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第9話 手品師見習い

「手品師さん?変な声出して、どうなさったの?」

ナイフを落として、固まっている手品師に、ミリアは、あぶないなぁと呟きながら、ナイフを拾う。


「いや…、お嬢さんのせいじゃろが。まったく、商売の邪魔をしおってから…」


ミリアは手品師の周りを見回す。

「誰も見てないじゃない。他のとこにはそれなりにいるのに。」

石畳の広場には、何人かの芸人がそれぞれ芸を見せている。曲芸師の技に対する歓声、吟遊詩人の歌への拍手が聞こえてくる。手品師のとこにはミリア以外は誰もいない。


手品師はナイフを受け取り、荷物を片付け始める。

「今日のお供は、メイドの女の子か。ほれ、お菓子でもあげようかの、こっちにおいでなさい。」

お付きのメイドのアンナが、ミリアの様子を伺いながら、おずおずと前にでる。

ミリアは、いいわよ、と一声かける。手品師が何をするのか、予想がついた。

「あ、ありがとう…ございます…」

そう言ってお菓子を受け取ったところで、目が軽く震え、虚ろになり、動かなくなった。

「小さい子は、素直でよいな。ふぉっふぉっ」


「変態みたいな言い方しないほうがいいわよ?」


「余計なお世話じゃ!で、勘当されるんじゃったか?それは痛ましいことじゃのう。貴族のご令嬢が家をでて暮らすなど、無謀もいいとこじゃ…。」

全然痛ましそうでない、飄々とした声でいう。


「そうなのよ…。そんな憐れで可哀想な美少女に魔術を教えて下さらないかしら」

負けじと、手を胸に添え、弱々しい芝居がかった声で言う。


「生意気なことよ…。まぁいい、……あったあった。ほれ、これを持て。落とすんじゃないぞ。」


手品師は荷物の中を探る。

紙で包まれた掌に収まるくらいの大きさの何かを取り出し、放り投げてきた。

ミリアは何の気もなしに、投げ渡されたそれを受け取る。


「ちょ…!なにこれ!!」

手にもった瞬間、身体中が反発するような、吸い出されるような、強烈な感覚に襲われる。

自然と歯を食いしばり、足を開いて石畳を踏みしめる。

「な…!なにが…!」

片手で持てるほどの重さなのに、とてつもなく重く感じる。身体中から汗が滲み、額から一筋流れてくる。


「それはな、マナ鉱石じゃ。その大きさで大金貨数枚ではきかんからの。落とさず、もう少し我慢するんじゃ」


「ンッ!グッ!…………!」

息が、呼吸すら苦しい。なぜこんな物を放り投げてくるのか!

文句すら言えず、身体から力が抜けそうになったとき、そっと手の中からマナ鉱石が取られた。

石の圧力から解放され、膝を折り、へたり込む。


手品師は手に取ったマナ鉱石をもて遊んでいる。

「こんなもんじゃな。どうじゃった?」


やっと吸えた空気に、肺が激しく動く。

「どうだ?じゃ…ないわよ…。先に…、説明…しなさい…よ」

息も絶え絶えに、今できる精一杯の抗議。


「先に説明するより、効くんじゃよ。今、感じておる疲労、それが魔力の疲労じゃ。」

手品師はミリアの背中に手を置く。じんわりと広がっていく暖かさに、耐え難い疲労が少し引いていった。


「身体感覚と一致せんからな。魔力を実感するのは分かりにくい。じゃが、これだけ疲弊すると、『何が、どこが』疲れてるかは、わかるじゃろ?そこが魔力なんじゃ。」


「世界中のほぼどこにでもマナはある」

手品師はゆっくりと、両手を広げて語りだす。

ミリアはなぜか、手品師に対し畏怖の念を覚える。周りの音が聞こえない。父とは比べものにならないほどの存在感だ。


「感じられないほど微量でも、集めれば術を使う力となる。」

仮面の奥の瞳が、ミリアを見据える。

その眼差しに、捉えられたかのように動けない。一語一句がミリアの身に刻み込まれていく。


「今のおぬしなら、魔力がどう使えるのか、マナを扱うすべが、感覚として『わかっている』んじゃないかの?」

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