるのか?、、、、そんな事を考える僕を察してか、アザントさんが疑問に答える。
「ホッホ、不思議か?これはな、儂が体を"気"で覆っておるからじゃ。」
ハイッ!気 キタコレ!
気ですか、、、、もう何でもありって事ですね?わかります。
そんな現実逃避を余所に、アザントさんは続ける。
「正確に言えば闘気と言っての、修行や訓練等をして闘っていく内に、自然と身に付く術じゃ。」
アザントさんの話によると、"気"というものは、人間が誰しも大小問わず自然と備わっていて、訓練次第で上限値が変わるらしい。
闘いの中に身を置かない一般人は、気力が上昇する事は決して無く、稀に生まれながらにして気力が高い人は存在するが、訓練した人に比べ圧倒的に低い。
数値換算すれば100%中、一般人が10%に対し、生まれながらにして高い気力を持つ人間でも精々が15~18%程度らしい。
この15~18%と云う数字は、冒険者等の戦闘職の者からすれば、1年も経たない内に飛び越える数字であり、戦闘内容や訓練次第でのその上限は、100%の限りでは無いらしい。
気力値が高い者は一般人に剣を切りつけられても皮を切らせる程度であり、肉や骨を断つ事は難しいとの事。
そして単に防御力が上がるだけでは無く、攻撃力や体力にも比例し、素手で岩を破壊したり、鉄を切ったりする事も出来る、、、、恐ろしい。
だが、そうそう便利なものでも無く、例えば不意打ちや寝ている時には一般人と大した差は無く、要するに気力を張っていない状態時には、効力は発揮せず死んでしまう。
達人クラスともなれば常に気力を張れる様な者も存在し、睡眠時や気絶等の意識の無い時以外は、不意打ちだろうと防いでしまうらしい。
だが、飽くまでそれらの例は、対峙する者に対して圧倒的な力量差を必要とし、装備する防具や武器に拠っては余り意味を成さない時もあるとの事なのだが、同じ力量や技術を持つ同士ならば当然、装備が良い人間が有利らしい。
そんなアザント先生の気力講義に感心していると、アザントさんが何かに気付く。
「?、、どうしたんですか?」
「ふむ、ゴブリンじゃ。」
ゴ、ゴブリン、キター!!




