第27話 異端を追う者
キギリス教ローゼスト教会。
王都に光の花が咲いて数日、教会内は混乱に包まれていた。街のいたるところから、あの現象について問い合わせがきているのだ。
何せ美しかった。神秘性を感じてもおかしくはなかった。あれは神の御力なのかと。
だか、それを認めれば、教会の権威が揺らぐ。ここにいる誰も、あの魔術を再現出来ないのだ。
「判別の儀」による魔術への開眼と、聖言の下賜は教会の権力の源でもある。教会で再現できない魔術を行使する者、『異端者』を野放しにすることはできない。
その異端者を追うべき異端者審問官であるギースは痛む脇腹に顔を歪めつつ、神官長室で立っている。
向かいには、その巨体を上質の絹でできた装束に身をつつんでいるが、弛んだ身体を隠そうともしない。
奥の部屋にはあられもない格好をした女たちを侍らせている。彼女達も必死だ。飽きられたものは、いつものように教皇領に送られるのだから。
送られた者達が故郷に帰ってきたという話は聞いたことがない。
そんな姿に、これがこの教会のトップの姿とは情けないと、ギースは内心で呟く。
「で?逃げられたというのか?ギース、失態だな」
……失態であることは間違いないが、ここでふんぞり返っているお前に言われたくないな。お前は何もしていない。
「ええ、申し訳ありません。逃げる猫だと思ったら、襲ってくる虎でしたので。この通り油断しました」
ギースは、服をはだける。
胸から右脇腹にかけて、赤黒く染まっている。
左右で肋の骨の形が変わっている。折れているのだ。
神官長は醜悪な物を見てしまったという表情を隠さない。早くしまえと手を振る。
「3人がかりで、たかだか15の小娘にやられるとはな。異端審問官が聞いて呆れる」
このデブに何を言われてもなんてことはない。あのミリアの去り際の言葉に比べれば。思い出すと、屈辱と共に高揚するのを感じる。
「王宮からも何事かと問い合わせがきておる。神の奇跡なら慶事だとも言ってきおった。王宮に召し上げるなどと、ふざけたこともな」
……それは困る。ミリア・フレアベットは私の手で始末するのだ。誰かに譲る気はない。他の誰かの物になるくらいなら、そいつを先に始末してやる。
「ギース、次はない。二度とあんな真似はさせるな。ミリア・フレアベットを確実に消せ」
この命令だけで充分だ。これが聞ければここに用はない。必要な権限は既に持っている。
「わかりました。ではすぐに」
ギースは踵を返し、神官長室をでる。
教会の一角にある治療所までの道、すれ違うものはみな一様に、怯えて道を空ける。
ギースの金色の目が異様に見開かれ、獣のように口元が歪んでいく。
ミリア・フレアベット、お前は俺が始末してやる……。あのヒリついた逢瀬を、また楽しもうじゃないか……。
ミリアを追う獣が解き放たれる。
その時、ミリアは……
「……ウッ!………ダメ……!」
身体が痙攣し、周囲に酸っぱい匂いが漂う。
胃の中の物を吐いていた。




