第6話 子爵家令嬢の帰還
手品師と別れてから、私の心は散り散りだった。
適性なしの判別結果
お父様の非道な振る舞い
手品師の魔術
聖言の無意味さ(ここだけは未だに笑ってしまう)
自分の可能性
今のままでは、お父様の言った通り、色ボケ…好色な高位貴族の妾か、非道な…厳しい神官の言った通りの、教会勤めに収まることになる。
そんなわけにはいかない。
あの、無神経でひょうきんな老人が、私の可能性を、未来を示してくれたのだ。
違う道はきっとある。
そう確信し、帰途の道を踏み出している。
同行するハンスは、怪訝な顔をしているが。
彼は、護衛役であり、監視役だ。
多分、眠らされてからの手品師との会話は覚えている様子はない。
ならなんとでもなる
そう思いながら、屋敷の門をくぐる。
使用人達が慌ただしく駆け巡るのがみえる。なんだかいつもより、世界が細かく認知できてる気がする。
玄関の門を開け、エントランスに入った時、この屋敷の中が、モノトーンに色を失うのがわかった。
ここは、私の場所じゃなくなったのだ。
それがわかった。
ふと、駆けてくる騒がしい足音とともに、明るい色が灯った。兄の姿が階段の上に見えた。
「あ、クロヴィス兄様、ただいま戻りました。」
足音は、私の目の前まで駆け寄り、いつも通り、私に優しい声色で語りかけてきた。
「ミリア、判別の儀⋯。残念だったね⋯」
それを聞いた時、判別の儀の聖言と共に鐘の音が聞こえた気がした!!
……ふふ、兄様は、…ップ、こんなに、心配……、してる、判別の…儀…、聖言⋯、鐘⋯!!!
ミリアは口を抑えて込み上げてきた可笑しさを堪える。
お腹がヒクヒクと痙攣する。
涙もでてきた。
笑ってはいけないと、思えば思うほど、鐘の音が頭に鳴り響く。
周囲の使用人たちが、呆然と見つめる中、ミリアは必死に笑いを抑えようとするのに、逆に笑いが爆発する。
周囲の者達は、ミリアがショックのあまり気が触れてしまったと、着付け薬を取りに行ったり、自室で休むよう勧めたり、気味悪がったりと、収集がつかなくなっている。
何とか笑いを収めて、兄様と向かい合う。
「クロヴィス兄様、私は平気です。ご心配をおかけしました。」
優しい兄様だ。魔術適性のない妹に対しても、変わらず接してくれる。
家の事はもう、いい。ただ、兄様の枷にはならないようにしよう。
エントランスの階段の上に、執事のマクスの姿が見えた。
「ねぇ、マクス。お父様が呼んでるのよね?今行くわ。案内してくれる?」
教会でみた、恐ろしい形相の父の顔がよぎる。
よみがえる怯む気持を無理やり抑える。
あの父も、鐘で腰を振ってるのだ。怖くはない。
ミリアは一歩一歩、父の書斎へ歩いていった。
先導するマクスは、平静を装いつつ、内心では舌を巻いている。
堂々とした立ち居振る舞い。
まっすぐと見据える目。
その美貌とそれらが合わさって、旦那様と対峙したような迫力すら感じる。
⋯今朝、屋敷を出るまでは、多少頭が回るだけの我儘な小娘だったはずだ。⋯判別の儀で適性無しとされたはず。予想とは違う変貌ぶり⋯。何があったのだ⋯
「お嬢様、何かございましたか?」
探るような問い。ミリアは悪戯心のままに、手品師が言いそうな言葉で返す。
「何もありませんわ?ただ判別の儀で、適性無しとされただけのことよ。」
貴族にとっては、それが一大事なのだが。
マクスは煙に巻かれた心地がする。
父の書斎の前に立ち、扉越しに父と正対する。
さきほど大笑いした時とは別人のように、静かな声が響く。
「マクス、開けてちょうだい」
マクスは頷き、ドアを開ける
「旦那様、ミリア様をお連れしました。」




