第7話 父と娘
これはいったい誰だ。
ライネルは目の前の娘を見て、そう思わされた。
娘は判別の儀の後、教会で泣き崩れていたはずだ。
目の前に連れてこられるのは、自分が無価値と断じ、悲しみにくれた姿の娘のはずだ。
なのに、今のミリアは違う。
優雅に貴族の礼をする仕草に、背筋が伸び、視線がまっすぐ。
喉が詰まるような感覚が、ライネルを襲う。
拳を握りしめても、指先が微かに震える。
なぜ、こんなにも覇気に溢れているのだ。
なぜ、こんなにも目に力があるのだ。
ほんの数時間の間になにがあった。
まっすぐライネルを見つめたまま、ミリアは部屋に入り、机を挟んでライネルと向かい合う。
マクスが扉を閉める音がした。
「ただいま戻りました。お父様」
ライネルが教会で見た怯える少女はもういない。
ライネルは、驚きを隠すように顔を歪め、ミリアに告げる。
「もう、覚悟はできてるようだな。」
なぜ、こんなにも余裕の表情ができるのか。
「お前の取るべき道は、2つだ」
もうすでに言い放った道。フレアベット家に害をなさないためだけの選択肢。
「妾になるか、教会か、だ」
ミリアはそれを受けて目を閉じて頭を下げ頷く。
……そうだ、弱者であれ
顔を上げたときに開いた碧い目が煌めいた。
「両方とも拒否した場合はどうなりますの?お父様」
ライネルの頭に血が昇る。
握りしめた拳が白くなり、爪が食い込む。
この娘は、いつの間にこんなにも反抗するようになったのか。
しかし、声をあらげ怒鳴ることは出来なかった。
ミリアの気配に押されている。
「恥さらしめが⋯。その場合は、勘当だ。フレアベットを名乗ることも、ここで暮らすことも許さん」
貴族として生きてきたミリアが、家を追い出されて生きていくことは無理のはずだ。
泣いて赦しを乞うだろう、ライネルはそう思っていた。
……妾、教会、そして勘当。
言われた事を頭の中で反芻する。ミリアにとっては予想通りの展開。
ライネルの怒りを隠さない声色に、背筋に汗が流れるのを感じる。心臓の音がうるさい。だが、ここで怯むわけにはいかない。
「そうですか⋯。では、5日、考える時間をいただきます。傷心の私には、冷静になって、家のためにどうすればよいかを考える時間が必要ですので。
私に選ぶ機会を与えてくださり、ありがとうございます、お父様。」
そして衣擦れの音すらさせぬ華麗な一礼を見せる。
「では、お母様にもご報告しないととなりません。これで、失礼いたします」
淀みないミリアの言葉。
ライネルは、ことごとく予想と異なる態度に、呆気に取られ、何も言えない。
離れていく背中を見送ることしか出来なかった。
いつも冷静なマクスが動揺している。
マクスはライネルの顔色を伺うようにドアに手をかけた。
重厚な扉が閉まる音とともに、ミリアの背中は見えなくなった。




