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星のゆりかご ――最強の人工知能は母親に目覚めちゃいました。―― 作者:たけ まこと

第三章 ――育  成――

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アナンケ

――木星8年後アナンケ―― 

 アナンケはアナンケ郡最大の衛星。直径28キロのほぼ球形、軌道傾斜角度149.526゜離心率0.3968軌道半径2、085、225キロ、メタンの氷を大量に含んだ原初の惑星の名残である。
 似たような軌道要素を持った衛星が数十個有りアナンケ郡と呼ばれている。

 アナンケに到着した地球艦隊はアナンケの公転軌道上に艦隊を乗せる。アナンケには地球の10分の1程度の重力があり比較的近距離であれば衛星軌道に乗せることも出来るのでアナンケから少し距離を取り公転軌道に乗せることにした。
 ガレリアはアナンケの軌道上に入ると輸送機を使って機材を下ろし始める。大型の掘削機をセットすると掘削の準備にかかった。

 最初にすることはこの衛星の内部構造の確認である。振動計を設置し振動機を起動させ地震波を用いた衛星の内部構造探査を先行させる。
 ガレリアは結果を検討し、直ちに基地の建設計画をはじき出す。アナンケの大きさの衛星では多少組成の分化が進んいた。表面は揮発成分が昇華、凍結を繰り返していたが意外なほど荒れてはいない。いくつもの隕石クレーターは見られるものの概ね球形をしていた。

 アナンケの表面は大半がメタンとアンモニアの氷で出来ている。その中に30パーセント程の不純物が含まれ、それが金属やケイ素等のミネラル資源で有る。重力による組成物質の分離は少しながら起きており、鉱物資源の濃縮されたコア状の部分は確認されている。
 アナンケは木星連邦によって調査されてはいるが開発は行われていない。ガニメデとはほぼ直角に位置する軌道では資源開発衛星としては使い物にはならない。しかしこの時の調査を元に木星連邦はアナンケの主権を主張している。

 宇宙では手に入る物は全て使用してコロニーを建造する。
 メタンやアンモニアを原料とし炭素繊維補強の合成樹脂板を作りコロニーの外壁とする。C,H,O,Nがあれば大半の物は作ることが出来る。地球で言えば水と空気である。水と空気を原料として地球上の生命は自らの体を作っている。
 しかし生命が生命足りうるためには微量元素としてのミネラルが必要であろ、これがなければ生命は発生しない。しかし逆に言えばミネラルが有るところではエネルギーがあれば生命は発生する。

 彗星にはその全てが有る。彗星に生命発生のルーツを求める学説が出来るのもむべなるかなである。
 エネルギーを核融合に求めることの出来る時代にあっては旧世界の化石燃料の取り合いは起こらない。しかし彗星の確保が不足すればコロニー連合ではエネルギーを地球の海に頼らざるを得なくなる。此処でもやはり資源問題は無縁では済まされないのである。

 今回はアナンケを前線基地として改造するためまずは要塞施設を作らなくてはならない。すでに現状は戦争状態なのである。
 資源確保の為に衛星内を掘り進み、掘り出された氷はガレリアに送り処理される。掘られた空洞の周囲には水を吹きつけて固める。内側に断熱材を吹付け、内装を仕上げ機密ドアを付けると居室となる。別の場所では大きな空洞を作っている。艦船を収容するドッグとなるのだ。何よりも急がなくてはならない事は、自らの命を守る砦を構築することである。

 星の掘り返すと大量の掘削土が出る。通常はこれを元素分離機にかけて資源を分離してゆく。40パーセント程が珪素や硫黄、鉄等の資源となり、残りは水やメタン等である。これほど大量の掘削土を当初は想定されていなかった。しかし驚いたことにガレリアは大型の元素分離装置をアナンケで製造し、これらの掘削土のすべてからの資源分離を行い始めてしまった。

 得られた資源はガレリアの体内で大量の製品に変わっていく。珪素はセラミックパネルとなり基地内部の壁になり、零下200度の壁がむき出しの場所はすでになくなっていた。メタンからは炭素繊維が作られ氷に混ぜて内壁を補強した。零下200度の氷の壁は鋼鉄よりも丈夫であった。
 同様に潤沢な資源は大量の武器に変わりガレリアの内部では24時間あらゆるものが生産し続けられていた。すでに何が作られているのか誰も把握できないほどの製品であふれかえっていた。隊員たちは次から次へと吐き出されくる品物を驚愕の目で見ていた。驚くどの工業生産力であった。

 ガレリア艦長チップ・パーレイは得意気であった。
「どうです提督、ガレリアの性能は、すばらしいコンピューターが搭載されているでしょう。」
 艦長とは言ってもガレリアは完全自立型機動コロニーであり基本的に人員を要しない。メンテナンスすら自動で行う為、単にガレリアに対する生産発注業務を行っているに過ぎない。
 つまり艦長と言う便宜上の役職を与えられ、事務関係と生活関係の乗員が10名程乗っているだけである。運行業務ですら旗艦サザンカの搭載コンピューターの指示通り運行しているのだ。

「艦長、ガレリアは新開発の無機頭脳と聞いているが?」
「どっちも似たようなもんでしょう。」
 カステッリ提督はこの艦長はガレリアの無機頭脳に関してはあまり詳しくないようだと思った。しかし資材管理の能力は高く、ガレリアの生産計画の作成には非常に力を発揮し、生産、保管、出荷の流れは実にスムースに行われた。

「そういえばかのガレリアも未完成のまま送り出されたと聞いているが?」
「未完成ということではなく用途変更に際して新規の工作機械類の設定などがまだなのです。しかしそこら辺もガレリアは自分自身で調整しているようですから心配は有りません。」
 提督はやれやれと思った。艦長たるもの自分の艦の性能を熟知し限界を見定めてこそ戦闘を行えるのである。ましてや戦闘となれば兵装以外の能力のほうが重要になる。この艦長はそう言った事に対しては疎いようだ。しかしガレリアの生産能力に関してだけは熟知しているようで、物流の捌き方は大したものであった。

 外務省からの連絡によると先の艦隊に対する攻撃を木星側は認めなかった。そこでこちらの交戦記録を提示しが、地球側の捏造であるとして取り合わなかった。その上で地球側の艦船が無断で木星連邦の領有する衛星に侵攻するのは侵略行為であるとして強く非難した。

 通常は宣戦布告と共に敵側を攻撃し、大きな被害を与え、戦局を有利にするのが過去の戦争の始まり方である。しかし木星側では一切事実関係を認めない上艦隊にも被害が出ていないので説得力に欠けた。地球側でも宣戦を布告すれば交戦状態が現出する事に成る。地球側としてもあまり好ましい状態とは言えない。

 今回は宣戦を布告すること無く別れたが通常は抗議のため外交官事務所を閉めるのが普通である。しかし木星と地球の距離を考え事務所はそのままにした。今後外交官は各自治政府との交渉のより地球政府の切り崩しが活発化することに成る。
 木星政府に地球艦隊がここにいることは遠くない時期に監視衛星を送り込まれる事によって発見されるだろう。それまでに艦隊を収容する場所を作らなくてはならない。

 衛星から運び出される大量の氷をガレリアは次々と飲み込み建設資材を作り続ける。並行して廃棄物としての水から重水素を抽出し、核融合炉の燃料とする。一方でメタンとアンモニアから。一般艦船の推進剤である液体燃料を合成する。核融合炉による反動推進器を持つ艦は旗艦以下大型船の3隻しか無い。後は化学エネルギー推進の船で有る。

 木星はコロニー集団による自治区を設け連邦政府の形をとっていた。しかし実態はバラライト財団による連邦政府のコントロールが続いており、国家戦略は実質的にバラライト財団によって決められていた。

 そんな中で、地球からの卵子移民の子孫たちが作ったレグザム自治区が5番目の自治区を宣言した。
 バラライト財団が計画的に自治区を増やして行ったのには訳が有る。大きな理由は宇宙は広く大きい。地球と月よりも更に距離の有るコロニー群を、ひとつの政府で統率することの無理を考えた場合自治方式の方が管理コストが安く付くのである。
 自治区の政治的支配は官僚統制を強化し民主政権を装う為の自由選挙を施し実質支配を官僚とマスコミにさせれば良く、経済的に支配さえなされていれば政治的支配は低コストで済むからである。

 もうひとつの理由として、自治区の相互防衛問題としての武装に関してバラライト財団の兵器開発部門は実質的に木星唯一の兵器開発部門であり販売先としての自治政府が必要で有ったのだ。
 その為にマスコミによるプロパガンダを徹底し自治区相互に緊張感を演出していた。
 架空の緊張関係を利用して自治区防衛組織を強化し防衛組織その物を利権化させ、自治政府に働き掛ける様なシステムを作った。

 コロニー入居費は比較的安く抑えつつ莫大な兵器収入と独占的コロニー管理経費をバラライト自治区は手に入れていた。しかしそのような事は普通の市民には判らないことであった。



――アリス-8才――

 オーバーホールの予定日が近づいてくる。アリスは8歳になっていた。しかしまだ一週間も一人には出来る年齢ではない。

 考えあぐねた末にシンシアは自分の変わりのロボットをレンタルすることにした。
 ある日シンシアはアリスにその事を告げた。自分の体はオーバーホールが必要になったので一週間留守にする。その間ヘルパーを頼んだからその人に世話をしてもらうようにと。
 アリスはぐずったがそれでも理解して納得した。

 毎日のお茶会はみんなに説明しシンシアがいない間は中止とした。体のオーバーホールは義体では珍しいことではなく皆理解したようだった。
 フローレンス夫妻はアリスを預かろうかと提案してきたがやはりそれはためらわれた。結局ヘルパーを頼むからと言って断った。

 予定の日になった。レンタル会社からレンタルしたボディにシンシアはログインして家に来る。
 ヘルパーはシンシアとそっくりの体格をしていた。当然のことである。ヘルパーもまた看護ロボットのボデイを使用しておりシンシアはそれを改造したものであったからだ。ふたりは同じ骨格をしており胸の大きさを除けば全く同じ体型で出来ていた。
 シンシアと打ち合わせをする振りをしてアリスと会う。しかしアリスはすぐ気が付いた。

「この叔母ちゃんも魔法を掛けられたの?」
 シンシアは動揺した。8歳の子供にもアンドロイドと人間の区別がつくのだ。

 シンシアのボディで聞く。「どういうことでしょうか?アリス。」
「だってこの人ママと同じだよ。」
「同じって何がでしょうか?」ヘルパーのボディで聞く。

「人間じゃないんでしょ。」
「アリス。そのようなことを人の前で言ってはいけません。相手を侮辱した事になる場合が多いのです。」シンシアのボディで言う。

「ごめんなさい。ママ。ごめんなさいおばさん。」
 アリスは素直に謝った。
「いいのですよ。私の体はママと一緒で作り物の体です。あなたは良く判りましたね。これから一週間ですが仲良く致しましょう。」ヘルパーのボディで答える。
 それを聞いてアリスは怪訝な顔をした。

「それではアリス。行ってまいります。この方の言うことを良く聞くのですよ。
 シンシアはそう言って立ち上がった。
「うん、ママ早く帰ってきてね。」アリスは母親の頬に接吻した。

 アリスは勘の鋭い子供であった。しかしそれ以外は実に素直に育ってきておりシンシアの言うことも良く聞いた。何より母親の事を非常に愛していたようである。
 そんな状態なのでアリスはシンシアのコントロールするヘルパーの女性の言うことも素直に従った。一緒に食事をしない事もむしろ当然の事の様に感じていたのかもしれない。

「それじゃ行ってきます。」
 朝アリスは学校に行こうとしていた。玄関に見送りに出たヘルパーの頬にいつも母親にするように接吻をしようとした。ヘルパーも腰をかがめて接吻を受けようとした。アリスが途中で気が付いて接吻をやめる。赤くなって「ごめんなさい。」といって駆け出した。しかしその朝の事をあとで思い返し何か釈然としない思いに囚われた。

 家に帰ってくるとヘルパーが迎えに出た。家はいつもの通り洗濯した物もいつもの場所に収められている。いつもどおりの家いつもどおりの夕方。
 アリスはネットを通じて何人かの友達と遊んだ。普段は学校で遊んでくるのだがしばらくは母親がいないので早く帰って来ていた。

 夕食はいつもの通りアリスが食べ、その前でシンシアがアリスの話を聞いている。今日はヘルパーさんがアリスの話を聞いてくれる。
 ヘルパーさんはニコニコしながら話を聞いてくれる。いつもの通りの夕食が終わる。
 お風呂にはヘルパーさんが一緒に入ってくれた。ママと同じ位の体格だけど胸はママの方が大きいみたい。ぜんぜん変わらない毎日が続く。

 でもどこか違う。アリスの心に何か釈然としない気持ちが芽生えつつあった。

 数日後日アリスが帰ってきて母親を呼んだ。
 「ママーっ、宿題を忘れちゃった。明日持って行かなくちゃ。」
 台所からヘルパーが答える「机の二番目の引き出しに入っています。」
 アリスは机を開けると宿題が入っていた。それを取った時アリスは再び変な感じに襲われた。

「なんだろう?」

 宿題を見る。それはヘルパーが来る前に此処に入れた宿題だった事を思い出す。
「ママ~っあったよ~っ。」
「今度は忘れないようにしてください。」
「ママ来週の授業参観の事だけど。」
「はい、先週お話を伺いました。」
「ママ………。」
 来週にはママが帰ってくる。授業参観はママが来る事になっているのだ。

「どうしました?アリス授業参観は伺いますよ。」
 台所に立っている女性が振り返る。そこに立っているのはシンシアであった。
「ママ?」
 すぐにそれは錯覚と分かる。女性の後姿は母親そっくりだったが顔は違う人間の物だった。
「アリス?どうしました?具合でも悪いのですか?」
 ヘルパーが口を利く。またヘルパーの顔がシンシアにダブる。まるで喋り方が同じなのだ。

「ママ……なの?」

 シンシアは驚愕した。何故判ったのだろう?シンシアには理解できなかった。自分が何かミスを犯したのだろうか?シンシアはあわてて今日一日の記憶を再調査をする。

 確かに何カ所かで初歩的なミスを犯してしまっている。現在シンシアのボディは動作を停止している為に自分がヘルパーのボディを使用していることを失念してしまったのが原因であった。

 アリスの感じた違和感とは違和感が無さ過ぎる事に対する違和感だった。ヘルパーの人がまるで母親との違いを感じさせなかったからだ。

「その中にいるのはママ?」

 アリスは訳が判らずそれ以上の言葉を繋げなかった。

 シンシアもまたどの様な反応を示すのが正しいのか結論を出せずにいた。むしろこのままアリスが自分の方から間違いを認めてくれればその方がいい。そう思っていた。
「なんでママがそんな格好をしているの?」
 アリスは再度問いかける。

 シンシアは追い詰められたことを悟った。アリスはこのボディの中にいるのがシンシアであることを確実に感じ取っている。
 人間は姿かたちが変わろうとも自分の母親を間違える事はないらしい。

 シンシアは脳髄を震わすほどの感覚を覚えた。アリス、自分の娘。彼女が迷うこと無く自分の母親を見つけた。それは非常に喜ぶべきことなのだろうか?
 しかし、それは同時に自分が人間ではない確証をアリスに与えてしまった。シンシアは喜びと不安が交錯した。このような気持ちは初めてで有った。

 人はこんな時どう行動するのだろう。いくつかの選択肢が浮かんでは消えた。

――そうだこんな時は抱きしめるのだ。愛する者が迷うこと無く自分を見つけ出してくれた。姿形に惑わされること無く自分の魂を感じ取ってくれたのだ。きっと人間はこんな時愛するものを抱きしめるのだ。――

「アリス。どうして分かったのですか?」
 ヘルパーのボディはアリスを抱きしめた。

 ロボットのセンサーを通じてアリスの体温が感じられる。鼓動が聞こえる。息をするのが判る。しかしそれらは今までは只のデーターにしか過ぎなかった。今はそれらの事が全く違って感じられる。

 この娘は生きている。心が有る。そして私を愛してくれているのだ。そういうことをはっきりと感じることが出来た。

 アリスは突然の抱きしめられて当惑した。
「だって……ママは……ママだもの。」
「ママの体はどうなったの?」アリスは不安にかられてシンシアに聞く。
「はい私のボディは今オーバーホール中ですから。工場に入っています。」

「帰って来るの?」
「はい、あさってには帰る予定です。」
「良かったずっとその格好のままかと思った。」
 アリスは大きくため息を付いた。

「この体は嫌いですか?」
「ううん、そうじゃないけどやっぱりママはママの姿の方がいいから。」
「そうですか。心配かけても申し訳ありません。」
「どうやってその人の中にはいったの?それも魔法なの?」
 さすがに魔法を信じる年齢ではなくなっているが他に適当な表現を知らないのだろう。

「魔法では有りません。実は私の本体はここには居ないのです。」
「ん?」アリスは首をかしげる。
「私はこの体をリモートコントロールしているのです。」
 アリスにはまだ良く理解は出来ていないようだ。それならそれでも良い。少なくともアリスは今のシンシアを受け入れているのだ。

「ママがオーバーホールをしている間ママの代わりにその体を使ってアリスを見ているのね。」
「そうです。私はアリスの事は一時たりとも目を離しません。」
「それじゃあ、今ママは本当はどこにいるの?」
 アリスがどう理解したのかは判らないがどうやら現状に対しては納得したらしい。

「無機頭脳研究所というところです。」
「ムキズノウケンキュウジョ?」
「ママはオーバーホールを受けているんじゃないの?」
「それは体の方です。頭脳の方は別の所にいます。」
「んん?」アリスは再び頭をかしげる。
 やはり本当のところは理解していないようである。

「私は無機頭脳なのです。私の本体は大きすぎてこのロボットに乗せることが出来ないので別の所にいてこの体をコントロールしています。」
「良く判らない。」
 アリスにとっては理解を超える事態である。しかしそんな事はどうでも良いことなのだろう。母親さえちゃんと居てくれれば。

「とにかくあさってになればママは帰ってきて元の姿に戻るのね。」
「はい、そうです。」
 そうシンシアが言うとアリスはにっこりとわらった。
「ママお腹すいたから早くご飯を食べよう。」
「すぐに出来ますからそこで待っていてください。」


「ね、ママはまだ?」
「さっき電車を降りました。もうすぐ家に着きます。」ヘルパーの女性が答える。
「私迎えに行って来る。」そういってアリスは家を飛び出した。
 家に居るのがヘルパーの姿をした母親であり、今家に帰ってくるのがシンシアの姿をした母親である。その不自然さに不合理さを感じる事もなくアリスは外に飛び出してシンシアを迎えにいった。

 丁度シンシアの姿が見えてきた。アリスは力一杯駆け出した。シンシアは顔全体に笑みを浮かべてアリスを迎える。
 アリスがシンシアの胸に飛び込んだ。「お帰りなさい。ママ。」
「ただいま。アリス。」
 シンシアは母親とは言ってももともとのデザイン設定は17歳程度である。
 シンシアは黒い色の服装を好んだが、元が子供っぽい美人のコンセプトでデザインされた顔であるからどうひいき目に見ても親子には無理があった。どちらかといえば兄弟の方が通りが良い位であった。

 家に着くとヘルパーの女性は帰る準備を終えていた。
「それじゃあアリスこれで帰ります。」
「ママその体はこれからどうなるの?」
「この体はレンタル品ですから貸し出してくれた会社に返却します。」
「それじゃあママの体ご苦労様。」アリスがそう言ってペコリと頭を下げた。
 ヘルパーの女性は去って行くとアリスは母親の手をつないで家の中に入っていった。

「ママやっぱりママはその格好の方が私は好きだな。」

「そうですか。あなたが気に入ってくれて私もうれしいです。」

 アリスは母親が二つの体を持って同時に存在することにさしたる違和感も抱いてはいなかった。
 それだけ思考が柔軟ともいえよう。しかし単にそういった状況を状況として受け入れただけで有り、それがどのような意味を持つのかを理解するほど大人ではなかったとも言える。
 同じ意思を持つものが同時に存在するという不可解な状況をアリスは受け入れたのだ。

「ね、ママ、ママの本当の姿ってどんなの?」
「私は人間では有りませんから外見はただの箱です。」
「大きいの?」
 アリスはシンシアの腕に絡み付きながら聞いた。
「大きな自動車くらいでしょう。」
「一度見てみたいな。」
「見られてうれしい物では有りませんがそのうち見る機会が有るかもしれません。」

 本来自分の母親が人間でないばかりか生物ですら無いことを知らされれば少なからずショックを受けるのが普通である。しかしアリスは自分の母親の体が作り物であることを知っていたのでそれ程の違和感を覚えなかったようだ。


 結局姿が変わろうとその中にいる自分の母親の魂を見つけ出す事が出来ればアリスに取っては関係が無かったのである。
アクセスいただいてありがとうございます。
戦争の大半は基地を固めることにあります。
それ故ローマの兵隊は非常に優れた建築技術を持っていたそうです。
歩兵は一生懸命塹壕を掘り最後に塹壕から飛び出して突撃をします…以下恐怖の次号へ

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