第5話 子爵家の事情
ライネル・フレアベットは頭を抱えていた。
娘ミリアの「適性なし」という結果に。
「まったく…『地』でも『闇』でもよかったものを…。」
つぶやきを拾ったクロヴィスが、静かに口を挟む。
「父上、そうまでおっしゃってはミリアが不憫です。ただでさえ落ち込んでいるでしょうに…。可愛い娘ではないのですか?」
ライネルは顔を歪め、吐き捨てる。
「可愛い? 価値のない娘になったのだ。適性さえあれば高位貴族と縁付けた。それが台無しだ」
ライネルは目を閉じ、苦々しく呟く。
「今となっては、エーデン子爵の陰湿な娘が婚約候補に上がるだけだ。あの男の下に着くなど、屈辱だ。」
クロヴィスが声を荒げる。
「ミリアは必死に努力したんです。それが実らなかったからといって、教会に置き去りにするなんて…酷すぎます!」
ライネルは冷たく遮る。
「ハンスをつけている。街を見てくれば多少は気が晴れるだろう」
目を開きクロヴィスを睨みつける。
「フレアベット家はこれから役職を得る。高位貴族との縁がなければ、お前の代で叩き落とされる。それを防ぐ一手だったのだ」
ライネルは、適性のない娘の父親、という嘲りが聞こえるような心地がした。
「ミリアが、フレアベットの弱みになった……」
クロヴィスは唇を噛んだ。
父の目には、娘の顔など映っていない。ただ、家の存続と、自分の野心だけを見据えているのだ。
貴族の子女で適性がないとされるのは恥とされる。表だって社交にでることは叶わなくなる。
その家族も格を疑われることもあるのだ。
その時、執事がミリアの帰宅を告げた。
クロヴィスは窓の外をみる。
気がつけばもう日が落ちている。こんなに遅くまでミリアは街を彷徨っていたのだ。あの可憐な妹が、どんなに打ちのめされたのかを思うと、胸が痛む⋯。
クロヴィスは父の書斎を出て、屋敷のエントランスに駆けていった。
屋敷のエントランス。
階段の下。
そこには、やけにスッキリとした顔のミリアと、腑に落ちない顔をしたハンスがいた。
「あ、クロヴィス兄様、ただいま戻りました。」
お茶会から帰ってきたような、軽やかな挨拶。
出迎えた使用人たちが、予想と違うミリアの態度に、呆けた顔で固まる。
ハンスに至っては、明らかに「何かおかしい」って顔だ。
クロヴィスは、拍子抜けした気持ちを隠して階段を降り、ミリアに近寄る。
「ミリア、判別の儀⋯。残念だったね⋯。でも、大丈夫、兄さんがなんとか…」
慰めようとした瞬間、ミリアが吹き出した。




