第28話 過酷な初仕事
「ほれ、はよ捌かんか。放置すると素材の質が悪くなるんじゃぞ?」
師匠…何でもないことのように言うけどさ…
「……ウッ!………ダメ……!」
ミリアは盛大に吐き戻していた。
「魔獣を倒し、解体し、魔石と使える素材を回収して売る。それがハンターの食い扶持じゃぞ?早う慣れろ」
倒すことは、そこまで問題なかった。
魔術で狼型魔獣の下半身を焼き尽くして終わった。一匹だけだったので、アサルカも見守るだけで何もしていない。
だが…
ミリアは、先程倒した魔獣の前でナイフを首に突き刺したまま、座り込んでいる。
「ぞんなごど言っても、ぎぼちわるい…」
数日前まで貴族令嬢だったのだ。
お菓子作りくらいはやったことはあったが、生肉を見たことすらなかった。
刺してはえづき、切り裂こうとしては吐く、中身がでてこようものなら、溢れる血と内臓に悲鳴をあげる、を繰り返し、一向にすすまない。
「仕方ないのぅ、ほれ魔石だけでも構わんから取り出せ、その魔獣なら心臓あたりにある、そこまで開けば手が入るじゃろ」
呑気な口調だが、言ってることはわかる。ちゃんと教えてくれてるっていうのもわかる。
でも、無理だよぅ……
いっそ倒す時に粉砕する勢いで魔術をぶつければよかった。
……そっか、いまからでも……
「魔術で破壊するのはだめじゃぞ?」
師匠はズルを許さない。
ミリアはそれから1時間ほどかけてようやく魔石を取り出すことができたのだった。
「やれやれ、だいぶかかったの。まあちゃんとやり切ったのは偉いの。途中で投げ出すかとも思ったんじゃが」
手は血塗れ、青白くなった顔に血が飛び、性も根も尽きはてた様子のミリアに投げかける。
壊れた人形のようにミリアはアサルカのほうを向いた。
「み、みみくびって貰っては、こ、こまるわね。ちゃ、ちゃんと、やる、やるわよ」
「ほほ、健気じゃな、ほら手を出せ」
アサルカは苦笑いしながら、魔術の水をだす。
ミリアは飛びついて手を洗い出した。
ひとしきり洗い、顔についた血を拭いとって、ようやく落ち着いてきた。
「やっぱり、水の魔法って便利ね、どうやればできるのかしら」
そう言って、ミリアは唸りながら、中指をクルクルと回し始めた。
アサルカはそんな様子を見て、答えをだすのをやめ、キセルをふかし始めた。
キセルから立ち上る煙が、あたりに薄く拡がっていく。
……こんな穏やかに過ごせる時間はあとわずかじゃろうな……
アサルカは教会のしつこさを知っている。
特に異端審問官は、アサルカにしてもやっかいな相手だ。できれば、今のミリアに相手させたくはない。
…うん、そのやり方で正しい。あ、いかん…
「きゃあ!!」
悲鳴とともに、激しい水音がした。
アサルカはタオルを投げた。
「ミリアは、調整というものが課題じゃな。」
水浸しになってしょぼくれたミリアの頭にタオルが載った。




