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星のゆりかご ――最強の人工知能は母親に目覚めちゃいました。―― 作者:たけ まこと

第三章 ――育  成――

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木星遠征軍

――9年後木星遠征軍――

「やはりトリポールへの攻撃を地球から進言して来たようです。」

「次の補給では戦艦2隻を含む機動艦隊と海兵部隊1000人と突撃艇2艦をを送ってくるそうだ。戦争をしろと言うことだよ。全く本部の連中と言うのは戦争をしたがるものだ。」提督は憮然としていた。

「自分が戦う訳ではないですからね。しかしいったいどうしろと言うんでしょうか?艦隊で侵攻してもはるかにエネルギー供給力に勝るコロニー据付レーザーでこちらの射程外から打ち落とされますよ。」
「そのことだがガレリアのパーレイ艦長から地球本部に作戦計画書の提出があった。困ったことにこの作戦計画書がいたく地球本部に気に入られたらしい。」
「彼から?」

 パーレイ艦長は補給部隊上がりで資材管理は非常に優秀な男ではあるが作戦計画など立てられる人間ではない。ヘンリー・ノリス参謀はその事を良くしっておりまさかという思いがあった。

「ま、ガレリアの提案だとは思うがね。アナンケ群にある小さな衛星のひとつを改造してトリポールに侵攻する盾にすると言うものだ。」
「コンピューター。衛星改造計画書をモニターに出してくれ。」
 提督はコンピューターが聞き違いを起こさないように大きめの声を言葉の区切りをはっきと発する。

『了解しました。』戦艦に搭載されているコンピューターが答えると会議室のモニターに計画書が映し出された。
「まさか!?小さな衛星のひとつ持って行くんですか?100億トン以上ありますよ。」
「何を言っているんだ彗星の捕獲は実用化されてからどれぐらいの実績が有ると思っているんだ。今度来る核パルスエンジンをこの衛星に取り付けるんだ。」

「しかし加速度は微々たる物でしょう」
「それでも時間をかければ軌道の遷移は可能だ。カリストを使ってフライバイを行なって軌道を変えればガニメデの軌道平面に乗れる。楕円軌道に投入してそのままトリポールに接近するんだ。」

 モニターには軌道が示されている。

「衛星としてはアナンケ衛星群のひとつであるヘリオスを推薦している。アナンケから比較的近く軌道要素もアナンケと殆ど同じだ。ここしばらくはアナンケから遠ざかることはない。アナンケを空っぽにしても直ぐに戻ってこれる。」

 ヘリオスを改造してトリポールに攻撃をかけるということはアナンケの防衛を放棄することになる。多少の武器を置いていくことは出来るがトリポール攻略戦となれば総力戦にならざるを得ない。アナンケの防衛に残せる船舶は殆ど無いだろう。

「総力戦は向こうも同じだろう木星軍も艦船にそれ程余裕が有るとは思えないがね。」
「しかしカリストはレグザム自治区のコロニーが3基が軌道上に有ったはずですね。」

 このミッションのネックはレグザム自治区が有るカリストをフライバイして軌道変更を行わねばならないことに有る。レグザム自治区の勢力圏内の真ん中を通過する事になるのだ。
「無論地球側でレグザム自治区との交渉が行われる。レグザム自治区には相当の飴玉をしゃぶらさなければならないだろうな。」
「レグザムが乗りますかね?」

 この誘いに載ることはレグザムにとっても非常なリスクとなろう。もし地球軍が敗退したらレグザムも事実上バラライトの傘下に入らざるを得ない。
「それは地球連邦の外交能力にかかっているわけだ。まあどの位レグザム自治区との取引材料に魅力があるかということだろうな。あてにはできんが外務省はやる気だそうだ。」
「そうなりますと後はその為のエネルギーですね?」

 参謀は軌道要素による運動エネルギーと燃料である重水素の量を暗算で見込んでみた。

「現在までの重水素の生産量と今後の備蓄量の予想だそうだ。」提督はリモコンでデータを送って行く。
「ふうむ。結構な量ですね。」自分の暗算を大きく上回る量がそこには書かれていた。

「侵攻の予定は1年後、それまでの期間を使ってガレリアは武器と旋回砲塔を作るそうだ。」
「旋回砲塔?この衛星に取り付けるんですか?」
「核融合炉を一基持っていきそれを衛星に設置する。それ使えば十分に戦艦並みの出力のレーザー砲塔を稼動させられる。」
「つまりこの小惑星そのものを巨大な戦艦として使用するつもりですか?驚いたな。こんな物破壊出来ませんよ。と言うか軌道投入に成功した段階で誰も止められないでしょう。」
「それに必要な装備と備蓄エネルギーそれに生産計画まで詳細に計算されている。」提督は更に計画書を進めて映しだした。

「これを彼がねえ。」
 参謀は不快そうな顔をした。自分達を差し置いて直接地球に計画書を提出したパーレイ艦長のやり方は参謀としては許しがたい部分では有った。

「まさか!ガレリアだよ。彼にそんな物は作れない。彼がやったのは書類の装丁を整えるくらいさ。」
 そうは言ってもこれだけの資料を作成するとなれば自分でも結局はガレリアに頼らなくてはならなかったであろう。こちらの資料請求をもったいぶって受け付けるパーレイ艦長の顔を見るのも同じくらい不愉快だったろう。

「これをベースに実際の作戦計画を練るのが君の仕事だ。」
「ふうむこれはすごいですね。ガレリアにこんな能力が有ったとは。」
 確かにグロリアも優秀なコンピューターだがコロニー管理用に作られた物を戦術用に作り変えるにはサブルーチンとデーター関係を変え無くてはならない。何にでも使える汎用型というわけには行かないのだ。

「今後はあの無機頭脳を大型艦に順次装備する計画が有るそうだ。そうなれば作戦計画の検討がはるかに早く行えるようになるかもしれない。」
「確かに無機頭脳は今後の人類発展の鍵になるかもしれませんね。」
 こう言いつつもノリス参謀はこんな頭脳が台頭してきたら自分達の立場はどうなるのだろうか等と考えてしまった。

「ガレリアの艦長就任に難色を示していたパーレイ艦長もお陰で鼻高々だろう。まったくすごいものを開発したものだよ。」参謀の気も知らずに提督は続けた。

「しかしこの作戦は大きなネックが有りますね。カリストには確かレグザム自治区がコロニーを作り始めた頃に連邦もコロニーを作るために小さな衛星を一個持っていったはずですよ。」
「その通りだ。結局連邦はコロニーを作ること無くカリスト軌道上に衛星を置き去りにした。つまりレグザム自治区に対する威嚇をする為にだ。」

 つまりもしレグザム共和国に不穏な気配が見えた場合その小衛星をコロニーにぶつける事が出来る訳だ。
 無論これは地球時代に核兵器を装備してお互いに威嚇しあう体制と同じで実行は不可能だろう。百万人オーダーの死者が出る。その重みに耐え切れる者がいるだろうか?

 しかし我々は違う。我々は軍人だ。民間人と違いお互いがお互いを殺しあう対象となる軍人なのだ。お互いを殺すことに躊躇を覚える軍人はいない。カリスト通過の際は確実にこちらの軌道上に衛星を移動するだろう。

「確かその時の核パルスエンジンがまだ衛星に付いたままだし、常駐の監視員もいたはずですよね。」
「この問題の本質は連邦内の階級闘争の結果だよ。連邦は卵子移民の子供を下級市民として位置づけているんだ。それに不満を唱える人間が集まって作った自治区だからね。こちらに引きこむには格好の自治区だ。」

 木星連邦政府の専制的なやり方に不満を持つ者は多くいるが、連邦を支配しているバラライト家はトリポールに本拠を起き施政を行なっている。如何に不満があろうとも市民は彼らに手を出せない位置にいるのだ。
「トリポールはそれ自身要塞ですからね。あそこを落とせばバラライトの勢力は大きくそげます。後は地球の仕事だ。5つ有る自治区をお互いにいがみ合わせてこちらに引き込んで経済ブロックを形成させる。その辺がこの戦争の出口戦略何でしょうね。」

 参謀は戦術を考えれば良い。戦略を考えるのは本国だ。しかし一番良いのは外交力で敵を分裂させ戦うこと無く戦争を終結させる事だ。自分の仕事が無駄に成るのが最も好ましい事であり、参謀の仕事は報われない方が良いとヘンリー・ノリス参謀は理解していた。
 自分の立てた作戦計画の失敗は数百人数千人の死者であがなわれるからだ。

「反バラライトの急先鋒はレグザム自治区だがいかんせん経済力が低い。元々移民出産の子供達が集まって作った自治区だからな。他の自治区では嫌がってやらない仕事を請け負ってやってきた。彗星捕獲事業なんかいい例だよ。」
「しかしコロニー製造技術を持っているのはコロニー公社以外ではあそこだけだと聞いていますが?」
「彗星捕獲事業から彗星の資源抽出事業への転換は必然だったからね。コロニー製造技術へのハードルは高いが死に物狂いで取り組んだようだ。それ故バラライトとの確執が激しいのさ。」

「それでもコロニー管理コンピューターは地球に押さえられている訳ですから、実際のところバラライトはレグザム自治区を直轄地区に編入したいところでしょうな。」
「地球は彗星が欲しい、木星は地球製のコンピューターが欲しい。バーター取引とはいかなくなってきたんだ。何しろいまや彗星捕獲事業の70パーセントを請け負っているのはレグザム自治区だけだからな。」
「そのレグザム自治区がコロニー製造技術を確立したらバラライトも心中穏やかと言うわけにも行くまい。」

 バラライトの力の源泉はコロニー公社である。コロニーを製造し住民から居住費を取って貸し出している。その賃料が莫大な富を生み出すのだ。
 コロニー製造は独占企業であり競争相手がいない。しかも政治機構とマスコミは完全にバラライトが抑えきっいる。ところが最も下層階級にしておきたいレグザム自治区がコロニー製造技術を獲得してしまったのだ。

「地球側は彗星捕獲事業の直接取引きとコロニー製造技術の譲渡あたりをえさにしているだろう。他の自治区も同様だ地球側としては彗星が捕獲事業を大幅に増やしてもらえればどこと取引しようとかまわないんだからね」
「木星にはこれだけ揮発資源の豊富な衛星を数多く持っているから彗星を捕獲する必要はありませんからね。」

「考えてみればひどい話だ木星の交易権を独占し、危険な彗星捕獲を下請けに出し、自らはその上前をはねるだけでコロニー維持に必要な地球製品は高く売りつけるし、コロニー管理の名目のでコロニー公社の出張所に牛耳られているんだ。
 各自地区は自治とは言っても官僚機構はバラライトに押さえられている。不満は大きい筈だが果たしていくつの自治区がこちらに寝返るかだな。官僚機構に負けない議会があれば良いんだがね。

 外交取引に関して言えば決して地球側に分がない訳ではない。その辺の切り崩しの出来る外交が出来るか否かがこの戦争の帰趨を決めることに成るだろう。戦争はしなければその方が良い。参謀はそう思った。

「アナンケ基地の進捗状況は?」
「現在居住区の80パーセント工場施設は10パーセント生命維持関係の工場を優先していますから現段階での受け入れは可能です。」
 この一年間かけてアナンケの地下基地建設を急ピッチで行なってきた。既に軍港施設もほぼ形が出来てきて係留や補給などは部分的に出来る状況にある。しかし肝心のコロニー建設は全く目処が経っていない
「そうか………」提督は椅子に深くもたれかかった。

 半年後地球からの補充要員が到着する。少なくとも彼らの生存は保証出来る所まで来た。
 木星到着から1年半、本来交代要員となる人員であったがあえてそれに陸戦隊員の補充を要請していたのだ。すでに何度かの攻撃を受け少なからず被害も出ている。
 一方外交努力もしているようであるが成果は全くと言っていい程出ていない。木星政府が攻撃を認めていないのである。従って交渉は全く進んでいないのだ。

 外交官はレグザム自治政府とも交渉を続けている。彼らが彗星捕獲業務を請け負ってくれれば問題は前進する。しかし現実にはそれを契約すれば木星政府に侵攻の口実を与えるようなものであり、なかなか出来なかった。
 何しろ木星政府のプロパガンダによりレグザム自治政府は悪の枢軸国、テロ支援国家と呼ばれているのだ。

 乏しい財政の中からかなりの額の軍事費を捻出しなくてはならないが、購入する兵器はバラライト製なのが現状を良く物語っている。バラライトの支配下から抜け出せない現状では経済成長は厳しい状態で有る。自治政府とはいっても自前のコロニー3基でコロニー群を作っている貧乏自治区なのだ。

 それでも独自技術の開発と彗星捕獲事業、それにコロニー製造の下請けとして、木星政府や地球政府との交易で何とかしのいでいる。地球政府も木星政府に対する牽制としてレグザム自治区は援助している。しかし木星政府に対する手前地球連合政府との同盟には慎重であった。実際問題としては開戦の折に少なくとも木星政府との軍事同盟の意志が無い事だけは確認出来ていると言う位であった。

「レグザム自治区からの支援は得られそうにないな。」提督は悲観的であった。
「そうなるとこちらの単独作戦となりますね。」
「軍事力比較はどうなんだ?」
「木星連合の全艦船との比較では3対1位ですが向こうも全艦船を一箇所には集められないでしょうからどうでしょうか?性能,装備では我が方が圧倒的に有利ですが。やはり数の面ではいささか。」参謀が渋い顔でをする。

 戦争というのは予想される戦線に予想される時間に双方が出来る限り多くの戦力を結集し、予想される時間だけ戦って勝敗を決する物だ。数量的に上回られた場合は補給に対する不安が有る分地球軍らが不利であった。
「しかし,兵器,弾薬,燃料は備蓄は順調です。ガレリアの工業生産能力は予想以上に大きいものです。」
「それはコロニー建造をあきらめ工業用機械の製造予定を先延ばしにした結果だからね。」

 ガレリア発案の掘削装置の性能は地球製を遥かに凌駕しており、原材料としての星の掘削が思いのほか順調であり、基地として使用出来る空間の確保は順調であった。しかも精錬した原料のストックはかなり出来た。後は製造機械関係を設置していけばこの基地の自給自足は可能になる。

「燃料、食料は自給自足まで出来るようになったが兵器製造が出来なければ永久基地には出来ないからな。」
「さよう、早めに重力区画も作らなくてはなりませんしね。」
 アリストの重力は地球の約十分の一程度なので長期的なカルシウムの流出は避けられない。仮設の重力区画を作ってはいるが需要には足りていない。兵士の休息用にはガレリアの重力区画を使用せざるを得なかった。

「義務付けられている定期トレーニングは我々年寄りにはきつくてな。」
「週一回の交代制ではカルシウム流失は止められませんよ。」提督に比べればかなり若い参謀は笑いながら言った。
「補給艦の建造はどうなっている?」
「3隻目が就航しています。しかし防弾等の設備までは出来ませんから燃料タンクにエンジンと操縦室を付けた程度の船です。」
「それでもこの時間内に作れただけでたいしたものだ。」
「まったくガレリアの能力には脱帽ですな」

 コロニー外壁のように大量生産が可能なものであればともかく船一隻を作る場合は部品点数から言っても非常に効率の悪いものになってしまうのだ。しかしガレリアはいとも簡単にリクエストに答えてしまった。
「さて話を戻すが。そうなると侵攻作戦に必要な備蓄が整うまでの時間はどの位だ?」
「やはりあと半年くらいの時間が必要です。それだけなければ十分な兵器の備蓄に自信が持てません。」

 一度作戦が始まったら補給は出来ないのであり、成果がでなければ直ちに撤退しなくてはならない。要するに戦争に勝てなければとっとと逃げ帰らなければ要塞としてのアナンケを奪われる危険があり、補給工場としてのガレリアに原料を補給できなくなる。
「やはりヘリオスにガレリアを連れて行くのですか?」
 ヘリオスに連れて行けばそれだけ補給物質の製造に支障が出る。参謀はそれを心配していた。

「無論だヘリオスの改造にはどうしてもガレリアが必要だからな。」
「しかしアナンケの核融合炉を一基外して持っていくのは。」
 ヘリオスの兵器を稼働させるためにはどうしても大型の核融合炉は必要であった。アナンケに有る2基に核融合炉のうち一基を持ち出せばもし残る一基が故障すればアナンケの放棄につながりかねない。しかもヘリオスはこの作戦が終了時に回収出来れば良いが現実は難しく、回収できても何年も先になると予想された。

「やむを得ない。作戦が終了すればガレリアが戻るから作ってもらうさ。」
「ヘリオスで侵攻を始めた後ガレリアをどうするつもりですか?アナンケに戻しても我々が戻ってくる前に木星軍に急襲されたら今のガレリアでは小艦隊でも拿捕されちゃいますよ。」

「それはアナンケも同じだ。もっとも作戦が成功すれば問題ないし、不成功でも我々が戻ってきて来れば奪還は難しくなかろう。アナンケ関して言えば戦略上の要所ではないしな。だからガレリアにはどこかに隠れていてもらって作戦終了後にアナンケで我々と合流する事にするしか無いだろう。」
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戦争をしたがるのは絶対に戦争に行かない人間たち
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サラリーマンも同じです、グスッ…以下不信の次号へ

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