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第22話 異端と審問官の交差

ミリアは少し理解した。

さっき、目の前を横切った男のマナの動き。


…マナを身体に纏うと何かあるのかしら?

身体の何かを補える?


歩きながら、マナが身体に重なるように成形する。

何も起きない。どう変質させるのか。


痺れる左腕、血液、筋肉、肌に、

それぞれの働きをマナで補っていく。

マナの変質が熱となって、巡る。

身体が置き換えられるような感覚に、少し怖さも感じる。


そういうことか。

身体の動き自体が、一つの現象なのだ。

血の一滴まで。マナをとりこんだことで、身体が熱を持つ。そして、痛みが引いていくだけでなく。足を踏み込む力が増している気もする。

暗い路地がなぜかよく見える。周囲の景色が、馬車に乗っているかのように後ろに流れていく。


ミリアは、酷く赤黒く腫れていたはずの左手が徐々に元の白い肌になっていくのをみた。


……早く気づいて、アンナの頬、治してあげればよかったわ。


想いが少しだけ、フレアベット邸にもどった。




魔術の街灯。

そのおかげで、道の様子がよくわかる。

なるほどこれなら夜でも迷わず、臆さず、目的地までいけそうだ。

ギースは感心する。

と同時に何かが引っかかる。


倒れた2人の部下、何かがぶつかったような壁、飛び散った土砂、抉れた地面。


2人の部下はミリア・フレアベットを捕捉したが逃がした。全力で走っても、まだ追いつけない。15歳の令嬢の身体能力。


不意に地面を踏みしめて立ち止まる。

靴が石畳を滑り、砂埃がまう。

「やられた。誘導されたか…。」


ギースは元来た道を遡る。どこで見落としたか。脇道、壁の窪み、半開きの扉。


明るさを陽動にしたということは、恐らく灯りの灯る場所にはいない。


…面白いね、ミリア・フレアベット。

私の追跡を撹乱するなんて、ただの令嬢じゃないね。成長したらどうなるんだろうねぇ…


部下2人が目を潰されたとはいえ、無傷。

15歳まで、令嬢として大切に育てられたのだろう。人を殺すことに躊躇したのだろう。

そこまで察して、ギースは少し余裕を覚えた。


…、道を逸れるとしたら、ここかな。


ギースは、ミリアが進んだ暗闇の道に入っていった。




暗闇の中、妹分の(と勝手に思っている)メイドを想い浮かべながら、走るように進んでいたが、思考が現実に戻される。


薄いマナの塊が、戻ってきている。

魔術の光で、そっちに逃げたと思わせたが、露見したようだ。


「ほんっとに、しつこい!」

思わず、令嬢らしからぬ言葉がもれる。

いや、もう令嬢じゃなかった。


この暗闇の中、かなりの速度で追ってきている。ミリアと同じように、『見えて』いるのだろう。


この先に道が続いているのかはわからない。

行き止まりでもおかしくない。

ミリアはこの街のことを、フレアベット邸と教会と広場しかしらないのだ。


逃げたいわけじゃない


そういったことを思い出した。

ゆっくりと足を止め、鞄を身体に抱える。

大きく息を吸い吐き出す。


身体の痛みは消えた。

怖いけど、相手だって私が何をできるかは知らないはず。私だってわからないのだから。


マナを再び身にまとい、走りだす。

追跡者の方向へ。




瞬く間に、ギースとミリアの距離が詰まる。


追っていると思っているギース。

向き合って近づいていることがわかっているミリア。


その差が、交差する時の姿勢に表れていた。


交差の瞬間、2人が走るその勢いのまま、ミリアの細い肩がギースの腹部に突き刺さった。

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