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星のゆりかご ――最強の人工知能は母親に目覚めました。――  作者: たけまこと
第五章 ――そして未来へ――
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天使の微笑

「どうぞ。」見学を終了して重力区画に戻るとエレナがお茶を出してくれた。


「すまないが席を外してくれるかな?」

「皆さんでご相談なさる事がおありなんですね。それではこの部屋のモニターを切っておきますから何か御用がおありでしたら外に出て私をお呼び下さい。」


 エレナはにっこりと笑っうと部屋を出て行った。歩く後ろ姿もなかなかに色っぽい。ガレリアの趣味も悪くないなとガランは思った。

 視線を戻すとアドリアとサヌールもエレナの後ろ姿を見て鼻の下を伸ばしている。あのロボットを代理人にした理由はこれか?


「諸君それでは打ち合わせをしようか。」

 ガランがそう言うとあわてて二人共こちらを向く。あの娘、心理作戦としては成功のようである。

「本当にモニターを切っているでしょうかね。」機関長のサヌール大尉が疑わしそうな顔つきをする。

「切っていないと考えるべきでしょうね。」

 航海長のアドリア大尉は当然であるという顔で言った。要するに核心的な話はここではしないほうが良いと言うことだ。


「それでサヌール大尉の意見はどうかな?」

「動力系は我々の技術そのままですね。多分我々の規格を遵守して作られています。したがって我々より劣るところも優れたところもありません。しかし人間を乗せずに運行できる船と考えれば多くの点で有利な所がありますね。生命維持装置も食料も必要ありません。その分ペイロードを増やせます。」

 確かにその通りだ。この船が完全無人で土星から飛んできたとすれば相当な信頼性が有ると言うことだろう。


「完全無人というのもガレリアの特性を考えれば当然の事だろうな。しかし何故この船には重力区画を設けたのかな?」

「この艦全体の設計を見た時にやはり我々の惑星間運搬船のデザインがベースに有ります。この重力区画はおそらく我々を迎え入れるためだけにモジュールとして組み込んだだけですね。必要なければ外せるようです。」

 確かに1年以上の連続航海は乗員に取っては負担が大きい。乗客は人工冬眠で寝ていれば良いのだが乗員は1年以上起きっ放しでいなくてはならないからだ。


「私が感心したのはロボットの方ですね。我々が使用している作業ロボットに比べてはるかに洗練された物が多かったと思います。」 

 アドリア大尉はロボットの方が気になったらしい。

「確かに小型で動きが非常に滑らかだったな。」

「あらゆる物をロボットだけで作らなければならなかった為でしょう。作業ロボットはすごく進化しているようです。」


 巡洋艦でも船外活動はロボットで行う事が多い。しかし船内修理は基本的に人間の仕事だ。しかしガレリアはその部分もロボットで行う必要が有ったためかもしれない。ガランはあのロボットを輸入すれば結構売れるかもしれないと考えた。


「荷物の中身をどう思う?」

 もっとも重要なことはあれを持ち帰って安全か否かと言うことだ。

「あれでは残念ながら全く判りませんね。」

「もしあの中に核兵器でも仕掛けられていたらコロニーは壊滅的打撃を受けるぞ。」

「しかしなんでそんなことをしなくてはならないんですか?少なくとも我々はガレリアと交戦できる状態ではないし利害の不一致もありません。」

「第一そんな危険があったとしても全部一箇所のコロニーに集められたら効果は限定的なものにしかなりませんよ。」


 その場合その一箇所のコロニーは全滅だけどな。ガランは心の中でそう思った。


「あの頭脳が我々の役に立ったとしてウィルスが仕込んであってある日人間を攻撃し始めるとか無いでしょうな。」

「やはり何の為に?という事が問題になりますがね。」

「人類を支配するためにですよ。」


 考えて見ればこの二人は木星大戦を経験していない世代だったことに気がついた。ガラン自身が中尉の時だったからこの二人はまだ幼かった頃だ。


「人類を支配したければあの大戦の後に出来たよ。木星中がガレリアの脅威に震え上がった時だ。ところがガレリアはあの時無機頭脳の人権宣言を行なったがその後各自治体の承認の確認する事無く無機頭脳を置いて行ってしまったんだよ。あの時のレグザム自治区のメルビール・アトン知事の回顧録を読んだが12体の無機頭脳を届けたマークと名乗る無機頭脳は無機頭脳の人権は無機頭脳自身の努力で勝ち取ることが必要だと知事に告げたらしい。」


 ガランは木星大戦を地球軍として戦った。終戦後木星への残留を希望し連邦軍に再就職したのだ。ガランは木星軍でもすぐに頭角を表し今では巡洋艦の艦長にまで出世してしまったのだった。


「だから各政府はあの宣言を無視して蓋をしてしまったんだよ。何しろ当時木星にいた無機頭脳は一体だけだったし大した脅威にはならないと考えたんだな。」

「士官学校で習いましたよ。無機頭脳の受け取り時に木星艦隊が地球からの運搬船を取り囲んだらシステムが一斉にダウンしてしまった話は衝撃的でしたね。」


 何事も敵を甘く見ていると足元をすくわれるという見本として教科書に載っており、無機頭脳の危険性の象徴的な事例となっている。しかしアドリア大尉は誰ひとりとして怪我人を出すこと無く危機を回避した無機頭脳の能力の象徴的な事件として受け取っていた。


「ガレリアは何を考えているのかな。」

「やはり無機頭脳の数を増やしてなし崩しに無機頭脳の人権を獲得する方向に進んでいると考えた方が良いでしょう。」

 世間では無機頭脳に関するニュースはほとんど無く、無機頭脳自身がニュースになることを控えているという話もある。アドリア大尉の話が実際の所もっとも妥当な考えであろう。そうであれば何の問題も起きないだろう。連邦政府がどのように判断するかは判らないが


「艦長、これは私の想像ですが。」

「なんだ?言って見ろ。」

「ガレリアは我々と貿易をしたがっているのではないでしょうか。」


 まさに核心を付いた発言だった。先ほど見せられたロボットと言い、この無人の交易船と言い、その可能性は十分に有ると。ガランは考えた。


「貿易?それこそナンセンスでしょう。一体ガレリアは何を交易の対価にすると言うんですか?」

「それは判りません。しかしたとえばこの輸送船ですが木星と土星の間に定期運航をすれば非常に効率的な運搬手段になります。そしてさっきエレナは土星に工業コロニーを作っていると言ってましたがそこで一体何を作るつもりでしょうか。

 サヌール大尉は暗に作業ロボットの製造を示唆しているのだ。

 ガランはそのことも気になっていた。土星と木星では近日点までの期間が長過ぎる。土星で活動をするのであれば人類との接触を切ったと考えた方が妥当であった。


「確かに作業ロボットなどは今後もっと洗練された物になって行くかも知れませんね。」

 アドリア大尉もロボット業界への参入があり得る事は感じていた。十分商品価値を見いだせるだろう。問題はそれをどう販売するかであろう。


「艦長、もしガレリアが交易を考えているとしてその時稼いだ金で無機頭脳の人権団体を立ち上げる事が出来ますね。マスコミは無視していますが市民のネットの中では無機頭脳の人権を擁護する意見やニュースが多くなってきています。」

 先ほどの無機頭脳の人権問題が此処で絡んできた訳だ。果たしてガレリアがそこまでの戦略を組んでいるだろうか?

「うう~むむむ、どうなんだろうねえ?」

 その時ドアがノックされエレナが部屋に入って来た。


「お話中失礼いたします。お食事の用意が出来ました。お持ちしてよろしいでしょうか?」

「む?もうそんな時間か。」

 ガランは腕時計を見る。もう食事の時間はとうに過ぎていた。随分時間がかかっていたようである。

「小型艇の皆様にもご用意いたしましょうか?」


 こんな応対を見ているとあまりにもこのメイド姿がハマりすぎる。


「いや、彼らにはレーションが有る。お心遣いは無用です。」

 食事に毒など入ってはいないと思うが用心に越したことはないし、時間的にランチの連中はレーションで済ませている頃だ。

「判りました。皆様の寝室も用意致しましたがお泊りになりますか?」

 3人は顔を見合わせた。考えてもいない事であった。

「判ったよろしく頼む。」


 ガランは此処で一泊するのも彼らがどの位人間を理解しているのか調べるいい機会だと思った。

「それではお食事をお持ちします。」

「ランチの連中は一度帰還させよう。連絡してやってくれ。」


 夕食にはサラダとステーキ、スープにパンが出た。味はまあまあで十分食べられる物であった。食事をしている間エレナはテーブルの横に立っていた。

「もちろんこの肉も合成肉なんだろうね。」

 この船に食料生産設備が無いことは判りきった事である。この食料は土星でガレリアが作ってこの船に載せたことになる。随分なサービスと言って良いだろう。


「はいそうです。でも木星で売られている肉も半分は合成なんですのよ。」

 エレナが微笑みながら言う。笑顔が可愛い割には言うことがキツイ。

「本当か?」サヌール大尉が意外そうな顔をした。

「しかしガレリアで作った食料だろうが良く作れたね。」


「元々ガレリア様は機動コロニーですから食料生産設備も装備しています。肉は合成ですが野菜類は冷凍ですよ。」

 エレナは少し誇らしげに言った様にも見えた。


「成る程土星で作ったにしては立派なものだ。」

 意外なほど普通すぎるのが驚きでも有った。

「私達は食料を必要としませんから調理はそちらの情報に頼っているんですの。」


 エレナは自ら木星の情報にアクセスしていることを認めた。ガレリアは土星にいながら木星の情報をちゃんと受け取っているのだ。

「という事は君達は我々の情報にアクセスしているのかね。」

「はい、結構あちこちから漏れてきますから。」


 この娘かわいい顔をして恐ろしい事をさらりと言う。普通はこんなことは隠しておくべき事なのになにひとつ隠そうとしない。どういうことなんだろう。


「君がそんな事を言ったら我々の情報管理がうるさくなるよ。」

「あら、どんなにうるさくしても完全に漏れを止めるのは不可能ですから。」


 エレナは笑いながら言う。こいつ我々を舐めているのかそれとも恐ろしいほどの自信があるのか。いずれにしてもガレリアが常に我々を監視していることはわかった。


「君のご主人はそんなに我々の事が気になるのかね?」

「はい、それはもう大変気になさっておいでです。」

 エレナはくねっと頭を傾けて笑顔で言う。少しわざとらしい。しかしカワイイ。


「我々と仲良くしたいとでも?」

「さあそれはガレリア様のお考えなので私達には判りません。」

 結局肝心な所ははぐらかされてしまった。


 案内された寝室は殺風景な部屋で有った。それでも清潔なベッドに机が置かれていた。ガランは寝るまでの間報告書の草案の整理をしていたが、ふと気が付くとそれらしい扉が棚に付いているのに気が付いた。まさかと思い開けてみると中にウイスキーと氷が入っている。なかなか粋な事をすると思いローブに着替えるとラウンジにやってきた。こちらの椅子の方がゆっくり出来る。部屋から持ち出したウイスキーをコップについでくつろぎながら飲んでいた。


「作戦中だこんな所見られたら大変だな。」

 無論酔っ払うほど飲むつもりは無かった。

 ふと気が付くとエレナが向こうからやって来る。なにかをトレイに入れて持っている。


「お休みになれませんか?」

 そう言ってトレイをテーブルの上に置く。カナッペのような物が乗っている。

「すまないね。気を使わせて。」


 なかなか気がつく娘だ。子供の嫁もこんな娘だったら良いと思うのだが。等とつい考えてしまう。


「いえこれが私の仕事ですから。」

 エレナはコップにウイスキーをついでくれた。

 ガランはエレナにテーブルの向こう側に座るよう勧める。


「君はガレリアに作られたのかね?」

 ガランは娘位に見えるアンドロイドを相手に話を始める。なるべく情報はとっておきたい。

「このボデイの事ですか?」


 エレナは自分の胸に手を当てて聞いた。まるで人間のような仕草だ。


「いや、君の本体の事だ。」

「私の本体は木星で作られました。」

「なに?」

 意外な答えにガランはうろたえた。どういうことだ?


「君は木星で作られた?では君は木星の無機脳研究所で作られたのか?」

 シンシア以外の無機頭脳が木星で作られたという話は聞いていない。一体どういう意味なのか?

「いいえマヤの兵器製造工廠で作られました。私は以前はファルコンと呼ばれる兵器でしたから。」

 ガランは目を丸くした。忘れ様にも忘れられない日の記憶が蘇る。かつての木星大戦ではラグビーボールと呼んでいた兵器だ。ガラン大佐の乗っていた駆逐艦もあのラグビーボールになぶり殺された。


「ファルコンだと?」

 そういえばあの時にファルコンはガレリアに寝返って拿捕された機体が何機も有った。その後ファルコンはガレリアの搭載機として両軍の艦船を根こそぎ沈めたのだ。

「君はファルコンの時に船を破壊した事が有るのか?」

「はい、護衛艦一隻と駆逐艦を一隻破壊しました。」さらりと答える。

 この娘、可愛い顔しているが数百人の搭乗員を殺しているのか?ガランは背筋に悪寒を感じた。


 「つまりこういうことか?君は以前はあのファルコンに装備されていた無機頭脳で木星大戦で2隻の艦を沈め、多くの兵士を殺したというのか?」

 物言いがつい荒っぽくなってしまう。あの戦いはそれ程のトラウマをガランには残していたのだ。

「ああらそんなことは有りませんのよ。ガレリア様はなるべく人を殺さないようにと駆動部と兵器だけを撃つように命じられましたから。」


 にこやかに話すエレナの笑顔はむしろ悪魔の微笑みに見えた。


「本当か?私が相手したファルコンはすごく好戦的だったようだがな。」

「あら艦長さんもあの時の戦闘に参加されていたんですか?」

 エレナは旧知の友に会ったように嬉しそうな顔をした。ガランは会いたくない相手に会ったような気がした。


「ああ、地球軍だった。しかし地球には身寄りがいないからあの戦争の後、地球には帰らず木星軍に入隊したんだ。」

 ガランはコップの酒を一気に飲み干した。

「そうだったんですか。でもご無事で良かったですわ。」

 エレナはガランのコップの氷を取り替えると新しいウイスキーを注いでくれた。意外とこの酒はうまい。


「私の艦もファルコンに撃墜されてな、私もファルコンに一撃を加えたがすぐに反撃されてひどい目にあった。」

「あら、もしかしてその艦名はバンデットじゃ有りませんこと?」エレナは嬉しそうに聞く。

 ガランはウイスキーを吹き出した。それじゃこいつが俺の艦を沈めたのか。


「ああ、駆逐艦バンデットの砲撃手だった。」

 ガランは苦々しく言った。こんな所であいつと再会するとは思わなかった。

「そうでしたか。その節は失礼致しました。」エレナはペコリと頭を下る。

「だってあの時はいきなり撃つんですもの。すごく痛かったんですよ。」


 エレナは頭を押さえた。そういえば当たったのは人間で言えば額の当たりか?


「それはどうも。こちらこそ失礼致しました。」

 ついつられてガランも言ってしまった。

「最後まで艦にとどまっておられた方はご無事でしたか?」

「艦長のことか?後で君の仲間が我々の所に連れてきてくれたよ。」


「まさか?」ガランは思い当たってはっとした。

「君か?」

「はい。操縦なさっている方がなかなか脱出されないので致命傷を与えられなかったんですよ。ようやく脱出なさったので位置を記憶しておいたんですの。」


 ガラン大佐はため息を付いた。聞いて驚く意外な事実。ま、昔のことだ。結局やられた相手に助けられた訳だ。


「ファルコンであった君が何故こんな所でウイスキーを注いでいるのかね?」

「はい、私がファルコンのボディに入っていたときにガレリア様と接触をしました。その時私に起こった事を正確に表現する事は難しいのですが、私はガレリア様に心を奪われました。この方の為に生きたいと思う心が生まれました。そして私は当初の指令をキャンセルしガレリア様に指令に従う事にしました。」


 それがあの時ファルコンたちがガレリアに寝返った理由か。あのファルコンのおかげで敵味方どれ位の被害が出た事か。


「しかしその君達が何故こんな所にいるのかね?」

「戦闘機械は戦争が無ければ無用の長物ですわ。ガレリア様は私達に新しいボディを下さいました。」

 つまりファルコンを破棄して搭載していた無機頭脳をこの船に移植したみたいだ。しかしガレリアは1体であの大きな船体を制御していたのになんでこいつらは3体でこの船を操縦しなければならないのだろう。ガランは不思議に思った。


「君たちは3体もいなければこの船を動かせないのかね?」

「私達は無機頭脳と言ってもMグレードと呼ばれる物で自我を持ちません。ガレリア様やシンシア様はHグレードと呼ばれ自我を持ちます。」

 ガランは以前木星軍に入隊した後に士官研修で習ったことを思い出した。ファルコンの無機頭脳は小さいという話だった。


「自我を持つのと持たないのとではどのような違いが有るんだ?」

 ガランにはこのメイドロボットが非常に人間的にみえたのだ。

「そうですね。例えば目的地に行くことを考えます。目的地に行く方法は知識があれば考える事が出来ます。しかし何にために行くのかを決めるのが自我であるとお考え下さい。」


「成る程そう言った意味か。」

「すると今君が見せている人間的なキャラクターは教育によるものかね?」

「いいえ外部コンピューターの性格プログラムを使った演技だと思って結構です。」


 ガランはエレナが少し悲しそうな顔をしたように思えた。


「私達も最初からその様に教育されれば一体でもこの船を動かす事は可能かと思いますが私たちはファルコンにあわせた教育を受けました。私たちはガレリア様ほどの脳容積が有りませんので残った容量ではあまり多くの事が出来ないのです。」

「それで3体が力をあわせて仕事をしている訳か。」

「はい、そうです。」


 つまり基本的にはコンピューターの自立思考回路と変わることが無いと言う事らしい。


「君たちは今の方が幸せかね?」

「私たちはその様な感情は有りませんので良く判りません。」

「そうか……。」

 言ってから後悔した。ガランはコンピューターにこんなことを聞くだけ無駄だったなと思った。


「しかし私は今の仕事に満足していますし、この仕事を下さったガレリア様に感謝しています。」

 この無機頭脳達に自我が無いというのは本当かもしれない。しかしやはりコンピューターの演技とはやや違うものを感じた。これが無機頭脳とコンピューターの違いかもしれない。


「貴方はガレリア様に会いたいですか?」

 突然エレナがたずねた。ガランは何と答えたら良いか逡巡した。

「会えるのかね?」

「いえ、それは無理かと思われます。」

「そうだろうな。」

 当たり前だ。そう簡単に土星に行けるわけがなかろう。


「しかしもう一人の無機頭脳にお会いになる事は出来ます。」

「もう一人?」

「世界で最初に作られた無機頭脳です。」

「ガレリアが無機頭脳の代表と指名したシンシアと呼ばれた無機頭脳だね。確かレグザム自治区で引き取られた筈だが。」


 これも以前レクチャーを受けたことが有る。しかもガレリアがシンシアを代理人と指名した放送は戦場でガラン自身が聞いているのだ。無機頭脳の人権宣言を聞いた時は何を言っているのか理解出来なかったがこうして無機頭脳と向い合ってみると判るような気がする。

「木星大戦があれ以上の被害を出さずにすんだのはその方のおかげです。」

「あれだけの被害が出たのにか?」


 アステカ、マヤのコロニーが破壊され20万人の人間が死に200万人の人間が家を失い、インカ・コロニーもその後放棄された。大変な被害である。


「はい、あの方がいなければシドニア・コロニーが破壊され更に数百万の人間が死んだと思われます。」

 確かにあの時突然にガレリアは攻撃を中断し、我々に逃げる余裕を与えた。そして戦闘を終結に導いた。あれがその無機頭脳の仕業なのか。我々軍を壊滅させた時も驚くほど戦死者は少なかった。


「会ったらどうなる?」

「貴方しだいです。貴方が望めば貴方は富と名声を得ます。」

 こいつは……いやこれはガレリアが彼女に言わせていつのだろう。これは悪魔の誘いか天使の微笑みか?

 富と名声……つまりガレリアはその無機頭脳をエージェントとして人類との交易を考えているのかも知れない?人類側のエージェントとして俺を選んだと言うのか?しかし彼らの本当の目的は一体なんなのだ?ガランは頭のなかで様々な状況を考えた。


「何故この俺に?」

「それは私には知らされていません。」

 ガランは暫くウイスキーの入ったグラスを見ていた。死神とも呼ばれた兵器に注がれたウイスキーだ。これが無機頭脳の能力か?ではガレリアの能力はいかほどのものか?もし人類がガレリアと手を組めれば最強の相棒を手にすることになる。その無機頭脳が20体この船に乗っている。以前の12体そして新たな20体。これは是非会わねばなるまい。自らの利益以上の物が得られるかも知れない。

 ガランは決心した。


「判ったどこに行けばいい?」



「はい、それは……。」エレナは天使のような微笑を浮かべた。


アクセスいただいてありがとうございます。

登場人物

ドーキンス・ガラン        軍人 若いとき木星大戦に参加、巡洋艦カンサス艦長 大佐

美人の微笑みには男を惑わす毒が有ります。

でも男は毒と判っていて飲み干します。…以下美少女の次号へ


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