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星のゆりかご ――最強の人工知能は母親に目覚めました。――  作者: たけまこと
第四章 ――自  立――
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突撃艦

 トリポールが近づいてきた。ECMはますます強力になってくる。


 アステカ、マヤ、インカの3つのコロニーからこの空域に強力なジャマーをかけている。レーダーはおろか通信すらも妨害を受ける様になり、通信はレーザー通信のみが可能という状態になって来た。トリポール周辺には敵艦隊が集結しているのが観察される。ヘリオスに設置された望遠鏡が敵艦を一艦づつ確認していく。


 戦艦3、巡洋艦5、護衛艦11、駆逐艦15、小型艦艇32、航空機はまだ見えない。それでも戦力差はさほど大きくない。先ほどの艦があのような攻撃に出ず集結して戦えばヘリオス側はかなりの苦戦を強いられただろう。戦力を2分した木星側の明確な作戦ミスである。


 いよいよ最終決戦が始まる。トリポール各コロニーからの砲撃は正確さを増してきた。地球軍の艦船はヘリオスの影に隠れてコロニーからの砲撃に耐えていた。敵艦が出てくれば砲撃はできなくなるそれまで何としても耐え切るのだ。

 コロニーからの大型砲の威力は大きかったがやはり氷でできたヘリオスには効き目がない。それどころか最初の砲撃で蒸発した氷は直ぐに凍った雲となりレーザーの威力を減衰させた。


「最接近まで約1時間。」

 艦内放送が全乗り組み員に伝える。


「敵艦隊が減速を始めました。マヤ、インカからの砲撃は止みます。しかしアステカからの砲撃が止みません。」


 減速を開始した敵艦隊はアステカからおおきく八方に広がりヘリオス包囲作戦を展開する様相を見せている。

 集中した艦隊に対する包囲攻撃作戦であるが同時にそれは本拠であるアステカコロニーの防衛力を低下させる事を意味する。


「本土決戦に際して本土自身の防衛力を低下させるような作戦を取るとは信じられないな。」

「提督、多分本土防衛用の秘匿兵器が残されているのでしょう。とはいえ突撃作戦においてこちら側の戦力の分散は愚作でありますからこのまま現隊の陣形を維持して防衛に当たるのが良作と考えます。」


「うむ。各艦は現隊形を崩さずこちらからの砲撃はヘリオスに任せろ。敵が中間地点を過ぎたら全艦ヘリオスの影から出る。旋回砲塔のうち射撃可能なものは全てアステカの固定砲を狙い打て。それまでは敵艦が視界に入り次第砲撃を開始せよ。」


「低軌道の敵艦が加速を始めました。小型艦は動く様子がありません。」

 どうやら被害の小さな小型艦は残って被弾した艦の救援を行うつもりらしい。それならそれで放っておけば良い。ヘリオスの旋回砲塔は低軌道から接近してくる敵艦に向けて砲撃を開始する。今度は所を変えての反撃である。

 

 コロニーからの砲撃は地球艦隊に向けられるがヘリオスの影に隠れた艦隊に命中させられずにヘリオスに集中する。舞い上がった氷の雲は同時に旋回砲塔の威力も減衰させる。敵艦に命中するものの大きな被害を与えられない。徐々に双方の距離が詰まっていく。

 敵艦は艦首をこちらに向けて砲撃を行いながら全力で減速してくる。一方低軌道に遷移した敵艦隊は加速してこちらに向かってくる。最終決戦である。


 星間戦争の悲劇的な所は衛星軌道上で戦う事であり、戦いが終わるまで逃げる事も突出する事も出来ない事にある。

 ノーガードの殴り合いのようにお互いを消耗させるだけの戦争である。




「作戦時間まで0:50。パワードスーツ部隊は全員乗艦!」

 ジャック・シュミットは前にいるショーン・アライアを見る。

 ショーンは笑いながらジャックに向かって言った。「悪いな先に行かせてもらうぜ。」

「残念だが今回は譲るぜ。」ジャックはそう言ってショーンの出した拳に自らの拳を合わせる。


 ショーンは突撃隊1番艦、ジャックは2番艦である。先陣を切るのは1番艦である。1番艦が成功すれば2番艦は悠々と空港に辿り着けるだろう。

 装甲機工兵部隊はパワーアシストされた装甲スーツに各種兵装を装備する。歩兵の機動性に強力なパワーと防御力を与えられている。コロニー制圧戦の為に考えられた部隊である。しかし地球では月面大戦での戦闘が最後でありむしろ現在では不要論が囁かれている部隊であった。


 しかしこの部隊は各歩兵部隊からの志願制で厳しい訓練を通過できた者だけが入隊出来る歩兵のエリート部隊としての位置付けがなされており、戦闘のない時代兵士たちのモチベーション維持のために必要とされてきた。

 装甲機工兵部隊をステータスとし、そこに入ることが兵士達の憧れと言う幻想の植え付けに成功していた。

 その為に志願者は後を立たなかったがその多くは途中でふるい落とされた。機工兵部隊はエリート意識と共に仲間意識が強く結束が固かった。


 ジャックは突撃艦の中に入るとセットされている小型の装甲車に体を固定する。小型の乗用車程の乗り物は各種兵装の他にコンピュータシステムで敵を撹乱させる装置などが詰め込まれている。この乗り物により強力な機動力と生存性向上が兵士に対し同時に満たされる。

 作戦計画によればヘリオス最接近から前後10分間が作戦時間であり、この間に突撃艦は発射される。それをすぎれば作戦は中止される。


「頼むぜ中止なんて御免だからな。」

「全くだ何のために厳しい訓練を受けてきたのかわからなくなるからな。」

「敵前上陸作戦だ。ノルマンディーの木星版だぜ。」


 各々の兵士たちはたかぶる気持ちを抑えきれずにいるようである。単身敵の中に切り込み敵を倒し味方を引き入れる英雄的な戦闘の高揚感に浸っている。

 早く敵を倒したい。その英雄的行為に酔いしれ殺すべき敵が人間であるという意識は希薄である。同様に敵を殺すことは考えても自分が殺されることは考えない。それが戦闘に参加する前の若者に共通する考え方の様である。


「おっ、モニターが開いた。」各自の戦闘モニターに外部の様子が映し出される。


 外は激戦が繰り広げられている。しかし実際の戦闘は映画のように華やかなものではない。空間を押し渡ってくる一本の光条が当たると艦船が光る。爆発するわけでもなく煙を上げるわけでもない。しかしその光の中で必ず何人かの死者が発生しているのだ。しかしモニターを見ている兵士たちはその事に思い至らない。思い至るのは自分がその光の中に入った時だけである。

 あと30分、こらえ様のない高揚感と緊張感、腹の底から突き上げるような震えが止まらない。武者震いというやつだ。ジャックは待った。ただひたすら待った。


 木星軍は攻撃を繰り返しながら徐々にヘリオスの包囲網を完成させていった。地球軍も同様に応戦しながら対包囲網のフォーメーションに移行する。ヘリオスを背後にして敵に攻撃を仕掛ける。包囲作戦の基本は包囲することにより敵の退路を断ち封じ込めうことに有る。同時に四方からの攻撃を行い敵を殲滅する。古来より陸戦の基本であった。


 しかし衛星軌道上の戦闘では遭遇戦はありえない。お互いに睨み合った後の合戦しか存在し得ないのだ。地の利、天の利もまた存在しない。此処には立つべき大地も天候を司る大気も存在しないのだ。


 ヘリオスと言う大型の遮蔽物を持ち込んだ地球軍は籠城作戦を取るのは当然でありそれに対する木星軍は包囲戦しか無いのである。


 木星軍はヘリオスを囲み敵に集中砲火を浴びせるが、背後にヘリオスを背負った地球軍は背後からの攻撃を気にする必要もなく正面の敵のみを相手すれば良いのである。

 しかもこの城は時間とともにアステカに向けて進行し続けているのだ。

 しかも地の利は地球軍に有った。自らが創りだした地の利である。ヘリオスを背後にした地球軍を木星軍はルックダウンで攻撃することになる。当然背景からの輻射で位置特定が難しくなる。一方地球軍にしてみれば妨害のないルックアップで攻撃ができることを意味する。


 木星軍が地球軍の包囲網を完成させるとアステカからの砲撃は止む。味方を撃ってしまうからだ。それにより地球軍は安心して対艦戦闘に当たることが出来るようになった。

 しかしヘリオスの砲台は遠慮なくアステカの砲大めがけて砲撃を開始する。アステカの砲台は次々と破壊されていく。既に十分に接近したヘリオスの主砲は高い威力でアステカを攻撃できる。これこそが地球軍の作戦であった。


 アステカの砲台が潰れてしまえば艦隊戦で互角の戦いが出来る。ヘリオスの砲台と戦艦の砲台を合わせれば敵の砲に数で勝る。この勝負十分に地球軍は勝算が有った。次々と木星軍に対し損害を与え続けていく。




 モニターを見ていた突撃艇内の兵士は戦闘を見ながら歓声をあげていた。

「いいぞ!やっちまえ。」

「あ、また当たった。」

「くそっ早く出撃しないかな。」

「最接近まで後20分。」そうモニター上に表示される。


 作戦決行は司令官の状況判断によって決まる。無論各観測班の報告こそ重要であるが。

「みろっ援軍が出てきた。」

 アステカコロニーの空港から小型の船が射出されているのがモニターに映った。

「小さいな戦闘機かな?」地球軍の全員がこの時はそう思った。


「アステカから戦闘機が発進した模様です。」

「戦闘機?」ベネデット・カステッリ提督が聞き返す。

「機種は判別出来るか?」

「機種は不明です。こちらのカタログに該当機種がありません。全長35メートル直径25メートルくらいの紡錘形です。」


「まるでラグビーボールだな。コロニー防衛用かな?」

「加速してこちらに向かってきます。」

「戦闘機発進させて防空体制を取れ。」


 ヘリオスの側面に掘られた2カ所のトンネルの蓋が爆砕され、戦闘機が飛び立った。戦闘機は艦隊戦のまっただ中では非常に弱い存在である。しかし敵味方が入り乱れた戦線の場合はその機動性故に非常な戦力となり得る。


「近づかれると面倒です。遠いうちに破壊しておきましょう。」

 艦長はマイクを取ると駆逐艦に戦闘機と思われる物に攻撃を命じた。

「あの距離であれば数分で我が方に接触するでしょう。その前に撃ち落とすのが良策です。」誰しもがそう思った。

 駆逐艦から戦闘機めがけて幾条ものレーザー砲が発射される。しかしなかなか命中しない。その間にも戦闘機はどんどん距離を詰めてくる。


「何だ?あの戦闘機は?加速が早すぎないか?」

「駆逐艦は何故命中させられないんだ?」

「艦長!敵戦闘機の回避運動の速度が極端に早すぎます。こちらの照準が間に合いません。」

「馬鹿なそんな加速力に人間が耐えられるものか。」

「すると無人兵器ということになる。高度な人工頭脳を組み込んだ高い運動能力を持ったミサイルだろうか。」


 提督の言葉はぞっとする物であった。大型の爆弾を十分に装備できる大きさの機体だ。一発で戦艦を破壊できる大きさだ。


「対空砲火全力であの戦闘機を撃ち落せ!!」


 ますます戦闘機は近づいてくる。艦橋モニターに映しだされたその動きの異常さは際立っている。右に、左に、突然移動し目が追いつけない。あれ程の距離から全く砲撃の照準を狂わす動きである。

 ECMによりレーダー連動装置が効かないとはいえ画像追従装置すら振り切る性能とは尋常なものではない。




「艦長!敵の回避速度が早すぎます。」


 地球軍駆逐艦バンデットの砲術士官のガラン中尉は悲鳴を上げた。

 敵戦闘機は見たこともないほどの速さで回避運動を行う。いくら目標をロックオンしても砲塔の動きがそれに追従しない。

「あれではミサイルすら直前でかわされるぞ。」ワイベル艦長が絶望的な言葉を吐いた。


 なんという機動性だミサイルよりも加速性能が高い。そんな戦闘機が存在し得るのか?いや違うあれは大型のミサイルに違いない。

 先ほどに出来た僅かな時間を利用して地球軍の各艦は補給を行った。十分というわけにも行かずひたすら補給物資を艦内に押し込んだと言う所であった。未だに艦内部では補給物資を装填する作業に追われている。


「ガラン中尉、命中は難しそうか?」

「距離が詰まるほど追従が難しくなります。ミサイルを使いますか?」

「いや、無駄だろう。レーダー波は感ずるか?」

「敵はレーダーもレーザーも発信していません。」


「有視界飛行か?それならば煙幕を張る。敵戦闘機との距離は?」

「接触まで20秒。」

 もう目の前まで迫っている。信じられない加速力だ。


「煙幕弾発射用意。発射後5秒で面舵一杯。」

「接触まであと10秒!」

「発射!」

 煙幕弾が発射される。地上で言う煙幕とは違う。ミサイルは爆発と共に着色された煙幕が広がりミサイルの速度のまま相手に向かって前進する。

 つまり煙幕の塊が広がりながらそのまま一定方向に進行するのだ。真空中ならではの現象である。


「よし!面舵一杯。」

 煙幕の塊を突き抜けてきた戦闘機は今まで駆逐艦のいた場所めがけて強力なレーザー砲を撃ってきた。まさに間一髪のタイミングである。

「何だあれは!ミサイルじゃない!やはり戦闘機だ!」ガランが叫んだ。


 しかし殆どの艦はバンデットのように攻撃を回避できた訳ではない。船体の軽い駆逐艦であるが故の芸当だったのだ。

 他の艦は戦闘機の発射した強力なレーザー砲の攻撃をまともに受けてしまった。


「戦艦が被弾!主砲を損傷!!」

「他の護衛艦、駆逐艦も大きな被害を受けています。」

「敵の行動は?」

「姿勢を変え回避行動を取りながら大きく旋回しています。」


 これが無機頭脳を装備した戦闘機通称「ファルコン」との最初の地球軍との接触であった。強力な武装、強力なエンジン、そして目視による敵艦の認識力と判断力備えた無機頭脳がコントロールする兵器であった。


 ファルコンは強力なエンジンにより軌道速度を無視した行動が可能となっている。人間の乗る戦闘機に比べ数百倍の思考速度を持つ無機頭脳は柔軟な戦法を学習し自ら編み出して戦った。

 回避行動を取りながら大きく迂回したファルコンは最初に獲得した加速度を全て捨て去り再びヘリオス周辺の地球軍に襲いかかってきた。


 燃料搭載量が戦闘機に比べてはるかに多いファルコンは燃料消費を気にすること無く戦闘空域を縦横に飛び回った。




――トリポール、アステカ空軍基地――


 ロゴス・クリフォード大尉は機内待機中であった。


 外では既に戦闘が始まっている。現在は大型艦同士の砲撃戦の最中の筈である。先ほど横に並んでいたファルコン部隊が出撃していった。戦闘状況にもよるがファルコンは燃料をバカ食いする戦法を取るらしい。ずんぐりした胴体は殆ど全てが燃料であり燃料タンクにエンジンをつけただけの機体と言われている。


 レーザー砲を主戦武器としてミサイルも装備しているが、どちらにしても近接戦闘の格闘戦を主体とする戦法を取ると言われている。どうやって敵の所にたどり着くのかは知らないが、懐に飛び込まれたら大型艦に取っては手も足も出ないだろう。

 編隊で襲われたらたちまち食いつくされる。ピラニアかシャチの様な機体だ。


 ファルコンが燃料補給に帰投してきたら我々の出番だろう。敵も十分に接近してきており出撃と共に敵の懐に飛び込める距離の筈だ。今までに木星内での戦闘は無かった。ロゴス自体がそのような事が起きるとは思っても見なかった。


 作戦検討段階では地球圏での航空機の発想で作られた機体であったが戦艦との模擬戦を繰り返して行くとやはり遠距離では圧倒的な不利は否めなかった。いくら機体が小さいとはいえ強力な大型砲で薙ぎ払われたら遠距離から被害を受けてしまう。


 空気のない宇宙空間では戦闘機は圧倒的に不利な機体だった。


 唯一戦闘機が可能な戦法が近距離からのドッグファイトである。今回の戦果次第であろうが遠からず戦闘機は絶滅し、ファルコンに置き換わる事になるだろう。

 ファルコンとの模擬戦もやってみたが加速度が桁違いにすごい。とても人間が操縦できる機体ではない。そんな機体相手にドッグファイトなど出来るのものではない。ミサイルより早く飛べる機体を落とせる訳がない。


 戦闘機乗りに憧れて軍隊に入ったロゴスであった。どういう訳か意外に向いていたらしくかなり良い成績で士官学校を卒業してみんなが憧れるアステカ・コロニーの戦闘機部隊に配属された。

 以前の任官地で結婚し一人娘共々アステカ・コロニーに引っ越してきたのだ。


 トリポールは他のコロニーの五分の一の人工密度でありあらゆる施設が完備している恵まれたコロニーなのだ。もっとも最内殻にはバラライトを始めとする財閥系の家族が住んでおりそこには立ち入りが禁じられている嫌な一面もある。


 ここは支配者一族とそれに仕える従者のコロニーなのだ。


 昨日から戒厳令が発令され一般住民はシェルターへの避難命令が出された。人々は指定されたシェルターに毛布と身の回りの品物を持って避難を始めている。

 隣接した食堂は避難してきた人々の食事や雑貨を扱って人々の避難生活の支援をしている。無論これらは全てアステカ宙域が戦闘区域になった場合には全て閉じられる事になる。


 昨日ロゴスは愛娘のアリシアと妻を避難所に送ってきた。もし戦闘が始まれば実戦である。戦闘機のパイロットの死亡率は高い。昨日一日ロゴスはアリシアと一緒に過ごしてからシェルターに送り届けるとその足で基地にやってきた。他の連中も全員同じであろう。


「パパ、悪い地球軍をやっつけに行くんでしょう。」

「そうだよ。パパはねみんなを守るために行ってくるんだ。」

 ロゴスは分かれる前に娘と妻を抱きしめて来た。妻は気丈に振舞い、娘の前で涙を流す事は無かった。

 これが今生の別れに成るかもしれない。そう思っても自分が兵士である以上行かなくてはならない。


「上手く行けば明後日には帰れるからね。」

「パパーっ、頑張ってね~っ。」

 ロゴスを送り出す娘の笑顔は刃のようにロゴ市の心を貫いた。


「すまない。」


 もっと早く疎開に出すべきであった。しかし疎開の順番は財閥と政治家の家族が優先され軍人は一番最後に回された。もっとも軍上層部の家族は優先的に疎開出来たと言う噂を聞く事もあった。

 いずれにせよ軍人は家族を守りたければ死んでも敵を倒せと言うことらしい。


 思えば軍隊と言っても実際の戦争など起きる状況は無く殆どがコロニー付近の哨戒とデブリの始末のような仕事が殆どであった。戦闘訓練は何度となく行なって戦闘の練度の維持はしてきている。

 しかし命のやり取りに自分の精神が耐えられるかどうかはまた別問題であった。今回は訓練と違い弾が当たれば死ぬので有る。


「ファルコン一機帰投」無線にアナウスが入る。

「いよいよ来たか。」ロゴスはそう思って覚悟した。

「ようしみんなそろそろ時間だ。心の準備は出来たか?」隊長が無線で言ってきた。発進は近い。


 隊長は機内待機に入る前に全員に家族に当て手紙を書かさせた。無論それが遺書と成る可能性のある手紙であることは全員が知っており、隊員はそれぞれに手紙をしたためた。

 全員がこの作戦が戦闘機にとってどれ程危険な任務であるか認識しており、司令部が作戦前日に家族と一緒に過ごさせたのもその為である。出来れば全員また再会ができますようにそう思ってみんな手紙を書いた。


「第一戦闘機部隊発進準備願います。」


 基地内にアナウンスが入る。整備兵がバタバタと走り回りエンジンを起動する。整備兵が駆け足で退避すると宇宙服を着て光るポールを手に持った発進要員が現れる。


 サイレンが鳴る音が機体を通して聞こえるがだんだん音が小さくなりやがて聞こえなくなる。空港内が真空になった証拠である。ガクンと機体が揺れるとゆっくり移動を始める。前の機体が発進すると床が動いてクリフォードの機体が発進位置に付いた。


 正面に漆黒の宇宙空間が現れ、右手には木星が大きくその姿を見せる。その開口の横に発進要員がポールを横にしてこちらの合図を待っている。ロゴスは親指を立てて発進準備完了の合図をする。発進要員は体を横に向けポールを縦にする。



 カタパルトが機体を押し出し発射口から発進した。ロゴスはエンジンを全開にすると戦場へ向かった。


アクセスいただいてありがとうございます。

登場人物

ロゴス・クリフォード       木星連邦戦闘機パイロット

トリポール            木星連邦の首都コロニー群 3基の要塞コロニーで構成される

若者が戦に志願するとき敵を殺す事しか頭にありません。

戦場に出て初めて自分が死ぬ事に気付きます。…以下激甚の次号へ


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