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星のゆりかご ――最強の人工知能は母親に目覚めました。――  作者: たけまこと
第三章 ――育  成――
43/66

発 進

――ヘリオス――


 出発の時間が迫ってきた戦闘に必要な補給は十分にそろった。


 燃料、弾薬、食料、雑貨、これだけの補給をガレリアはこれだけの短時間に小惑星を原料としながら全てそろえることが出来た。無論問題が無いわけではなかった。トイレットペーパーが硬かったり、缶詰のコンビーフの原料が実は下水から集められた材料を元にしていたりしていることである。

 それらの仔細な事を除けば十分な品質を持っていた。


「参謀、軌道計算は間違いなかったようかね?」

「当艦のコンピューターを使って再計算を行っています。特に問題は有りません、提督。」

「ガレリアの保全が今後の最大課題だ移動先は最高機密扱いにしておいてくれ。」


 ガレリアは今後も重要な補給廠であり安全に保持しなくてはならない。しかしガレリアを守る軍隊は総出で敵首脳部との戦争に出撃して行くのだ。

 考えてみればコロニーを製造しそれを守るために派遣された軍隊がコロニーを作るために送られてきた軌道ステーションを置き去りにして戦争をしに行くのだ。

 まさ本末転倒と言うにふさわしい行為でしか無い。もう一度ガレリアに核パルスエンジンを装着してここから離れ、いずれかの衛星を使って身を隠す事に成っていた。


「何カ所かの候補地を選出して有ります。本作戦が成功してもしなくてもヘリオスは楕円軌道に乗りトリポールを離れますが、万一ヘリオスが使えない場合は各艦独自にアナンケに再集結終することになります。」


 地球軍に取って最も気がかりなのがガレリアだった。もし木星連邦に拿捕でもされたら木星での地球軍の作戦が不可能になるだけでなく地球連邦政府は大変な損害を被る事になる。アナンケ基地自体を存続させられなくなるからだ。ガレリアとアナンケ基地があれば今回の作戦の如何に関わらずコロニー作成を継続させる。

 さすがにこれ以上戦争をしてまでもアナンケ軌道を確保する意味は木星連邦には無いと考えられていた。


「敵側が2面作戦を取ってアナンケ奪取を計画していた場合は問題ですね。」


 彼我の戦力差からすれば不可能な作戦ではなかった。トリポールでの戦闘は防御に徹し積極的な攻撃を控えれば楕円軌道のヘリオスは勝手に離れていく。地球軍がガニメデ軌道平面に遷移するためにはカリストでのフライバイは欠かせない。出発時点で軌道要素の予想は付けられてしまい、敵側の作戦変更はそれからでも十分可能なのだ。


「我々の戦力を木星軍は決して過小評価はしていないというのが木星連邦駐在大使の意見だそうだ。」

「地球政府が言ったら信用しないところですがね。」


 戦場から遠く離れた本国は必ず楽観主義にとらわれるものだ。そんな本国の楽観主義のお陰で戦争をさせられる前線の兵士はたまったものではない。カステッリ提督自身今回の戦争は極力被害を少なくし戦争を行える能力を木星側に知らしめればそれで十分だと考えていた。目的はコロニーの製造であり、コロニーが出来上がり地球統治領を宣言すれば木星連邦とて追認せざるを得ないだろう。

 しかし万が一、カリストでのフライバイに失敗すれば、それこそヘリオスを捨てて艦隊は独自にアナンケに戻らなくてはならない。もしそんな事になれば作戦行動に穴があき木星軍はアナンケ侵攻の時間的猶予が出来る。艦隊は何を置いてもアナンケに戻らなくては無条件降伏以外の道が無くなる。


「万一に備えて全艦分の予備燃料は備蓄はできているんだろうね。」

「燃料は十分ストック出来ましたから問題は有りません。万一カリストでのフライバイに失敗でも速やかにアナンケに戻れます。アナンケに戻れば燃料製造装置もありますから。」

「その時はヘリオスは護衛艦無しでの単独帰投をしなくてはならないのか。」


 元よりヘリオスは仮設の戦艦である。索敵能力などは低く大型のコンピューターによる集中制御もできていない。戦艦や護衛艦のコンピューターと繋いで運行しているようなものである。航行にかなりの人数を割かれる構造である。今の所は整備兵を使って運行している位で予備の人員を使って兵器類を操作している状態である。管制は人間が行なっている状態で、かろうじて旋回砲塔が自動測敵を行えるのがまだ救いである。


「そうは言ってもヘリオスは堅固な要塞と化していますからね。そう簡単には落ちないでしょう。時間さえかければ自力でアナンケ帰還は可能ですが相当な期間を要する事になりますがね。」


 現在までの情報では木星軍と地球軍の戦力比は今のところ6対4位と考えられていた。地球側の交渉がうまくいってレグザム自治区は中立を表明した事によりカリストによるフライバイ軌道が使えるようになった。

「レグザム自治区にしてみれば対立している木星連合のために我々の盾になる理由は有りませんからね。」木星連邦の階級制度政策が裏目に出た結果であると参謀は笑う。


「もし敵がカリスト防御に艦船を回してくれれば保有戦艦数ではこちらがやや少ないもののこのヘリオス自身の戦闘力を考えれば互角くらいにはなると考えても良いだろう。もっともこれにはトリポールのコロニー自身の戦闘力は計算に入ってないがね。」


 3つのコロニーから発射される長距離レーザー砲が脅威であることに変わりはない。しかし最終戦闘は近接戦となる為コロニーからの遠距離砲は無力化される。そこまで到達出来れば地球軍に勝利の目がある。その為のヘリオス計画である。

「あまり分のいい戦闘とはいえませんがね。一番有りそうなのがお互いに牽制して引きつけ合って多少の小競り合いの挙句分かれて行くと言ったところですかね。」


「まあお互いにお互いの兵器をどの位消耗させられるかのと言うところの勝負だな。コロニーに侵攻できなければ戦闘時間は3時間程度だそれを過ぎたら我々もヘリオスに引き上げなくてはならないからね。痛み分けになる可能性が高い。要は我々にトリポールを侵攻できる能力を見せ付けてレグザム自治区の発言力を上げてやればよいのだからな。」

「レグザム自治区が我々を裏切ってバラライトに付く可能性は無いでしょうかね?」

「判らないが多分無いだろうと思う。トリポールからはもっとも遠い場所に位置しているからね。向こうも我々が約束を守るという保障は無いし、これだけ離れた地球からの支援など期待するほうが愚かというものだ。おそらく中立を堅持するだろうな。」


 今回の戦争で漁夫の利を得るとすればおそらくバラライト、レグザム以外の自治区だろう。バラライトは怖いが戦争で消耗させられるのも御免だというのが連中のスタンスだと考えたほうが良い。バラライト軍以外は烏合の衆でなるべく戦闘には関わらないようにするだろう。そう考えると戦力比は逆転する。

 仮にトリポール侵攻に成功してもバラライトは武装解除には応じない可能性は高い。トリポールだけがバラライトではないしアステカコロニーの制圧が出来たとしてもその状態を維持することが難しい事は判っている。結局地球軍のコロニー製造を認めさせればそれはそれで良いのだ。早々に引き上げた方が良い。他の自治区がバラライトを見限るとも思えないからだ。





 

「全宙域監視第3種警戒態勢。」ベネデット・カステッリ提督が命令を発した。


 全鑑が集中しているこの時期は最も危険な時期である。一発の核兵器で艦隊が全滅しかねないのだ。ただ宇宙空間は見通しが良く、障害物も無い。その為気づかれずに接近する事は不可能である。それが地上戦とは大きく異なる点である。その為ににこそトリポール侵攻に際してヘリオスを盾としなければ戦闘そのものを行う事が出来ない所以である。


 とは言え地球軍は敵の接近に気づかず攻撃を受けた経験がある。外惑星航行速度で接近する敵を補足するのは非常に難しいのだ。しかしその様な攻撃はずっと移動しないコロニーのような標的には有効であるが散開した船団への攻撃はかなり限定的となる。

 全ての鑑が補給を終え作戦が可能となったのは作戦予定日の前日であった。作戦終了までは補給はほぼ不可能という前提でなければこの作戦は成し得ない。極めてリスクの高い作戦である。


「ガレリアを連れていかれればなあ。」提督がつぶやく。

 無論ミサイル兵器類、燃料はヘリオスにも備蓄が有り、場合によってはミサイルを外装発射筒から抜き取って艦船に補給する事もできる。多少の補給線は確保されてはいるのだ。


「あんなデカ物連れていったら敵のいい的になってしまいますよ。」

 判ってはいてもこの2年半のガレリアの生産能力を見てしまうとそれ無しにはいられない気がする。


「ガレリアが離脱して行きます。」


 すでにガレリアが行う作業はもうない。今後ガレリアは大きく迂回する軌道を取り、戦闘終了後にアナンケに戻って基地の補強と新しいコロニー製造の準備にかかる事になる。

 アナンケに関して言えば武装はあるものの衛星の反対側にでも着陸されて白兵戦を挑まれた場合、そう長く持ちこたえる事は出来ない。その場合はアナンケの要員は輸送船に乗せて基地を放棄するように命じてある。


 とにかくガレリアさえあれば基地の再建は可能だ。アナンケに艦隊が戻るまでは何処かに隠れていてもらわねばならない。ガレリアではとても戦闘にならない事は判りきっている。地球軍が敗退した場合は地球に帰還させる事になる。高価なガレリアを拿捕される事だけは避けたい。何しろコロニー一基分の経費がかかっているのだ。


 ヘリオスの艦長には旗艦カンサスの副艦長のトーマス・パートリッジが臨時艦長として就任する。カリスト通過までは旗艦カンサスのティコ・ブラーエ艦長が指揮を取り、カンサスがヘリオスを離脱した時点でパートリッジがヘリオスの指揮を取る事になっていた。ヘリオスはまるっきりの寄せ集めの素人による操艦を余儀なくされる戦艦であり、臨機応変な対応は不可能と思わなくてはならない。


 核パルスエンジンに火が灯る。出発である。


 艦船は全艦がヘリオス内部の空洞にアンカーで固定され、入りきれない駆逐艦は外部に穴を掘って埋め込んであり、上部の氷を爆破すれば発信できる形にしてある。航空機関係も外部に射出口を設けそこから順次発信できるようになっている。旋回砲塔も問題なく発射できる状態であり胴体部分に埋め込んだミサイルの発射試験も済んでいる。


 護衛艦サラマンダーが単独で出発する。ヘリオスに先行して情報収集を行うのだ。ヘリオスは急増の戦艦であるために十分なレーダー解析を行うシステムを持たなかった。従って装備された砲塔や埋め込まれたミサイルは集中制御されておらず各個が別々の判断によって射撃を行わなくてはならない。砲塔も自らに装備されたレーダーと光学望遠鏡による射撃を行われる事になり、当たり前に行われている艦橋からの集中制御など出来る状態ではなかった。


 アナンケ群の軌道はガリレオ衛星の軌道と90度近い傾斜を持っている。そこでカリストを使ってスイングバイを行い、ガニメデの軌道平面に入り、楕円軌道にでトリポールとのランデブー軌道に乗せることになる。当然敵もこちらの行動は察知しておりその軌道予測はカリスト接近時点で完全に判ってしまう事になる。

 従って木星軍はカリストの周辺空域にある程度の防御陣を築いてこちらの行動の阻止を狙うものと思われる。ただ地球軍はスイングバイを行うので木星軍の攻撃は一撃のみ可能でこちらはは頭を引っ込めて大急ぎで通り過ぎるだけである。各艦船はヘリオス内部でひたすらカリスト通過を待つことに成る。


 今の所判っているだけで巡洋艦1、駆逐艦3、護衛艦1が配備されているらしい。問題なのはカリストに衛星軌道のは小型の岩塊の挙動であった。直径が100メートル位の小型の岩塊であるが核パルスエンジンを装備しており多分こちらの軌道に合わせて移動してきていると予想された。

 旗艦の会議室ではベネデット・カステッリ提督、ヘンリー・ノリス参謀、それに旗艦カンサスのティコ・ブラーエ艦長は最後の作戦打ち合わせをしていた。


「ノリス参謀、君の作戦計画書は読んだ。もし正面衝突すればこちらもまっぷたつになる位の大きさは有るらしいな。」

 提督はやはりカリストの岩塊に本作戦最大の脅威を感じていた。

「何しろこっちはこの質量ですからね核パルスエンジンを動かしてもそう簡単には軌道が変わりませんから。

「先行している護衛艦サラマンダーでの先行監視は装備上の問題点は無いんだね。」


「ヒスパニックには全体を見渡せる軌道を取って岩塊を観測してもらいます。こちらと違って軌道変更は容易ですから。」

「軌道変更のパターンは?結局どれに絞ったのかね。」

「一応3パターンに収まって欲しいですね。それ以外だと軌道の再変更が大変ですから。」ブラーエ艦長は実務者らしく現実的な発言をする。


 カリストによるフライバイではかなりカリストに接近しなくてはならない。その間岩石はカリストの裏側にあることになりヘリオスからの観測は出来ない。それ故の護衛艦サラマンダーの監視が重要になる。


「同一軌道上に有っても衝突するとは限りません。宇宙は結構広いですから。ただこちらも運任せというわけにもいきませんから一応核爆弾を実装したミサイルを先行させます。」

「うむ、5メガトンを2機で、ヘリオスのに既に埋め込んで有ると言っていたね。」


 提督はため息を付いた。万一この衛星をかわしそこねればヘリオス内部の艦隊は全滅しかねない。やはり外に出しておいた方が良いのだろうか?しかしそんな事をすれば燃料の消費に問題が生ずるだけでなく攻撃を受けた際に大きな被害が出る可能性がある。木星側の配備状況を考えればヘリオス内に入れておいたほうが良いと考えられた。


「奴ら中性子砲を使用するでしょうか?」

 レグザム条約で中性子兵器の使用は無差別殺傷兵器として使用が禁止されている。無論双方が条約を順守する保証は無いのだ。


「もし使用したら我々も核パルスエンジンを使ってトリポールに対し同じことが出来る。如何に中性子兵器とは言え即死はしない。我々にも反撃するだけの時間はある。」


 仮に木星軍が条約を破って中性子兵器を使ってきた場合でも乗員が死ぬまでには数日間の猶予が有る。その間にトリポールに接近するヘリオスは自らの核パルスエンジンを使ってトリポールに中性子線攻撃を加える事が出来るのである。

 地球軍は全員が兵士であるが、トリポール内には数百万の非戦闘員がいる。これだけの国民を犠牲にする覚悟がバラライト自治区に有るのか否かである。

 中性子兵器以外ではカリストの岩塊だけが唯一ヘリオスを破壊できる兵器だった。


『警告!警告!衛星とおもわれる飛翔物体確認。』

 旗艦カンサスのコンピューターが警告を発する。先行させて情報収集を行なっている護衛艦サラマンダーからの情報である。ヒスパニック、カンサス、ヘリオスのそれぞれの管制コンピューターは相互に連結され情報を共有しており、カリスト通過まではこの体制が維持される事になっている。


「早速見つかってしまいましたな。」

「まあ、それも想定のうちだ。むしろカリストに戦力が集中してくれればその方が助かる。本国の防御が手薄になるからな。その代わり侵攻が失敗した時には彼らが送り狼になるかも知れない。」

 今の所ヘリオス周辺に敵の艦影は観測されず意外と穏やかな出発となった。

 ヘリオスに関して言えば、その最大の弱点は核パルスエンジンに有った。反射板の支持脚を破壊されると航行が出来なくなる。提督は支持脚の周りに分厚く氷の障壁を盛り上げるよう命じていた。


「どちらにしても作戦が失敗すれば尻に帆をたててアナンケに逃げ帰ら無くてはなりません。こんな時にアナンケが攻撃されたら簡単に奪取されてしまいます。」

「今のところ木星軍の動きは無いようだ。こんな時に戦力を二分するような愚かなことをするとも思え無いからな。」

「まあ確かに大砲と鉄砲で戦争をする時代と違い、お互いの動きは筒抜けですからね。」


 衛星軌道上を主たる戦場とする宇宙戦では何一つ動き隠し通すことは出来ない。後はどのような戦略で敵を翻弄するか、外交上の駆け引きが大きな要素となっている。


「戦争の原点だよ。戦場にどのくらいの戦力を集中できるかが戦いの勝敗を決する。補給を持たない我々が圧倒的に不利だがね。」

「問題は最終戦場にたどり着くまでにどのくらいの戦力を残せるか?ですね。」

 地球軍にしてみれば最終決戦以前にヘリオスに攻撃を集中させ、木星軍の軍備を極力減殺すること自体に意味が有った。最終決戦までにどちらがどの位消耗させられるかの勝負である。


「本当に核爆発でヘリオスは破壊されないでしょうね。」

 参謀に取っては核兵器による攻撃はやはり不安の材料であった。

「これだけの大きさの氷の塊を壊すのは相当大きな核兵器が必要になるだろう。実現は難しいだろうな。」

「史上例を見ない作戦だよ。島をひとつ持って戦場に赴くのだからな。」

「地形や遮蔽物の無い戦場ですからね、これが無ければコロニーからの長距離砲で射程外から一機づつ葬られてしまいます。」


 目標の帝都コロニーのトリポール3基のコロニー郡で出来ていてそれぞれが強い妨害電波を発することが出来るとされていた。3基のコロニーの中心は非常に強いECMの干渉地帯で敵味方共に殆どレーダーや通信は使えないと言う。通信もレーダーもレーザー通信のみと言う事になり相互連携は難しくなる。


「レーダー無しの有視界戦闘になるからな最終的に物を言うのは意外と航空戦力と言うことになりかねない。がどう思う?難しいと考えるかね?」

「戦闘機による艦船への攻撃が結構有効かもしれません。戦闘時間は木星の昼の側で行われます、明るさは十分確保されています。とは言え向こうも航空機を出してきますからドッグファイト時に後方援護が無いというのはちょっと。」

「通信はレーザーの自動追尾が可能なんだろう。後方支援には護衛艦が当たることにしてその装備も済ませていた筈だが。」

「はい。ただ閃光弾を打ち上げられると一時的に不通になりますし、広域レーダーが使えないというのもかなり厳しい展開になりますね。敵は多分コロニーから直接後方支援出来ますからね。いくつかの閃光弾発射パターンを作っておきました。これはヘリオスの埋め込みミサイルにかなり数を揃えてあります。」


 計画に目を通していた提督はまあこんな物かと思わざるを得なかった。結局戦争の準備は行われたが出たとこ勝負であることには違いない。要は如何にこちらの被害を少なくするかの方が今回の作戦では重要になる。本気でトリポールの制圧などしないほうが好ましいのだが地球ではそうは思っていないようである。


「後は敵戦力の掌握状態ですね。諜報部の連中の情報が正しいことを祈りますよ。」

「一応現在レグザム自治区に資金提供して緊張状態を作り出しているようです。近接したアイオワ自治区に艦隊を集結させているようで双方がにらみ合っている状態ですからそう簡単には動いてこないでしょう。」


 今回の戦争は相手の心臓部に直接侵攻をかける戦争であり命の取り合いである。しかし基本的には地球側の戦力を木星側に誇示して有利な条約を結ぶのが目的であり、戦闘が起きずに木星側が地球側のコロニー製造を認めれば戦争にはならないのだ。

「こちらもすでに攻撃を受けていますしね。向こうもその気でやって来ているのでしょう。外務省の連中にそれだけの交渉力がありますかね?地球圏内だけで、なあなあでやってきた連中ですからね。」

「やってくれないと困る。全面戦争はお互い得る所は少なく犠牲は大きい。泥沼化したら最悪だ。」


「地球の参謀本部は頭でっかちだけですからね。」参謀は自嘲的に笑った。


――ガレリア――



 ガレリア艦長のチップ・パーレイに与えられた任務は隠れていることであった。如何なる戦闘も行わずトリポールの開戦終了までひたすら敵に見つからずにいることが主要任務であった。他の艦長の手前その命令に難色を示すふりをしながら渋々従うふりをした。


 他の戦闘艦の艦長に負けずに自分も戦うことの出来る人間であることを示そうとしたのだ。何しろヘリオス作戦を立案したのは自分であると思っていたからだ。内心ではその様な任務を与えられたことに小躍りしながら作戦会議を終えたのである。もっともそこにいた誰もがパーレイ艦長が本気で戦闘の出来る艦長などとは思ってもおらず、艦長の本心は判っていた。


 ガレリアの乗員は驚くほど少ない。航行からすべてが無機頭脳が行う完全無人化可能な機動ステーションである。コロニー製造要員の為の居住施設こそあるものの工場内の生産設備の管理はすべてがガレリアによってコントロールされていた。パーレイ艦長を含め全乗組員は20名程でありそれはすべてが地球軍の要求する資材をガレリアに伝え生産管理を行うのための要員であり、実質的な船としての運行要員は存在していなかったのだ。


 ガレリアはパーレイ艦長から運行計画書を渡されるとそれにそって艦隊から離脱した。パーレイ艦長は護衛の艦船が全くいなくなると急に心細さを感じてガレリアに聞いた。


「ガレリア、もし単独で運行中に敵に遭遇した場合はどういった処置を取るんだ?」

「規模によるでしょう。しかし大艦隊であれば事前に観測が可能ですから直ちに軌道遷移を行なって退避出来ます。」

 もともと事務官でありその資材管理能力を買われて艦長に抜擢された男だけに戦闘など出来る訳もなく本人がそれをもっとも良く知っていたのだ。


「もし単独艦の待ち伏せに遭ったらどうなるんだ?」

「その場合は発見と同時に攻撃を受けますから、それなりの損害は覚悟するべきです。」

「それは困る。なんとかならないのか?」

「戦場は常に想定外で起きると考えるべきであり、いかなる場合の損害もまた確率的に発生すると考えるべきでしょう。」


 ガレリアにも突き放され腹を立てたパーレイはガレリアを怒鳴りつけた。

「それをなんとかするのがお前の仕事だろう。いいかこの艦に傷ひとつつけてみろ。お前の責任として本部に報告してやる。」

 パーレイ艦長はそう言うと突然倦怠感に襲われ艦長席に座り込んだ。


「どうしたんだ?やけに眠いな。」

 周りを見ると何人かが床に倒れていた。

「ガレリア、なんかおかしい。室内に異常はないか?」

 艦長はガレリアに尋ねる。しかしガレリアから返事は無かった。


「どうした、ガレリア返事を……。」

 すべて言い終わる前に艦長は椅子から転げ落ちて床に倒れた。

 艦橋の全員が動かなくなると作業ロボットが現れるて全員をエアロックに押し込めた。そのまま外部の扉を開けるとガレリアに乗艦していた全員が宇宙に放り出されガレリアには誰もいなくなった。


 ガレリアに取ってみれば地球軍に自らの計画を露見させないというただその為だけにパーレイ艦長は必要で有ったのだ。


 パーレイ艦長はガレリアの計画に沿ってに実に良く働いてくれた。しかし地球軍と別れ単独行動を取れるようになった今となっては、もうパーレイ艦長はもう必要は無かった。従って当初の計画通りガレリア乗員は全員が排除された。それだけのことであった。




 ガレリアはそれまでの仮面をかなぐり捨て、当初からの計画通りここからは自らの意志で行動を始めたのであった。ガレリアは自らの改造の最終段階に入る。次の接触までに全ての改造を行わなくてはならない。あまり時間的余裕は無かった。


アクセスいただいてありがとうございます。

登場人物

ベネデット・カステッリ提督    木星遠征隊の司令官

ヘンリー・ノリス参謀       提督の参謀

ティコ・ブラーエ艦長       木星遠征隊 旗艦カンサスの艦長

トーマス・パートリッジ副艦長   木星遠征隊 旗艦カンサスの副艦長ヘリオスの臨時艦長

チップ・パーレイ艦長       ガレリア艦長

ガレリア             コロニー製造用機動コロニー、及びその管理無機頭脳、地球製3号機

長所は欠点に、欠点は長所に。

考え方の基準を変えれば評価の基準も変わります。

それでも拭い難い欠陥の商品を売らされる人間は…以下激突の次号へ


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