第3話 手品師の魔術
魔術師の条件⋯
それを、ミリア自身が備えている。
目の前の手品師は確かにそう言った。
胸から熱いものがこみ上げ、再び涙となって溢れ出る。
教会で、適性なしと断じられ、父親には恥さらしと吐き捨てられた自分を、この手品師だけが可能性を示してくれている。
閉ざされた未来が、
ずっと灰色の光景で過ごすはずだった未来が、
彩りをもって、開けていく。
「私に⋯、魔術、使えるの?」
私に未来は紡げるのか
「教会で、適性ないって言われたこの私が。」
可能性を否定されたのに、
「何度も聖言を練習しても、無駄だったのよ⋯?信じていいの?」
必死の努力も、実を結ぶことはなかったのに
「使えるじゃろ。さっき使ったしの」
手品師はこともなげに言い放つ。
「じゃが、使いこなすには、訓練が必要じゃな。今のままでは、せいぜい、怪しい術で人を惑わす不審者止まり、じゃろうな、ふひゃ!」
……自分を差し置いて、あなたがそれを言うの?!
唖然とし、そして、可笑しくなってミリアは吹き出した。
吹き出したことで、ミリアの憂いが少し払われた。まだ澱のように溜まっているものもあるが、
前を見る余裕はできた。
使えないと思った魔術が、実は使えるというのならば、すがりたい。
「手品師さん、私に魔術を教えてもらえないかしら?お礼は…」
そういいかけたところで、今まで黙っていたお供の男、ハンスが口を挟んだ。
「お嬢さま。下賤の者と口をきくのは、もうおやめください、貴族家として褒められた行動ではありません。」
いままでは、お目こぼしだ。目がそう言っている。心がまた抑え込まれる。
「おい、そこの芸人。荷物が片付いたなら、さっさと立ち去れ。」
仮面の奥。虹彩の薄い目が、お供の男を捉える。
「ふむ…。そこの若いの、ちょっと黙っててくれるかの。わしゃ、このお嬢さんと話がしたい。」
手品師は、左手を上げ、中指を円を描くように回した。
「何を!無礼な……」
言葉を残してハンスは動きを止めた。
ミリアは驚愕した。
手品師を乱暴に突き倒そうとしていたハンスが、ほんの微かな魔力の動きを感じたと思ったら、立ったまま、寝ているかのように静かになったのだ。
「これも…魔術…よね。」
「そのとおり。ある意味、さっきお嬢さんが使った魔術の完成形じゃ。すごいじゃろ」
得意気な態度で戯ける手品師は、ミリアを見つめる。優しげな瞳が仮面から覗く。
「お嬢さん、お名前は?何があって、そんな酷い顔になっておったんじゃ?」
「私の名前は、ミリア…、ミリア・フレアベットよ。さっき、教会で『判別の儀』を受けてきたの…。」
ミリアは、堰を切ったように話しだした。
家族に期待されていたこと
判別の儀で、いい結果がでるようにひたすら練習したこと
適性なしといわれたこと
教会の使用人や、神官の冷たい態度
…豹変したかのような父親の言葉
心が揺れる、なのに、この怪しげな手品師に話していると、心が安らいでいくのを感じる。
ああ、こんな風に宥めて欲しかったんだと、ミリアは手品師に本音をさらし続けた。
「そうか…。そんなに練習したのにか。ん、まぁ、そりゃ反応せんじゃろうな!ふひゃひゃ!」
「なんでよぉ…」
ミリアは俯いたまま、唇を噛んだ。
笑われたのに、なぜか憎めない。




