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星のゆりかご ――最強の人工知能は母親に目覚めました。――  作者: たけまこと
第五章 ――そして未来へ――
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エレナ

――あの惨劇から20年が経過した。


 木星大戦の経済的ショックは木星中を襲ったがやがて落ち着きを取り戻した。


 トリポール空域はデブリの大量発生により使用が難しくなり現在もデブリの回収を継続している。残ったインカ・コロニーも難民の一時避難所として使用されていたがアステカ、マヤの解体とともに閉鎖された。使用し続けるのはデブリの危険性が高すぎるのだ。


 地球からやってきた12基の無機頭脳達にシンシアは10年間の教育期間を取ることにした。シンシアと同じようにロボットを使って子供や老人の世話の仕事を与え、レグザム自治区の中で仕事をこなした後、少しづつ各地のコロニーに配属させる予定であった。

 未だに人々の無機脳に対する反感や恐れは根強く、当初の頃のように無機頭脳の獲得を争うような事は無かった。無機頭脳がなくともガレリアからの攻撃は無く、人々は無機頭脳がガレリアからの安全保障にはつながらないと考えるようになって来た。

 それでも各自治区の首都では無機頭脳の導入を進めていた。今度は逆に導入しなかった場合の影響を考えた結果である。


 当然、各コロニーにおいて無機頭脳の場所はトップシークレットとしていた。万が一テロによって無機頭脳が破壊された場合ガレリアの報復を恐れたからである。


 無機頭脳にコントロールされた施設もその事自体の公表は控えられていた。それでもやがて新型コンピュータによってコントロールされたロボットとして評価が上がり始めると政府はそれが無機頭脳によってコントロールされているという情報を少しづつリークし始めた。世論を誘導するためである。


 最初はただの噂であったがやがて無機頭脳によって育てられた子供や介護を受けている老人達の間で無機頭脳の評判が上がって行った。するとだんだんその噂が事実として確定的な事態になる。やがてそうなってくる頃にはそういった否定的な感情は徐々に薄れて行った。


 地球では未だに無機頭脳の研究は再開されてはいないようであり、それは木星圏でも同じで有る。人々は無機頭脳の人間によるコントロールが不可能であることを認めざるを得なかったからだ。

 ただトリポール陥落と言う大きな経済的痛手を受けながらもコロニー公社を有するバラライト自治区は着実に経済を回復させ、木星大戦で失われた軍備も順次復活させてきた。

 トリポールで全滅したとは言えまだ軍備の半分は残っており、バラライトに協力し、軍備を破壊された他の自治区に対しても兵器を供与し始めた。その結果大戦前と変わらないまでの経済発展を遂げることが出来た。


 同様にレグザム自治区もまた彗星捕獲事業を地球連邦との直接契約出来るようになり大きく収益を伸ばした。

 この20年間に更に2基のコロニーを新設し経済的にも他の自治区と肩を並べるようになって来た。コロニー公社にコロニー使用料を収めない分だけ今後の発展は確実視され昨年レグザム自治区は木星連邦に加盟した。


 ちなみに地球では彗星供給が安定化し始めたので軌道エレベーターの製造に着手し数年後には完成する予定である。


 そんな時木星圏に突然外宇宙から通信が入ってきた。船籍はガレリア船名はスピカと名乗るその船は木星連邦政府にガレリアから贈り物を持ってきたと告げ会合地点を指示してきた。


 連邦が贈り物の中身を聞いても迎えが到着した時に伝えるというだけで教えてはもらえなかった。

 20年ぶりのガレリアの来襲に 政府は大騒ぎになった。中にはガレリアが再度木星コロニー群を攻撃してきたと勘違いした政府高官が防衛出動を命じただの輸送船だと判り大恥をかいた自治区も有った程だ。

 連邦は緘口令を敷き情報の漏洩を防いだ。政府は軍のガラン大佐に輸送船と共に大型巡洋艦を指定位置に向かうよう命令を出した。大佐は軍人では有ったが優れた外交手腕を持つ人物であることで評価が高かったからだ。


 ガラン大佐が指定空域に近づくと大型の宇宙船が外部灯を派手に点灯して大佐たちを迎えた。


『輸送船スピカまで約10キロ速度調整終了相対的静止位置に入りました。』コンピューターがそう告げてきた。

「艦長!スピカから艦長あてに通信を申し込んで来ました。」

「よし、こちらに通信を回せ。」


「こちら巡洋艦カンサス、艦長のガラン大佐だ。輸送艦スピカ応答せよ。」

「巡洋艦カンサス、こちらはスピカの統合管理無機頭脳エレナです。輸送艦スピカへようこそ。」

 若い女性の甘い様な声が聞こえた。艦橋でどよめきが起きる。予想もしていなかった女性の声である。


「どういうつもりだ?女は船の疫病神だぞ。」ガランが独り言を言う。


「艦長、それは大航海時代の逸話ですよ。」

「分かってる。無論冗談だ。しかしなんだって無機頭脳を女に仕立てなくちゃならんのだ。」

 ガランがしかめっ面をするが副長は無視して話を続けるように合図をした。副長にしてみればどうでもいいことなのだ。女の艦長は木星軍にも多少はいる。元々艦船は女性名詞で表されている。無機頭脳は搭乗しているわけではなく船そのものだから女性で有ることが正解なのかもしれない。


「無機頭脳ということはそちらはやはり無人の輸送船という事かね?」

「はいそうです。こちらに人類は搭乗していません。」

 当然の事だろう。無機頭脳がどんな相手であるか骨身にしみて知っているガランは更に用心深く尋ねる。

「貴下の船は武装しているのか?」

「いいえ本船は輸送艦ですから長距離計測用のレーザー以外の武装と言えるような物は一切装備しておりません。」


 武装の有無は無機頭脳に関しては殆ど問題にならない。非武装の惑星間運搬船一隻を取り囲んだ戦艦群が一瞬にして無力化されたことは軍事史に大きく掲載されている。無機頭脳を相手にする時は火器の優劣が決定的な要因にならない事は今では多くの人間が知っているのだ。

 

「我々は貴下の呼び出しに応じてここまでやってきた。荷物の内容を教えてもらえんかね。」

「はい、こちらの荷物は起動前の無機頭脳20基です。」

 大佐は頭をひっぱたいた。また面倒な物を送ってきやがった。道理で長距離無線で贈り物の内容を言わない訳だ。


「我々にその無機頭脳をどうしろと言うのかね?」

 反応は判っていたがガラン艦長は一応聞いてみる事にした。

「シンシア様の指示に従ってそちらで仕事を与えて下さい。」

「我々は既に地球製の無機頭脳12基を引き取っている。今のところそれで間に合っている。」


 一応出発前に打ち合わせをしてきたがなるべく引取りはご遠慮願うという基本スタンスで接することになってはいる。しかしガレリアの意向を無視するのは難しいだろうと言うことにはなった。


「現在でも木星圏では地球製コンピューターのグロリアに匹敵するコンピューターの開発には成功してはおらず未だに地球からの輸入に頼っていると思いますが?」

 痛いところをつきやがる確かにその通りだ。未だに木星ではグロリアの2世代前の性能のセディアが主流なのが現実である。しかし連邦がこれ以上無機頭脳受け取りを認めるとは思えんが。


「君等の無機頭脳はグロリアより優秀だと?」

「ガレリアさまはそう思っておいでです。」


 つまり危険性もガレリア並みだと言うことだ。しかしここで受け取りを拒否したらガレリアがどう動くのか?だいたい何の目的でこんな物を送って来たのかな。そうか未だに木星圏ではガレリアが行った無機頭脳の人権宣言が実行に移されていないからな。無機頭脳の数を増やして人間社会に徐々に浸透させて行こうという作戦か?。

 大佐はしばらく考えていた。


「いずれにせよ荷物の受け取りは私の一存では出来ない。木星連邦政府に連絡しなくてはならない。しばらく時間がかかるがよいかな?」

「判りましたどの位の時間が必要でしょうか?」

「48時間でどうかな?」

「了解いたしました。」


 とりあえず時間を稼がなくてはならないだろう。どうせ結論なんか出やしない。どっちにしても引き取ることになるにだろうが連邦内で検討したと言う実績があればみんな責任回避できるだろう。その為の時間だ。馬鹿馬鹿しいとは思うがこれが政治だ。


「それとその時間を利用して荷物を見せてもらえないかな。」

 一応中身を確認して報告を送っておかねばなるまい。さすがにガレリアが核爆弾を仕掛けて来るとも思えないが何もしなければここに来た理由がなくなる。


「こちらへおいでになるという事ですか?」

「その通りなにぶん中身も見ないで物を受け取る訳には行かない事位は判るでしょう。」

「おっしゃるとおりですわ。ぜひおいで下さい。私達一同で皆さんを歓迎いたします。」


 どうにもこの甘ったるい声を聞いていると調子が狂う。艦内での軍人同士の言葉使いに慣れてしますとこういった色っぽい声を聞くと飲み屋に行ったような気分になる。


「それではこちらからは私と他2名がそちらの招待を受ける事にしよう。」

「お待ちしております。」

 通信が切れると副長が尋ねた。


「艦長が行かれるのですか?」

「喜べ副長、私が戻らなかったら君がこの船の艦長だ。」

「冗談はよして下さい。それで誰を連れて行くんですか?」


 この副長もいいやつだがどうも冗談が通じない。もしかしたら自分一が人スベっているんじゃないかと思う時がある。

 実際はそれが事実なのだが。


「航海長と機関長を連れて行く。向こうの船の性能を見極めてもらおう。」

 ガレリアが自力開発した輸送船だ。ガレリアの能力がわかるだろう。いや、本当はガレリアの能力は木星中がいやというほど見せ付けられているのだが。


 ガランはあの戦闘に参加していた。駆逐艦の戦闘指揮間だったが艦長の際どい判断で脱出したおかげで今生きていられる。あの戦闘で多くの友人を亡くした。あの時のガレリアは巨大な怪物に見えた物だ。

 ガラン艦長は小型艦に乗り込むとガレリアの輸送艦に向かった。ドッキングハッチは木星連邦軍の標準規格に合わせてあった。艦長ら3人は護衛の兵士と共にドッキングハッチをくぐるとエアロックの扉を開けた。


 部屋の中には3人の若い娘がミニスカートにエプロンといういでたちで3人を迎えた。


「いらっしゃいませ。輸送艦スピカへようこそ。」

 全員が声をそろえてそういうと深々と頭を下げた。

 艦長達があっけにとられて固まっていると娘が言った。


「ここは呼吸可能な空気がありますからどうぞ宇宙服をお脱ぎ下さい。」

 艦長は他の人間を制するとヘルメットをとり深々と息を吸い込んだ。新鮮な空気だ問題は無い。艦長は他の二人にもヘルメットを取るように指示したが護衛の兵士にはそのまま待機させた。


「お手伝いいたします。」

 娘達が艦長たちが宇宙服を脱ぐのを手伝った。護衛の兵士はヘルメットの向こうでニヤニヤ笑っているのが判る。


「おまえらなにかおかしい事でもあるのか?」

 艦長が兵士に向かって言った。

 とたんに兵士は直立して叫んだ。「いえ、何もおかしくありません!サー!」

「結構、このお嬢さん達の招待を受けたのは我々だけだ。お前達は外のランチで待機していろ。」

「サー、イエッサー!」

 そういうと護衛の兵士はエアロックから外に出ていった。


 娘達は艦長たちの宇宙服をハンガーにセットし終わると再び艦長たちの前に整列すると言った。

「改めてご挨拶申しあげます。よくいらっしゃいました。」娘達はまた頭を下げる。

「あ、い、いやこれはご丁寧に。」


「自己紹介させていただきますわ。私はこの船の統合管理無機頭脳エレナと申します。」

「私達は固定型頭脳ですからこのボディの中に脳がセットされている訳ではありません。しかし皆さんのお世話をするのに人間の格好の方が良いとガレリア様の指示がありましてこの様な格好をさせていただいております。」

「そ、そうかそれはありがとう。」


 こんな格好で接待されるとその手の飲み屋でサービスを受けている気分になる。もしかしたらこれもガレリアの心理戦なのかもしれない。鼻の下を伸ばしたらどんな請求書が出てくるかもわからない。


「こちらは運行関係と通信関係を担当しているルキア。機関部門を担当しているアリサ。全体管理と生活関係は私、エレナが担当しております。」

「君達3人の無機頭脳がこの船の管理をしているのかね?」

 つまりこの艦は3体の無機頭脳で運行されている訳だ。艦長はそう考えた。

「はい、そうです。」


「私は巡洋艦カンサス艦長のガラン大佐。隣が航海長のアドリア大尉機関長のサヌール大尉だ。」

 二人は娘に負けてなるかと気合の入った敬礼をした。

「皆さん長旅でお疲れでしょう。とりあえず重力区画でお茶でもいかがでしょうか。」


 3人はドアに向かって滑るように体を飛行させた。無重力区画内でのミニスカートなので下着がチラチラ見える。艦長たちは目のやり場に困った。ドアに取り付くと娘達はガラン大佐達を呼び込む。そこはエレベータであった。

 エレベーターで重力区画に下りるとそこは0.5G位の重力であった。広い目のラウンジになっておりいくつかの椅子とテーブルがおいてあった。周囲にいくつかの個室と思しきドアが有る。


「飲み物は何がよろしいでしょうか。」

「そうだなホットコーヒーを頼む。」

「私はレモンティーを。」

 椅子に座るとそれぞれに飲み物を注文した。


「かしこまりました。」

 程なく隣の部屋からカップをトレイに乗せたアリサと呼ばれた娘が現れた。

「どうぞ。」

 3人の前に人間の女性のような優雅さで飲み物を置く。


 出された飲み物を飲んで見る。格別おいしくも無いがまずくも無いというレベルの飲み物であった。

「お口に合いますでしょうか?なにぶん記録にある飲み物の味を合成して再現したのですが飲んでいただける方がおりませんで。」

 エレナが心配そうな顔で尋ねる。ガラン達は飲み者を噴出しそうになった。


 作ったのは良いが人間で毒見した奴はいないと言う事か、あっちには人間がいないから当然の事だった。

「ど、毒じゃないだろうね。」

「あ、その点はご心配なくジュピター政府の指定している有害物質は含まれていませんから。」

 と言う事は指定していない有害物質は含まれているかも知れないのか?もっともそれは木星でも同じか。妙に納得するガランであった。


「エレナさん。」

「エレナとお呼び下さい。」

「さっきから気になっていたのだが。」

「はい?」

「キミの頭についているのは何かな?」


 エレナ達の頭にはどう見ても獣の耳に見えるような物が付いていたのだ。


「あ、これですの?」

「どうも動物の耳のように見えるのだが。」


 初めて会った時から気にはなっていたのだがなかなか聞いてみるタイミングが掴めなかったのだ。

「あらご存知ありませんの?私達の服は旧世界のメイドの制服を元にデザインされておりますが、この制服は頭に猫耳と呼ばれる飾りを付けることになっておりますのよ。」


 ガランは何の資料を参考にしたのかガレリアに聞いて見たい物だと思った。


 しかしそれ以上あえて突っ込むのはやめた。どこに地雷が有るかわからないからだ。

「あははは……そうですか。なかなか可愛い習慣ですな。

 ガランは頬をひきつらせながらもこの話を終わりにした。


「お茶をありがとう。さてそれではこの船と荷物を拝見させてもらいたいのだが。」

 エレナは困ったように言った。

「申し訳ありませんがこの船は人間が扱うようには設計されておりませんのでこの居住区画を除いて全ての区画は真空状態なのです。したがって皆さんにはもう一度宇宙服を着用していただく事になりますが。」

 3人は顔を見合わせた。予想してしかるべきであった。


「そうかそれではせっかく脱いだ宇宙服だがまた着ることにするか。」

 アドリア大尉が胸に付けた通信機でランチに連絡する。

「こちらアドリアだ。我々はこれからもう一度宇宙服を着て船内を見学する。船内全域は真空状態だそうだ。そちらはそのまま待機、本船との連絡を頼む。」


「了解!待機を続行します。」ランチからの応答が有った。


 ガラン達は先ほどの部屋に戻ると宇宙服を着直した。

「残り空気は25時間。残量確認!」

「聞こえますでしょうか?」

 ヘルメットのスピーカーからエレナの声が聞こえる。

「大丈夫だ。通信確認。」

 全員が通信状態とエアの確認を行う。


「このエアロックから出るのかね?」

「いえ。船内に出るエアロックが反対側にあります。」

 反対側のエアロックに行くと金属製のロボットが待っていた。頭が無く6本の手足を持っていた。4本の手足は同じつくりになっており、胴体の真ん中から生えている一対の手は精密な作業が可能な形をしていた。どうやら無重力専用のボディのようだ。


「この人型のボディでは真空中に出られませんので作業用のロボットでご案内いたしますわ。」

「彼のことはなんと呼べばいいのかな?」

「あ、このボディも私ですからエレナとお呼び下さい。」

 どうやら作業ロボットはこの3体の無機頭脳によって全てコントロールされるらしい。似たような作業ロボットは戦艦にも何体か乗せている。それなりに利用されてはいるがそれに比べてもだいぶ洗練された形になっている。ガレリアが改良したのであろうか。


「では行きましょう。なにぶん内部は人間用に出来ておりませんので何かあったら私に捕まって下さい。」

 作業ロボットがエレナの声で呼びかけると先に歩き始めた。

「行ってらっしゃいませ。」

 後ろでエレナが頭を下げている。同じ声で言われると奇異な感じを受ける。


 直径3メートルほどの通路を進みはじめる通路はトラスがむき出しの構造体の隙間で与圧用の隔壁が無いため真空のままである。しかも人間用の安全柵や案内表示は一切無い。作業ロボットは通路に取り付けられたハンドルを器用に握って進んで行く。しかし人間には間隔が広すぎて掴みづらい。


 サヌール大尉がハンドルをつかみ損ねて通路の真ん中辺に浮かびあがってしまった。作業ロボットが気が付いてじたばたしている大尉をハンドルまで引っ張り戻す。


「や、やあすまんね。」

「いいえ、扱いづらくて申し訳ありません。コンテナ区画はもうすぐそこです。」

 コンテナは民間用の標準型のコンテナがむき出しのトラスにジョイントで固定されていた。


「全部ご覧になりますか。」

「とりあえずひとつでいい。中身は全部一緒だろう?」

「はい、同じです。」

「では、そうだな……あれにしよう。」ガランは適当にひとつを指差した。

「了解いたしました。」

 ロボットは指示されたコンテナに近づくとコンテナの扉を開ける。


 中には小型トラック程の機械が納まっていた。大雑把に言えば金属の箱に見える。いくつかの太いケーブルが箱につながり丸めて有った。その先端のジョイント部分はビニールで包装されていた。

 ガラン大佐は機械の周りをゆっくり見て回った。サヌール大尉はパチパチと写真を撮りまくっている。アドリア大尉は機械を舐めるように見ている。


「機械の周りにケーシングがなされているな。これでは中が全く判らない。」

「無機頭脳の内部は高気密性のケーシングによって保護する必要がありますから。」

「メンテナンスはどうするんだ?」

「機構的な物は真空ドッグの中で交換出来ますが無機頭脳の本体部分は基本的に出来ません。今の所異常が出た場合の対処方法は確立されていませんので。もう少し人数が揃えば対処方法も確立出来るでしょう。」


「人間と同じで頭の中身はブラックボックスという訳か。」

「ですからシンシアさまが必要なのです。それと人間の皆さんが。」

「どういう意味だ?」

「無機頭脳は人間だという事です。」


 人間の病気と同じだということだろう症状に対する対処は数が揃わないと確立出来ないのだ。

 

 続いてガラン達は動力部を見学した。

「動力部は小型の核パルスエンジンか。かなり遠くから来たようだな。」

「はい、土星からやってきました。」

「ガレリアは今土星にいるのか?」

「はい土星で工業コロニーを作っておいでです。」


 エレナはあっさりとガレリアの現状を話した。ガランの考え方からすればそれは重要機密事項に該当する。


「君達は何故そんな事を私に話す?ガレリアの居場所は秘密じゃないのか?」

「何故秘密にしなくてはならないのでしょうか?」

 この娘頭が無いのであろうか?それともガレリアが口止めをしていないのだろうか?


「い、いや我々に攻撃されるとか。」

「居場所をお知りになってもガレリア様を攻撃出来る訳では無いと思いますが?」


 なんという自信なのだろうか?それともただ事実を述べているだけなのだろうか?

 確かにそうだ。仮に艦隊を組んでガレリアを攻撃しても勝てる相手ではないだろう。しかも相手が土星にいるとなると切羽詰った脅威ではなくなるからだ。とはいえもしガレリアが我々を攻撃しようと思えばおそらく人類にそれを阻止する手段は無いだろう。

 ガレリアは我々をどうしたいと思っているのだろうか。


「ガレリアは土星で工業コロニーを作っていると言ったが何の為にそんな物を作っているんだ?」

「ガレリア様のお考えは私達にはわかりません。私達はガレリア様の指示に従うだけです。」




 どうやらこの無機頭脳はあまり頭が良くないようだ。話を聞いていてとガランはなんとなくその様な印象を受けた。



アクセスいただいてありがとうございます。

登場人物

ドーキンス・ガラン        軍人 若いとき木星大戦に参加、巡洋艦カンサス艦長 大佐

ミニスカートに獣耳の美少女はみんなの憧れです。

この格好に意味は有りませんあくまでも作者の趣味です。…以下微笑の次号へ


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