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星のゆりかご ――最強の人工知能は母親に目覚めちゃいました。―― 作者:たけ まこと

第三章 ――育  成――

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宣戦布告

――8年後遠征軍――

「ピッ」音がして定時観測の結果が出た。

「まただな。」
 情報処理係が表示された画面を見て言った、前回の写真に無かった光点が写っている。
 多くの場合は氷の破片であるがスペクトルを調べれば直ぐに判る。この光点は人工物である。

「これで3回目だな。」
「見つかったと思うか?」
「そうだな……。」

 一時間毎に全天空の写真を取る。同じ場所の写真を反転して重ね合わせると移動する天体が浮かび上がる。木星の衛星を除くと残るのは未確認天体と言うことになる。つまり偵察衛星である。

「まあ敵さんも大きい衛星から順番に調べるだろう。」
「もう少し小さいのにしておけば良かったんじゃないか?アナンケと言えば木星でもかなり大きな衛星だからな。」
「コロニー群を作るとなればある程度重力のある衛星でないと衛星軌道上にコロニー群を作りにくいからなあ。」
「上のほうに報告を出しておこう。」

 地球艦隊がアナンケに到着して半年程過ぎ、基地は順調に作られていた。
 木星連邦と交戦状態になった以上常に攻撃の危険性が有った。自分たちの場所を知られることはその危険が現実に成ることを意味する。
 艦船はアナンケの破孔やクレーターに隠れているがガレリアや核パルスエンジンは隠しようが無い。アナンケにアンカーを打ち込み地表近くに係留しているが近接撮影をすれば簡単にバレてしまう。

 第2次遠征部隊の装備を決めなくてはならない。元々基地防衛を主目的とした艦隊であるから攻撃能力は少ない上に陸戦部隊は皆無である。交代要員の他に陸戦部隊を要求するか否か決定をしなくてはならない。

「ヘンリー・ノリス参謀長艦隊の格納庫の建設状況は?」
「提督、現在予定の20パーセントです。」
「まだそんな物なのか?ただ穴を掘るだけだろう。」
「掘ったものはガレリアが処理しています。メタンやアンモニアは各工業製品に加工し、余った水は凍らせて建材替わりにしています。掘ったものを適当に放っておけばデブリとなって非常に危険ですからね。今でも掃海艇を使って近くに浮いているこの星の破片を集めているところです。これ以上はそんなものを増やしたく有りません。」

 この規模の衛星ではそれなりの重力が有り、隕石の衝突等で飛び散った破片を自らの周囲に集めてしまうのだ。アナンケの周りにもそういった細かい破片が散乱して軌道上を回っている。
「居住区画は40パーセント程度です。」
「重力区画は?」
「2個の居住ブロックはほとんど出来ています。後はアナンケ側にアンカー施設を作ってエレベーターを設置すれば完了です。あとひと月程です。」

 仮設の重力施設は簡単にいえば大きな箱を2つ作りそれをロープで結びつけで回転させで人工重力を作るの施設である。回転の中心部からアナンケに向かってアンカーを取り付けて係留する。
「しかし重力ブロックをアナンケの外側に作るのでは敵の攻撃に有ったらイチコロだな。」
「やむをえません。内部に作ったら2年はかかります。現在はガレリアの重力施設を使用していますが平均して週1日程度ですからかなり不足していると考えまざるを得ません。」

「兵士の士気と健康を考えればやむを得ない。問題はコロニーの製造にいつごろから入れるかだ。」
「やはりアナンケを自立的基地とするには2年はかかります。現在ガレリアから供給されている食料を基地内に生産設備を作り、燃料の生産設備や艦船の修理用のドッグも必要です。修理ドッグはやはり与圧状態のほうが遥かに能率的ですし。」
「いくつかの設備は地球から持ってきましたがガレリアがいなければ実際の現場に対応するのは難しかったですね。」
「すぐに地球から送ってもらえるわけではないからなあ。」

 提督は地球と木星の距離に思いを馳せる。何しろ地球を出発して木星に着くのに一年はかかるのである。第2次遠征隊の装備品に関して言えばこの時点から計画していなければ間に合わない。

「敵側の索敵状況は?」
「今までに偵察衛星と思われるものが3回ほどかなり遠方を通過しています。おそらく少しづつ軌道をずらしていくつもの衛星を順番に索敵をして来るでしょう。」
「それでも時間の問題だな。」
「半年以上時間を稼げました。まあまあの状況でしょう。」


――それは漆黒の空間にただよっていた。――

 木星軌道上アナンケと同じ軌道を回っているそれは、すぐ近くにアナンケを見つめていた。真っ黒な胴体は電波吸収材におおわれ、レーダーにも光学観測にも存在を知られることはなかった。
 長いこと指令を受けずにただその場に漂っていたそれは、その日指令を受け取った。

 それは密やかに体を回転し、目標を見つめる。木星の衛星アナンケ。そこには巨大な球形の宇宙船、そしてその周りには何隻もの小型の宇宙船の姿が見えた。指令にしたがってそれは目標に狙いを付ける。後は最終指令を待つだけであった。

 最終指令が届くとそれは内部の核爆弾に点火し自らを蒸発させた。蒸発する一瞬の間に核爆発のエネルギーを光に変換し強力無比な光の塊を打ち出した。

『非常警報発令。超高速飛翔物体接近。』艦内コンピューター音声が非常事態を知られる音声を発した。
 「レーダーに感!超高速物体接近!」
 レーダー手がレーダを確認して叫ぶ
「軌道を確認せよ、防衛指令発令!!」

 しかし叫び終わる以前にレーダー手が叫ぶ。
 「距離500、速度25!!」
「なにいっ!そんな近いのか?」
「目標消失!!核爆発です!」
「全鑑衝撃に………!!」

 そこにいた全員が何が起きたのか理解する前に巨大な光の帯がアナンケをかすめる。

 輸送艦一艦が消滅し、数隻が光に接触した。さらに光は地球から艦隊を運んできた核パルス宇宙船のセンターシャフトの真ん中に当たりシャフトをふたつにへし折った。
 全員が状況を掌握した時には全てが終わっていた。

『船団は攻撃を受けたものと推定。被害の報告を願います。』
 艦内コンピューターは感情を交えること無く淡々と情報の報告を求める。

「何が有ったんだ?」
「軌道速度で飛来した核レーザーによる攻撃のようです。」
「被害の報告を!」
 艦橋は情報が交錯する。あまりに急なことに対応が追いつかないのだ。

『輸送艦コボルト交信不能。核パルスエンジン被弾、損害不明。』
「輸送艦コボルが直撃を受けたようです。」
「数艦が被害を受けた模様。まだ詳細は分かりません。」
「状況の掌握に努めよ。レーダー手は2次攻撃に備えよ。コンピューターは全方位第一級観測体制!」

『了解。』コンピューター音声が簡素に答える。

 備えよと言われても発見から数秒で攻撃を受けるのでは何も手を打つことは出来ないだろう。しかしそんな事を理解しながらも全員が命令に答える。

「イエスッサー。」

「どうやらこっちの位置は知られているようだ。」
「無警告で攻撃してくるわけですから今度こそ宣戦布告をしなくてはなりませんな。」

 提督は大きくため息を付く。何の警告も小競り合いも無く、政治的駆け引きも交渉も無しに攻撃を行うのであればそもそも奇襲以前のテロ攻撃と言うことになる。木星連邦は追い詰められた小国ではない。この様な行為に出ること自体信じられない事である。

「ああ,そういう事に成るな。こちらにも損害が出てしまった事だし。しかし何故こんな事をしたのだろうか?」
「向こうさんも内部ではかなりゴタゴタしているようですからね。」

「まさかいきなり核レーザーで攻撃してくるとは思いませんでした。しかしこんな攻撃をしてくるということは同じ攻撃を受ける覚悟があるということに成るのですよ。」
「まさかと言うより考えが甘かったのかもしれない。木星連邦はそんなに主戦派が台頭しているのだろうか?」

 いま外交官が各自地区に対して中立を保つように交渉している時である。そんな時に地球軍に対する無差別攻撃は同時に木星連邦に対する無差別攻撃を容認するようなものである。
 判りきっていることではあるが、コロニーというものは宇宙では脆弱な施設なのだ。装甲が有るわけでもなく岩盤に守られているわけでもない。直接コロニーを目標とした攻撃は事実上タブーなのだ。

「バラライトの主戦派は今回の攻撃で地球軍による各自治区コロニーに対する核攻撃の危険性という状況を作りたかったのに違い有りませんね。」
「各自治区がそんな風に考えるか?先に攻撃したのは木星連邦だぞ。」
「木星ではマスコミが連邦一辺倒の報道をしますからね判りませんよ。」
「やれやれしんどい事だな。5つある自治区の半分が中立を保てば戦わずしてこちらの勝ちだ。それが一番好ましい。我々のコロニーが出来れば6番目の自治区であり木星連邦に所属しない2番めの自治区と言うことになるわけだ。」

 地球連邦直轄のコロニー群が出来れば木星連邦のパワーバランスが大きく崩れる事を意味する。
「条件は地球との交易権ですか?」参謀がポツリと言った。
 戦時下の外交交渉は常に相手に対する利益供与合戦である。どちらがより多くの利益を示して同盟を結ぶのである。

「今までは木星のバラライト交易社が地球との交易を独占してきたからな。」
「今でも交易船は協定でバラライトと地球で3隻づつですよ。」
「だからさ、今回核パルスエンジンを目標にしてきたのはそれが狙いだろう。我々が帰還する時に貿易品を載せる事ができる。其の利権はかなり大きいと思えるがね。」

 木星まで艦隊を送ったということは事実上木星に常駐することを意味する。従ってアナンケを母港として整備すると共にその衛星軌道上にコロニー群を築く。艦隊を送ってきた核パルスエンジンはそのまま地球製の新たな交易船と成る。

「しかしどこもそれ程軽率な行動は取れない。何しろバラライトの勢力は木星圏内では強力ですからね。そんなには簡単には寝返らないでしょう。」
「レグザム自治区だけは確実に中立を保つはずだ。あそこは連邦にも所属していないし勝手にコロニーを作って自治区としたのだからバラライトにすれば安定を崩す邪魔者ということに成るだろう。今回の戦争は地球連邦と木星連邦の戦争だが、どちらにも中立の立場を取る自治区を使って交易は続行される。そういう意味ではレグザム自治区が今回の戦いの鍵となる。レグザムは木星にも地球にもいい顔をせざるを得なくなりヘタをすると双方の代理戦争をさせられることにもなりかねない。」

「なんか、建前と本音の間で中間に置かされたレグザム自治区は戦争の壁にさせられて双方から脅される立場と言った感じですね。」

 戦争なんてのは、本音では国家を支配している金持ち共が自分たちの金を増やしたくてするものである。とても兵士には聞かせられ無いことであるが現実だ。
 金持ちに支配された政府上層部は戦争をしたがるものが大勢を占めている。不戦派の大統領がかろうじてこの司令官を遠征部隊の指令に据えた。軍上層部は戦争が仕事でありその被害の算定を行えるが故に戦争はあまりしたがらないものなのだ。

「それでもわしらは戦争をしなけりゃならん。だから一番いいのは戦わずに終戦を迎える方法だ。だが今回のことでそれも難しくなってきたな。」
「はい、今回の報告をすれば次の便では侵攻用の装備で軍を組織してくるでしょうからね。後はこちらで戦略を検討しなくてはなりませんね。」

「これで当分は帰れないな。司令官の交代は来ないのかねえ?」
「無理でしょう。」
 もし戦争と言うことになれば地球にある参謀本部が作戦を考えて装備を送って来る。戦争においては地球側がイニシアチブを握ることに成る。

「困ったもんだな。地球側はこちらの状況など全く判らずに作戦を指示してくるんだろうな。」
 先が見えすぎるだけに戦争にはしたくないと提督は考えるが、事態は戦争にまっしぐらに向かっている。
 やがて攻撃の解析結果報告された。提督は艦長会議を招集して報告を受け取った。

「それでどんな結果が出ているのかね?」
「はい、敵を発見したのが400キロ先、核レーザーを発射したのが200キロ先、発見から8秒でレーザーが発射されています。したがって相手方の速度は毎秒25キロと言うことになります。」参謀が苦々しく答える。

 このような衛星から身を守る方法は無いのが現実である。

「衛星間軌道ミサイルか。」
「どうやら電波吸収材で覆われていたらしくレーダーによる発見が遅れています。」
「レーザー砲でもその時間内での迎撃は不可能なのかね?」
「いえ、フルオートなら可能ですが、ミサイルでも宇宙塵でもあるいはレーダの影でも発射することになりますね。確認している時間的余裕は有りません。その上砲塔を四六時中稼働させていなくては成りません。エネルギー消費も馬鹿に成りません。」
「向こうの狙いはそれなんだろうな。」

「艦船は全て地表に穴を掘って埋めるか、あるいは破孔に隠れるかしないといけませんね。」
「艦船はいいとして核パルス推進機とガレリアはどうする?両方共埋めるわけには行かないだろう。」
「核パルスエンジンはレーザーにあたっても大丈夫です元々核爆発に耐えられる構造ですから。船体部分をアナンケに向けておけば攻撃を受けてもあまり被害は出ないでしょう。問題はガレリアですが、艦長から外壁に電波吸収材を貼り付ける工事を行うとの連絡です。色も黒ですから光学観測にもかかりません。」

「ガレリアは現在では我々の生命線だ。判ったその方向で頼む。」

 最後に参謀が地球連邦からの最終報告として木星連邦政府に対し戦争状態に突入したとする見解を取ると大統領の談話を発表した。
 宣戦を布告はしないが現在木星と地球は戦争状態に有るとする考え方を取るという極めて微妙な言い回しを取ることにした。
 そこにいた艦長たちは全員が戦争が始まったことを理解せざるを得なかった。

 木星政府は今回も攻撃を否定した。

 地球政府も現段階での宣戦布告はアナンケの改造状況を見るに時期尚早との判断であった。しかし攻撃を受けた以上双方が戦争状態にあるという見解を出さざるを得ず、つまりどちらかが宣戦を布告すれば戦争が開始できる舞台は出来たのである。

 一般に外交官は戦争状態になった場合双方の外交官を引き上げるのであるが、地球と木星はあまりにも距離がありすぎる為双方ともガニメデ衛星軌道上のレグザム自治区に外交官官邸を移した。

 レグザム自治区は双方に対して中立的な立場を崩さず双方の外交官を受け入れた。

 その後双方の間でいくつかの戦争に対する条約を取り決めるに至った。捕虜の待遇や、使用兵器の制限等で、特にお互いが懸念していた、中性子線兵器は、大量殺戮兵器として使用を認めない事で一致した。
 この兵器は核パルス推進を持つ艦船であれば容易に中性子線兵器に転用が可能で有る為、それがコロニーに対して用いられた場合の危険性に対して双方ともに非常な懸念が有ったのであったからだ。

 このような状態の中でようやく戦争に関する条約が出来上がった。もっともこような戦争条約に関して言えば法治国家のようにそれを監視するするのは戦争に参加していない国が行うわけであるが、今回は木星連邦と地球連合の戦争であるから監視できる国家は最も経済力の低いレグザム自治区だけということになり実質的な監視などは無いに等しいと言えたのだ。
 昔地球で起きた戦争においても非戦闘員に対する攻撃と虐殺が行われたのであるが、敗戦国側は戦争犯罪とされたのに対し戦勝国側は英雄的行為となった事実が有る。

 それでも条約の発行によりコロニーに対する直接攻撃は出来ないということになる。
 これに関しては地球側が強く反発し結局トリポールに関してはその全体が実質的に軍事施設とみなすと言う事を木星連邦も認めざるを得無かった。
 結局この条約の骨子は地球軍と木星軍はトリポール周辺空域に置いて雌雄を決するとすることを暗黙の条件としているのであった。

 お互いに作戦条件が確定した事によりそれぞれがその戦略目標に見合った準備を推し進める事になる。つまり明確な目標が出来たのである。
 とはいうもののお互いにその準備の妨害が戦略として内包されている以上いつ攻撃があるかわからない状況下での戦闘準備は非常なストレスを隊員達に与えていた。その為隊内でのいさかいや喧嘩も増えてきた。


 隊員の士気を保つ為にはやはり目前の目標が必要だった。
アクセスいただいてありがとうございます。
国際紛争はヤクザの世界です。
因縁をつけるために自国民を殺して責任を相手国になすりつけます。
それがどうした自分には関係ない…以下欺瞞の次号へ

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