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星のゆりかご ――最強の人工知能は母親に目覚めちゃいました。―― 作者:たけ まこと

第四章 ――自  立――

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氷の戦艦

「敵艦確認、シールドに囲まれて上空より降下してきます。」

 地球軍駆逐艦バンデットのワイベル艦長は既に決められた作戦フォーマットに沿って行動を開始した。
 敵は艦首にシールドを装着してこちらに接近する戦法である。直ちに敵の軌道を測定しヘリオスに通信する。敵は縦列陣をしいてダイブしてきた。予想を上回る下降速度は下に向かって加速している為だろう。一撃離脱の戦法である。

「先頭は核ミサイルでしょうが2番めはどうやら戦艦のようです。」
 戦艦だろうとなんだろうと対応は同じである。ミサイルは全て核と考え無くてはならないし、戦艦であればそのほうが的が大きくて良い。ガランはそう思っていた。
 シールドに対する攻撃はヘリオス周辺で護衛に当たる戦艦と旋回砲塔の分担だ。ガランが狙うのはむしろその後方からダイブしてくる護衛艦だった。

 観測によればフリゲート艦にミサイルを積んで参加させているらしい。あれは装甲が薄いのだ。ガランはフリゲート艦の乗員に同情した。だからといって彼らを攻撃しないわけには行かない。ミサイルにあたって死ぬのはまっぴらごめんだ。
 先頭のミサイル艦はシールドを破壊された瞬間にミサイル全弾を発射するだろう。それらは間違いなく核である。

「頼むぜ護衛艦の皆さんミサイルはそっちの担当だ。」

 駆逐艦でのミサイル迎撃は難しいのだ。もし撃ち漏らしがあったら爆発による熱被害よりも放射線被曝のほうが危険性が高い。被弾した途端に爆発する激発信管を装備している筈だからなるべく遠くで爆発して貰いたいものだ。

 先頭のシールド艦が急速に輝きを増す。ヘリオスからのレーザー攻撃が集中しているのだ。続いて後方のシールドも輝きはじめた。輝くシールドからキラキラ光るものが放出されている。破壊されたシールドが剥離して分解を初めているのだ。程なくシールドは破壊される。
 突然先頭のシールドは爆発を起こした。目には見えないが光学補足機は発射されたミサイルを確実にロックオンしている。爆発と共にミサイルは一斉に4方に広がってヘリオスを目指してきているのだ。
 ヘリオス周辺の護衛艦から一斉に中、小口径レーザーが火を噴く。ミサイルの迎撃が始まった、一発でも逃せば艦隊は甚大な被害を受ける。大口径レーザー砲塔は動きが遅く、ミサイルのような小さな目標を追うことは出来ない。

 ヘリオスからも一斉にミサイルが発射された。かなりの数である。敵が先頭のミサイル艦の核爆発に紛れて接近を試みるのであればこちらも核爆発に紛れてミサイルを接近させる戦法である。まさにお互いに肉を切らせて骨を絶つ作戦である。
 最初の艦のシールドを破壊したので砲門は2番めと3番目のシールドに集中し始めた。シールドは剥離を繰り返しているが今度は爆発はしない。駆逐艦は主砲を2番めのシールドに向けてロックオンしたまま時を待った。突然周囲に白熱した光が満ちる。核ミサイルが爆発したのだ。

 まだ距離は遠いから被曝の危険は少ないだろう。次々と周囲で核爆発が起こり始めた。核レーザーも何機か含まれているがレーザーはヘリオスから大きくそれる。方法を見失っているのだろう。バンデットの光学探査機も核爆発の光のために目標を見失い始めている。ガランは軌道予測値を睨んで照準を保ちつづけた。

「核爆発を確認!!」
 木星軍護衛艦ワインダーの正面に大きな光球が広がりつつ有った。
「距離は?」
「かろうじて安全圏!」その言葉が終わらないうちにまた次の光球が広がる。

「ミサイルをロスト!」
 核爆発の強烈な光を受けて光学観測装置がブラックアウトしたのだ。おそらく敵方も同じ筈である。しかし敵とこちらの違いはこちらが回避行動をとれるのに対し氷の戦艦は全く動くことが出来ない。従って位置予測によりミサイルをコントロール出来るのだ。
「対艦ミサイル発射!!1から6」艦長に発射命令、光学観測機の乱れている今こそミサイルの発射のチャンスである。

「先行する戦艦がミサイルを発射しました。」
 当初の作戦通り事は進んでいる。後は敵のミサイルを迎撃することがこちらの任務だ。
「ランダムな回避行動を取りながら戦艦の後方から離脱する。推力全開!」
 縦列陣を敷き一直線に進んできた艦隊を解き戦艦を中心にした錐形陣に移行する。敵から発射されたミサイルを撃ち落とす為である。シールドを破壊された戦艦も回避運動を行いながら主砲を発射し始めた。

 既に主砲は2陣の戦艦のシールドに向けて砲を集中し始めた。今のうちに出来るだけ距離を詰めるのだ。

 突然艦に衝撃が走る。

「どこをやられた!被害を報告!!」
「5番8番砲塔が応答しません!!」
 環境に報告が飛び交う
「こちら第一居住区。第2居住区が減圧!!」
「第3ミサイルポッド減圧!」

 機関部からの報告は無い、艦長は報告を聞きながら状況を頭の中でトレースする、大丈夫だまだ行ける。

「左舷をやられたか。敵はどこだ!!」
「左舷前方に敵小型艦!!」
「駆逐艦か?対艦ミサイル17から19番発射!!」
 駆逐艦であれば運動性の良いミサイルが良い。艦長はそう判断した。いずれにせよ第2撃が有る。まだミサイルを撃ち尽くすわけには行かない。前方には敵の氷の戦艦が徐々に大きくなってきた。敵の大型砲が容赦なく打ち込まれる。艦首装甲は強化してあるがどの位持ちこたえられるだろう。何度も艦首をレーザーがかすめ、その度に艦に衝撃が走る。我々は生き残れるのだろうか?



 ミサイル艦が自爆した直後戦艦のシールドも破壊が進みその役目を果たせなくなった。戦艦はシールドを捨て回避行動を取り始めた。それとともに後方の護衛艦が加速し戦艦と並びかける。
 また核爆発が地球軍駆逐艦バンデットの近くで起きる。
「今だ。」主砲を任されていたガラン中尉はその機を逃さず敵護衛艦の回避行動を予測し狙い撃った。天性の勘と読みは違わず敵護衛艦の横腹にもろに命中する。

「やった!」敵の砲塔がバラバラと飛び散るのが見えた。
「敵護衛艦船腹に主砲命中。」報告が上がる。艦橋がどっと沸く。しかしそれもつかの間であった。
「敵、ミサイルを発射。本艦に向かってきます。」
「回避行動!フラッシュパックミサイルに向け発射!敵艦に艦を向けろ。出力全開」艦長の命令の各自が一斉に動く。
 戦闘時間中に艦長への疑問を挟むものはいない。艦と乗務員は運命共同体であり艦長の命令だけが艦の運命を決定する。艦長が無能であれば艦と共に沈むだけだ。戦闘中は艦長を信じることだけが生き残る道なのである。

「ミサイル接近。命中まで20秒」
「チャフを前方に向けて発射。」
 電波を反射する金属箔を詰め込んだミサイルが発射され艦の前方にチャフの雲を作った。
「ミサイル接近!!」
 先行したフラッシュパックが破裂し幾つもの小型爆弾が飛び散ると一斉に強烈な光と熱を出して爆発した。
 加速を続ける駆逐艦は前方のチャフの雲の後ろに隠れる。艦の全員が緊張する中ミサイルはチャフに突っ込んでくると駆逐艦の直前で爆発した。爆発の衝撃で艦が大きく振動する。艦の各所で警報が鳴り響く。

「被害を報告しろ!」艦長が怒鳴る。幸い大きな損害は報告されなかった
 艦全体に安堵の溜息が出る。フラッシュパックによって目を潰されたミサイルは電波計測に切り替えたが濃密なチャフの雲を実体と錯覚して近接信管が作動したのだ。

「目標はどうなった?」
「ヘリオスに接近しています。」
「第一目標は放棄、第二目標を狙う。」直ちに体制を立て直し二次攻撃の迎撃態勢に入る。
「3番めのシールドは集中砲火で崩壊寸前です。」
「距離は?」
「約50キロ」
「よしシールド分離の出鼻を撃つぞ。」
「後方の護衛艦からミサイルが発射されました。」
「構うな!まだ時間は有る。」艦長の声にガラン中尉は敵戦艦に全神経を集中させた。



 木星軍護衛艦ワインダーは側面に大きなダメージを受けた。しかし機関部に損傷はなく機密区画を閉じることにより通常の戦闘行動は可能と判断された。
 敵の姿がどんどん大きくなってくる。敵からの砲撃は激しさを増してくる。先行する戦艦キルギスは艦首に何発もの被弾をし煙を吐いている。しかし主砲の発射に遅滞はない。今や戦闘は敵戦艦とこちらの戦艦の一騎打ちの様相を呈してきている。

 しかし敵戦艦の目標がこちらの戦艦であるのに対しこちらの目標が氷の戦艦の核パルスエンジンというのはいかにもこちらが不利である。
 氷の戦艦の主砲は2次攻撃隊に向かっておりこちらを攻撃してくるのは戦艦の主砲だけという状況になっている。お互いの護衛艦はミサイル防御に全力を傾注しており敵艦への攻撃には加わっていない。ワインダーも作戦前に改修を受けており側面バーニヤを強化されていた。
 強化されたバーニヤは艦の運動性能を大きく上げ敵からの攻撃を回避している。無論バーニヤをふかす度に船体は右に左に大きくGを受ける。中の乗員はたまったものではないが、それ故生き延びられるのであれば文句を言うものもいない。

 だが艦体には既に何発もの命中弾を受け、その都度何名かの戦死者を出している。
 此処は宇宙である。戦闘中に宇宙服の着用を義務付けられていても船体が破壊され宇宙服に穴が開けば助かる可能性は限り無く低い。それでも国は自らの存続をかけ若者の命の生贄を戦闘に捧げるのだ。だが今は戦闘中である逃げ出すこともまた死を意味する。自らの活路を見出すために兵士は戦い続けなくてはならない。

「フィリゲート艦アサシン被弾!同じくカルダン被弾」報告が続く
 後方に続くフリゲート艦が次々被弾していく。装甲の薄い彼らの艦はかなりの被害が出ているはずだ。それでも果敢にミサイルの発射を続けている。軌道上の戦闘ではあらかじめ軌道は決められている。被弾したからといって戦闘からの離脱は不可能なのだ。

 護衛艦ワインダーの前方では護衛艦の対ミサイル砲により破壊された敵ミサイルが次々と自爆していく。それはこちらから発射したミサイルもまた同様である。前方で行われているミサイル爆破のイルミネーションは美しく此処が戦場であることを一瞬忘れる。しかしあの光が自分の艦の近傍で起きればまた何人かの死者が出るのだ。

 こちらからのミサイルは何発も氷の戦艦の核パルスエンジンの支柱部分に命中している。しかし氷の装甲が厚いせいか目立った効果がない。しかも飛び散った破片がレーザー攻撃を遮って効果を減衰させている。
 敵が直前まで迫ってくる。先行する戦艦キルギスがミサイルを発射する。しかし事前の作戦要領に比べて多すぎる数だ。

「キルギスはもうだめか。」サンバリー艦長はそう判断した。

 戦艦キルギスは被害が大きすぎるのだ2次攻撃を放棄し全てのミサイルを氷の戦艦にぶち込んでいる。この至近距離でのミサイル防衛はかなり難しい。敵への被害はまだ十分な効果下を上げていないがこれで相当な被害を与えられるだろう。

「まさか核を打ち込んではいないだろうな。」突然サンバリーの心に恐ろしい妄想が浮かんだ。

 キルギスは当然のことながら核を装備している。この至近距離で核を打てば敵に相当なダメージを与えられる。しかしそれはキルギスはもちろんこのワインダーすらも核爆発に向かって突っ込むことを意味する。そんなことをすればそれこそ「カミカゼ」である。まさかとは思ったがついサンバリーはキルギスが核を撃たないことを神に祈った。



「敵戦艦ヘリオスの軌道と交差しました。ヘリオスに被弾多数。誘爆は認められません。」地球軍駆逐艦バンデットの艦橋に声が響く。
 しかしそんな報告はガラン中尉の耳には届かなかった。2次攻撃部隊の戦艦の挙動に前神経を集中していたからだ。戦艦がシールドを放棄した瞬間を狙ってガランは主砲を打ち込む。主砲のレーザーは敵戦艦の前部砲塔に直撃した。

「主砲戦艦に命中!」ガラン中尉が叫ぶ。
 ワイヴェル艦長は主砲発射の報告を受けて軌道変更の命令を出す。先ほど命中弾を与えた敵護衛艦から発射されたミサイルがこちらをロックオンして向かってくるのだ。
 駆逐艦バンデッドは推力を全開にしミサイルの進行方向から直角に艦を進める。ミサイルは大きく迂回軌道を取ると艦尾から駆逐艦を追跡して来た。ミサイルはまだ加速を続けている。

 大気圏内と違いミサイルは飛行にエネルギーを使う必要がない。射程は驚くほど長いのだ。しかし空気を利用して方向を変えられない宇宙空間においては逆に軌道変更はものすごい燃料を消費する行為となる。
 ミサイルに直角な軌道変更を強いる動作をすればそれまで加速してきたエネルギーを全て相殺する加速度を与えなくてはならない。駆逐艦バンデットの後方に付いたミサイルは速度を大幅に落として再加速しなくてはならない。

「艦尾対ミサイル砲発射。」
 後方に向かって発射できる小型レーザー砲は確実にミサイルを破壊していく。宇宙空間でミサイルは遠方から撃つものではないのだ。
 2次攻撃隊がヘリオスの直前に達している。戦艦の両脇を護衛艦がサポートし後ろをフリゲート艦が追っていく。
「主砲残弾数は?」
「残り3発」ガランが叫ぶ。
「残りは全てフリゲート艦に撃ちこめ。他の艦に取られるんじゃないぞ。」
「了解!」元気な声が帰ってきた。

 木星軍戦艦キルギスは核ミサイルを撃たなかった。時速3000キロで交差した刹那発射された通常弾頭のミサイルは氷の戦艦に何発も命中したようだ。どの位被害があったかは上空の監視衛星が教えてくれだろう。
 しかし今は後ろからの攻撃に備えなくてはならない。もっとも備えるといっても為す術は無いただ祈るだけだ。

 護衛艦ワインダーはそのままダイブを続けるが加速を中断したため最初に持っていた軌道速度に見合う高度まで押し上げられる。しかし氷の戦艦よりは低軌道で有るため先行することが出来る。後で加速すれば彼らより先にトリポールに集結できる。そこで第2次海戦が行われるのだ。
 艦隊は集結し被害を報告した。サンバリーの思った通り戦艦キルギスの被害は大きく戦闘兵器の多くを破損しエンジン出力もだいぶ下がって戦闘には参加できないとしている。

 艦隊司令は残った戦艦アイゼンに移乗し戦闘に参加できる艦は戦艦1隻、護衛艦3隻。駆逐艦6隻、フリゲート艦4隻であった。
 これだけの被害を出しながら氷の戦艦の足を止めることには失敗したようである。無論敵の戦闘艦にも多大な損害を出したもののそれに見合う成果というわけでは無かった。作戦は失敗と言うのがサンバリー艦長の評価であった。


「どうやらしのぎ切ったようだな。被害をまとめて作戦会議室に届けてくれ。」地球軍カステッリ提督はそう言い残して提督は艦橋を後にした。

 今回の戦闘の目標がヘリオスの足である核パルスエンジンであることは判りきっていた。その為核パルスエンジンの取り付け支柱の周りには出来うる限り氷の装甲を盛り上げておいた。それが功を奏して何発もの命中弾を受けたにもかかわらず飛行に支障をきたす程の被害は受けなかった。
 護衛に回った艦船の被害も思ったほどではないようだ。今更ながらに氷の戦艦と言う発想はすごい物だと思う。

 この計画の発案者は事もあろうにガレリアだと言うのも考えさせられる事だ。なんでもガレリアは全く新しいタイプのコンピューターらしい。これまで作られてきたグロリアとは違いより人間に近い発想をすると言うことだ。確かに素晴らしい性能では有るようで、今回の戦略の概要もまたそのコンピューターの発案らしい。

 しかし、と提督は思った。それ程優秀なコンピューターであればこの戦闘の帰趨もまた予測しているのでは無いだろうか?その優秀な頭脳は何を考えてこの作戦を提案したのだろう。これではまるで我々がコンピューターに操られるマリオネットではないだろうか?
 聞けばガレリアはガレリア自身が設計し、ガレリア自体が無人で作り上げたと聞いている。そうであれば今回の戦闘もガレリアに任せることが出来たということだ。
 だが武器使用に際しては最終的に人間が制御すると言う原則が有る。

 かつて地球での冷戦時代と呼ばれた時代に核ミサイルの発射ボタンをコンピューターに任せるか人間に任せるのかと言う議論の末に最終的には人間が核兵器のスイッチを統べるとする事になった。人類は自らの安全の為に機械に武器の使用権限を与えることをしなかった経緯がある。提督はそれを誠に懸命な判断だったと評価している。

 作戦会議室に入った提督は自動給茶機からコーヒーを取った。砂糖は入れずミルクをたっぷり入れる。温度は熱めの70度。無重力下においては熱い飲み物の摂取は難しい。コーヒーカップに入れる訳にも行かず、ストロー付きのパックで飲むことになる。しかし提督はぬるいコーヒーが嫌いであった。ぬるいコーヒーはドブの水と変わらない。いかなる時でもコーヒーは熱くなくてなならなかった。

 しばらくしてヘンリー・ノリス参謀長が参謀2名を連れて作戦会議室に入ってきた。
「損害がまとまりました。」
 参謀長はボードデスプレイを示す、下級の参謀は自動給茶機の所へゆきコーヒーを取り出す。提督の方に顔を向けると提督は手を振って断った。
「まずこちら側の被害報告からしますと僚艦の大破は無く中破1、小破10、後は軽微な被害で死者13行方不明5。中破したのは駆逐艦サルジオン。この艦も戦闘続行は可能です。」

「残弾数は?」
「全て想定内でトリポールでの戦闘は可能であると考えています。現在可能な艦はヘリオスからの補給を受けてます。」
「そうか。」提督はポツリと呟くとほっとした顔で天井を仰ぐ。

「こちらの想定より敵艦が少なかった事が最大の原因ではないかと思っています。」
「木星連邦は元々戦艦が少ないのです。戦艦は全て首都バラライト自治区の所属で他の自治区には最大でも巡洋艦以上の艦は持っていません。唯一の例外がレグザム自治区で独自に作られた戦艦サザンカのみです。我々が木星に来たので慌てて戦艦を作り始めましたようですがとても間に合わなかったもようですね。」

「戦力を2分しながら戦力の温存に走る、最大の悪手だと言って良いだろう。決戦場所はトリポールに決まってしまった。」
「はい、情報によりますとトリポールから民間人が退避が進んでいるそうですから。」
「うむ、前にその情報は聞いている。民間人を戦闘に巻き込むのは気が引けるがトリポール自身が要塞化していることを考えるとそうも言っていられない。それで敵の損害は?」

「はい戦艦キルギスが火災を起こしていて今はだいぶ収まっているようです。他にも護衛艦1、駆逐艦4、フリゲート艦5の活動の低下が認められます。最終的には向こうが軌道変更するまでわかりませんがかなりの被害を与えています。」

「あんな特攻作戦ではな。兵士たちもかわいそうに。」提督は大きくため息を付いた。

 もっとも我々の作戦自体が敵本土に対する特攻作戦に他ならない。特攻と言う言葉は適切ではないが戦力の少ないものはその戦力を一点に集中し明確の目標を撃破する作戦を取らなくてはならない。
 戦線を広げれば各戦線で被害を拡大し戦力を消耗していく。我々と木星連邦の戦力比は3対1位だ。バラライト自治区に限って言えば3対2。

 今回の戦闘はヘリオスに絞った攻撃をしてきたが僚艦に攻撃目標を絞って来られたら今回の敵と同じくらいの被害が出たろう。戦力の大きな側の取る戦法ではない。
 その意味で木星軍は戦闘の経験が少ないのだろう。むしろトリポールの持つ要塞としての能力に頼って自らは安全な場所に引きこもりつつ兵を戦場に送り出す高級士官の姿がダブって見える。

「敵は現在低軌道上で集結しつつ有ります。集結できない艦も何隻か有るようですが現在ゆっくりと前方に向かって移動中です。我々の戦闘に合わせて急加速を行い我々との戦闘に参加するものと思われます。」
「味方艦の退避状況は?」
 トリポールに接近すると共にコロニーからの直接砲撃を受けることになる。戦闘後は全艦がヘリオスの影に隠れる手はずになっているのだ。

「既にトリポールから砲撃は散発的に始まっています。もうしばらくすると本格化し始めるでしょう。」
 宇宙空間の戦闘はお互いが丸見えの状態での戦闘である。要塞を攻略するものはなんとしても敵の懐に潜り込み近接戦闘に持ち込まなくては遠距離砲で一艦づつ血祭りに挙げられていくことになる。

 コロニーには何基もの核融合炉が設置されている。そのエネルギーで強力なレーザー砲を撃つのである。戦艦にも核融合炉は搭載されているがやはり出力が違う。コロニーから住民を退避させるのは安全のためでもあるがインフラにかかるエネルギーを極力抑える為の処置でも有るのだ。ヘリオスの影に隠れて敵に接近するという作戦が無ければ首都侵攻など思いもよらなかったことなのだ。

「今回の君の被害予想では2次戦闘に参加しそうな艦は戦艦1、護衛艦1、駆逐艦4、と言うことになるな。」
「フリゲート艦にはもうミサイルは残っていないでしょうから作戦には参加しないと思われます。」
「後方の戦力にはあまり気を使わなくて良いようだな。」提督はコーヒーを一口飲む。

「敵に与えた被害の半分はヘリオスをすり抜けた後、後方からヘリオスの旋回砲塔に撃たれたものです。」
 ヘリオスに取り付けられた旋回砲塔はヘリオスの胴体全体に均等に割り付けられていた。従って迫って来る敵にはヘリオスが装備している半分の砲塔しか使えなかった。しかしそれは同時に逃げていく敵には残った砲塔で攻撃ができることを意味していた。どうやら敵はそこに誤算が有ったようである。
「では作戦は大きな変更をしなくて良いと言うことだな。」
「はい、その通りであります。」
「判った。それではその旨各艦に連絡してくれたまえ。」


 提督はそう言い残すと艦橋に向かった。これから作戦の最終段階に入る。考えられる最良の状態で戦闘を迎えられるだろう。
アクセスいただいてありがとうございます。
登場人物
ベネデット・カステッリ提督    木星遠征隊の司令官
ヘンリー・ノリス参謀       提督の参謀
ティコ・ブラーエ艦長       木星遠征隊 旗艦カンサスの艦長
ドーキンス・ガラン        軍人 駆逐艦バンデット搭乗 中尉
スティーブン・ワイヴェル     地球軍所属 駆逐艦バンデット艦長
グリッド・サンバリー       木星軍所属 護衛艦ワインダー艦長 
ヘリオス             木星の衛星のひとつ、地球軍によって兵装され戦艦として運用
勝てない戦に駆り出されるほど馬鹿馬鹿しい物は有りません。
弓と剣の時代は戦に負ければ領主は切腹か断首です。
現在の総理はやめればお咎め無しです…以下一本鎗の次号へ

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