第25話 幕間 SS ミリアさまのメイド
「はい、よろしくおねがいします」
わたしはアンナ、9歳。
おとうさんとおかあさんに、つれられてお屋敷にきた。今日から、ここでお世話になりなさい、とおかあさんが、悲しそうな顔をして、わたしを残して帰っていった。
今日からここが、あなたの部屋よ、と同じ部屋に住む女の人がいった。先輩になるらしい、ちょっと強気な顔が少し怖い、あと胸が大きい。
荷物(といっても、鞄一つ)を下ろして、差し出されたメイド服に着替えると、低い声の男の人がきた。
「アンナ、だったか?ついてきなさい。」
いきなり1人でおしごとなのかな。不安。
他の人たちが頭を下げている。偉い人なのかもしれない。その人ついていき、階段を上がり、ある部屋の前まできた。ノックをしていう。
「ミリア様、少しよろしいでしょうか。」
部屋の中から、どうぞ、と応えが返ってきた。
偉そうな人に促され、中にはいる。
そこにいたのは、銀色に輝く髪、碧い目、透き通るような白い肌、華奢な身体の女性だった。
「ハンス、その子が私付きになる子なの?」
「はい、今日から入ったばかりですが、早いうちに慣れて頂いたほうがいいかと。行儀、礼式は平行して教育しますので。」
どうやら、わたしのことを話しているらしい。
すっと、碧い瞳がわたしに向けられた。
綺麗な人に見つめられると、ちょっと…、照れる。顔が熱くなってきた。
「お名前、聞かせてもらえるかな?」
わたしにかたりかける声に、思わず心臓の音がたかなる。
「は、はい!ア、アンナ、です!きゅ、9歳です。よろしくおねがぃ…。」
頭を下げながらいった言葉は、息が続かなくて、尻すぼみに消えていった。
は、はずかしい…
ふと、視界に誰かの足が入ってきた。
その足が膝を折る。
顔を上げると、心配気な表情のミリアさまと呼ばれた女性と目が合った。
ち、近い!!
すると、優しく抱きしめてくれた。
「不安だよね、大丈夫だよ。私のこと、しっかりお世話してくださいね」
花のようないい匂い。
暖かくて柔らかい感触。
優しい声。
わたしの目から、涙がこぼれだした。
それがどうしてなのか、その時の私にはわからなかった。
数日、数週間と時は過ぎ、わたしはだいぶ仕事に慣れてきた。
ミリアさまは優しい。
怒ることはほとんどない。
たまに、やってはいけないことについて注意されるくらい。
同室の先輩より、一緒にいて安心する。
でも、時々、よくわからない言葉を、何度も何度も言っている。唄うような声は聴いてて心地いいけど、繰り返しているのは、すこし、怖い。
ある時、掃除の道具が部屋の花瓶を掠めてしまった。
あ!いけない!
そう思った時には、花瓶が棚から落ちていくのが見えた。
ガシャンとした音に、今まで心地よく響いていた唄がかき消えた。
怒られる…、叩かれる…。
ハンスさんに、そうされてる先輩メイド達をたくさん見ていた。思わず体が硬直する。
「も、申し訳…」
すると、グイッ、と引っ張られた。
ああ、やっぱり、ミリアさまにも叩かれるんだ…
そう思ったとき、柔らかい物につつまれた。
「アンナ!大丈夫?!ケガはない?」
わたしは突然のことに驚いた。
暖かい、優しさに満ちた声に、なみだがとめられなくなった。
「ミリアさま…、ごめんなさい…。」
謝る声が震える。
泣き声を抑えたら、言葉がでない。
「ミリア様、何かありましたか?」
花瓶の割れる音が聞こえたのか、扉の外から、他のメイドの声がする。
「大丈夫、私が花瓶を落として、割ってしまったの。これから、アンナに片付けて貰うから、平気よ。」
「わかりました。では、何かありましたら、申し付けください。」
そう言って、扉の外の足音は遠くなっていった。
「あの…、ミリアさま、どうして…」
ミリアさまは、優しく頭を撫でてくれる。
「失敗は誰でもするのよ。大丈夫。一緒に片付けましょう?」
どこまでも、ミリアさまの笑顔は、優しい。




