コグル警部
「大変こっちへ来るわ」事務員の女性が叫んだ。
みんなが一斉にロビーの方を見る。その瞬間を逃さずシンシアはそっと部屋の隅に移動した。
全員がロビー「大変こっちへ来るわ」事務員の女性が叫んだ。
みんなが一斉にロビーの方を見る。その瞬間を逃さずシンシアはそっと部屋の隅に移動した。
全員がロビーのテロリストに注意を向けている隙にシンシアはそっとロッカーの扉を開けると音も無く扉を閉めた。
そこにいる誰もシンシアの行動は気がつかなかった。
シンシアは再びセキュリティーコンピューターに進入した。警備室にいるテロリストにハッキングされていたが、シンシアにとっては何の障害にもならない。ロビーのモニターカメラでテロリストの様子を伺う。
ロッカーの中に隠れたシンシアは10台ある看護ロボットのコントロールコンピューターに進入しシンシアの支配下に置く。
さすがにテロリストもこの短時間でこのコンピュータをハッキングは出来なかったようだ。
これで500体の看護ロボットをコントロールできる。
次いでそのコンピューターを介して館内全体をモニターハッキングする。
意外にもテロリストの宣言にもかかわらず看護士や医師は館内を動をき回っていた。
考えてみれば当然である。ここは病院であるから何があっても動きを止める訳にはいかない。
建物の各区画は防火シャッターが下りている。テロリストの仕業だ。各区画を分断するつもりである。もっともくぐり戸があるので人の往来には支障がない。警察などが一気に進入できない様にしたいのであろう。
ただロビーに通じるシャッターのくぐり戸には爆薬のようなものが仕掛けられていた。
どうやらこれでロビーは病院から孤立させられているようである。
シンシアはコントロールコンピューターを介して警察に連絡する。無論こちらの正体は隠蔽して音声のみの通信とした。
テロリストはシンシアに気付く事無く、そこに居た全員を部屋から連れ出しロビーに集めた。スーはキャスターに寝かされて出て行った。
全員がいなくなった部屋の中でロッカーの扉が開く。
中から出てきたシンシアは様子を伺うとすばやく部屋を出る。
監視カメラに侵入してテロリストからうまく隠れるように進んだ。
警備室でも監視カメラをモニターしている筈だ。シンシアは監視カメラの死角を選んで進んむ。死角が無い場合はカメラに偽の画像を送った。
シンシアにとってその程度の事は造作も無い事であった。
「マリア。」
突然シンシアの方からマリアに呼びかけてきた。
「ど、どうしの?」
シンシアとの通信が全く理解できなくなっていたのだ。ようやくシンシアがマリアに連絡してくれた。
「状況としては『木星の風』を名乗る集団が病院の一部を占拠した模様です。ロビーで発砲がありその際スーさんという同僚が腹に銃弾を受けました。」
「そのスーさんの様体はどうなの?」
「医者の所で手当を受けましたが重症のようです。彼らの目的は人工出産室の爆破に有るようです。」
『木星の風』のニュースはマリアも何回かは聞いた事が有る。卵子移民政策に反対するテロ集団だということ位しかマリアは知らなかった。
「人工出産室を爆破するんですって?そんな事になったら大変なことになるわ。何十人もの胎児が死ぬことになるじゃない。」
「同じ事をスーさんが危惧していました。現在人口子宮室には983体の胎児がいます。」
マリアは言葉を失った。大変な虐殺が行われようとしているのだ。
「シンシアあなたに怪我はないの?」
「無事です。仮にボディの方は壊れても私には何の影響も有りません。それよりも今回のことは理解不能です。」
「私も『木星の風』の事はよく知らないのよ。」
「現在テロリストはロビーを占拠しています。しかし彼らの人数では病院全体を制圧するのは無理だと思います。そうであれば人工出産室だけを制圧し破壊すれば目的は達せられると思いますが。」
「私には判らないわよ。多分自分達のやった事を木星じゅうに知らせたいんじゃないかしら。」
「それであれば記者会見を開けば良いのではないでしょうか?」
テロリストが記者会見をする?シンシアもユニークな考えをするとマリアは思った。
しかし考えてみればその為にロビーの人質を取っているのかもしれない。
いずれにしてももうじきマスコミも集まってニユースになるだろう。
もしかしたらそれを待っているのかもしれない。
「あなたは今どこにいるの?」
「今は病院の廊下です。スーさんの命令で彼らの行動阻止し、胎児達の救出を行います。」
シンシアの言葉を聞いてマリアは丸太で殴られたような衝撃を受けた。一体どうしてシンシアがそんな考えに至ったのだろう。
第一たかが看護ロボット一体がどうやって武装したテロリストと戦うというのだ。
「馬鹿な事を言わないで。そんな事が出来るわけないじゃないの。あなたは早く何処かに隠れてちょうだい。もしあなたの秘密がバレたら大変なことになるわ。」
「スーさんが私に頼みました。子供達を救う事を。彼女は私の友人です。私に多くのことを教えてくれました。彼女の依頼を果たします。」
マリアはため息をついた。シンシアはおそらくスーと言う人の言葉を命令と勘違いしている。
しかしその命令をどうやったらマリアが取り消せるだろうか?
おそらくシンシアはテロリスト達の情報を全く持たずに危険性の認識もないのだろう。
「相手は武器を持った男たちの集団で人数もわからないのよ。」
「だいたい判っています。ロビーに6人無菌室入り口に2人、卵子貯蔵庫に4~5人、人工出産室に6~7人です。」
驚くことに既にシンシアは相手の人数と位置を特定していたのだ。盲滅法に蛮勇を奮って相手に挑みかかる子犬と言うわけでは無かった。
「どうやって判ったの?」
「病院のセキュリテイに侵入しました。看護ロボットのコントロールコンピューターも現在支配下に有ります。」
マリアは動けるのはシンシアのボディだけだと思っていたからこそ勝ち目など無いと考えていた。
しかし既にシンシアは病院内のインフラを制圧しつつ有る。
なんという能力であろうか?大小無数のロボットが人々を攻撃した、あのコロニーの惨劇がまた行われることになるのだろうか?
恐るべき無機頭脳の力が今また示されようとしていた。
マリアは慌てた。こんなことを警察や場合によっては軍が出動するかも知れないような所で行われたらたちまちシンシアの能力が知られてしまうではないか。
「シンシア。貴方の事を軍や特務機関に知られたくは無いの。彼らが貴方の事を新型コンピューターの失敗作と思っている間は貴方は安全だから、貴方の成長がもっと進むまでは彼らに知られたくは無いのよ。」
「判りました。私である証拠を残さなければ良いのですね。」
思いもよらない反応が返ってきた。マリアは頭を抱えた。一体どうやったらシンシアを説得できるのだろう。
「コンピューターに侵入した証拠や監視カメラの映像など私に関わる全ての証拠を改ざんしておきます。」
シンシアなら出来るだろうなとマリアは思った。
それでも実際にどうやって武装したテロリストを阻止するつもりなのだろう。シンシアのボディは所詮ただの看護ロボットであり武装しているわけでは無い。
再びシンシアの思考速度が上がり始める。シンシアの冷却装置は最大負荷で稼働中であった。
ハリソン・コグル警部は通報があってすぐに病院に駆けつけた。
まだ警官も多くは集まってきていない。病院は静かで有ったがシャッターが降りており警官隊の侵入を阻んでいた。
通報は外来のロビーに行て人質になった人達が連絡を取ってきた。何人も連絡をしてきたがかえってそのために全体像がぼけてしまっている。
5人という者もいれば百人と言う者もいると言った具合だ。犯人の中に木星の風を名乗った者がいたそうだが本当だとすれば人工出産を奴隷製造行為として糾弾しているテロ組織と言うことになる。
しかしコグル警部にはどうも気に入らなかった。確かに最近木星の風のテロ事件は頻発してきているが彼らは犯行声明を出さない。ただマスコミ勝手に彼らの犯行と報じているだけである。
証拠は何もないのである。声明文は何度も出されており、犯行予告を行なっているが同時にそれを否定する声明も出ている。
こうして見ると急進派と穏健派の路線対立のようにも見えるがどうもピンと来ない。
彼らの本拠地はカリストの衛星軌道上にコロニーを作ってレグザム自治政府を主張している自治区だと言われている。
レグザムの住人のほとんどは卵子からの人工出産児と言われており、木星連邦には加盟していない。当然彼らが作ったコロニーに対し木星連邦が主権は及ばない。
しかし実際的にはカリスト開拓の前進基地として木星連邦が利用しているばかりか、地球に下ろす彗星捕獲事業の下請けとしてかなりの経済取引も有る。要は持ちつ持たれつの現状なのだ。
しかし曲がりなりにもコロニーを手にいれ自治を始めた連中だ。木星連合とは言ってもいくつかの自治区の連合体である。
一番の違いは居住費としての税金をコロニー公社に納めるか自治政府に納めるかの違いと、ジュピターコンツェルンの企業連合体を排除出来るかの違いだけである。
大資本を導入すれば企業振興は早く経済的には大きく発展する。それを拒めば経済封鎖を受け発展は阻害される。
レグザム自治区の最大の収入源は彗星捕獲とコロニー製造事業の下請けによるところであり、結局ジュピターコンツェルンの支配下に有ることには変わりない。
それでも独立していられるのは自分たちでコロニーを作る技術があるからである。
そんな脆弱な地方自治体がテロ組織のスポンサーをわざわざするだろうか?今回はひどく異質な感じがしていた。
現場には既に多くの警官が集まっていた。
顔見知りの警官が駆け寄ってきた。
「警部どのお待ちしておりました。」
「最初に乗り込んだのは誰だ?」
「私で有ります。」
「現状の報告を頼む。それから誰かに言って野次馬を早く追っ払え。それとあれは何だ?」
コグル警部の示す先には黒いスーツのそれもいかにもそれらしい男達がいた。
「連邦公安捜査局です。」
「なんで奴らが?」
「さあ、私が到着してすぐに彼らが来ました。ここの指揮官を捜していたのでもうじき到着すると言っておきましたが。」
「君が来たのは?」
「そう……10分くらいまえですか。」
コグルは腕時計を見た。自分の所に連絡が来たのが10分程前である。
「ふん。確かにテロは奴らの管轄だが……早すぎるな。」
そんな話をしている所へ向こうからやってきた。
「君はここの責任者かね?」
眉の太い濃い顔をした男であった。
「そうですが?」
不愉快そうに見え無いように、なおかつ不愉快さを少しにじませてコグルは答えた。
「私は連邦公安捜査局のシドニア・コロニー本部長のユンバル・ジタンだ。」男は身分証を見せながら名乗る。
「私はシドニア・コロニー警察で警部のハリソン・コグルです。」
「今回の事件は我々の管轄だ。諸君には我々に協力をお願いいたしたい。」
早速来たな。コグルがそう思った。
「まだテロと決まった訳では有りません。」
コグルは反論した。こいつらにかかるとこっちの努力を無視して手柄だけ持って行っちまうような奴らだ。
コグルの公安に対する考えはそんな所だった。
「いや、テロだ。病院に押し込んだ強盗が人質を取って立てこもるか?」
コグルの杞憂など一切無視してジタンは断言した。
「さあ、そういう強盗もいるとは思いますが。」
コグルにしてみれば精一杯の抵抗と言ったところだった。
「とにかくここの指揮は私が取る。」
コグルは頭ごなしの相手の態度に腹を立てたがおとなしく言った。
「判りました。一応署に確認いたします。」
「署長の方には私から連絡しておいた。」
「そうですか。ご苦労さまです。」
コグルはその場から離れながら携帯を取り出すと署に連絡を取った。
「おお、コグル君かご苦労さんどんな状況だね。」
なんだか署長の態度がいつもよりずっと愛想がいい。
「なんですか?あの特公の連中は?」
「連邦公安捜査局だ。」署長は正式名称にこだわった。
「状況も判らんのに何であんな連中が我々より先に来ているんですかね。」
コグルは現場の周囲をイライラと歩き回りながら話を続ける。
このテロ騒ぎと公安の余りの出動の速さに何らかの関係を考えなけれが警察官としての能力が無いと言っても良い。
常に物事を疑うように意識付けられた警官の性のようなものである。
「私に言われても判らんよ。ただ本部から連絡が入った正式のものだったよ。」
「いつです?」
「おいおい、なんでそんなことを気にするんだ?正式な連絡であればいいじゃないか。」
どうも所長は逃げ腰のようだ。本部での評判を気にしているのだろう。この事からも今回の事件の胡散臭さが感じられる。
どちらにしても事件の証拠は一切公安が持ち去って警察には何も判らずにこの事件は終わらせられる。
コグルはそのことがどうにも気に食わなかった。
自分の庭を荒らされて黙っていられるか。
「何分前です?」
「分かった分かった。えーと今からだと15分前かな?」
コグルが連絡を受け取ったのが15分前。連中がここに来たのも15分前。
「手際が良すぎますね。」
「まあ、そう言わずに協力してやってくれたまえよ。」
署長としてはそう言わざるをえないのだろう。
腑抜けだと思っては見ても所長にも生活が有る。一概に腑抜け呼ばわりは出来ない。そのくらいの常識はコグルにも有る。
「それはそうとして、署長、SWATの準備をお願いしますよ。」
どうせ公安はこちらにも出動要請をしている筈だ。そう思ったが一応署長に確認してみた。
「判っている既に召集をかけている30名くらいは集められる。」
「それは心強いですね。頼みましたよ。」
電話を終えるとコグルはジダン本部長の方へ歩みよった。
「署長がよろしく言ってましたよ。」
お世辞の分だけ愛想よく右手を出す。
「協力をよろしく頼む。」
ジタンも握手の分だけ愛想よく挨拶をした。
「SWATの召集をかけました。しばらくしたら準備が整うでしょう。」
「こちらも精鋭を用意している。君たちはバックアップに回ってくれ。」
「なんですって?特攻部隊を呼んだんですか?」
連邦公安捜査局直属のSWAT、と言うより軍隊に近い装備の捜査官だ。
荒っぽい連中で治安維持目的での出動が多いい部隊だ。
「特務公安部隊だ。」
ジダンもそう呼ばれるのはうれしく無いらしい。わざわざ訂正をした。
「心配しなくても人質は無事に救出してみせるさ。」
どうせリップサービスだ。この連中は荒っぽくて人質事件などは人質の安全より力押しで突入するような連中なのだ。
公安に言わせればそれこそがテロに対する抑止効果なんだそうだ。
「お願いしますよ。」
コグルはそう言うと事件の掌握に勤め始めた。
状況としては数人から十数人の武装したテロリストが木星の風を名乗って病院の外来を占拠して人質を取って立てこもっているらしい。
最初は携帯などで連絡が入ったが、今のところ犯行声明や要求は出して来ていない。
「対策本部を決めよう。」
「もうじき指揮車が到着します。」
「よしそこを本部にしよう。応援はどのくらい来るんだ?」
「まだ確認出来ていません。」
「長引くかもしれんな。」
「テロリストが発砲したとき脱出出来た人間が何人かいるそうです。」
「よし、話を聞こう。」
そうこうしているうちに指揮車が到着した。
大掛かりな犯罪や事故等の時そこを諸点として全体の指揮を取るために情報収集の為の装備がなされている大型のバスである。
状況を総合すると7、8人のテロリストがいきなり発砲したらしい。多分怪我人が何人か出ている。
人質はおおむね200人位でかなり多い。いずれテロリストは持て余す。
外部シャッターが降りていて突入を阻んでいる。どうやら警備室を占拠されたらしい。
「奴らの目的は人工出産室かな?」
「なんでそう思うんですか?」
コグルは用心深く探りを入れる。さっきからの違和感がどんどん膨れていく。
「犯行予告を以前から出しているからな。」
どうやらこいつらの中では犯人が特定できているらしい。
と言うことは内定済みの犯罪か?あるいは犯行が行われるまで泳がしていたのか?
いずれにせよ犯行が起きるのを見逃していて、結局その尻拭いをこっちに持ってきたわけだ。
「まさか本当にやるつもりでしょうか?相手は子供ですよ。」
木星の風といえば人工出産で生まれた卵子移民の子供達だ。社会的には恵まれない階層を作っている。
そんな連中が自分の同胞の生まれる前とは言え同胞を殺すのだろうか?この連中に対する疑問は以前からコグルの中に有った。
「子供と言っても生まれる前だからな、まだ人権は認められていない。以前見たことがあるがあまりきもちのいい物じゃなかったけどな。」
そういう問題では無いだろう。コイツやはり人権感覚がおかしい。
失敗した時の予防線か?だったらこちらを前面に出したほうが奴らの失点にならない。それにも関わらず今回は前面に出ると言っている。
「私にも子供がいますが生まれちまえばかわいいもんですよ。」
コグルは厭味ったらしく言ってやった。
「そう思わない奴らもいるんだろう。」
全く気にするふうでもなくジタンは答える。
指揮者に病院のデーターが届いた。全員で図面の検討をする。驚いたことに外来は4つの通路にしかつながっていなかった。
一つは出入り口一つは院内との連絡通路、そして荷物の搬入路、最後の一つが人工出産室へつながる通路。
「人工出産室は高度無菌室ですからそこにもう一つ院内通路が有るだけです。」
「人工出産室まで占拠したとしても出入り口は4カ所だけか。」
「多分それぞれの出入り口に人質をとってバリケードにしていますよ。」
コロニー内はでは火災や外部破壊の危険性があるため建物ごとに区画が出来るようになっている。
それが病院の場合はその区画全体が真空中に放り出されても生き延びられるように作られている。
その設計思想が病院への突入を阻んでいるのだ。
「特務公安部隊の増援が到着しました。」
「そうかそれじゃちょっと打ち合わせしてくるか。」
ジタンはそう言うと指揮車を出ていった。コグルも後に続く。彼らの装備を見て置かなくてはならない。
特攻部隊は警官と違い見るからに屈強そうな男達であった。中に何人かサイボーグもいる。
装備は大型の対人兵器の他に装甲車が2台来ていたこいつには大型の機関砲までついている。
コロニー内での大型火器の使用制限なぞお構いなしの連中だ。
隊長と呼ばれる男は額に大きな傷を負っていた。整形していないところを見ると自慢なのであろうか。
ジダンはコグルと隊長に指揮は自分が行い、先攻は特務公安部隊が、バックアップをSWATが行うとした。
「人質がいるんだあんまりやたらにぶっ放さないでくれ。」
そうコグルは隊長に強く主張した。隊長はむろん人質の無事が最優先だと答えた。
この隊長が部下の連中を仕切ってくれることを祈ろう。あまりあてにはならないが。
「それじゃあ早速だが偵察からだ。裏口から入って他の三つの侵入口に行ってみよう。」隊長は言った。
「私はSWATが来たら玄関に集音機を付けて中の様子を探ってみます。ハッキングの専門家も今警備コンピューターへの侵入を試みているはずです。」
コグルは彼らと分かれると本署に連絡した。SWATの準備は出来てこれから出動すると言ってきた。
「やはりな。」そう言ってコグルは時計を見る。
地元警察の我々のSWATチームがこれから出動するのに特攻部隊は装甲車まで出動させて来ているのだ。
なぜ奴らはこんなに早く出動出来たのであろうか?答えは言うまでもなかった。
「やっぱり奴ら事前に事件をつかんでいたな。」
コグルは憤慨していた。人質の生命を脅かす事態を未然に防ぐ事なく発生させた。
多分政治的に利用するのが目的なのであろう。
のテロリストに注意を向けている隙にシンシアはそっとロッカーの扉を開けると音も無く扉を閉めた。そこにいる誰もシンシアの行動に気がつかなかった。
シンシアは再びセキュリティーコンピューターに進入した。警備室にいるテロリストにハッキングされていたが、シンシアにとっては何の障害にもならない。ロビーのモニターカメラでテロリストの様子を伺う。
ロッカーの中に隠れたシンシアは10台ある看護ロボットのコントロールコンピューターに進入しシンシアの支配下に置く。
さすがにテロリストもこの短時間でこのコンピュータをハッキングは出来なかったようだ。これで500体の看護ロボットをコントロールできる。
次いでそのコンピューターを介して館内全体をモニターハッキングする。
意外にもテロリストの宣言にもかかわらず看護士や医師は館内を動をき回っていた。
考えてみれば当然である。ここは病院であるから何があっても動きを止める訳にはいかない。
建物の各区画は防火シャッターが下りている。テロリストの仕業だ。各区画を分断するつもりである。もっともくぐり戸があるので人の往来には支障がない。警察などが一気に進入できない様にしたいのであろう。
ただロビーに通じるシャッターのくぐり戸には爆薬のようなものが仕掛けられていた。
どうやらこれでロビーは病院から孤立させられているようである。シンシアはコントロールコンピューターを介して警察に連絡する。無論こちらの正体は隠蔽して音声のみの通信とした。
テロリストはシンシアに気付く事無く、そこに居た全員を部屋から連れ出しロビーに集めた。スーはキャスターに寝かされて出て行った。
全員がいなくなった部屋の中でロッカーの扉が開く。
中から出てきたシンシアは様子を伺うとすばやく部屋を出る。
監視カメラに侵入してテロリストからうまく隠れるように進んだ。
警備室でも監視カメラをモニターしている筈だ。シンシアは監視カメラの死角を選んで進んむ。死角が無い場合はカメラに偽の画像を送った。シンシアにとってその程度の事は造作も無い事であった。
「マリア。」
突然シンシアの方からマリアに呼びかけてきた。
「ど、どうしの?」
シンシアとの通信が全く理解できなくなっていたのだ。ようやくシンシアがマリアに連絡してくれた。
「状況としては『木星の風』を名乗る集団が病院の一部を占拠した模様です。ロビーで発砲がありその際スーさんという同僚が腹に銃弾を受けました。」
「そのスーさんの様体はどうなの?」
「医者の所で手当を受けましたが重症のようです。彼らの目的は人工出産室の爆破に有るようです。」
『木星の風』のニュースはマリアも何回かは聞いた事が有る。卵子移民政策に反対するテロ集団だということ位しかマリアは知らなかった。
「人工出産室を爆破するんですって?そんな事になったら大変なことになるわ。何十人もの胎児が死ぬことになるじゃない。」
「同じ事をスーさんが危惧していました。現在人口子宮室には983体の胎児がいます。」
マリアは言葉を失った。大変な虐殺が行われようとしているのだ。
「シンシアあなたに怪我はないの?」
「無事です。仮にボディの方は壊れても私には何の影響も有りません。それよりも今回のことは理解不能です。」
「私も『木星の風』の事はよく知らないのよ。」
「現在テロリストはロビーを占拠しています。しかし彼らの人数では病院全体を制圧するのは無理だと思います。そうであれば人工出産室だけを制圧し破壊すれば目的は達せられると思いますが。」
「私には判らないわよ。多分自分達のやった事を木星じゅうに知らせたいんじゃないかしら。」
「それであれば記者会見を開けば良いのではないでしょうか?」
テロリストが記者会見をする?シンシアもユニークな考えをするとマリアは思った。
しかし考えてみればその為にロビーの人質を取っているのかもしれない。いずれにしてももうじきマスコミも集まってニユースになるだろう。
もしかしたらそれを待っているのかもしれない。
「あなたは今どこにいるの?」
「今は病院の廊下です。スーさんの命令で彼らの行動阻止し、胎児達の救出を行います。」
シンシアの言葉を聞いてマリアは丸太で殴られたような衝撃を受けた。一体どうしてシンシアがそんな考えに至ったのだろう。
第一たかが看護ロボット一体がどうやって武装したテロリストと戦うというのだ。
「馬鹿な事を言わないで。そんな事が出来るわけないじゃないの。あなたは早く何処かに隠れてちょうだい。もしあなたの秘密がバレたら大変なことになるわ。」
「スーさんが私に頼みました。子供達を救う事を。彼女は私の友人です。私に多くのことを教えてくれました。彼女の依頼を果たします。」
マリアはため息をついた。シンシアはおそらくスーと言う人の言葉を命令と勘違いしている。しかしその命令をどうやったらマリアが取り消せるだろうか?おそらくシンシアはテロリスト達の情報を全く持たずに危険性の認識もないのだろう。
「相手は武器を持った男たちの集団で人数もわからないのよ。」
「だいたい判っています。ロビーに6人無菌室入り口に2人、卵子貯蔵庫に4~5人、人工出産室に6~7人です。」
驚くことに既にシンシアは相手の人数と位置を特定していたのだ。盲滅法に蛮勇を奮って相手に挑みかかる子犬と言うわけでは無かった。
「どうやって判ったの?」
「病院のセキュリテイに侵入しました。看護ロボットのコントロールコンピューターも現在支配下に有ります。」
マリアは動けるのはシンシアのボディだけだと思っていたからこそ勝ち目など無いと考えていた。
しかし既にシンシアは病院内のインフラを制圧しつつ有る。なんという能力であろうか?大小無数のロボットが人々を攻撃した、あのコロニーの惨劇がまた行われることになるのだろうか?
恐るべき無機頭脳の力が今また示されようとしていた。
マリアは慌てた。こんなことを警察や場合によっては軍が出動するかも知れないような所でやられたらたちまちシンシアの能力が知られてしまうではないか。
「シンシア。貴方の事を軍や特務機関に知られたくは無いの。彼らが貴方の事を新型コンピューターの失敗作と思っている間は貴方は安全だから貴方の成長がもっと進むまでは彼らに知られたくは無いのよ。」
「判りました。私である証拠を残さなければ良いのですね。」
全く逆の反応が返ってきた。マリアは頭を抱えた。一体どうやったらシンシアを説得できるのだろう。
「コンピューターに侵入した証拠や監視カメラの映像など私に関わる全ての証拠を改ざんしておきます。」
シンシアなら出来るだろうなとマリアは思った。
それでも実際にどうやって武装したテロリストを阻止するつもりなのだろう。シンシアのボディは所詮ただの看護ロボットであり武装しているわけでは無い。
再びシンシアの思考速度が上がり始める。シンシアの冷却装置は最大負荷で稼働中であった。
ハリソン・コグル警部は通報があってすぐに病院に駆けつけた。
まだ警官も多くは集まってきていない。病院は静かで有ったがシャッターが降りており警官隊の侵入を阻んでいた。
通報は外来のロビーに行て人質になった人達が連絡を取ってきた。何人も連絡をしてきたがかえってそのために全体像がぼけてしまっている。
5人という者もいれば百人と言う者もいると言った具合だ。犯人の中に木星の風を名乗った者がいたそうだが本当だとすれば人工出産を奴隷製造行為として糾弾しているテロ組織と言うことになる。
しかしコグル警部にはどうも気に入らなかった。確かに最近木星の風のテロ事件は頻発してきているが彼らは犯行声明を出さない。ただマスコミ勝手に彼らの犯行と報じているだけである。
証拠は何もないのである。声明文は何度も出されており、犯行予告を行なっているが同時にそれを否定する声明も出ている。
こうして見ると急進派と穏健派の路線対立のようにも見えるがどうもピンと来ない。
彼らの本拠地はカリストの衛星軌道上にコロニーを作ってレグザム自治政府を主張している自治区だと言われている。
レグザムの住人のほとんどは卵子からの人工出産児と言われており、木星連邦には加盟していない。当然彼らが作ったコロニーに対し木星連邦が主権は及ばない。
しかし実際的にはカリスト開拓の前進基地として木星連邦が利用しているばかりか、地球に下ろす彗星捕獲事業の下請けとしてかなりの経済取引も有る。要は持ちつ持たれつの現状なのだ。
しかし曲がりなりにもコロニーを手にいれ自治を始めた連中だ。木星連合とは言ってもいくつかの自治区の連合体であり、一番の違いは居住費としての税金をコロニー公社に納めるか、自治政府に納めるかの違いとジュピターコンツェルンの企業連合体を排除出来るかの違いだけである。
大資本を導入すれば企業振興は早く経済的には大きく発展する。それを拒めば経済封鎖を受け発展は阻害される。
レグザム自治区の最大の収入源は彗星捕獲とコロニー製造事業の下請けによるところであり、結局ジュピターコンツェルンの支配下に有ることには変わりない。
それでも独立していられるのは自分たちでコロニーを作る技術があるからである。
そんな脆弱な地方自治体がテロ組織のスポンサーをわざわざするだろうか?今回はひどく異質な感じがしていた。
現場には既に多くの警官が集まっていた。
顔見知りの警官が駆け寄ってきた。
「警部どのお待ちしておりました。」
「最初に乗り込んだのは誰だ?」
「私で有ります。」
「現状の報告を頼む。それから誰かに言って野次馬を早く追っ払え。それとあれは何だ?」
コグル警部の示す先には黒いスーツのそれもいかにもそれらしい男達がいた。
「連邦公安捜査局です。」
「なんで奴らが?」
「さあ、私が到着してすぐに彼らが来ました。ここの指揮官を捜していたのでもうじき到着すると言っておきましたが。」
「君が来たのは?」
「そう……10分くらいまえですか。」
コグルは腕時計を見た。自分の所に連絡が来たのが10分程前である。
「ふん。確かにテロは奴らの管轄だが……早すぎるな。」
そんな話をしている所へ向こうからやってきた。
「君はここの責任者かね?」
眉の太い濃い顔をした男であった。
「そうですが?」
不愉快そうに見え無いように、なおかつ不愉快さを少しにじませてコグルは答えた。
「私は連邦公安捜査局のシドニア・コロニー本部長のユンバル・ジタンだ。」男は身分証を見せながら言った。
「私はシドニア・コロニー警察で警部のハリソン・コグルです。」
「今回の事件は我々の管轄だ。諸君には我々に協力をお願いいたしたい。」
早速来たな。コグルがそう思った。
「まだテロと決まった訳では有りません。」
コグルは反論した。こいつらにかかるとこっちの努力を無視して手柄だけ持って行っちまうような奴らだ。コグルの公安に対する考えはそんな所だった。
「いや、テロだ。病院に押し込んだ強盗が人質を取って立てこもるか?」
コグルの杞憂など一切無視してジタンは断言した。
「さあ、そういう強盗もいるとは思いますが。」
コグルにしてみれば精一杯の抵抗と言ったところだった。
「とにかくここの指揮は私が取る。」
コグルは頭ごなしの相手の態度に腹を立てたがおとなしく言った。
「判りました。一応署に確認いたします。」
「署長の方には私から連絡しておいた。」
「そうですか。ご苦労さまです。」
コグルはその場から離れながら携帯を取り出すと署に連絡を取った。
「おお、コグル君かご苦労さんどんな状況だね。」
なんだか署長の態度がいつもよりずっと愛想がいい。
「なんですか?あの特公の連中は?」
「連邦公安捜査局だ。」署長は正式名称にこだわった。
「状況も判らんのに何であんな連中が我々より先に来ているんですかね。」
コグルは現場の周囲をイライラと歩き回りながら話を続ける。
このテロ騒ぎと公安の余りの出動の速さに何らかの関係を考えなけれが警察官としての能力が無いと言っても良い。
常に物事を疑うように意識付けられた警官の性のようなものである。
「私に言われても判らんよ。ただ本部から連絡が入った正式のものだったよ。」
「いつです?」
「おいおい、なんでそんなことを気にするんだ?正式な連絡であればいいじゃないか。」
どうも所長は逃げ腰のようだ。本部での評判を気にしているのだろう。この事からも今回の事件の胡散臭さが感じられる。
どちらにしても事件の証拠は一切公安が持ち去って警察には何も判らずにこの事件は終わらせられる。コグルはそのことがどうにも気に食わなかった。
自分の庭を荒らされて黙っていられるか。
「何分前です?」
「分かった分かった。えーと今からだと15分前かな?」
コグルが連絡を受け取ったのが15分前。連中がここに来たのも15分前。
「手際が良すぎますね。」
「まあ、そう言わずに協力してやってくれたまえよ。」
署長としてはそう言わざるをえないのだろう。腑抜けだと思っては見ても所長にも生活が有る。一概に腑抜け呼ばわりは出来ない。そのくらいの常識はコグルにも有る。
「それはそうとして、署長、SWATの準備をお願いしますよ。」
どうせ公安はこちらにも出動要請をしている筈だ。そう思ったが一応署長に確認してみた。
「判っている既に召集をかけている30名くらいは集められる。」
「それは心強いですね。頼みましたよ。」
電話を終えるとコグルはジダン本部長の方へ歩みよった。
「署長がよろしく言ってましたよ。」
お世辞の分だけ愛想よく右手を出す。
「協力をよろしく頼む。」
ジタンも握手の分だけ愛想よく挨拶をした。
「SWATの召集をかけました。しばらくしたら準備が整うでしょう。」
「こちらも精鋭を用意している。君たちはバックアップに回ってくれ。」
「なんですって?特攻部隊を呼んだんですか?」
連邦公安捜査局直属のSWAT、と言うより軍隊に近い装備の捜査官だ。
荒っぽい連中で治安維持目的での出動が多いい部隊だ。
「特務公安部隊だ。」
ジダンもそう呼ばれるのはうれしく無いらしい。わざわざ訂正をした。
「心配しなくても人質は無事に救出してみせるさ。」
どうせリップサービスだ。この連中は荒っぽくて人質事件などは人質の安全より力押しで突入するような連中なのだ。
公安に言わせればそれこそがテロに対する抑止効果なんだそうだ。
「お願いしますよ。」
コグルはそう言うと事件の掌握に勤め始めた。
状況としては数人から十数人の武装したテロリストが木星の風を名乗って病院の外来を占拠して人質を取って立てこもっているらしい。
最初は携帯などで連絡が入ったが、今のところ犯行声明や要求は出して来ていない。
「対策本部を決めよう。」
「もうじき指揮車が到着します。」
「よしそこを本部にしよう。応援はどのくらい来るんだ?」
「まだ確認出来ていません。」
「長引くかもしれんな。」
「テロリストが発砲したとき脱出出来た人間が何人かいるそうです。」
「よし、話を聞こう。」
そうこうしているうちに指揮車が到着した。
大掛かりな犯罪や事故等の時そこを諸点として全体の指揮を取るために情報収集の為の装備がなされている大型のバスである。
状況を総合すると7、8人のテロリストがいきなり発砲したらしい。多分怪我人が何人か出ている。
人質はおおむね200人位でかなり多い。いずれテロリストは持て余す。
外部シャッターが降りていて突入を阻んでいる。どうやら警備室を占拠されたらしい。
「奴らの目的は人工出産室かな?」
「なんでそう思うんですか?」
コグルは用心深く探りを入れる。さっきからの違和感がどんどん膨れていく。
「犯行予告を以前から出しているからな。」
どうやらこいつらの中では犯人が特定できているらしい。
と言うことは内定済みの犯罪か?あるいは犯行が行われるまで泳がしていたのか?いずれにせよ犯行が起きるのを見逃していて、結局その尻拭いをこっちに持ってきたわけだ。
「まさか本当にやるつもりでしょうか?相手は子供ですよ。」
木星の風といえば人工出産で生まれた卵子移民の子供達だ。社会的には恵まれない階層を作っている。
そんな連中が自分の同胞の生まれる前とは言え同胞を殺すのだろうか?この連中に対する疑問は以前からコグルの中に有った。
「子供と言っても生まれる前だからな、まだ人権は認められていない。以前見たことがあるがあまりきもちのいい物じゃなかったけどな。」
そういう問題では無いだろう。コイツやはり人権感覚がおかしい。
失敗した時の予防線か?だったらこちらを前面に出したほうが奴らの失点にならない。それにも関わらず今回は前面に出ると言っている。
「私にも子供がいますが生まれちまえばかわいいもんですよ。」
コグルは厭味ったらしく言ってやった。
「そう思わない奴らもいるんだろう。」
全く気にするふうでもなくジタンは答える。
指揮者に病院のデーターが届いた。全員で図面の検討をする。驚いたことに外来は4つの通路にしかつながっていなかった。
一つは出入り口一つは院内との連絡通路、そして荷物の搬入路、最後の一つが人工出産室へつながる通路。
「人工出産室は高度無菌室ですからそこにもう一つ院内通路が有るだけです。」
「人工出産室まで占拠したとしても出入り口は4カ所だけか。」
「多分それぞれの出入り口に人質をとってバリケードにしていますよ。」
コロニー内はでは火災や外部破壊の危険性があるため建物ごとに区画が出来るようになっている。
それが病院の場合はその区画全体が真空中に放り出されても生き延びられるように作られている。
その設計思想が病院への突入を阻んでいるのだ。
「特務公安部隊の増援が到着しました。」
「そうかそれじゃちょっと打ち合わせしてくるか。」
ジタンはそう言うと指揮車を出ていった。コグルも後に続く。彼らの装備を見て置かなくてはならない。
特攻部隊は警官と違い見るからに屈強そうな男達であった。中に何人かサイボーグもいる。
装備は大型の対人兵器の他に装甲車が2台来ていたこいつには大型の機関砲までついている。
コロニー内での大型火器の使用制限なぞお構いなしの連中だ。
隊長と呼ばれる男は額に大きな傷を負っていた。整形していないところを見ると自慢なのであろうか。
ジダンはコグルと隊長に指揮は自分が行い、先攻は特務公安部隊が、バックアップをSWATが行うとした。
「人質がいるんだあんまりやたらにぶっ放さないでくれ。」
そうコグルは隊長に強く主張した。隊長はむろん人質の無事が最優先だと答えた。
この隊長が部下の連中を仕切ってくれることを祈ろう。あまりあてにはならないが。
「それじゃあ早速だが偵察からだ。裏口から入って他の三つの侵入口に行ってみよう。」隊長は言った。
「私はSWATが来たら玄関に集音機を付けて中の様子を探ってみます。ハッキングの専門家も今警備コンピューターへの侵入を試みているはずです。」
コグルは彼らと分かれると本署に連絡した。SWATの準備は出来てこれから出動すると言ってきた。
「やはりな。」そう言ってコグルは時計を見る。
地元警察の我々のSWATチームがこれから出動するのに特攻部隊は装甲車まで出動させて来ているのだ。
なぜ奴らはこんなに早く出動出来たのであろうか?答えは言うまでもなかった。
「やっぱり奴ら事前に事件をつかんでいたな。」
コグルは憤慨していた。人質の生命を脅かす事態を未然に防ぐ事なく発生させた。
多分政治的に利用するのが目的なのであろう。
アクセスいただいてありがとうございます。
登場人物
ハリソン・コグル シドニア・コロニー警察の警部
ユトリロ・タイラー シドニア・コロニー警察の鑑識署員
ユンバル・ジタン 連邦公安捜査局のシドニア・コロニー本部長
敵の敵は味方ではない。
真実を見抜く目こそ現実のサバイバルを生き残る為の最大の力…以下暴虐の次号。
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